ダンサーとしての血が騒いだ
──「ミラベルと魔法だらけの家」の世界観についても感想をお聞きしたく。舞台がコロンビアということで、色鮮やかな映像はいかがでしたか?
カラフルなのになぜ引き締まって見えるんだろう、と不思議に思いました。黒や白のモノクロのほうが引き締まりやすいのに、カラフルだけどごちゃごちゃしていない。むしろ美しかったです。
──家の階段や床が魔法で動いたりと、わくわくする演出もありましたね。
マドリガル家のルームツアーをしてみたい!と思いました(笑)。あとニューヨークに留学していたとき、コロンビア人と日本人の親を持つ方と知り合って、その人がいつも家族の話をしていたのを思い出しました。家族を大事にする文化や、一家の団結力が強いという話を聞いていたので、この映画を観て納得しました。親戚みんなで住めるお家っていいですよね。
──現代の日本だとなかなかありませんからね。
以前は毎年のように祖母の家に、鞘師家の父方の親戚が30、40人ぐらい集まっていたんです。「おばあちゃんの妹の息子家族」とか遠い親戚も来ていたり、ぎゅうぎゅうになって。そのにぎやかな光景を思い出しつつ、マドリガル家を見てうらやましいなと思いました。
──ちなみにマドリガル家の人々には「花を咲かせる」「力持ち」「感情で天気をコントロールできる」「動物と話せる」などさまざまな魔法のギフトが授けられていますが、どれか与えられるとしたら、鞘師さんは何を選びますか?
ミラベルのお母さんの“癒やし”のギフトはいいですよね。おいしい料理でみんなの病気を治せたり、実用的かなって(笑)。私も最近、健康には食事が大事だなと気付いて、後々のことを考えるようになったんです。毎日自炊はできないですけど、「血糖値が上がると眠くなって集中できなくなる」とか。子供の頃は、まさか自分が血糖値のことなんて考えるとは思っていませんでした(笑)。
──(笑)。リン=マニュエル・ミランダが手がけた音楽はいかがでしたか? ラテン調のリズムが印象的だったかと思います。
ラテンミュージックになじみがあるわけではないですけど、これこれ!っていうノリになれますよね。ブルーノ(ミラベルのおじ)のことを歌う曲では踊りたくなりました(参照:「ミラベルと魔法だらけの家」より、リズミカルな「秘密のブルーノ」楽曲クリップ公開)。そういうノれる曲もあるのがディズニーミュージカルの好きなところです。
──踊りたくなると言えば、ルイーサの曲はEDM風で鞘師さんの楽曲に通ずるなと。ラテン調の曲が多い中で、少しテイストが違って際立っていました。
かっこよかったです! ダンサーとしての血が騒ぐ曲が多くて楽しかったですね。私自身、今まで出演してきたミュージカルではしっとり系の歌が多くて、そういう曲ももちろん好きですが、ノリノリで踊れるミュージカルにも出てみたいです。
今のタイミングで観られたのは運命
──本作は、誰もが“特別な何か”を持っているんだと教えてくれる作品です。鞘師さんも自分の“特別な何か”について、誰かに気付かせてもらえた経験はありますか?
私は、自分の発する「言葉の力の弱さ」がコンプレックスなんです。昔は特にその思いが強くて。でも誰かと会話したり、何かきっかけがあると、心の奥底にあった声がどんどん浮かび上がって、自分の言葉として出てくるんです。だから、“ない”わけじゃなかったんだと気付けたときはすごくうれしくて。マネージャーさんや、一緒に曲作りをしてくださるスタッフさんたちは「知ってたよ」とおっしゃってくれたんですけど。自分ではわかっていなかったので、そういうふうに気付けたのはよかったです。
──自分の中で輝いてるものに目を向けられるのは、いいことですよね。
面白いことが言えなかったりして「できない」と決め付けてしまっていたんですけど、自分に合うやり方があるんですよね。1人のときはスラスラ話せなかったけど、対談だったらたくさん話せる、みたいな。だから今の環境で「できない」「難しい」と思っていても、やり方を変えてみればそうじゃないかもしれないですし。私は今も乗り越えたいことがいっぱいあって、日々しがみついて生きていますが……。この映画が教えてくれる通り、自分が持っているものは意外とたくさんあるんだと思います。
──そんなメッセージが込められた本作を、鞘師さんはどなたにお薦めしたいですか?
どんな人にも観てほしいと思います。……おこがましい話なんですけど、この「ミラベルと魔法だらけの家」には、私が自分の曲を通して伝えたいことと近いものを感じたんです。
──近いと言いますと?
私も自分に自信がなかったり、自分を蔑むような癖があるんです。でも周りの人に支えられて前を向けたから、みんなもそうなれるようにと願って、歌詞を書いて歌を届けています。わかりやすく目に見える力が“才能”として認められがちですが、私は権力の大きさ、精神の強さだけで、その人自身の“強さ”を決められないと思うんです。「弱いところに向き合えるのも強さだよ」という曲を今ちょうど作っていて。どんな人もそれぞれ違う形で“強さ”を持っているという思いは、この映画が伝えるメッセージと近い部分があると感じます。
──「ミラベルと魔法だらけの家」を観て、鞘師さんの次のリリース作品も聴いて、双方の共通点を探したら面白いかもしれませんね。
そうですね。今のタイミングでこの映画を観られて運命を感じました。
プロフィール
鞘師里保(サヤシリホ)
1998年5月28日生まれ、広島県東広島市出身。幼少期にアクターズスクール広島でダンスを学び、2011年にオーディションを経て12歳でモーニング娘。9期メンバーとしてデビュー。2015年12月に同グループを卒業したのち、米ニューヨークにダンス留学する。2020年9月より日本で本格的に芸能活動を再開した。2021年8月に1stミニアルバム「DAYBREAK」をリリースし、同年8月に東京・チームスマイル・豊洲PITでワンマンライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を開催。2022年1月12日に2nd EP「Reflection」をリリースし、同月に東京、大阪、広島の3都市を巡る1stツアー「RIHO SAYASHI TOUR 2022」を開催する。音楽活動の傍ら、さまざまなドラマ、舞台、ミュージカル作品に出演している。
鞘師里保スタッフ【公式】 (@sayashi_staff) | Twitter