面白い政治ものがあったらヒットするのか、今試されている(石飛)
──鈴木さんと小菅さんは冒頭で、今の時代にこの映画が作られたことに感心しているとおっしゃっていましたが、それはどういう理由からでしょうか?
鈴木 映画人が政治を扱った映画を作ることを自主規制してますよね。もしくは上から言われて規制せざるを得なくて、それが常態化している。「どうせ当たらないだろう」と作り手側も思っている人が多い中、この作品はそれを打破する可能性を秘めているなと。
小菅 うん、私もそう思います。
石飛 おそらく政治的圧力というよりも、プロデューサーたちが政治をネタにすると当たらないと思っているから作られないんじゃないか。面白い政治映画があったらヒットするんじゃないかと、それが今試されているような気がしています。アメリカにはエンタメとして成立している政治ものってあるじゃないですか。スティーヴン・スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」だったり、ロブ・ライナーの「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」だったり。日本だと良心的なドキュメンタリーはありますけど、観客の大半はもともと関心の高い人です。映画というのは多くの人たちが楽しめるメディア。その特性を生かさない手はないと思っていたのも今作を全面支持する理由ですね。
鈴木 「止められるか、俺たちを」という映画の中で、新宿のバーで大島(渚)一派と若松(孝二)一派が飲んでいるシーンがあるんです。そのときに、大島監督が作っている作品について「どうせ観るのは同じような人だけ」と言及される。当時で言うと反体制的な人たちのこと。今石飛さんが言ったのはまさにそういうことだと思うんです。今の日本の映画監督はあえて政治を描かないことに非常に長けている。そういう現状を踏まえると、ヒットしてほしい、観てほしい作品であるし、極めて価値が高いと思います。
小菅 この映画が政治ものの第一歩になればいいですよね。政治ドラマではあるけど、人々の苦悩が描かれているから人間ドラマとしても面白いですし。非常に理不尽な状況に立たされたときに「あなたならどうしますか?」という問いを提示してくる。
鈴木 確かに人間ドラマになってはいるんだけど、やっぱり政治ドラマと打ち出してほしい気持ちはあるなあ。
小菅 政治ドラマと言いすぎることによって人が観に来なくなったら嫌だなと思って。「左翼の人が観に行く映画でしょ?」みたいな。
石飛 松坂さんや本田さん見たさに映画館に行って、思わず彼らの行動に感動してしまうという展開はうれしいですよね。僕も若い頃にそういう経験をしたことがありますし、それが映画の原初の魅力だと思うので。
鈴木 昔はエンタメとして成立している政治ものってありましたもんね。山本薩夫の「華麗なる一族」「金環蝕」とか。
小菅 黒澤(明)さんの「悪い奴ほどよく眠る」や松本清張さん原作の社会派サスペンスとかね。いつ頃からなくなってしまったんだろう。
この作品がスタート地点(石飛)
──今後こういった映画は増えていくと思いますか?
石飛 今作の興行次第じゃないですかね。
鈴木 映画界ってある意味いい加減だから、これが当たれば増えると思います(笑)。でも駄目だったらしばらくは出てこないかもしれないね。「やっぱり当たらなかった」とプロデューサーや映画会社の人が思ってしまったら。
小菅 いろいろなパターンを試してほしいとは感じますね。例えばブラックコメディとか。トライするのはなかなか難しいかもしれませんが、試しているうちにいつかヒットの鉱脈にぶち当たることがあるかもしれない。そうなっていないのは日本映画界の問題でもあるんでしょうけど。あとは政治との向き合い方において、なぜ思考停止に陥りがちになっているのかを明らかにする映画を作ってほしいなと思います。今の政権に全幅の信頼を持っている人は意外なほど多い。
石飛 江戸時代に戻ったのかと思いますよね。これだけ問題が次々明るみに出ているのに毎回自民党が選挙で勝ちますから。
鈴木 こういう作品を観るのは、今の政治や社会状況に対して意識の高い人が多いのかもしれないけど、それでもやっぱり繰り返し作って伝えていくしか方法はないでしょうね。
石飛 例えば朝日新聞を読んでいる人は朝日の考えに共感している人が読んでいる。では、我々が書いたものをどうやって考え方の異なる人たちに読んでもらうのかと言うと、それが非常に難しい。そういう意味でも万人に開かれた映画の力は重要ですよね。
小菅 政治というのは題材としては間違いなく面白い。もっともっと作られていけば見せ方にも工夫が生まれて、面白い作品が誕生していく。恐れずに作っていってほしいです。
石飛 まさにこの作品がスタート地点ですね。
- 「新聞記者」
- 2019年6月28日(金)より全国公開
- ストーリー
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ある夜、東都新聞社に「医療系大学の新設」に関する極秘公文書が匿名FAXで届いた。表紙に羊の絵が描かれた同文書は内部によるリークなのか? それとも誤報を誘発するための罠か? 書類を託された記者・吉岡は真相を突き止めるべく取材を始める。一方で内閣情報調査室、通称・内調で働くエリート官僚の杉原は、現政権を維持するための世論コントロールという仕事に葛藤していた。外務省時代の上司・神崎がビルの屋上から身を投げたことにより、杉原は内閣に対する不信感を募らせていく。そして神崎の通夜が行われた日、偶然にも言葉を交わした吉岡と杉原。2人の人生が交差した先に、官邸が強引に進めようとする驚愕の計画が浮かび上がる。
- スタッフ / キャスト
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監督:藤井道人
脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
原案:望月衣塑子「新聞記者」(角川新書刊)、河村光庸
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司ほか
©2019「新聞記者」フィルムパートナーズ
2019年8月5日更新