ディズニー・アニメーションの最新作「ミラベルと魔法だらけの家」が11月26日に全国で公開された。
ディズニーの長編アニメーション60作目となる「ミラベルと魔法だらけの家」には、「ズートピア」の監督を務めたバイロン・ハワードや共同監督のジャレッド・ブッシュ、「モアナと伝説の海」などに参加した音楽家リン=マニュエル・ミランダらが結集。南米コロンビアを舞台に、家族の中で自分だけ“魔法のギフト(才能)”を持たない少女ミラベルの活躍が、色鮮やかな映像で描き出される。
映画ナタリーの特集では、アーティストの鞘師里保に本作の感想を聞いた。映画に込められたメッセージと自身の思いが重なり、「今のタイミングで観られたのは運命」と語る鞘師。踊りたくなる楽曲も満載の本作の魅力とは?
取材 / 岸野恵加文 / 金須晶子撮影 / 曽我美芽
ディズニー・チャンネルか「相棒」か
──まずは、お気に入りのディズニー作品からお聞かせください。
最初に観たディズニー作品は「ファインディング・ニモ」です。幼稚園の年長くらいの頃に(地元の)東広島の映画館で。すごく気に入って、その後も家で何回も観返しました。上京してからは家族で映画館に行くことは少なくなりましたが、帰省したときに「アナと雪の女王」をみんなで観ました。ディズニー作品は1人でも楽しめますが、家族で観たいと思うような作品が多い気がします。
──自然と小さい頃からディズニー作品に親しんでいたんですね。
家でもよくディズニー・チャンネルがついていました。昔のミッキーマウスのアニメーションが流れていたり。地上波の番組は「相棒」ぐらいしか観ていなくて。
──ディズニー・チャンネルか「相棒」ですか! ずいぶんと偏りが(笑)。
そうなんです(笑)。“ミュージカル”というものもディズニー作品を通して知りました。歌で気持ちを表現する方法があるんだと。私と同じように、ディズニー作品で初めてミュージカルに触れて、それから“実際に舞台に立って演じるもの”だと知る子供は多いと思います。
「歌手になりたい」と夢見ていた頃を思い出した
──それでは「ミラベルと魔法だらけの家」についてお伺いしていきます。家族の中で自分だけ「魔法のギフト」を与えられなかったミラベルは、明るく振る舞いながらも、心の中では不安を抱いている女の子でした。
私を含めて、多くの人が「ミラベルは自分だ」と思える部分がたくさんあると思います。なぜか他人ばかり輝いて見えてしまったり。私もいろいろお仕事をさせてもらってきた中で、周りの子たちは友達であり、ライバルでもあって。「あの子は私にないものを持っている」とか「私ももっと歌えたらいいのに」と、劣等感を感じることのほうが多かったんです。
──他人をうらやむ気持ちは誰にでもあるもので、そういう点でミラベルは共感しやすいキャラクターですよね。
ちょうど自分が考えていたことと重なる部分もありました。ミラベルは家族が危険にさらされたとき、特別な力を持たなくても「自分にできることはなんだろう?」と考えて行動しますよね。私自身に置き換えると、一歩すら踏み出せてないなと思うことがあるんです。「あの人みたいに歌えるようになりたい」と思っても、その声にはなれない。だから今の自分ができることはなんだろう?と考え、それを積み重ねていくことが最短ルートのはず。でも誰かをうらやむときって、ゴールばかり見てしまって……。ミラベルのように今自分が持っているものに目を向けて、行動に移せることが大事だと思いました。
──鞘師さんは自分の意思で留学を決めてモーニング娘。を卒業したりと、行動力のあるイメージだったので、今のお話は少し意外です。
考えすぎちゃうことは多いです。でも、すぐに結論付けるのではなく「ほかにも何か答えがあるんじゃないか」ともがき続けたり、あきらめきれないところは私もミラベルと共通しているかもしれませんね。
──「マドリガル家のように魔法が使えなくても、自分にできることを見つけてほしい」という本作のメッセージと重なりますね。映画をご覧になったあと「最初から泣いちゃいました」ともおっしゃっていましたが……?
はい。最初に泣いたシーンは、(ミラベルのいとこの)アントニオが「魔法のギフト」をもらうところです。目をキラキラ輝かせる幼いアントニオの表情から「僕の未来が始まるんだ!」という純粋な気持ちが伝わってきて。なんだか自分が「歌手になりたい」と夢見ていた頃を思い出して、ポロポロ涙がこぼれてしまいました。
──鞘師さんも幼少期からレッスンを始め、デビュー当時もまだ12歳だったということで、アントニオと重なる部分があったんでしょうね。
そうですね。グループを抜けてから留学などで1回休んで、活動を再開するまでに、昔の自分を振り返る時間が多かったんです。そうすると、おのずと今の若い子たちの心配をしてしまうんです。お散歩している幼稚園児や、登下校中の小学生を見かけると「どんな未来が待っているんだろう」とか「あまり傷付かずに育ってほしいな」と考えてしまって(笑)。私もいろいろあったから。もちろん必要な苦労もありますが、それ以上の困難に遭遇しないでほしい。アントニオにも困難が待ち受けているでしょうけど、“始まりの瞬間”を純粋に受け止めている姿に泣けちゃいました。「いい未来がありますように」と願う気持ちで。
──ほかにも印象的だったシーンはありますか?
(ミラベルの次姉)ルイーサが「『できる』という期待に応えなきゃいけない」と苦悩するところにハッとしました。グループで活動していたときも、メンバーそれぞれが「自分は歌で勝負する」「自分はバラエティでがんばる」とプレッシャーを感じていたかもなって。そういう部分はわかっているつもりでしたが、改めて言われると忘れがちだなと気付きました。この映画では、ミラベルの「自分だけ特別な力がない」という視点があるうえで、ほかの家族の「期待に応えられるか不安」という気持ちも描かれていて。特別な力があるのはいいことばかりじゃないことにも改めて気付かされました。
──ルイーサのように歳上という存在は「見本にならなきゃ」と思ってしまうところがあるかもしれません。鞘師さんも妹さん、弟さんがいらっしゃいますよね?
はい、イサベラと同じく長女です。なので日頃から、妹や弟が困ったときに助けてあげられる存在でいなきゃと思っています。私のほうがしっかりしていると自分で思い込みがちなんですけど、私が「ヤバいヤバい」と追い詰められていると、妹が「大丈夫だよ」と支えてくれるときがあって。お! そういうところもあるんだ!と。“2つ下の妹”ではなく、“個”として接しなくてはと反省しました(笑)。
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ダンサーとしての血が騒いだ