「劇場版 殺意の道程」バカリズム インタビュー|復讐劇にちりばめられた笑いの種 バカリズム流サスペンスドラマが映画に

モデルはゲッターズ飯田さん

──中盤には、占いで殺害計画の実行日を決めるシーンがあります。占いを取り入れた理由はあるんでしょうか?

「劇場版 殺意の道程」より、佐久間由衣演じるゆずき。

僕、ゲッターズ飯田さんと仲が良くてよく占ってもらうんです。飯田さんはノートを出して「升野さんね……」と占ってくれるんですけど、劇中の佐久間(由衣)さん演じるゆずきもノートを開いて占いをする。だから完全にモデルは飯田さんです。

──そうだったんですね。

飯田さんには事前に、今度書く作品の中で殺害計画の日にちを占いで決めようと思っていることを伝えました。そうしたら「面白そうですね」と言ってくれて。本人にも伝えて今回参考にさせてもらいました。

──ノート以外にはどこを参考にしたんでしょうか?

飯田さんって誰にも当てはまるようなぼんやりしたことを言うのではなくて、具体的に言い切るんです。しかもそれが当たる。ゆずきの占いも、ふわっとしたものではなくてはっきりしています。一馬に対して「今年から闇に突入した。最低5年は続いて特に今年は注意が必要。来年まで引っ越しや転職は避けたほうがいい。もししたらすべてを失う」と伝えたり。

──なるほど(笑)。満は人間性が伝わってくるシーンが多いように感じたんですが、バカリズムさんご自身がモデルになっていたりするんでしょうか? 貴樹の葬儀のあとにファミレスでメロンソーダを飲もうとして、「こんなときにこんなポップなドリンクを飲んで不謹慎かな?」と一馬に聞く場面は、バカリズムさんと重なって見えました。

あははは。モデルが自分というわけではないんですが、メロンソーダの場面など、自分が若干出てしまってるところはありますね。河相我聞さん演じる重盛が室内でおしゃれな音楽を流して踊り出すのを見ているシーンとかも。

「劇場版 殺意の道程」より、鶴見辰吾演じる室岡義之(左)と飛鳥凛演じる愛人(右)。

──本当はゆずきに気があるのに、気がないふりをしている場面もありますよね。

そこは僕の恋愛観をモデルにしてるわけではないですが、満はまあまあ惚れてるんでしょうね。でも現実的じゃないことはわかってるし、これから関係を発展させていきたいと積極的に思ってるわけではないけど、一緒にごはんに行けたらいいなくらいは思ってる。満とゆずきのくだりは、そのあとに満が室岡とその愛人に八つ当たりするシーンを入れるために必要だったんです。満の感情が爆発するフリとして考えました。

──キレるシーンを入れたかった理由があるんでしょうか?

1つびっくりするというか、派手な部分が欲しくて。作品全体が同じようなトーンで進んでいくので。

──「次会ったとき命日だかんなてめえ」という満のセリフが印象的です。

そのセリフはタイミングを気にしました。ちらっと聞こえてくるほうが面白いだろうなとか。

井浦さんがパンの話をしてるだけでおかしく見えてくる

──一馬は井浦さんに当て書きしたと伺いました。

井浦さんのシリアスな雰囲気が合うと思ったんです。サスペンス要素は笑いのためのフリなので、井浦さんが説得力のある真面目な演技をすればするほど笑いに生きてくる。コンビニのパンの話をしてるだけでおかしく見えてくるんです。

「劇場版 殺意の道程」

──共演してみて、どんな印象を持たれましたか?

「ちょっと重いテンションでやってみましょうか」と言ったら、すぐに全力で重い演技をしてくれて。その生真面目さも一馬と重なると思いました。

──空き時間はどんなお話を?

「この作品はサスペンスコメディですけど、ヒューマンドラマでもあり、2人の男の青春ロードムービーでもあると思うんです」とおっしゃっていて。僕が想像していない部分まで考えてくださっていました。「違いますよ」とは言えないので「そうっすねー」と返したんですけど。1つ歳上なんですが紳士的で、あそこまでの熱量を持って作品に取り組んでくれる方は見たことがないです。

考えさせられる映画とか嫌いなんです

──バカリズムさんは日本映画学校の俳優科を卒業されています。ご自身の作る作品に映画からの影響はあるんでしょうか?

正直映画はあまり観てきませんでした。日本映画学校に入ったのもお笑いをやるためだったので。一番面白いと思った映画は、30歳くらいのときに観た「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズです。

──劇場公開当時ではないですが、観るきっかけがあったんですか?

バナナマンの日村(勇紀)さんに3作すべて借りたんです。でも借りたあと全然観なくて、日村さんに半ばキレ気味に「マジで観ろ! 絶対面白いから」と言われたんですけど、それでも観なかった。家で何もすることがないときにやっと観たら1作目がめちゃめちゃ面白くて、3作目まで連続で観ました。それまでは2時間の作品って飽きちゃって観れなかったんです。今でもたまに観返すんですが、観てる時間ずっとワクワクしますし、終わったあとも「観てよかった、楽しかったな」と思える。僕、考えさせられる映画とか嫌いなんですよ。なんで金払って考えさせられなきゃいけないんだよって。僕自身は特にメッセージ性のない、「ああ面白かった」という気持ちで映画館を出られるものが理想だと思ってます。そこは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の影響があるかもしれないですね。日村さんには申し訳ないですけど、もっと早く観ればよかったな。

──「劇場版 殺意の道程」もまさに考えずに楽しめる映画になっていますね。

コントとほぼ同じように脚本を書いていますし、メッセージ性はまったくないです。コントだと思って書いてると言っちゃうと俳優さんがキャスティングしづらくなったりしそうなので、大きな声では言ってないですけど。お笑いとして、コントとしていい仕上がりになっていることは保証しますので、ぜひ観ていただきたいです。

バカリズム