「法廷遊戯」原作者・五十嵐律人とQuizKnock・河村拓哉が対談、「永瀬廉の変貌」「杉咲花の爆発力」「北村匠海の天才性」原作を知り尽くす2人に響いた映画の魅力 (2/2)

万引きが成立するのはどの時点?河村拓哉が法律クイズに挑戦

ミステリーを生み出す五十嵐と、プランナーやプレイヤーとしてクイズに携わる河村。どちらも謎解きではあるミステリーとクイズの間には、どんな相違と相似があるのか。そのあたりを話してもらいながら、それぞれお互いに対してクイズを出題してもらうと、なんとも2人らしい問題が! 果たして、正解にはたどり着けたのか!?


五十嵐 いいクイズがあります(笑)。この前、高校生の前で話す機会があって、そのときにも出したんですが、みんな間違えていたんですよ。ちょっと長いんですが、聞いてくださいね。

高校の部活帰りにおなかを空かせた高校生が、コンビニに寄っておにぎりを買おうとしました。おにぎりを手に取ったときにカバンを見たら、財布を忘れたことに気付きました。でもどうにもおなかが空いていたので、お金を払わずにこのおにぎりを持ち帰ってしまおう、つまり万引きをしてしまおうと決めました。そのときに次のA、B、Cの3つの中で万引きが成立するのはどの時点でしょうか。

A:手に取ったおにぎりを自分のカバンに入れたとき
B:カバンの中におにぎりを入れたまま、レジを素通りして店の外に出たとき
C:そのまま近くの公園に行って、コンビニのおにぎりの封を切ったとき

河村 3択ですね。早押しじゃないから、じっくり考える時間があってうれしいです(笑)。何罪になるかっていうところを考えたらいいのかな。罪の構成要件は何かとなると、窃盗……? 財物を自分の物にしたのがどの時点なのか?がポイントっていうことですよね。

五十嵐 おーっ、その発想が出てくる時点でやっぱりすごい! 占有がいつお店から高校生のもとに移ったかが基準ですね。

河村 いいヒントをもらいました(笑)。占有をどう考えるべきなのか……。第三者が捕れないということを考えて基準を作っているとしたら、自分のカバンに入れたときで正解はA!

五十嵐 最終アンサーでよろしいですか?

河村 はい。

五十嵐 正解です! いや、すごい。みんなだいたいBって答えるんです。万引きGメンが窃盗犯に声を掛けるタイミングがだいたい店の外に出たときなので、Bって考えがちなんですが、外に出てから声を掛けるのは言い訳の余地をなくすためなんですよね。窃盗罪が成立するのは占有が店から行為者に移ったとき。おっしゃっていた通り自分の物としてカバンに入れた瞬間なんです。

河村拓哉

河村拓哉

河村 クイズをやっていく中で法律の知識もなんとなく増えていて、聞いたことがある単語も出てきたので、がんばりようがある問題でした(笑)。じゃあ僕からもクイズですが、自分の法律知識ではとてもかなわないので(笑)。司法に絡めててんびんで何かないかな。えーと、てんびんに使う分銅をピンセットでつかむのはなぜでしょう?

五十嵐 手の皮脂が付いてしまうからですか?

河村 その通りです! 頭のいい方にクイズを出すのはやっぱり難しいですね(笑)。

五十嵐 正解できてよかったです(笑)。クイズはもともと好きで、発想力の求められるクイズや、あるなしクイズは楽しいですね。ただ得意かどうかは……。仮に強いと思っていたとしても、河村さんの前で強いなんて言えないですよね(笑)。やっぱりクイズができる人って特別な何かがあって、僕なんかではトップクラスには到底行けないと思います。

河村 それで言うと、僕はミステリーの謎を解くのは全然ダメですね。犯人やトリックがまったくわからないんです(笑)。クイズは知識を使うことがほとんどなので、いかに知識があるかが大事になってくるんですが、ミステリーの謎解きに必要なのは発想力。ただ、いろいろ知っているとさまざまな発想ができるというのもありますよね。

五十嵐 クイズプレイヤーで、小説を読まれる方って多いものなんですか?

河村 そこは本当に人それぞれで、まったく読まない人から、食費を削ってでも読む人までいますね。たまたま「法廷遊戯」の文庫版を買ったら、解説を僕が書いていてびっくりとしたと言ってきた知り合いはいました(笑)。

五十嵐 ミステリーとクイズってすごく近いところもありますが、全然別物かもしれないですね。脱出ゲームみたいなものは、トリックを考える思考回路と似ているのかな。クイズって、すごく端的じゃないですか。小説は短編でもそれなりの文章量があって、そこで答えを見つけていく作業なのでそこは違いますね。

河村 僕にとって小説は、クイズよりも動画の企画を考えているときに近いかもしれないですね。動画の企画って、こちらがやることを出して、そこにプレイヤーが加わるものなので、すべてを見渡して考えないといけない。僕はそれが苦手でもあるんですけどね(笑)。

五十嵐 作家の中にはクイズ的な発想をしている方もきっといると思うんです。僕の場合、そこに法律的な発想というのもありますが、法律は条文が正義で、その解釈にもとづきながら裁判で示された基準に沿って判断をしていくということでは、数学的なロジックが優先されるもの。一方で、人は感情を理由に罪を犯してもいるので、刑事裁判ってよくも悪くも感情とロジックのせめぎ合いにはなるんです。ミステリーも理詰めではありながら人間ドラマでもあるので、ミステリーと法律には親和性があるんじゃないかと思います。それだけにリーガルミステリーでも感情を芯に扱う作品は多いですが、僕は法律のシステマチックなところが好きだったので、システムの面のリーガルミステリーとして「法廷遊戯」を書き上げました。

2人が薦めるミステリー作品は?

映画「法廷遊戯」に、原作者としてのみならず、法律監修、そして出演者としても関わっている五十嵐。河村もまたさまざまなメディアで活躍しているが、2人の映像作品に対する興味は? 最後にお薦めのミステリー作品を挙げてもらいながら、今後の活動について語ってもらった。


五十嵐 リーガルっていうところだと、Netflixで配信されている韓国ドラマの「ロースクール」。まさにロースクールで殺人事件が起きて、それを解決していく話で、自分の書きたいと思っているものが全部詰まっているなと思いました。映画に関してはミステリーとはまたちょっと違うかもしれないですが、「怪物」(2023年)ですね。いろいろと視点が切り替わっていきますが、その中でのミスリードがうまくて、最終的に伏線が回収されていくところも合わせて、ミステリーとしても映画としても非常に面白かったです。

河村 パッと浮かんだのは「デスノート」「デスノート the Last name」(2006年)ですね。原作マンガを読んだあとに観たんですが、ミステリーとしての面白さに加えて、原作のその先が描かれていたことにびっくりしました。それがまた原作の内容を踏まえていて、メディアミックスによって違う可能性を見出していた作品だった気がします。そんなことを言いながら、観たときはひたすらシンプルに驚いて楽しんでいるばかりでしたが(笑)。

五十嵐 僕もたくさんは観てきていないですが、もともと邦画は好きですね。特に「ソラニン」(2010年)が好きで、何度も繰り返し観ています。青春感がいいんですよね。「法廷遊戯」もキラキラはしていないけれど、青春感は意識したところではあります。

ロースクールで唯一気の合う友人同士であるセイギと馨。

ロースクールで唯一気の合う友人同士であるセイギと馨。

河村 僕は10年くらい、映画を観ていなかった時期があるんです。中高生の頃はほぼ観ていなかったくらいで、最近になって、いろいろな人から「一緒に観よう」「これは観たほうがいい」と言われて観始めた感じですね。こんな面白い作品があったんだなと今になって知ることが多いです。これは最近考えたことなんですが、小説はある1行が気になったら、そこにすぐ戻れるじゃないですか。なんなら、セリフから何まで暗記して覚えてしまうこともできる。ただ、映画はそれが難しくて、そのカットの映像にあったものすべてを覚え切ることって不可能なんですよね。でもそういうものじゃない、そこで何かを体験して感じ取るものなんだとわかってから、いい意味で気楽に映画を楽しめるようになりました。「法廷遊戯」にもそんな体験の面白さがあると思います。

五十嵐 「法廷遊戯」の映画化が決まって、僕も映画を精力的に観るようにもなりましたが、そこで初めてどう演出しているのか、どう撮影しているのかというところでの楽しみ方も知りました。「海が走るエンドロール」という映画制作のマンガがありますが、僕も映画の専門学校に通いたいなと思ったくらいです(笑)。ただやっぱり、小説と映画はまた全然違いますね。僕の場合、小説は全部一人称視点で書いているので、映像みたいに視点を切り替える手法がまず難しい。あと、演じることはもっと難しいです。今回、弁護士コメンテーターの役で「法廷遊戯」にカメオ出演させていただきましたが、ほぼ素の役なのに深川栄洋監督に「ここで一拍置いてほしい」という演出を受けて、本当に大変だなと思いました。セリフは覚えられるんですが、アドリブなんて絶対に無理です(笑)。

河村 僕も興味がないとかやりたくないとかっていうことはないんですが、映像というものをもっと理解していないと到底できないな、と。演じることはもっと難しい。YouTubeは自分のクセが強いことでなんとかなっているのであって、他人を演じるのはまた違う能力だと思うんです。そう考えると、役者さんって本当にすごいですよね。

左から河村拓哉、五十嵐律人。

左から河村拓哉、五十嵐律人。

五十嵐 今のところ僕は弁護士としても作家としても3年目で駆け出しなので、2つともがんばりたいなというのがまずあります。中高生に法律の面白さを伝えたいというのは一貫して思っていて、小説が一番いいのかなと考えていたんですが、最近はもっとストレートな参考書のようなもので面白いものを書けたらいいなと思っていて、ちょうどそれが「法廷遊戯」の映画の公開直前に「にゃんこ刑法」というタイトルで本になるんです。そういったところで、もっと幅を広げていきたいですね。

河村 基本的にYouTubeもそうですが、勉強すること自体をもっとポジティブなものにしていきたいなと思っていて。それを面白おかしく発信することを、さらに大きな規模でやっていけたらと考えています。小説も書かせてもらっていますが、ためにならないけれど面白いものを作れたらと考えたりもしていますね。

五十嵐 ぜひ小説もたくさん書いてください。そう言うとなんだか編集者みたいですが(笑)、河村さんが書くものも楽しみにしています。

永瀬廉×杉咲花×北村匠海の鼎談は近日公開!

プロフィール

五十嵐律人(イガラシリツト)

1990年生まれ、岩手県出身。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了。弁護士(ベリーベスト法律事務所、第一東京弁護士会)。「法廷遊戯」で第62回メフィスト賞を受賞しデビュー。このほかの著作に「不可逆少年」「原因において自由な物語」「六法推理」「幻告」「魔女の原罪」がある。映画「法廷遊戯」では法律監修も担当。カメオ出演も果たした。

河村拓哉(カワムラタクヤ)

1993年生まれ、栃木県出身。東京大学理学部卒業。2016年に伊沢拓司らとともに東大発の知識集団・QuizKnockを創設し、現在はYouTube動画の企画・出演を担う。クイズ大会「WHAT」では大会長を務めた。2022年には講談社「Mephisto Readers Club」にて自身初となる小説を発表。2023年には妻・篠原かをりとともに「雑学×雑談 勝負クイズ100」を出版した。「Qさま!!」「ネプリーグ」など、多くのクイズ番組でも活躍中。