髙橋ツトムが語る「孤狼の血」|「仁義なき戦い」の熱量がここにある──リングに上がった男たちの潔い生き方

母親が住んでいた呉の屋敷に銃弾の跡が

「孤狼の血」より。左から江口洋介演じる一ノ瀬、役所広司演じる大上、松坂桃李演じる日岡。

──一番強烈だったシーンはありますか?

ライターが出てくるのは「県警対組織暴力」へのオマージュだよね。あと江口洋介さんと役所さんが、山の上の路上に車を停めて話してるシーンのロングショットがすごくよかった。

──呉の街が一望できる、映画の世界を印象付けた重要なカットですね。「仁義なき戦い」は呉を舞台にしながら京都で撮影しましたが、本作が呉でオールロケを敢行できたのは、今の時代と東映の力があったからこそなのかなと。

全然関係ない話だけどさ、俺の母親が子供の頃に呉に住んでて、大変だったって言ってたよ。壁に銃弾の跡があったって(あっさりと)。

──ええ!

髙橋ツトム

ははは! うちが狙われていたとかいう話ではまったくなくて、そういう時代だったんですよ。母ちゃんが住んでたのはいわゆるお屋敷だよ。それなのに銃弾の跡がある(笑)。そういえばこの前、実録ヤクザ映画の裏側を取材した本を読んだんだけどさ。松方弘樹さんが表紙の、「北陸代理戦争」の話で……。

──「映画の奈落 北陸代理戦争事件」ですかね。主人公のモデルとなった組長が「北陸代理戦争」公開後、劇中で襲撃事件が起きる喫茶店のモデルとなった店で射殺された「三国事件」について書かれていました。

それだ! 当時はもう、めちゃくちゃだよ。誰かの実録映画を撮ると、別方面から「お前この野郎、じゃあこっちも取り上げろ」と言われて、そっちも取り上げて……ってもう倍々ゲームみたいになっていく(笑)。脅されるから悪く書けないし、広島や神戸を経て北陸に行ったら、本当に死人が出ちゃうんだよね。

リングに上がったやつらは悩まない

「残響」より、主人公の智。

──この映画も「仁義なき戦い」のような実録ヤクザ映画も、ある意味人を殺すことに躊躇がないじゃないですか。「残響」の主人公も最初こそ葛藤しますが、2度目以降は殺人を犯すことへのためらいがなくなりますよね。ご自身の作品において、殺害シーンやキャラクターの殺し方にこだわりはありますか?

“どんな人間がそれをしでかすか”っていう説得力を生むために、殺し方というよりはそのときの感情をしっかり見せることですね。シーンとしてはスパーンと殺しちゃうほうが好きなんだけど、その手前でキャラクターの感情ができあがっていれば、スパーンといけちゃう。逆にキャラクターがウジウジしているんだったら、そこがドラマになってくる。

──キャラクターの行為と感情の整合性が大事だと。

そう。この「孤狼の血」の世界では、わりとみんな悩まないんですよ。それは、もう彼らがリングに上がっちゃっているわけだから。レスラーに例えるなら、体を鍛えるとか、練習するとか、そういう部分がもう済んでいる。「お前ちょっと懲役行ってこい」「一発殺してこい」って言われたら、「俺も極道じゃけえ」の一言で納得しちゃうんから早いんだよね。

「孤狼の血」より、音尾琢真演じる吉田。

──なるほど。「残響」で言うと、主人公の智は老人を殺すことによってリングに上がった。だからそれ以降はためらいなく人を殺せるようになったんですね。

俺の作品の中でもよく使う言葉なんだけど、“一線を越える”ってこと。こればかりは想像するほかないけど、もし現代で人を殺したら、すべてが変わっちゃうんだろうなと思うから。

新作マンガは、俺のギター愛あふれる話

──ありがとうございます。せっかくなので最後に、ビッグコミック創刊50周年記念企画としての掲載が発表されている、読み切りの新作についてお話をうかがってもいいですか?

髙橋ツトム

いいですよ。まあ簡単に言うと、ギターと人の話です。ギターってもとは木だから、職人や持っていた人の思いが宿るじゃない。エレキギターは今の形になって5、60年だけど、今俺が書いているのは70年くらい前の話。今あるエレキギターが発明される前に、ラップスティールギターっていうのがあって。俺はロックが好きなんだけど、それはロックが生まれる前にエレキ化したギターなんだよ。そのギターで何してたかっていうと、ハワイアンを弾いてた。戦前、地球上でハワイアンブームが起こって。

──知りませんでした!

ですよね。エレキって何かって言うと、マイクを付けて、より多くの人に聴かせるためのものなの。例えばここで俺が歌を歌ったとして、地声だと1000人には届かないからマイクを使うわけ。ギターも同じ論理で、アコースティックギターじゃ大勢に音が届かないから、マイクを付けて増幅させようとしてエレキギターができた。でもロックンロールもロカビリーもない頃に、なぜそんなに大勢の人に聴かせる必要があったのかな?と疑問に思って調べたら……ハワイアンって当時は世間的にも流行りの音楽だったんだよ。

編集担当 都会の素敵な大学生が、銀座の教室でハワイアンギターを習うような時代だったそうです。

本当にそう! ハワイの日系人が日本にも運んできたんだろうね。そうしたら俺、愛おしくなってきちゃって。タイムマシンがあったら、そのときの機材で1回ラップスティールギターを弾いてみたいんだよ。今もヴィンテージギターは残ってるけど、まず弦の精度やシールド、コンセントの電圧が違うから、音も全然変わってしまうんだよね。当時のパーツの金属の含有量って、今で考えると不良品レベルだから……(このあと、真空管やはんだごてに対する熱い思いを語ってもらったものの、文字数の関係で割愛)。面白いですよ、ギターの世界は。

──奥が深いですね……。

バカだよねホント(笑)。でも、そんな俺のギター愛あふれる話になっていると思う。もう30年くらいマンガ描いてるけど、ギターの話は1回も描いたことないから、そろそろやろうかなと思って。一番好きなものをぶつけて行こうと思ってます。

髙橋ツトム
「孤狼の血」
2018年5月12日(土)全国公開
「孤狼の血」
ストーリー

昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島・呉原。いまだに暴力団組織が割拠する同市では、広島の巨大組織・五十子会系の加古村組と、地場の暴力団・尾谷組の抗争の火種がくすぶっていた。そんな中、加古村組関連企業の金融会社社員が失踪し、それを殺人事件と見た呉原東署のマル暴ベテラン刑事・大上と、新人の日岡が事件解決に挑む。しかし警察組織の目論見や、大上に向けられた黒い疑惑、暴力団それぞれの欲望が絡み、血で血を洗う報復合戦が起ころうとしていた……。

スタッフ / キャスト
  • 監督:白石和彌
  • 原作:柚月裕子「孤狼の血」(角川文庫刊)
  • 脚本:池上純哉
  • 音楽:安川午朗
  • 出演:役所広司、松坂桃李、真木よう子 / 中村獅童、竹野内豊 / ピエール瀧、石橋蓮司・江口洋介

※R15+指定作品

髙橋ツトム(タカハシツトム)
1989年、モーニングに読み切り「地雷震」が掲載されデビュー。1992年より月刊アフタヌーンにて同作の連載を開始。殺人課の刑事を主人公に据え、犯罪者の心理を巧みに描写するハードボイルドな作風で好評を博した。2001年より週刊ヤングジャンプにて連載を始めた「スカイハイ」はテレビドラマ、実写映画化されるヒットを記録。ほか代表作に「鉄腕ガール」「SIDOOH―士道―」「残響」など。現在は月刊アフタヌーンにて「BLACK-BOX」を、ヤングマガジンにて「NeuN〈ノイン〉」を連載しているほか、ビッグコミックの創刊50周年記念企画として2018年6月25日発売のビッグコミック13号に同誌への読み切り掲載が告知されている。
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