「野生の島のロズ」監督クリス・サンダース×「ゴジラ-1.0」監督の山崎貴が対談 | こだわり抜いた画作りが与える、観客への没入感

ドリームワークス・アニメーションが制作し、第97回アカデミー賞の長編アニメーション賞を含む3部門にノミネートされている「野生の島のロズ」が、2月7日より全国で公開される。

アメリカの作家ピーター・ブラウンによる著書「野生のロボット」シリーズをもとにした本作では、無人島で起動した最新型アシスト・ロボットのロズが動物たちとともに生き、島の危機を乗り越えていく姿が描かれる。ルピタ・ニョンゴがロズに声を当て、ペドロ・パスカル、キャサリン・オハラ、ビル・ナイ、キット・コナー、ステファニー・シュウも出演。日本語吹替版には綾瀬はるか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子らが参加した。

映画ナタリーでは「野生の島のロズ」監督のクリス・サンダースと、映画監督・山崎貴の対談を実施。クリエイター同士の2人が本作のビジュアル面における魅力や観客に与える“没入感”について語り合ったほか、お互いが過去に手がけた「ゴジラ-1.0」「ヒックとドラゴン」にまつわるトークも飛び出した。

取材・文 / 折田千鶴子撮影 / 間庭裕基

映画「野生の島のロズ」予告編公開中

とにかく画が美しく、どのショットを見ても素晴らしい世界が展開されていた(山崎)

──まずは山崎監督から、本作を鑑賞した感想をお聞かせください。

山崎貴 本当に素晴らしかったです! 血のつながっていない者同士が関係を築いていく“疑似親子”的な物語は僕も好きで、これまでも何度か作ってきました。でも本作は“ロボットと動物”という、完全に異なる種の者同士の物語。しかも、あえて両者が離れなければならない展開になっているのがよくて。何度も泣かされました。

「野生の島のロズ」より、ロズ

「野生の島のロズ」より、ロズ

「野生の島のロズ」より、キラリ

「野生の島のロズ」より、キラリ

クリス・サンダース 山崎監督にそんなふうに褒めていただけるなんて、恐縮すぎて困ってしまいます。本当にありがとうございます!

山崎 とにかく画が美しく、どのショットを見ても素晴らしい世界が展開されていました。ロボットの造形がとてもシンプルなことにも、すごく感心しました。口もないくらいなのに、よくぞ、こんなに豊かな感情表現ができるな、と。心に迫ってくるようなロズの表情、いや、表情のように見える感情を表現されたことに、本当にすごいことを成し遂げられたなと思いました。

クリス・サンダース(左)と山崎貴(右)

クリス・サンダース(左)と山崎貴(右)

サンダース ありがとうございます。ロズのデザインに関して言うと、原作者のピーター・ブラウンさんは本の中でもともと具体的なグラフィックスタイルでイラストを描いていたんです。ただ余白もかなりあったので、僕たちがディテールを足していきました。原作では“口”が描かれていましたが、山崎監督のご指摘の通り、僕らはその口を取り払いました。魅力的な形状を保ちつつ、さらにシンプルにすることによって、逆にアニメーターたちがよりクリエイティブな思考になれると考えたわけです。パントマイムなどの表現を通して、より感情を伝えられるだろう、と。最大のポイントは目のデザインです。どこか(ロズが)高価なものであるように見せたかったので、パナビジョンのレンズをイメージしました。それ以外の部分では、すべての感情を表現できるように“動きを与える”ことを意識して造形していきました。

「野生の島のロズ」より、ロズがキラリと出会うシーン

「野生の島のロズ」より、ロズがキラリと出会うシーン

山崎 “動き”と言えば、ロズは動物のまねをして、例えば鹿のように走ったりします。人間型ロボットなのに、ちゃんと動物の動線で動けるように変身できる。そんなプリミティブな動きができるのも、シンプルな造形だからこそだと思いました。一方で、実はたくさんディテールが隠れてもいる。ロズの体のいろいろなところでパネルが開いたりするので、どんどん「すごいロボットなんだ!」とわかってくるサプライズを、ところどころで与えてくれますね。

サンダース その通りです。観客が飽きないように、「実は、実は……」とサプライズを出していくことを意識しました。アニメーターさんたちが、僕らの想像を超えたアイデアを出してくれることに常に驚かされています。山崎監督の現場では、いかがですか?

山崎 確かにスタッフに“1”をお願いしたら、“10”とは言わないまでも“2~3”レベルで返してくれるスタッフと仕事をしたいですし、実際にそんな現場です。やっぱり僕も1つの脳で作るものより、たくさんの脳みそを使って作るほうが豊かなものができあがると思っています。その中でジャッジしていくのが監督の仕事。スタッフが出してきたアイデアからいいものを選んで最高のものを作る、というやり方が僕は好きです。

クリス・サンダース

クリス・サンダース

サンダース まったくもって同感です。ある種、自ら監督のような意識を持っているスタッフ、かつ僕らの期待を超えてくれる人がチームに入ってくれることほど最高なことはないですよね!(笑)

山崎 とはいえ、本来は自分ですべてやってしまいたいタイプなんです。

サンダース ハハハハハ!!(笑)

山崎 だから、自分より才能のある人間を集めるようにしています。「これに関しては勝てない」と思えるほどの強みを持つスタッフを集めると、最強のチームになる。僕の採用基準は、あるジャンルにおいて僕より優れた技術を持っていること。

サンダース ですよね! 自分より得意なものを持つスタッフが周りにいることが、もっとも望ましい形だと思いますし、僕も同じようにスタッフを選んでいます。

飛翔する瞬間、カメラがキラリの視点に。そこまで一切クレーンやドローンで撮ったような画は入れませんでした(サンダース)

──先ほど山崎監督から、画が本当に美しく、どのショットも素晴らしかったという感想がありました。普段はどのように画を作られていくのでしょう。

サンダース それはまず僕から山崎監督に聞きたいです! 「ゴジラ-1.0」を観て強烈な印象を受けたのは、それぞれのカットにまったく無駄がないこと。本当に素晴らしくて息をのみました。どうしたら次のショットにつながっていくのか、確認したくて何度も観直したくらいです。

山崎 ありがとうございます。こちらこそ恐縮です(笑)。

クリス・サンダース(奥)と山崎貴(手前)

クリス・サンダース(奥)と山崎貴(手前)

サンダース 例えば冒頭、ゴジラが島に登場すると、居合わせた人々が(ゴジラを)見つけ、それをカメラが撮っていく。もちろん作られたものであり、ちゃんとプリプロして演技開発をして……等々大変な作業を経て作り得たものだと知っていますが、それでも僕にはその場で自然発生的に起きたことを、たまたま居合わせたカメラクルーが撮っているように思えた。その瞬間、映画のトーンがある種、決定付けられたと感じました。普通の監督なら5カットくらいで見せるところを、山崎監督はワンカットでバシッと決めている。「たっぷり撮ろう」なんて欲を感じさせず地に足がついていて、だからこそテンポも勢いも決してダレることなく最後まで続いていく。しかもファンタジックな方向にも絶対に行かず、終始リアルなトーンだったことが素晴らしかったです!

山崎 ありがとうございます。でも「ロズ」の話も聞かせてください。本作の没入感もすごかったですよ! キラリが飛翔するシーンでは、一緒に空を飛んでるような感覚を覚えたくらいです。また後半で敵に襲われる場面を見たら本当に自分も撃たれてしまったような気持ちになりました。観客の没入感をかなり意識されたのでは?

「野生の島のロズ」より、キラリが飛翔するシーン

「野生の島のロズ」より、キラリが飛翔するシーン

サンダース 確かに優先順位は高かったです。作品に見合った没入感を作るためにも、ある種の信憑性を持って描きたかった。それには、まずカメラワークが信憑性のあるもの、地に足がついたものでなければいけない。でも同時に本作はファンタジックな作品でもある。だからこそバランスを取り、カメラワークでリアルさを強調しました。キラリが飛翔するシーン以前はずっとロズの視点、つまり大地からの視点で描きました。そしてキラリが飛翔する瞬間に、カメラがキラリの視点に移っていく。そこまで一切クレーンやドローンで撮ったような画は入れませんでした。私が特にこだわった部分ですね。

山崎 ずっと抑えていたわけですね。だからこそキラリが飛翔する瞬間「あ、飛んだ!」と気持ちよく飛ぶ感覚が印象付けられた。“飛翔”の表現についてですが、資料によると宮﨑駿監督作からインスピレーションを得たそうですね。雲の間を雁たちが飛んでいくシーン、その雲が移動してくるときのマルチ感や、手前にいるキャラクターと背景との組み合わせ方なども含め、かなり研究されたのでは?

サンダース おっしゃる通りです。宮﨑監督も、とても飛翔や飛行に興味があったのだと思います。とにかくディテールの凝り方が素晴らしいんです。例えば「紅の豚」では飛行機が水に着水するときの、胴体が当たってガタガタ音を立てる感じなどが本当に魅力的で。そういうところからもインスピレーションを受けましたし、ディテールにはとにかく注視すべきなんだなと思い、取り組みました。