アニメーションやVFXを使用するときは、自分のリソースをどう集中的に使うのかを考慮しなければいけない(サンダース)
──ディテールにこだわってビジュアルを徹底的に作り込むことは、物語の理解を深めることにつながるのでしょうか?
サンダース もちろんです。これは僕の言葉ではないのですが、アニメーションやVFXが多用される作品では自由な表現が可能でありつつ、すべてのことができるわけではない。だからこそ、自分のリソースをどう集中的に使うのかを考慮しなければいけないんです。
山崎 そうですね。
サンダース 例えば「ゴジラ-1.0」でも、破壊された町を見れば無駄が一切ないことがよくわかります。そしてすごくリアルに感じるそれらを、カメラで至近から撮っている。本当に注意深くカットが作られているので、目には映らない破壊された町のすべてをリアルに感じられるんです。「こんなに破壊されてるぜ!」と、引いてワイドで撮るようなことをしないからこそ、素晴らしいストーリーテリングになったのだと思います。画角の中に何が収まっているのかを慎重に選んでいるからこそリアルに感じられる。アメリカ映画はどんどんスケールを大きくしていく方向に流れがちですが、「ゴジラ-1.0」は「ゴジラ」シリーズにおいてもある種、素敵なリセットになったと改めて感じました。もちろん巨大なゴジラが描かれますが、山崎監督が作った「ゴジラ-1.0」のサイズ感には現実味があるように感じられたのだと思います。
山崎 人間が理解できるサイズ、ということですよね。
サンダース そうです。なぜ最初に(ゴジラを)撃たなかったのかもよくわかる。撃てなかった恐怖心がすごく真に迫るんです。サイズ感としてもゴジラがもう少し巨大だったら、最初から「無理無理!」となるところを、少しだけ(倒せる)可能性があるサイズ感にしているのが、また絶妙なポイントです。
“絶対無理感”をどれだけ設定できるかが映画の醍醐味(山崎)
山崎 「ロズ」の話に戻りますが、中盤、森のシェルターで多種多様な動物たちが一斉に喧嘩するシーンもすごかったですね。どのキャラクターも主役になれそうな、すごい種類と数の動物たちが一斉に戦う様子をカメラがずっと追う。画としても面白かったですし、いったいどれだけの時間と人員を掛けて作っているのかと思うくらいゴージャスでした。でも、ゴージャスなだけにとどまらず、あのシーンがあることで、いろんな種類の動物たちが仲良くなることがどれだけ大変なのかを観客に知らしめる。物語への貢献も素晴らしいんです。
サンダース ありがとうございます。
山崎 ほかにもあらゆる問題が起きますが、極限まで解決不可能な状況に近付けてから、説得力のある方法で乗り越えていく(展開の)持っていき方が素晴らしい。終盤の巨大な宇宙船でやって来る敵と戦うシーンでも、森の動物たちがどうすれば勝てるのか、まったく想像がつきませんよね。でも、がんばってなんとかするんだという、その落差が肝なんです。そういう“絶対無理感”をどれだけ設定できるかが映画の醍醐味だと僕は思っていて。それが非常にうまく機能していたので、「なんとかなった!」という心の解放感が感じられた。そのボトムをどこまで下げられるか、そしてどう乗り越えるかが重要なんですよね。
サンダース 今まったく同じことを山崎監督に言おうと思っていました!(笑) 僕の大好きな映画は、その落差を乗り越えることができた映画とも言えますね。
山崎 実は「ヒックとドラゴン」が大好きで、それも今日お伝えしたかったんです。ドラゴンのトゥースが家の猫によく似ているんです(笑)。トゥースの動きなんて、もう僕の猫にそっくりで、だから余計に大好き。
サンダース わぉ、すごい! トゥースの動きは、当時制作スタッフだったアニメーターのリーダーが自分の飼い猫を参考にして作ったんですよ!
山崎 そうなんですか、道理で(笑)。そういえば、本作でロズは足を失って義足になりますが、ヒックも足を失いますよね。そこに不思議な偶然を感じましたが、何かこだわりや意図はあるのですか?
サンダース そこは単なる偶然で、ロズが足を失うのは原作の設定がそうなっていたからです。今、山崎監督がおっしゃった“ボトム”の話で思い出したんですが、終盤、ヒックをあえて“どん底に突き落とす”展開が加わったんです。当初の予定では戦いが終わって、ヒックが昏睡から無事に目覚めて笑って抱き合って終わる予定でした。そうしたらプロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグから「信憑性がない」と言われたんです。村の人々はかなりけがをしているのに、と。そこで僕が冗談のつもりで、「それならヒックが重傷を負って足を失い、昏睡から目が覚めてそれに気付くのはどう?」と言ったんです。冗談だったはずなのに、共同監督の(ディーン・)デュボアがそれをやりたいと言い出して、あのラストになりました(笑)。
山崎 そうだったんですね。
──そろそろお時間が……
サンダース え、もう時間ですか!? まだまだ話したいのに……。遅くなりましたが、去年のオスカー受賞おめでとうございました!
山崎 ありがとうございます! 「野生の島のロズ」が今年、オスカーに輝くよう応援していますよ!
プロフィール
クリス・サンダース
1962年3月12日生まれ。アメリカ・コロラド州出身。カリフォルニア芸術大学でキャラクターアニメーションを専攻したのち、1984年より「マペット・ベイビーズ」のキャラクター作画を担当。1987年にウォルト・ディズニー・カンパニーに入社し、「ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!」のほか「美女と野獣」「ライオン・キング」に携わる。1998年に「ムーラン」の脚本、2002年に「リロ・アンド・スティッチ」の脚本・監督・声優を担当。その後ドリームワークス・アニメーションに移籍し、2010年に「ヒックとドラゴン」の共同脚本・共同監督・キャラクターデザインを担当した。2020年には初の実写作品「野性の呼び声」を監督。
山崎貴(ヤマザキタカシ)
1964年6月12日生まれ、長野県出身。2000年に「ジュブナイル」で映画監督デビュー。主な監督作に「ゴジラ-1.0」のほか、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「STAND BY ME ドラえもん」シリーズ、「永遠の0」「海賊とよばれた男」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」がある。「ゴジラ」シリーズ新作映画で監督・脚本・VFXを担当することも決まっている。