映画「宮本から君へ」宮本浩次インタビュー|“大人の青春”が生んだ主題歌「Do you remember?」を語る

根っこは何かを一途に大切にする気持ち

──宮本さんが思う「宮本から君へ」の色褪せないテーマについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?

映画「宮本から君へ」

なんだろうね。もちろん青臭さとかがむしゃらさとか、そういう部分は大きいと思います。でも私自身は、もうちょっと純粋なラブストーリーとしての側面も強く感じてまして……。誰かをひたすら愛すること。あるいは男女の愛情だけじゃなくて、何かを一途に大切にする気持ち。根っこはそこじゃないかな。

──確かに。

どんなにがむしゃらに生きていても、色褪せていくもの、変わっていくもの、失われてしまうものは必ずある。でも、人を本気で愛したときにだけ得られる高揚感みたいなものは、それが相手に伝わらなかったとしても、やっぱり人が生きる糧なのかなと。「Easy Go」も「Do you remember?」も実は、そういうテーマを追いかけた楽曲だと思っています。しかも、自分と名字が同じ主人公のために歌えるなんて経験、なかなかできるもんじゃないですしね。

──「宮本から君へ」の連載が始まったのは1990年。作者の新井さんはエレファントカシマシの大ファンで、宮本さんから名前を拝借して、主人公を「宮本浩」と名付けたそうです。当時、そのことはご存じでしたか?

そうですね、はい。デビュー当時、エレファントカシマシというのは、一部の音楽好きにカルト的なセンセーションを巻き起こしたところがあって。まあ、それがよかったのか悪かったのかわからないですけど……。とにかく、強烈なインパクトを与えた。若き新井さんが、私たちの曲に自分を重ねるようにして愛聴してくださっていたという話は、どこかで聞いたことがありました。

──実は僕もその頃、毎日のようにエレカシを聴いてまして……。

そうでしたか。

──毎週、「宮本から君へ」の連載も読んでたんですけど……。

へえ!

──例えば、上っ面ばかり飾り立てる世相への苛立ちだったり。自分でもよくわからない焦燥感だったり。音楽とマンガという違いこそあっても、2つの表現が自分の中でシンクロしていく不思議な感覚が、自分の中にありました。

ふーん、なるほど。

──ドラマと映画には出てきませんが、原作の中盤に、主人公が骨折して入院するくだりがあるんです。そのベッドの上で宮本が読んでいる文庫本の題名が、実はエレカシの曲名になっていたり。新井さんは明らかに、エレカシから受け取った何かを、マンガで表現しようとしていた気がします。そう考えると、それこそ30年が経過して、今度は宮本さん本人が映画にとって欠くことができないピースを創ったというのは、すごく感慨深いストーリーだなと。

……あの、これちょっと、関係ない話なんだけど。

──はい。

昨日、レコーディングが終わって街を歩いてたら、男の子が「宮本さん、俺、大ファンなんです。握手してください」って寄ってきてくれてね。男の子つっても、もう30代だったのかなあ。あれ、うれしかったなと思ってさ(笑)。

──ああ、そうなんですね(笑)。

「そんなにうれしいのかな……」って思いながら握手したんですけどね。でも、やっぱりうれしかった。こうして真剣に聴いてくれてる人がいるんだ。こっちも真面目に曲、作んなきゃなって思った。ふと今、そのことを思い出しました。

宮本浩次

池松壮亮という俳優が持っている不思議な透明感

──今回の主題歌「Do you remember?」も、ドラマ版の主題歌「Easy Go」と同じく、真利子監督から直々にオファーがあったそうですね。最初の段階で何か、具体的な要望はありましたか?

真利子哲也

いえ、真利子さんはどちらかというと寡黙でシャイな方で。内には熱いものを秘めてるんですけど、打ち合わせではたぶん相手をおもんぱかって、なかなかズバッとは言わないんですよ。でも不思議なもので、一緒にいると、彼がどういう楽曲を作ってほしいのか、俺にはすぐわかる。その意味ではすごく相性がいい。

──へええ。面白いですね。

今回の「Do you remember?」に関して言うと、最初の打ち合わせで「弾き語りがいいですか? それとも激しいやつ?」「うーん、激しい感じかなあ」みたいな話をボソボソしてた最中に、もう頭の中で曲が鳴り始めていました。正直、その時点では、どんな映画になるかってことさえ知らなかったわけなんだけど。たぶん、会話以上の会話ができたんでしょうね。

──それは、曲の全体像がパッとイメージできたということですか?

いや、メロディそのものですね。メロディと、それが要求するスピード感。「宮本から君へ」という映画に懸ける強い思いが、真利子さんの体から波動として出てたんじゃないかな。そういう曲の生まれ方って、実はなかなかないものなので。私としてもすごくうれしかった。

──本当にいい曲ですよね。

ありがとうございます。ああ、よかった。うれしい。

──例えば、歌い出しの部分。「ガードレールに1人うずくまっている男が逆光のシルエットで浮かび上がる」というイメージも、映画の持つ質感とぴったり合っています。これも映画が完成する前からあったものですか?

映画「宮本から君へ」

うん。あれはね、ドラマ版のときから継続しているイメージなんだよね。池松壮亮さんという俳優が持っている、不思議な透明感っていうのかな。力強さとシャープさと、優しさと泥臭さが全部混じった感じ……これ、あくまで私の勝手なイメージですよ。ご本人には、ライブのあとで一度お目にかかっただけで、素顔はよく存じ上げないんですけど。彼もまた、寡黙な人で……。

──そうですね。

だけど、その寡黙さの中に、俳優としての姿勢だったり気迫がビンビン伝わるタイプの人でもあって。その池松さん演じる主人公が、背広を着て街に立っている映像が、まず根底にあった気がします。その佇まいを通して、例えば自分自身だったり、世間の男たちの姿を見ている感じかな。

「宮本から君へ」
2019年9月27日(金)全国公開
ストーリー

文具メーカーで働く営業マン・宮本浩は、人一倍まっすぐで超不器用な男。会社の先輩・神保の仕事仲間である中野靖子と恋に落ちた宮本は、彼女の元彼・裕二と出会う。怒りで靖子に手を出した裕二に対して、「この女は俺が守る」と言い放つ宮本。この事件をきっかけに、宮本と靖子は心から結ばれる。しかし幸福な時間も束の間、宮本と靖子を待っていたのはあまりにも過酷な試練だった。宮本は愛する人のため、“絶対に勝たなきゃいけない喧嘩”に挑む。

スタッフ

監督:真利子哲也

脚本:真利子哲也、港岳彦

原作:新井英樹「宮本から君へ」(百万年書房 / 太田出版刊)

主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)

キャスト

宮本浩:池松壮亮

中野靖子:蒼井優

風間裕二:井浦新

真淵拓馬:一ノ瀬ワタル

田島薫:柄本時生

小田三紀彦:星田英利

岡崎部長:古舘寛治

大野平八郎:佐藤二朗

真淵敬三:ピエール瀧

神保和男:松山ケンイチ

※R15+指定作品

宮本浩次(ミヤモトヒロジ)
1966年生まれ、東京都出身。1981年にロックバンド・エレファントカシマシを結成し、1988年にシングル「デーデ / ポリスター」とアルバム「THE ELEPHANT KASHIMASHI」でデビューする。以後、バンドで22枚のオリジナルアルバム、1枚のミニアルバム、50枚のシングルをリリース。2017年には第68回NHK紅白歌合戦に出場した。2018年、シンガーとして椎名林檎や東京スカパラダイスオーケストラの作品に参加。2019年にソロ活動を開始し、シングル「昇る太陽」を7月24日にリリースした。12月28日から31日に開催される「COUNTDOWN JAPAN 19/20」に出演する。
宮本浩次「Do you remember?」
ユニバーサルシグマ
2019年9月27日(金)先行配信
2019年10月23日(水)発売
宮本浩次「Do you remember?」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
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宮本浩次「Do you remember?」通常盤

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