現実的にできる演出を考えた(山本)
──進行表作りについてのお話もぜひ聞かせてください。セットリストや舞台演出はどのように詰めていったんでしょうか。
錦織 まずはライブ全体の世界観について、自分のほうから「森羅万象」という大きなテーマを出させてもらいました。そこから「それにふさわしいセットリストはどういうものか」「これまで7年間『アイドリッシュセブン』を観てきてくださっている方々がどんな曲を聴きたいのか」というのを、音楽チームの方々とひざを突き合わせて練っていった感じです。
山本 新曲については、楽曲制作に関しても意見を言わせていただく機会をもらえたので、すごく新鮮でした。普段は、音楽に関してはできあがったものをいただく形がほとんどなので。
錦織 「どういう歌詞がいいですか?」とかも聞いてもらえまして。おっかなびっくりではあったけど(笑)、新鮮な気持ちで臨めました。
──個人的には舞台装置の表現がめちゃくちゃ面白いなと思ったんですけど、あそこにも相当なこだわりが詰まっていますよね。
錦織 今回、特に意識したのが「1つのライブ空間の中で、きちんと連続的にステージが存在し続ける」ということで。例えば「スクリーンがどういう形で現れるのか」とか「そのときメンバーはどこから登場するのか」とか、そこにちゃんと連続性を持たせようと。そのへんは山本さん含めみんなで「これはできる」「これはできない」と侃々諤々やりながら流れを作っていきました。
山本 現実的にできることだけに絞って考えました。例えば、階段の上にセットがあるんですけど、そのセットが次の曲でいきなり丸ごと入れ替わっていたりはしません。必ず一度閉じて、セットチェンジに必要なだけの時間を設けてからセットを変えるようにしています。
錦織 その間、客席からは見えないけど現場スタッフががんばってセットを入れ替えているんです。おそらく(笑)。
──そのこだわりは観ていても強く感じました。舞台上に存在するすべてのオブジェクトが物理的に矛盾しないよう、細心の注意を払っているんだろうなと。
錦織 そういうふうに縛った分、変化を付けるのが大変だったという側面もあるんですけどね。でも最終的にできあがった映像をチェックしたとき、そこに最後までこだわって本当によかったと思いました。これをやるかやらないかで、説得力がまるで違ったんじゃないかな。
山本 そうですね。あのアイドルたちを「本当にいるんだ」と思えることが重要なコンセプトになっているコンテンツですので、そのリアリティを崩す要因になり得るものは極力排除する方向ですべてを考えています。
錦織 あとはですね……客席で観ているお客さんの表現にもけっこうこだわっていて。
──確かに! そこにもかなり驚かされました。
錦織 プライオリティとしては「アイドルをちゃんと魅せる」ことが最優先だから、観客の姿を描くにしても、普通に考えたらもうちょっと記号的にしたりするところなんですけど。今回は“存在感のあるお客さん”というものを表現したかったので、スタッフに無理を言ってやってもらいました。
──観客1人ひとりが違う動きをしていますもんね。あれはかなり衝撃でした。
山本 確かに、だいぶ常軌を逸したやり方ではあると思いますね(笑)。
錦織 最終的には花道に出てくるアイドルにちゃんと目線を送ったり、手を振ったら振り返してくれたりといったところまで表現できたので、現場には本当に感謝しかないです。ある意味、見どころの1つになっているんじゃないかな(笑)。
観てもらうことで初めてライブは始まる(錦織)
──見どころの話で言うと、やはり16人で歌う新曲「Pieces of The World」が最大の見せ場になりますよね。
錦織 そうですね。最初にお話しした通り、16人が横に並んでいるビジョンが浮かんだところから始まっている企画なので、ここのステージングがライブ全体の核になるだろうと当初から思っていました。しかも、無謀にも「ただ横並びで歌うだけじゃなく、フォーメーションを変えながら前後左右に入り乱れてパフォーマンスするステージにしたいな」と思いまして。いやもう、16人がステージ上を縦横無尽に動き回る表現というのはですね、作業量的にはもう……(一瞬言葉に詰まる)。
山本 笑っちゃうレベル(笑)。
錦織 もう、筆舌に尽くしがたいほど大変で。最後の最後まで「これ、完成するのか?」みたいな(笑)。ただ16人を画面上に並べるだけでも大変なのに、それぞれが別個に動きますし、しかも表情の変化も細かく作り込んでいますから。そうした尋常ならざる苦労の末、クライマックスにふさわしいシーンを作り上げることができたと思います。一番観てほしい部分ですね。
山本 このシーンにすべてが集約されていると思います。1カット目が上がってきた段階で僕は「これは本当にすごいものになる!」と思いました(笑)。
──楽曲とも相まって、見事にこの「BEYOND THE PERiOD」を象徴するシーンになっているなと感じました。
山本 曲、すごくいいです。
一同 (笑)
山本 本当にすごくいい曲で……。
錦織 「スケールの大きさを表現したい」というこちらの要望をもとに作っていただいた曲なので、自分たちとしてもすごく思い入れがありますし、「この曲に負けないような画を作らねば」という気持ちは完成までずっとありました。ステージ美術についてもかなりの無茶ぶりを叶えてくれましたし、すべてにおいてすごく満足していますね。
──それ以外にも、細かいことでもいいので特に注目してほしいこだわりポイントがありましたらぜひ教えてください。
山本 せっかく映画ナタリーさんなので、映画的なお話をしますと……今回はシネスコサイズでの撮影ということもあるので、「アナモルフィックレンズ(編集部注:映画用フォーマットのワイド画面を撮影するためのレンズ)で撮影しました」という体でいろいろ処理を入れてもらっているんです。独特のボケ味だったり、特徴的なブルーストリーク(編集部注:ライン状のフレアを発生させる光の演出効果)だったりが表現されているので、そこもぜひ観てもらいたいです。これもまた本作におけるリアリティの一翼を担っていると思うんですよね。
錦織 そういった部分も含めて、「これをやりたい」と言ったものを全部やりきれた感触はあります。本当にスタッフの尽力のおかげですし、熱意に満ちたこの作品の現場だからこそ実現したことかなと。これだけいろいろ要望したらプランの大半はあきらめることになるのが普通ですから、最後まで粘ってくれたスタッフには本当に感謝しています。
──総括すると、相当な自信作と思っていいわけですよね。
錦織 もちろんそうなんですが……正直、もうわからなくなっているんですよね(笑)。
山本 はははは!(笑)
錦織 映像は完成したけど、「俺、いい作品作ったぜ! 観てくれ!」っていう感じでは全然なくて。通しリハ(初号試写)を観たときも、本当にリハーサルの感覚で「本番はどうなるんだろう?」とドキドキした気持ちでいるのが、自分でもちょっと面白いというか。
──まだ終わっていない、むしろ始まっていない感覚なんですね。
山本 結局この作品は、映画館に観に来てくださる方々がいないと完成しないのかな、と思いますね。
錦織 皆さんに観てもらうことで、初めてこのライブは始まるんです。そういう感覚が本当に強いんですよ。これは実際に観てもらわないと伝わりづらい話かもしれないけど、「映画館でライブを観る」というと、いわゆるライブビューイングやフィルムコンサート的なものを想像しますよね。でも、そのどちらとも違う体験ができるものにしたくて作ってきたところがあるんです。皆さんにどう受け取ってもらえているのかは不安でもあり、楽しみでもあります。
山本 「アイドリッシュセブン」を知っている人でも、体験したことのないものが観られるし、これまで「アイドリッシュセブン」を知らなかった方々にも「すごいものを観た!」と広がっていく可能性は十分あるように思います。
錦織 「劇場ライブ」という名称が示しているように、これが「アイドリッシュセブン」にとって新たな潮流を生むきっかけになったらいいなと思っています。