映画ナタリー Power Push - 「傷物語〈III冷血篇〉」神谷浩史インタビュー
声優としての目標と西尾維新という才能
特異な文章表現で文学界に衝撃を与え、〈物語〉シリーズ、「掟上今日子の備忘録」「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」などさまざまな作品が映像化されている小説家・西尾維新。auのスマートフォンやパソコンで利用できる電子書籍サービス・ブックパスでは現在、西尾維新作品の読み放題キャンペーンを実施中(2017年2月17日まで)だ。
映画ナタリーではキャンペーンを記念し、2009年に放送されたテレビアニメ「化物語」から〈物語〉シリーズを原作にしたアニメシリーズで主人公・阿良々木暦を演じてきた神谷浩史にインタビューを実施。現在全国公開中の「傷物語〈III冷血篇〉」への思いを起点に、暦や〈物語〉シリーズとの向き合い方、そして西尾維新について語ってもらった。
取材・文 / 伊東弘剛
目標の1つを失い複雑な気持ち
──「傷物語」3部作すべてが公開された現在の心境を教えていただけますか。
「化物語」から派生したシリーズ作品に出演していくうえで、「傷物語」を完成させることは声優としての目標の1つになっていました。公開にたどり着いてホッとしているし、やっとみんなに完成品を届けられたという喜びもある反面、目標の1つを失い複雑な気持ちです。
──ある種の喪失感がある?
そうですね。作品に優劣を付けるようなことはしませんし、1つひとつ全力で臨ませていただきます。でも基本的に収録日や放送日、公開日などが決まっていて、瞬間的なものでもあるんです。ただ「傷物語」に関しては、本来の公開予定年である2012年から数えても4年間もあって、その間いつ収録があっても声優として機能できるようにしておかなくてはいけないという思いがありました。のんべんだらりと危機感なく生活……することもありますけど(笑)、急に声が出なくなることもあるし、もしかしたら声優を続けられなくなる出来事があるかもしれない。だから常に危機感を持って「傷物語」の完成まではがんばっていこうとずっと思っていました。
──最終章にあたる「傷物語〈III冷血篇〉」の見どころは?
(阿良々木)暦とキスショット(・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)の吸血鬼同士によるバトルシーンです。アニメーションの基本である絵が動くということの魅力がふんだんに盛り込まれています。飛んだ首がありとあらゆる場所に落ちているなどショッキングなカットがあるだけでなく、2人の猛烈なるすれ違いが描かれています。暦は彼女に対する怒りという非常に楽なところで戦っているのに対して、キスショットは複雑な思いを抱えて戦っている。そのすれ違いというものも含めてあの戦いのシーンは見どころですね。
──羽川(翼)との体育倉庫でのシーンは、ほかの場面とあまりにトーンが違い、どう観ていいのかわからなかったんですが……(笑)。
羽川翼という人物が暦の背中を押すために、覚悟を持ってやって来てくれたのに、暦は彼女の好意というものに気付けず、変な“やる気スイッチ”が入ってしまうという。観客の皆さんは、どういうふうにこのシーンを受け止めるんだろうと思って、劇場でちょっとキョロキョロしちゃいました(笑)。
──神谷さんもどんな反応が起こるのかわからなかったと。
西尾維新先生に、原作でなんであのシーンを入れたのかを聞いたら「ずっと緊張感のあるシーンが続いているので、読んでいて疲れるだろうから、ある意味あそこはサービスみたいなものです」とおっしゃっていたんですけど……本当はどうなんでしょうね? 尾石(達也)監督もあそこのシーンをどうするかいろいろ考えたと思うんです。カットすることもできたでしょうし。でもあえてカットしないで入れるにあたって、暦のある部分を変えてテレビシリーズと同じにしようということになって、あそこだけは別人として受け取ってもらっても大丈夫ですという形になっているんです。
自分の想像を軽く飛び越えて来てくれる共演者の方々
──「傷物語〈III冷血篇〉」のアフレコで特に力が入ったシーンはありますか。
継続してきたものなので、今回改めてということはなかったですね。「傷物語〈I鉄血篇〉」のとき、作品のムードはつかめたし、そこで声をどう組み立てるべきか考えもまとめられた。だから新しく何かを持ってくるよりも、今まで培ってきたものを持っていくことが大切だと思いました。特に阿良々木暦という役は僕にとって任せてもらった時間が一番長いキャラクターで、培ってきたものも多い。その中で最後だから特別な何かみたいなものはなかったです。
──テレビシリーズとの違いはありましたか?
劇場版はモノローグなどを極力排除した形で成立していて、なおかつテレビシリーズよりも絵の芝居がキャラクターの感情をフォローしている。そんな中で、原作に書かれているニュアンスを表現したほうがいいと考えていました。原作をしっかりチェックし、知的武装というかストックを持っていくことで表現する音の選択肢を広げ、最善のものをチョイスしていくことを意識しました。
──アフレコはほかのキャストの方々と一緒に行ったんですか?
シリーズを通して掛け合いで収録していくことにこだわっていただいているんです。なので今回もそうしていただけました。隣に相手役の人がいて、自分の想像以上のものを投げてくれると、それを返さなきゃという意志が働くので自分が持っている以上の何かが出て来るんです。
──初日舞台挨拶で共演者の坂本真綾さん、堀江由衣さん、櫻井孝宏さんの演技を絶賛されていましたね(参照:「傷物語」神谷浩史、アフレコ振り返り「肺が破れてもいいと思った」)。
1人で収録するときは相手の方を想像するんですが、やっぱり自分の想像は超えてこない。本作で共演した皆さんは、それを軽く飛び越えて来てくれるんです。
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- 「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」
- 「化物語(上)」
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ストーリー
“怪異の王”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けたことにより自身も吸血鬼となってしまった高校生・阿良々木暦。3人の吸血鬼ハンターとの戦いに勝利し、キスショットの四肢を取り戻した暦は、吸血鬼の恐るべき本質を知る。人間に戻るためキスショットを完全復活させた自分の行為を悔やむ暦の前に同級生の羽川翼が現れ……。
スタッフ
原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫、守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前暁
アニメーション制作:シャフト
キャスト
阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
神谷浩史(カミヤヒロシ)
1月28日、千葉県生まれ。声優、ナレーター、アーティストとして幅広く活躍。「ハチミツとクローバー」「機動戦士ガンダム00」「さよなら絶望先生」「夏目友人帳」などでメインキャラクターを演じる。2010年には、「化物語」の阿良々木暦役で第9回東京アニメアワード個人賞・声優賞を受賞。その後も「黒子のバスケ」「進撃の巨人」「おそ松さん」などの話題作に出演する。公開待機作に「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」「夜は短し歩けよ乙女」などがあり、2月12日放送開始の特撮ドラマ「宇宙戦隊キュウレンジャー」で声優を務める。