「劇場版アイドリッシュセブン」錦織博×山本健介インタビュー | アイドルたちが目の前に!迫力満点の劇場ライブを両監督が語る

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」が、一部セットリストの異なる<DAY 1><DAY 2>の2バージョンにて全国の劇場で“開催”されている。メディアミックスプロジェクト「アイドリッシュセブン」初の劇場ライブである本作。6月24日からはDolby Cinema、4DX、MX4Dでも展開され、さらなる旋風を巻き起こす。

音楽ナタリー、コミックナタリーで連載してきた本特集の最終回を飾るのは、ダブル監督を務めた錦織博・山本健介のインタビュー。「アイドリッシュセブン」への愛とリアリティを貫き通した制作過程を振り返る。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 清水純一

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」“開催中”PV

ダブル監督体制のよさ(山本)

──1つの作品に監督が2人いるという体制はなかなか珍しいと思うんですが、どういう経緯で決まったんですか?

錦織博 プロデューサーの中で「監督は2人必要だろう」という判断があって声が掛かったんだと思うんですけど、実際のところ、どういう意図があったのかはちゃんと聞いていなかったんです。

山本健介 そうですね(笑)。自分は以前にIDOLiSH7の「Mr.AFFECTiON」という楽曲でミュージックビデオの監督をさせていただいて、その作業がほぼ終わった頃に劇場ライブの話を聞いたんです。まず錦織さんのほうにお話が行きまして。そのあとに「ダブル監督で」ということで合流しました。

左から錦織博、山本健介。

左から錦織博、山本健介。

──役割分担としては、どういう内訳になっているんでしょうか。

錦織 自分としては、あまりその区分けもなくて。特に制作の初期、具体的なカット制作に入る前の準備段階では「どういうライブを作ろうか」という話し合いをずっと続けていたので、職分的な区分けができてくるのはけっこうあとになってからなんです。

山本 序盤はそういう感じでしたね。とは言え比重の違いはありまして。例えば演出面に関わる部分はやはり経験豊富な錦織さんに先頭に立ってもらって自分はサポートに回り、画作りの部分では現場に近いところで自分が動かなきゃな、という感じではありましたけど、そこに何か明確なラインが引かれていたわけではないです。

錦織 そこは意識的に「決めないでやったほうがいいんじゃないか」と思って始めた部分でもあります。自分がこれまで普通のアニメーションを長くやってきたのに対して、山本さんはどちらかというとVFXなど技術面のプロフェッショナルということで、引っ掛かるポイントというのはおのずとすみ分けられてきましたね。

山本 そこがダブル監督体制のよさでもありましたね。1人が引っ掛からないことであっても、もう1人はそこにすごいこだわりがあったりするという。

錦織 周りから見ると「これはどうするの? どっちが見るの?」と戸惑った部分ももしかしたらあったかもしれないですけど、気付いたことはどっちがやってもいいんだと。それが今回の作品でやりたかったことで。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、IDOLiSH7の七瀬陸。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、IDOLiSH7の七瀬陸。

──例えば、1つの事象に対してお二人が正反対の意見を言ってぶつかるケースなどはなかったんですか?

山本 ありましたね(笑)。

錦織 もちろんそれは(笑)。

山本 いろんなところでありましたけど、「アイドリッシュセブン」のコンテンツとしての前後関係なども考慮しつつ、「その意見が本当に作品にとって有効であるか」を基準に話し合いながら決めていきました。

錦織 制作の中盤以降に具体的なカット制作が始まってからは……普通、複数監督でやるときはパートごとに責任者を決める場合が多いんですけど、今作はそういう形にせず、全部のカットをダブルチェックするというやり方で進めたんです。

山本 OKのハンコが2つそろわないと先に進まない。

錦織 だからちょっと煩雑にはなるんですけど、こだわってやらせてもらったところでもあります。そこで違う意見が出た場合は、2人ですり合わせつつOKを出していく。

山本 そこでの対立はなかったですよね。上がってきたカットをチェックしてそれぞれリテイクを出すんですけど、「いや、そのリテイクは違う」みたいなことにはならなかった。

錦織 見ているところがちょっと違うので、そこは補完的だったなという印象ですね。

──お二人の得意分野が違うからこそうまく噛み合って、隅々まで目を光らせることができたと。監督2人体制の意義をすごく感じるお話ですね。

錦織 まあ、そこはプロデュース判断の勝利だと思います。

山本 ええ、そうですね。

ライブを一から作るみたいな話(錦織)

──錦織監督は本作について、「アニメを作った感覚がない」とコメントされていましたよね。それはどういうことなんでしょう?

錦織 最初に「どういう作品を作ろうか」と話し始めたときから、「ライブが始まってから終わるまでをちゃんとやろう」ということを決めていたんです。そこがスタートだったので、「じゃあ、それをやるならどういう会場だろう?」と考えたときに、まず16人のアイドルたちが横に並んでいるビジョンが浮かんだんです。そこからアイデアを膨らませていって、「それだとステージサイズはけっこう大きいよね」と寸法を出して、「客席も含めた会場の広さはどのくらいの規模だろう」と会場デザインを組んでいって……。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より。

──まるで建築家のような作業から始まったと。

錦織 さらに「そこに置かれる照明機材は、どういう種類のものがどこにいくつ必要なんだろう?」「演出プランは?」「セットリストは?」「衣装は?」と次々に考えていくわけです。それって、実際のライブを一から作るみたいな話じゃないですか。

──アニメ監督というより、ほとんどライブ制作の仕事ですね。

山本 ですよね(笑)。僕らはライブ運営に関しては素人なので、そこがとにかく大変で。さらに、実際の映像を作っていく段階も通常のアニメ作品とはまったく違っていまして、どちらかというと実写の撮影や編集作業に近かった。……近いというか、ほぼそれでしたね。

──いわゆるバーチャル空間の中に入って撮影を行った、というふうに聞いています。具体的にはどういう撮影方法だったんでしょうか。

錦織 VR上で撮影を行える、カメラをシミュレートしたシステムがありまして。それを僕ら2人が持って、VR空間の中を動き回りながら目の前にいるアイドルたちの動きをひたすら愚直にカメラに収めていく、というやり方ですね。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、IDOLiSH7。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、IDOLiSH7。

──その際にVR空間内で展開される事象に関しては、アイドルたちの動きから舞台装置の転換まで、すべてを先に作り込んであるわけですね? つまり、お二人がカメラを回そうが回すまいがライブ自体は勝手に進行していく状況を想像していますが、合っていますか?

山本 そういうことになります。で、実際の僕らはコントローラーを持って、バーチャルの自分たちを操作している格好ですね。

錦織 動きながら撮っているので、周りから見るとおかしな体勢になっていたりしながら(笑)。だからけっこうフィジカルな作業というか、本当にその場でカメラを回している感覚での撮影だったんです。そういう意味でも、普段の机に向かってやるアニメーション制作の作業とはだいぶ違う感じでしたね。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、TRIGGER。

「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」より、TRIGGER。

──なんというか……デジタルなんだかアナログなんだか(笑)。

山本 いや、本当にそうなんですよ。最新技術の中で、ものすごく泥臭い人力の撮り方をしている。だいぶ疲れました(笑)。

錦織 最初は固定カメラの映像メインで、手持ちで撮るものはサブ的に考えていたんですが、最終的には手持ちのカットの比重がだいぶ多くなりました。というのも、何度も撮っているうちに、特に山本さんの撮影技術がみるみる上がっていって(笑)。

山本 ほとんどゲーマーみたいな感じで、どんどん思い通りに操作できるようになっていってしまって(笑)。通常のライブ撮影と一番違うのは、時間を巻き戻して「さっきの場面をこう撮りたい」といくらでもやり直せるところなんですよ。それに「このアングルで、この人とこの人をこういう配置で画面に収めたい」となってくると、やはり固定カメラでは限界があるんですよね。

──人の意思が介在しているほうが、やはり生き生きとした画になるんですね。

錦織 手持ちの画のほうが「アイドルが目の前にいる」という生々しさをより拾えているように感じました。エモい感じのいい画は、だいたい山本さんが撮影したものです(笑)。

──つまり一般的な絵コンテベースの画作りとはまったく異なる、アドリブ性の強い画作りが行われたと。そもそも、本作に絵コンテは存在するんですか?

山本 最終的なカット割りなどに関しての絵コンテはいっさいありませんでした。絵コンテらしきもので言うなら、ライブそのものの演出に関する……例えば演者の出ハケであったり、舞台装置の切り替えであったりの段取りを記したものを錦織さんが用意していたので、それがある種の絵コンテっぽいものではありましたけど。

錦織 進行表みたいな感じですね。それを映像に収めるにあたっては、絵コンテ的に画面レイアウトや絵面をあらかじめ決め込んでおくということは一切やっていないです。