Zドラマ第5弾となる恋愛デスマッチ「国宝級彼氏オーディション」がTELASA、TVer、Hulu、日テレTADAほかで配信中。本作では“国宝級彼氏”の称号を得るべく、オーディション番組の出演者たちがさまざまなお題を受けてエチュード(即興演技)を繰り広げていく。八木勇征(FANTASTICS from EXILE TRIBE)が完璧男子タレント・園宮蓮、中島颯太(FANTASTICS from EXILE TRIBE)が人気バンドのボーカル・芝田かえでを演じ、佐藤流司が歌舞伎町のホスト・天王寺綾兎、たける(東京ホテイソン)がお笑い芸人・未読蒸しパンの田中俊吾に扮した。
映画ナタリーでは、日本テレビのプロデューサー・鈴木努にインタビューを実施。鈴木は八木らの起用理由や成長、そして“Zドラマ”枠の意義を語った。さらに特集最後にはレビュー、オフショット写真もたっぷり掲載しているのでお見逃しなく。
取材・文 / 小林千絵撮影 / 清水純一
鈴木努 インタビュー
Zドラマは若い役者さんが芝居の面白さを体感する場所
──Zドラマ第5弾の恋愛デスマッチ「国宝級彼氏オーディション」は、地上波で放送中の第4弾「沼る。港区女子高生」に登場する配信番組です。地上波ドラマと、ドラマ内の配信番組の2つを同時期に展開した狙いは?
よくある配信限定のスピンオフドラマって、結局母体のドラマを観ている人が観るだけなんですよね。だけどZドラマでは、地上波のドラマと配信番組で違う視聴者を取りたいと思っていて。地上波と配信ではプラットフォームの特性が全然違うので、それを生かして、配信には熱視聴されるものを、地上波には地上波でオンエアする意味のあるものというか……何らかの問題提起や示唆を持つものを作って、どちらからでも入れるようにしたいという思いから、この構成にしました。
──「国宝級彼氏オーディション」は“恋愛デスマッチ”番組ですが、この形を取ったのはどういった背景からですか?
Zドラマを作るうえで、芝居も絶対できるだろうなと思える方々、中島(颯太)さんや東京ホテイソンのたけるさんといった、そのあたりの人たちを生かすにはどうしたらいいんだろうとずっと考えていたんです。そういう人たちを生かせる場所、フレームとして考えたのが、エチュードからなる配信番組だった。観ていただくとわかりますが、「国宝級彼氏オーディション」はセリフなのか本当に即興なのか、という絶妙なラインで。
──はい。どこまで台本があってどこからがエチュードなのか、全然わかりませんでした。
ですよね。実際はある程度の導入と出口だけ決まっていて、間はすべて空白。ほとんど本当のエチュードなんです。だから最初はみんな見ていて恥ずかしくなるくらい照れていました。でも「全然ダメだ」と言いながらカメラを回し続けていると、だんだんいろんなボールが出てきて。そのときに自分たちのポテンシャルがすごく出る。役としてやっているのか、自分としてやっているのか、その両方なのか。演じる楽しさがそこに生まれてくるんですよ。
──一芸や自分の魅力を、ある程度自分で把握しているから。
そうそう。
「俺、芝居が好きかもしれない、またやりましょ!」
──そんな「国宝級彼氏オーディション」の出演者である八木勇征さん、中島颯太さん、佐藤流司さん、たけるさん、それぞれの印象を教えてください。
まず八木さんは……愛すべきキャラクターで。お茶目でナイスガイです。そもそも彼を知ったのは3年ぐらい前。ある日、Instagramで彼の写真が流れてきて「めちゃくちゃかっこよくて、どこかえたいのわからない魅力的なやつがいる」と思った。そのときからずっと気になっていました。とにかく強烈でしたね。
──そして前作のZドラマ「ばかやろうのキス」と「やり直したいファーストキス」に園宮蓮役で起用したと。今回も蓮役ですが、前作からの変化や成長は感じますか?
前作が終わったときに、「俺、芝居が好きかもしれない、またやりましょ!」と言いに来たんです。役に乗せて普段言えないようなことを言えるのが面白いって。彼が芝居を好きになってくれたというのはすごくうれしかったですね。芝居もどんどんうまくなっていると思いますよ。
──では中島さんはいかがでしょうか? 同じグループ(FANTASTICS from EXILE TRIBE)のしかも同じボーカリストである2人が同じ作品に出演するなんて、発表されたときはすごく驚きました。
皆さんが、よくも悪くもざわざわする組み合わせですよね(笑)。でも実際に切磋琢磨している2人だからこそ、フィクション感が薄れて、リアルっぽくなっていいなと思ったんです。裏ではめちゃくちゃ仲いいですよ、あの2人。イチャイチャしてます(笑)。ただ八木さんもそうだけど、アーティストは自分をよく見せるのが仕事だから、最初は「俺を見て! 俺かっこいいでしょ」という感じが出ていて。でも「ここでは、芝田かえでという役でやってくれ」と言ったら、あっという間に吸収して。ものすごいスピードで成長していきました。
──佐藤さんはどうでしょう? お芝居のキャリアもダントツで長いだけあって、演じた天王寺綾兎はものすごく存在感があります。
もうエチュードをやらせたら抜群ですね。言葉の力と瞬発力が抜群。昔会ったとき、彼が「芝居で食えなかったらホストやるんで」と冗談で言っていて。「確かにホストっぽい見た目だよね」みたいな会話をしていたんです。だから今回のキャスティングでは、秒で彼が浮かびました。「いつかホスト役をやってもらいたいと、3年くらいずっと思っている人がいる」って(笑)。
──演技経験の豊富な佐藤さんがいることは、ほかのメンバーに何か影響を与えていますか?
現場でもずっと天王寺のような感じなので、ほかのメンバーが「本当の佐藤流司さんって、どんな人なんですか?」って僕に聞いてきます(笑)。いやあ、圧倒的ですよね。すごいです。
──では、たけるさんはいかがでしょうか? 完全なるお笑い枠かと思いきや、意外にキュンとさせられる場面も多いです。
キャストを考えているときから、プロデューサーや作家さんといった女性のスタッフがみんな「たけるさんがいい」と言っていたんです。安心して、ずっと一緒にいたいと思える存在だと。実際のエチュードでも、芸人さんだけあって瞬発力がすごいなと思わされますね。一発芸はたまにすべってましたけど(笑)。
耳触りの悪いものを作るのがドラマの役目
──俳優それぞれのキャラクターや演技力が生きてくる番組だと思うのですが、想定していたものとは違うことが生まれたりも?
それで言うと、撮影を重ねるたびにみんなエンジンがかかっていって、“やらされ仕事”ではなくなってきているなというのは感じましたね。特に5話はすごかった。お互いに「あいつ、何やってました?」って聞いてくるほど。そのあたりも楽しんでもらえるとうれしいです。
──Zドラマは第5弾まできましたが、“Zドラマ枠”の今後の展望を教えてください。
そもそもZドラマを立ち上げた理由の1つに、「芝居のできる若い人を生んでいかないといけない」という思いがあったんです。今って、インフルエンサーとかYouTuberとか、いわゆる“出役”はたくさんいますけど、その中で芝居をやっている人ってそんなにいないんですよね。芝居って割りを食うわりに稼げないし、地道だし。だからみんなが今っぽい出方を選ぶ気持ちもすごくよくわかります。ただ、芝居の好きな若い役者さんが出てこないと僕たちはドラマを作れないんですよ。だからおこがましいですけど、このZドラマは、若い子たちに芝居を好きになってもらって、将来的に日本のドラマを引っ張っていく人材を生み出そうという思いでやっています。スタッフも日テレのGP(ゴールデンプライム)帯でドラマを作っている人たちにも参加してもらってます。実際に、過去のZドラマに出ていたメンバーが、ゴールデン帯のドラマに出ていたりもしている。そうやって若い役者をどんどん輩出できる装置になっていければと思っています。
──配信サービスやYouTubeといったさまざまなプラットフォームがあり、その中に多様な番組がある今の時代に、ドラマができることやドラマというものの存在価値を、鈴木さんはどのように考えていますか?
今って観たいものだけを観て過ごせる時代じゃないですか。そんな中で、耳触りの悪いものを作るのが、ドラマの役目かなと僕は思っていて。
──「耳触りの悪いもの」ですか。
本当は目を覆いたくなるようなものを、エンタテインメント性を持たせて無理やり目を開かせて見させることかなと思います。この世の中には、見せないといけないこともたくさんある。そういう、耳触りが悪くてあんまり見たくないところを、無理やり目を開けさせて、新しい目線で世の中を見られるようになったらいいな、それができるのがドラマなんじゃないか、と思うんです。Zドラマで言うと、「君たちの生きている世界は、そこだけじゃないぞ」ということ、学校以外に逃げ場があるということも示せたらという思いもあります。もちろんドラマを作っている人にはそれぞれいろんな思いがあると思いますが、少なくとも僕は、視聴率を上げるとか再生回数を稼ぎたいとか、そういうことよりも、放送局でドラマを作っている以上、届けるべきメッセージがあると思って作っています。「いつも寝ぼすけなあいつが、このドラマを観た日は『明日の朝ちょっとだけ早く起きて学校に行こう』と思う」とか、少しでもいいほうに向かえるメッセージを、押し付けがましくなく伝えるためにはどうしたらいいかをずっと探しています。
プロフィール
鈴木努(スズキツトム)
日本テレビ所属のプロデューサー。Zドラマ第1弾となる「卒業式に、神谷詩子がいない」を皮切りに、「ばかやろうのキス」「やり直したいファーストキス」「沼る。港区女子高生」そして恋愛デスマッチ「国宝級彼氏オーディション」とシリーズ作すべてで企画・プロデュースを手がける。
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