ファウンドフッテージ的なおどろおどろしさ
──1990年代を舞台にした今作は、ビジュアルや画角にもこだわりが詰まっています。音楽や音響もかなり考えて作られているようで、そのあたりの魅力はどう感じましたか?
全編にわたって左右に余白があるような広い撮り方をしていますよね? 主人公の家を映したシーンでは余白が目立って、どこかに何かがいるんじゃないかと観客が自動的に探してしまうような撮り方だと思いました。そこにもやっぱりJホラー的な文脈を感じます。回想シーンは画面の比率が変わってスクエアのようになっていますが、“古いものって怖いよね”というのをちゃんとやっている感じがあって。あの質感や風合いに、ファウンドフッテージ的なおどろおどろしさがありました。それに、怖いとは別のベクトルで、純粋にファッショナブルでかっこいいなと。
バイオリンをめちゃくちゃに弾いたような、クラシカルなホラーで使われる効果音も出てきて、そこも古さの風合いを出すためにあえてやっているのかなと感じました。画面と相まってすごくおしゃれになっていましたし、怖がらせるためというよりも作品のスタイリッシュさのために作られた音のようにも思いましたね。
ストーリーはシンプルなので、プロットの作りそのものでは勝負をしていない気がしました。だけど挑戦的な作り方をしていて、キャラクターもすごく立っている。周辺要素ですごく攻めている作品だなと。話の筋だけ説明してもそこまで魅力が伝わらないかもしれないんですが、予告編の15秒を観てもらえたらめっちゃ観たくなる、そういう映画だと思います。小説でこういうことができるかと言うとできないですし、映画だからこそですよね。
──今作は過去10年における独立系ホラーの全米最高興収を記録しているほどの人気ぶりです。そういった複合的な要素がいろんな層の観客に引っかかったんでしょうね。
すごく現実的な話で言うと、プロモーション施策の成功もあったと思います。観に行くか迷っている時点では、映画の中身は観ていないわけですから、映画館に行く動機はプロモーションによるものが大きくなりますよね。アメリカ版の予告編で、それこそファウンドフッテージ的な通報記録の音声が使われていて、それをきっかけに「これ観たいな」と思ったし同時に「すごくうまいな」とも感じました(笑)。観終わったあとに考えてみても、上手で魅力的なプロモーションだったんだなと。
小説でできること、映画でできること
──先ほど「映画だからできる」というお話もありましたが、背筋さんの小説「近畿地方のある場所について」が2025年に映画として公開されることも決まりました。今のお気持ちや、期待する点も少しお聞きしたいです。
担当していただく白石晃士監督がもともと大好きだったので、お話をいただいて素直にうれしかったです。繰り返しになりますが、小説でしかできないこと、映画でしかできないことがありますから、映画に一番適した形で監督とプロデューサーにお任せしたいです。いいものになるに違いないと確信しています。
──背筋さんの小説を読んでいると、情景描写がとにかく細かいなと感じます。頭の中でビジュアルが浮かんでくるような書き方というか。映画をたくさん観ている影響もあるんでしょうか?
レビューでもそういうふうに書いてくださる方がけっこう多いのですが、本人からするとあんまりわかんないんですよね(笑)。でもすごくありがたいことに、映像関係の方からも映画っぽいねという声をいただくことがたくさんあります。本を読んでいて映画を観ているような感覚って?とも思うのですが(笑)、そう言っていただけるってことはそういうものなんだろうなと。
──もう少しだけ「小説でできること、映画でできること」についてお聞きしたいです。
小説や文芸では、想像の余白を作れることがいいですよね。お化けが出てきたにしてもその容貌を細かくは書かないでおくと、想像上でより怖くなる。イメージを固定化させないことで無限の怖さが表現できるわけです。映像の場合はイメージが固定化されてしまいますが、万人に同じものが見せられるというのが強み。例えば「呪怨」の伽椰子や「リング」の貞子は、映像だからこそホラーアイコンとしての怖さが生まれた部分があると思います。それに映像では、動きで怖さを見せられますよね。貞子がテレビから出て来るところを表現しようとしても、文章の場合はうまく書かないとだいぶギャグっぽくなってしまう(笑)。百聞は一見に如かず、というか百読は一見に如かずでしょうか。そういったところで、やはり「ロングレッグス」には映像でしかできない強みがありましたし、効果音や変わった画角など映画だからこそやりたいことがいっぱい詰まっているように思えました。
プロフィール
背筋(セスジ)
2023年に小説投稿サイト・カクヨムで発表したホラー「近畿地方のある場所について」が大きな反響を呼び、同年KADOKAWAで書籍化。2024年には単著「穢れた聖地巡礼について」「口に関するアンケート」を発表したほか、作品集「慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー」「だから捨ててと言ったのに」にも参加している。小説をもとにした映画「近畿地方のある場所について」が2025年に公開される。