綾野剛が主演し、齋藤潤が共演する映画「カラオケ行こ!」が1月12日に全国で公開される。和山やまの同名マンガを、監督・山下敦弘、脚本・野木亜紀子で実写化した本作。変声期に悩む中学3年生の合唱部部長・岡聡実と、ある理由から聡実に歌のレッスンを頼むヤクザ・成田狂児の関係が徐々に変化していくさまが描かれる。
ナタリーではコミック、映画のジャンルを横断して「カラオケ行こ!」を特集。映画ナタリーには狂児役の綾野、聡実役の齋藤が登場し、2人の間に生まれた特別な思いや、映画の鍵となるX JAPANの楽曲「紅」に向き合った日々を語った。なおコミックナタリーではコラムニストであるブルボン小林のレビューと、マンガ好き芸人のパンサー・菅良太郎、ジャングルポケット・太田博久によるコメントが掲載中だ。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 清水純一
映画「カラオケ行こ!」予告編公開中
潤くんはあらゆることから目を背けない役者(綾野)、剛さんは進むべき道を照らしてくれる光(齋藤)
──和山やま先生の作品は独特の間が大きな魅力だと思いますが、それゆえ映像化が難しそうな印象もあります。綾野剛さんは和山先生の作品のファンであることを以前から公言されていましたが、出演するにあたり、ファンとしてこだわった部分はありますか?
綾野剛 原作に対する敬意を抱き、丁寧に映画にする、ということに尽きます。和山先生は、山下(敦弘)監督と野木(亜紀子)さんに作品を預けてくださいました。そうして託された方々が生み出したもの、野木さんの脚本や監督の演出、そして各部署による総合芸術の上に、僕ら俳優がどう存在するか。とにかくそこを大切にしています。
──原作のムードをしっかりとまといつつ、それぞれの登場人物のエピソードが掘り下げられているなど、映像作品として見応えのある形に昇華されていて、とても楽しませていただきました。お二人とも山下組への参加はこれが初めてでしょうか?
齋藤潤 はい、僕は初めてです。
綾野 (山田)孝之の「東京都北区赤羽」(モキュメンタリードラマ)でご一緒したことはありますが、映画は今回が初めてです。
──現場の雰囲気はいかがでしたか?
齋藤 撮影はちょうど1年前だったんですが、僕はまだ芝居経験が少ない中での参加だったんです。でも剛さんや監督、そしてスタッフの皆さん、キャストの皆さんがお芝居をしやすい環境や空気を作ってくださって。僕が返しやすいところからお芝居を始めてくださったり。そのおかげで僕も集中して、全力で挑めたように思います。
──劇中では狂児が「かわいいなあ」と聡実の頭をなでるシーンがあるなど、狂児は聡実を歌の先生としながらも、とても愛おしそうに見守っていますよね。そんな2人の距離感は綾野さんと齋藤さんの関係性に通ずる部分もあったのかな、と想像していました。共演して、綾野さんは齋藤さんのことをどのような俳優だと感じましたか?
綾野 あらゆることから目を背けない役者です。聡実くんは狂児という存在から目を背けなかったですし、どちらかというと狂児が聡実くんに生かされている。失った青春を聡実くんから託してもらっていたような感覚がありました。聡実くんの成長物語を、狂児も大切に育んでいた。そして僕と潤くんの間にも、同じことが起こっていました。この作品で聡実という本質的な主役として立つ勇気は、相当なものだと思います。マンガ原作というところも含めて。
──原作ファンの方からの目も向けられますしね。
綾野 不安になったり、打ちのめされたり、時に光が見えたと思ったらそれがふっと消えたり、そんな連続だったと思います。でも彼は一度も目を背けることなく、今日この場に立っている。僕はその姿をしっかりと見てきましたし、現場のスタッフもみんなが彼のそういう姿勢を見てきて、他人事ではなく自分事として、齋藤潤と岡聡実という2人の魅力をたくさんの人に知ってもらいたいという想いが生まれました。本作は、そういう全員の想いが集結した作品になっています。そんな作品にはなかなか今後出会えることはないと思いますし、そこに向き合い続けた役者・齋藤潤へ、僕は大きな敬意を持っています。
齋藤 (恐縮したように小声で)ありがとうございます……。
──齋藤さんは、いつの間にか服装をまねしてしまうほど、綾野さんに憧れ続けていたそうですが、今回共演して、綾野さんから一番学んだことはなんでしょうか。
齋藤 学ばせていただいたという言葉には収まらないくらい、毎日一緒に過ごす時間が僕にとっては財産というか、一番大切な時間でした。僕がくじけそうなときも逃げずにがんばれたのは、間違いなく剛さんのおかげで。いつも困っているときに僕の進むべき道を照らしてくれる……僕の歳でこんなことを言うのは恐縮なんですが、でもそれくらい、光のような存在でした。ご一緒させていただいたことに一生感謝していきたいですし、また一緒にお芝居をできる日を夢見て、日々努めていきたいなと思っています。
トータルで100紅くらい歌った気がします(綾野)
──タイトルの通り、本作ではなんといってもカラオケで歌うシーンが大きな見どころです。狂児は聡実に「終始裏声が気持ち悪い」と言われてしまう歌唱力の持ち主ですが、綾野さんはバンド活動の経験もお持ちですし、本来は歌がお上手ですよね。クセの強い歌唱をするのは苦労されたのでは?
綾野 作品が動き出した頃に、監督や野木さん、音楽プロデューサーの北原(京子)さんと「試しに歌ってみよう」とカラオケルームに行きました。そこでいろいろ歌って、どんなパターンがあり得るのかを研究して。監督とは「狂児による(X JAPANの)『紅』は偏った愛。いわば叫び。でも裏声」という話をしました。
──劇中では何度も「紅」を歌っていましたが、ちなみに合計で何回“紅”したんでしょうか。
綾野 基本的に本番はワンテイクでしたが、練習やリハーサル、アフレコも入れたら、トータルで100紅くらいだった気がします。監督からは最初から「裏声でフルコーラス歌いましょう」と言われていましたので、全編裏声で歌っています。狂児は圧倒的な愛、情念だけを持って「紅」に向き合っていて、「紅」が人生のかけがえのない存在となっている。彼にとっては、目に見えるものすべてが紅なんです。赤信号も赤ではなく、紅信号。ふざけているように思われるかもしれませんが、彼はまったくふざけていません。聡実くんから伝授された方法をもとに、姿勢を正し、目を見開いて笑顔で、手を動かさないようにと、全部真剣に臨んで歌っています。歌うときは必ず礼節として、ジャケットを羽織っていますしね。
──毎回狂児の歌唱には魂がこもっていると感じていましたが、そういう思いで演じられていたんですね。ヤクザが集まるカラオケも、クスッとしてしまう場面もありつつ、ヤクザたちの真剣さがよく伝わってきました。
齋藤 皆さんとは現場で初めて顔を合わせたんですが、すでにメイクをして衣装も着ている状態だったので、正直「本当にヤクザだ……」と、第一印象は怖かったです(笑)。最初はびくびくしてしまっていたのですが、皆さんカメラが回っていないときはとても優しく接してくれて、冗談を言って笑わせてくれたり。空気を和ませてくださいました。
綾野 あのシーンの撮影中に、和山先生が現場を見学しに来てくださいました。そのときは和山先生の存在が現場のスイッチをさらに押してくださり、いいムードで撮影ができて。ヤクザチームの歌をとてもにこやかな表情で聴いてくださっていて、安心しました。
音程どうこうではなく、思いをぶつけようと無我夢中に歌いました(齋藤)
──聡実が歌う「紅」も、とてもエモーショナルで感動的でした。ちなみに齋藤さんは計何“紅”しましたか?
齋藤 僕は10紅くらい……? 段取りやテストも含め、それくらい歌いました。
綾野 一発撮りでやりきっているように見えるくらい、全部がつながっているようでした。本当に、素晴らしかったです。
齋藤 ありがとうございます……!
──齋藤さんは撮影当時、聡実と同じくちょうど変声期だったんですよね。
齋藤 そうなんです。なので、よりリアルな聡実が映画の中にいると思いますね。僕は歌うことはすごく好きなんですが、特にうまいというわけではなくて。でも合唱部部長という役柄だったので、事前にボイトレを受けたりして練習しました。僕も監督から「『紅』は歌うんじゃない、叫びだよ」と教えていただいたので、撮影のときは音程どうこうではなく、ただただ思いをぶつけようと、無我夢中に歌いました。
──ありがとうございます。では最後に、映画を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
綾野 たおやかな、とても温かい青春映画が生まれました。ぜひ岡聡実と齋藤潤の成長を、この作品を通して見ていただけたら幸いです。きっと胸に響く作品になっていると思います。
齋藤 完成した映画を観て、引き込まれるような、ただただ楽しめる作品になっていると感じました。この青春の空気を、映画館でぜひ味わっていただきたいです。
プロフィール
綾野剛(アヤノゴウ)
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビューし、ドラマ「空飛ぶ広報室」「最高の離婚」などの演技で第22回橋田賞新人賞、映画「横道世之介」「夏の終り」で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。そのほか第88回キネマ旬報ベスト・テンの主演男優賞、第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第41回報知映画賞助演男優賞などに輝いている。近年の作品に映画「ヤクザと家族 The Family」「ホムンクルス」「最後まで行く」「花腐し」、ドラマ「MIU404」「恋はDeepに」「アバランチ」「オールドルーキー」「幽☆遊☆白書」などがある。
綾野剛 Go Ayano (@go_ayano_official) | Instagram
ヘアメイク / 石邑麻由
スタイリング / 三田真一(Kiki inc.)
齋藤潤(サイトウジュン)
2007年6月11日生まれ、神奈川県出身。2019年にデビューして以降、ドラマ「トリリオンゲーム」「生理のおじさんとその娘」「猫カレ -少年を飼う-」や映画「正欲」などに出演している。映画「瞼の転校生」が埼玉・MOVIX川口で2月23日に先行公開されたのち、3月2日より東京・ユーロスペースほか全国で順次上映。
齋藤潤 (@junsaito_14) | Instagram
ヘアメイク / JANET(KIND)
スタイリング / 岩田友裕