永瀬廉が主演し、杉咲花と北村匠海が脇を固めた映画「法廷遊戯」が11月10日に全国で公開される。本作は同じロースクールで法曹の道を志す3人の若者たちの仮面の裏に隠された真実が、やがて起こる殺人事件によって暴かれていく物語。永瀬が主人公の“セイギ”こと久我清義、杉咲がセイギの幼なじみ・織本美鈴、北村が“無辜(むこ)ゲーム”と呼ばれる模擬裁判をつかさどる天才・結城馨を演じた。
このたびメインキャスト3名の鼎談が実現。インタビューの後半では物語にちなみ、役を演じるときの仮面の有無や感覚など俳優としての姿勢を聞いた。三者三様の答えとは。なお映画ナタリーでは原作者の五十嵐律人とQuizKnockの河村拓哉による対談も掲載中。
取材・文 / 渡辺水央撮影 / 梁瀬玉実
映画「法廷遊戯」予告編公開中
3人で過ごす空間は心地よかった(北村)
──お三方での共演は「法廷遊戯」が初となりましたが、それぞれ改めて今回の現場でお会いしての印象はいかがでしたか?
永瀬廉 花ちゃんとはお会いするのも初めてでしたが、勝手にイメージしていた印象そのままでしたね。一言で言ってしまうと、すごくいい方。実際にしゃべってみても話しやすくて、何を言っても返してくれるので、一緒にいて心地よかったです。
杉咲花 私も心地よかったです。永瀬くんは飾っていない方で、誰に対しても態度が変わらなくてフラットに現場にいるんですよね。私も緊張せずに、穏やかな気持ちで日々過ごすことができました。
永瀬 匠海くんとはドラマ(「FLY! BOYS, FLY! 僕たち、CAはじめました」)で共演していて、そのときすぐに仲良くなったんです。お芝居での共演は久しぶりでしたが、いい意味で全然変わってなかったですね。頭の回転が速くて、考え方や言葉のセンスも面白くて。匠海くんらしいなと思いました。
北村匠海 廉くんも変わっていなかったです(笑)。今回で言うと、僕だけ、廉くんとも花ちゃんともそれぞれ共演しているんですよね。しかも深川(栄洋)監督ともドラマ(「にじいろカルテ」)でご一緒していて、好きな監督さんなので、そこに廉くんと花ちゃんがいるというのがすごく不思議で面白くもありました。
杉咲 北村くんのことはずいぶんと昔から知っていて、その中で「十二人の死にたい子どもたち」(2019年)で初めて共演したんです。そのときも、佇まいやしゃべり方が昔と全然変わっていなかったのですが、今回もその印象のままの北村くんだったので安心しました。ただ仕事の場で改めて会うとなんだか小っ恥ずかしさもあって(笑)。
北村 もちろん芝居に入ってしまえば別ですが、「よーい、スタート」が掛かるまでは照れ臭さはありますね(笑)。でも今回、すごく楽しかったです。深川監督ってかなり独特な演出をされる方なので、2人が戸惑わないかなというのもあったんですよ。僕はその橋渡しの役目もあるかなと思って現場に入ったんですが2人とも自分で答えを出していて。さすがだなと感じました。
永瀬 確かに、いろいろなパターンを試される監督で、思ってもみなかった演出をされるので楽しかったですね。監督自身もホン読み(※撮影前の全員がそろっての台本の読み合わせ)のときに「ちょっと変わったオーダーすると思うけれど、よろしくね」って言われていたので、なんでも来てくださいと思っていました。
杉咲 今まで受けたことがないような斬新な演出が多くて、印象的でした。美鈴と馨のシーンで、「今のやりとりが長いので、分数として半分くらいにしてほしい」と言われて、それにもすごくびっくりして(笑)。
北村 そういうことが日常茶飯事だから(笑)。でも、そういう言葉が出るときって、深川監督がすごくノッているときなんですよ。
永瀬 ノッてるときなんだ(笑)。でも監督も楽しんでいる感じはしますね。
北村 楽しんでやられているときこそ、あえて無理難題を投げかけている気がしますね。
杉咲 わかる気がする。きっと言われたこととまた違った何かを求められていて、それを試してみることで、新しいものが生まれるのではないかと考えられているのかなって。
北村 僕としては、廉くんと花ちゃんっていうそれぞれタイプの違う同士で、自分にとっては気心の知れた友達でもある2人が一緒に芝居をしているっていうだけですごく面白かったです。今こうしてしゃべっているのを見ているだけでも、ニヤニヤしてしまって。
──それぞれ接点のない中学時代の友達と高校時代の友達がそろって、2人の交流を見ているような状況を思わせますね(笑)。
永瀬 ああ、そういうことか! そう言われると、それは確かにちょっとオモロイな。
北村 だから2人が穏やかな気持ちで過ごせていたって聞いて、よかったなって。
杉咲 穏やかだったよね。合間は、絵しりとりをして遊んだりしていました(笑)。
永瀬 やってたね。懐かしいなあ。すごくゆっくりした時間が流れてました(笑)。
北村 僕は数日間だけの撮影でしたが、3人で過ごす空間は心地よかったです。
裁判を見るのは、人生で初めての経験(永瀬)
──一方で、撮影でお三方が初めてそろったのは事件現場のシーンで、北村さんは死体になった姿で永瀬さんと対面されていたんですよね。
永瀬 そうでした! そう言えば、ずっと「地面が冷たっ!!」て言ってたよね!?
北村 そう、あれが最初だったんだよ。冬で洞窟だったので、寒くて大変でした(笑)。
永瀬 今考えると面白いですよね。何年かぶりに共演して、その最初でもう死んでしまっていて。あり得ない再会の仕方ですよね。振り返ったときに「あのとき刺されていたよね?」っていうエピソードができて、思い出になりました(笑)。
北村 しかも花ちゃんと「十二人の死にたい子どもたち」で一緒だったときも、僕1人だけ血だらけだったんですよ。会うときは、なぜかそんな状況になっていますね(笑)。
──今回法廷もので、皆さんはロースクール(法科大学院)の学生役でもありましたが、事前に何か勉強や用意はされましたか?
永瀬 僕は弁護士役で法廷のシーンもあったので、用語もいろいろ調べて勉強して、実際の裁判も見学に行かせていただきました。裁判を見るのは、人生で初めての経験でしたね。
北村 どうだった? 興味深かったでしょ?
永瀬 興味深かったです。映画やドラマでは「異議あり!」って言いながらやりとりしているイメージですが、実際はそんなことはなくて、思っていた以上に淡々と進んでいました。いい意味で事務的で、その雰囲気もわかったので行ってよかったですね。実際の法廷と映画の法廷はまた違うかもしれないですが、法廷のシーンはセイギにとっても大事で大きな見どころの1つになっているので、皆さんにも楽しみにしていてほしいです。
──抑揚を付けすぎにすらすらと話して、粛々と裁判を進めていく永瀬さんの弁護士ぶりが、すごくリアルに感じられました。
永瀬 その感じも実際の裁判を見たことが役立っているかもしれないですね。どのくらい感情を出していくかというのは監督に逐一相談させてもらいながらやっていたので、そう言っていただけてよかったです。
北村 僕も以前にドラマ(「グッドワイフ」)で弁護士役をやっていて、そのときに何度か法廷に通わせてもらって、民事裁判も刑事裁判も見ていたんです。そのときの知識や経験もあったので、前の引き出しを開けるような感覚で臨みました。ただ、馨はまたちょっと違う角度で物事を見ている人間で、むしろ司法に食って掛かるようなところもあるのが新鮮でしたね。
杉咲 私は、美鈴が何よりも大事にしていて、その存在がすべてになっている清義(きよよし)から受ける影響が一番大きなものだと思っていたので、事前に何かを用意するということは特にありませんでした。現場に行って、とにかく永瀬くん演じる清義を見つめ続けるということだけを大事にしました。
台本で読んで想像していたものとはまったく違う(永瀬)
──お三方からご覧になっての「法廷遊戯」の推しポイントをそれぞれ教えてください。
永瀬 僕は最初の無辜(むこ)ゲームですね。大学で開催される裁判ゲームで、法廷ミステリーとしてすごく象徴的なものになっていて、この作品ならではのシーンにもなっていると思います。序盤にあることで一気に「法廷遊戯」の独特の世界観に引き込まれて、ここからどんなストーリーが始まっていくんだろう?っていうワクワク感も味わっていただけると思います。撮影も大変で本当にがんばったので、そこを含めて推したいですね。
北村 洞窟を会場にロウソクの灯りで進んでいくんですよね。しかも僕は審判者なので黒い法服を着ていて、異様な空気感と緊張感がありました。告発者役の廉くんや証人役の花ちゃんはもちろん、ゲームに参加しているほかの学生キャストの皆さんも大変だったと思います。
杉咲 1人ずつしゃべっていって、長回しで撮影していたので、自分が失敗したらまた頭からだという緊張感がありました。
北村 みんながそれぞれ番号を言っていくんですよ。僕は言わないんですが、“ここで間違ったらダメだ”って自分のことのように緊張しながら見ていました。僕の推しポイントは、セイギが美鈴のアパートに来て、美鈴がセイギに抱きついてぼそっとある言葉を言うところ。面白いポイントはほかにもいっぱいありますが、2人の特別な関係性やこの作品の普通じゃない空気感が詰まっていて、この作品を象徴しているシーンだなと思いました。
杉咲 あのシーンが自分のクランクインでもあったので、私も印象的でした。その前に清義と電話でやり取りするところがあって、そのときはまだ永瀬くんの顔は見れていなかったんです。声だけでまずお芝居をしていたのですが、そこで清義の繊細さとたまに見え隠れする勇ましさみたいなものが感じられて、私が演じる美鈴の人物像も浮かび上がってきた感覚がありました。顔を合わせるよりも前に存在を感じる時間があったことが、すごく大きかったなと思います。あとはやっぱり、最後の法廷シーン。永瀬くんが本当に大変そうで……。
北村 法廷シーンは、僕も観るのが楽しみでした。自分が出ていない2人のシーンだからというのもあったんですが、どんな演出になっているんだろうと興味があったんです。深川監督の演出だったら、なぜかいきなり法廷で踊り出すみたいなこともあり得ますからね(笑)。そうしたら、ああいうことになっていて……。2人の目が面白かったです。
杉咲 あそこは、本当にいろいろなパターンを撮ったんです。完成した作品を観て、ここが使われるんだって思いました。
永瀬 いっぱい撮りましたね。こう来るんだって僕も驚きました。台本で読んで想像していたものとはまったく違う方向性のものになっていて、さすが監督だなって思いましたね。
北村 深川監督マジックですよね。いろいろな可能性を常に現場で探られていて、そのときはわからないけれど、完成した作品を観て初めてわかることがいっぱいあって。セイギと馨のBLみたいなシーンがあって、これはどういう使われ方をするんだろうって思っていたら、映画の最後のほうに入っていたんです。しかも、ここがないとこの物語は成立しないという大事なシーンになっていて、納得しながらも驚かされました。
杉咲 最後の表情もこう来るんだって思いました。台本と真逆の表現を求められることが多々あったので、つながってみて発見することが多かったです。
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芝居は仮面を被る感覚?それとも…