映画「宮本から君へ」宮本浩次インタビュー|“大人の青春”が生んだ主題歌「Do you remember?」を語る

すごく美しいエンディングだと思った

──本編が終わって「Do you remember?」が流れるエンドロール演出は、写真家の佐内正史さんが担当していますね。池松さん演じる宮本浩と蒼井さん演じる中野靖子の自然な表情が、楽曲と相まって効果を上げています。

佐内さんは昨年のドラマ版でも、「Easy Go」が流れるオープニングの映像と、エンディングの演出を手がけていますから。今回「Do you remember?」を作るにあたっても、映像はぜひ佐内さんに撮ってほしかった。だから彼には、リハのスタジオにも来てもらって。今回はエレファントカシマシではなく宮本浩次のソロとして、横山健さんを迎えて作ったんですけど……。

──はい。驚きました。

ボーカルの宮本、ギターの横山健、ベースのJun Gray、ドラムのJah-Rah。この4人によってデモ音源が磨き上げられ、楽曲として完成していく過程も、佐内さんはまさに現場で撮ってたんですね。逆に言うと佐内さんが持っている何かも、この曲には入っている。そうやってスタジオで2時間くらい男5人で過ごしたあとで、佐内さんと2人で蕎麦屋に行ってね(笑)。そんな1日がありましたけど。たぶんその時点で、最後に「Do you remember?」という曲をどう見せればいいのか、彼は考えてたんじゃないですかね。

──なるほど。実際に「Do you remember?」がかかるエンドロールを見て、宮本さんご自身はどう感じましたか?

いやあ、すごく美しいエンディングだと思った。佐内さんの写真が持っている優しさを、2人の表情と色彩から、はっきり感じ取ることができた。物語自体は相当バイオレントな部分もあったけど、すごく救われる感じがしました。で、その写真の間に原作の新井さん直筆の文字が入ってくるんだけど……。

──「いききっちゃう」とか。力強い筆跡ですよね。

そうそう。その手書き文字のインパクトが、佐内さん渾身のスチル写真を、すごくいい感じで破壊してる(笑)。まあ、あれも佐内さん自身のアイデアだと思うんですけどね。そういうカオスっぽさもよかったです。

宮本浩次

大人の青春の時間

──楽曲について、もう1つ。クライマックスに「さようなら こんにちは」というフレーズが出てきます。そのキー設定がものすごく高い。

ああ(笑)。そうですね。

──そこに至るAメロ、Bメロ、サビも高めに設定されてますが、「まだいくか!」という驚きがありました。歌うのけっこう大変じゃなかったですか?

あれはですね、もともとは2分半くらいで終わらせるつもりだったんですよ。ところがリハの最中に、どうもエンディングが4分半に延びそうだって話を、それも佐内さんから聞かされて。急いで尺を延ばさなきゃならないと(笑)。

──へええ、それが理由だったんですか。

そう。で、後半、横山さんを中心にアレンジを膨らませていく過程で、さらにスピード感のある最後のパートが生まれたんですよ。面白かったのは、4人ともどこかでアクシデントを楽しんでいてさ。リハをしながら音がどんどん変化し、それぞれのフレーズが決まっていく。「さようなら こんにちは」という歌詞とフレージングも、その場で新たに生まれてきたものだしね。本当に今回の映画と同じように、ある種、大人の青春の時間だったんだよね。

──なるほど。

もちろん、作っていたのは映画の主題歌です。でもそいつは、紛れもなく俺たち4人の楽曲でもあった。その様子を、佐内さんがスマホか何かで撮っていて。それがそのまま「Do you remember?」のミュージックビデオに使われている。今、こうやって話しながら思い出してるんですけど、あれはすごい場所でしたね。創作の現場としては、最良のものになっていたと思う。

──映画「宮本から君へ」は、ものすごくシンプルに言うと、主人公が何かに決別し、新しい世界に踏み出していくお話だと思うんですよね。「さようなら」と「こんにちは」という日常の言葉を2つ並べるだけで、そのテーマを完全に、すごい説得力を伴って言い切っているところがまた、素晴らしいなと。

それはやっぱり、作品の持っている力が大きいんじゃないですかね。さっきもお話ししたように、「宮本から君へ」が描こうとしている世界観は、実はすごくストレートなラブソングだと私は思っていて。それこそ原作者の新井さんから真利子監督、池松さん、蒼井さん、キャスト、スタッフの方々も含めて、そういう大きな方向性は自然に共有できていたのかな、と思いますね。

宮本浩次

横山健のサウンドがもっともふさわしかった

──横山健さんとのコラボレーションに驚いたファンも多かったと思います。宮本さん自らオファーされたそうですが、改めて理由を伺えますか?

簡単に言うと、最高にかっこいいロックギタリストだから。それに尽きるんだよね。無理に理屈を言うと、ドラマ版「宮本から君へ」のために「Easy Go」という曲を作ったとき、参考ってわけでもないんだけど、Ken YokoyamaとかHi-STANDARDとか、あとはグリーン・デイとかね、そういったスピード感のあるパンクサウンドをけっこう聴いてたんです。で、今回、ソロの形で「Do you remember?」を録音するとなったときに、この楽曲の持つ力を最大限に引き出すためには、彼のギターサウンドが絶対に必要だと思ったわけ。とにかく、かっこいいですから。理屈にもなんにもなってないけど(笑)。

──前につんのめるような、エレカシとはまた違ったタイム感ですね。

ああ、違いますね。レッド・ツェッペリンとセックス・ピストルズがまったく違うように、完全に別物だと思います。パンクロックの持っている軽快さとスピード感というのは、おそらくエレファントカシマシにはないものですし。しかも横山さんのギターって、独特の世界観があって。よくあるパンク系のツービートとも違うんだよ。バンドってほら、やっぱり人だからさ。

──メンバーが変わればグルーヴも変わると。

そう。今回、「Do you remember?」のパートナーを横山さんにお願いした最大のポイントはそこにあって。要は横山健のギター、横山健のビート、横山健の世界観に、宮本浩次が挑みたかった。「宮本から君へ」という映画の主題歌には、彼のサウンドがもっともふさわしいと思ったから。その結果、驚くほどピュアでストレートな、最強のロックを鳴らせたと自負しています。

──ちなみにシングルのカップリング曲は、ビートルズ初期の名曲「If I Fell」のカバー。ハードコアな「Do you remember?」から一転、宮本さんと横山さんのアコースティックデュオが、甘酸っぱく響きました。

そうですか(笑)。まあ自分1人でカバーするという方法もあったんですけど、やっぱり今回のカップリングは、横山健とやらなければ意味がないと思って。私の大好きなビートルズの曲を、半ば無理やりお願いして一緒に歌ってもらいました。どっちがジョンのパート担当で、どっちがポールのパート担当かってことも含めて、楽しんでもらえるとうれしい。

──これもまた大人の青春って感じですね。最後に、これから映画を観る人に向けて、何か伝えたいことがあればお願いできますか?

そうですね……さっき話したことと重なりますが、30年近く前に生まれた「宮本から君へ」という物語が、時間が経ってもまるで色褪せることなくスクリーンで生き生き躍動しているという事実が、まず素晴らしいと思う。僕自身、この主題歌を通じて横山健、Jun Gray、Jah-Rahという新しい仲間とも出会うことができましたし。エンドロールで「Do you remember?」が流れるのを観た方は、きっとある種の明るさと爽快感を持って、この熱量の高い物語を受け取ってくれるんじゃないかと。そんなふうに私は思っています。

「宮本から君へ」
2019年9月27日(金)全国公開
ストーリー

文具メーカーで働く営業マン・宮本浩は、人一倍まっすぐで超不器用な男。会社の先輩・神保の仕事仲間である中野靖子と恋に落ちた宮本は、彼女の元彼・裕二と出会う。怒りで靖子に手を出した裕二に対して、「この女は俺が守る」と言い放つ宮本。この事件をきっかけに、宮本と靖子は心から結ばれる。しかし幸福な時間も束の間、宮本と靖子を待っていたのはあまりにも過酷な試練だった。宮本は愛する人のため、“絶対に勝たなきゃいけない喧嘩”に挑む。

スタッフ

監督:真利子哲也

脚本:真利子哲也、港岳彦

原作:新井英樹「宮本から君へ」(百万年書房 / 太田出版刊)

主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)

キャスト

宮本浩:池松壮亮

中野靖子:蒼井優

風間裕二:井浦新

真淵拓馬:一ノ瀬ワタル

田島薫:柄本時生

小田三紀彦:星田英利

岡崎部長:古舘寛治

大野平八郎:佐藤二朗

真淵敬三:ピエール瀧

神保和男:松山ケンイチ

※R15+指定作品

宮本浩次(ミヤモトヒロジ)
1966年生まれ、東京都出身。1981年にロックバンド・エレファントカシマシを結成し、1988年にシングル「デーデ / ポリスター」とアルバム「THE ELEPHANT KASHIMASHI」でデビューする。以後、バンドで22枚のオリジナルアルバム、1枚のミニアルバム、50枚のシングルをリリース。2017年には第68回NHK紅白歌合戦に出場した。2018年、シンガーとして椎名林檎や東京スカパラダイスオーケストラの作品に参加。2019年にソロ活動を開始し、シングル「昇る太陽」を7月24日にリリースした。12月28日から31日に開催される「COUNTDOWN JAPAN 19/20」に出演する。
宮本浩次「Do you remember?」
ユニバーサルシグマ
2019年9月27日(金)先行配信
2019年10月23日(水)発売
宮本浩次「Do you remember?」初回限定盤

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