ドリームワークスのアニメーションを実写化した映画「ヒックとドラゴン」が9月5日に全国で公開される。
「ヒックとドラゴン」は、バイキング一族の長の息子で気弱な少年ヒックが、傷付いた伝説のドラゴン・トゥースとの絆を育んでいく物語。2010年公開のオリジナル版第1作から15年の時を経て製作された今回の実写版では、最新のIMAXカメラでの撮影と視覚効果技術を用いて、圧倒的な没入感が生み出された。監督・脚本はアニメ映画3部作を手がけたディーン・デュボアが担っている。
映画ナタリーでは公開に先駆け、8月18日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて試写会を実施。トークショーにも出演した“ヒクドラ大好き芸人”の大島育宙(XXCLUB)とジャガモンド斉藤が、改めて実写版ならではの魅力や、作品が持つ色あせないメッセージを熱く語ってくれた。
取材・文 / SYO撮影 / 間庭裕基
実写映画「ヒックとドラゴン」予告編公開中
「シュレック」「ボス・ベイビー」などで知られるドリームワークス・アニメーションが手がけたアニメーション映画3部作。2010年に公開されたオリジナル版第1作「ヒックとドラゴン」が大ヒットし、2014年・2019年製作の続編を合わせた全世界累計興行収入は16億ドル以上を記録した。スピンオフのテレビシリーズ全6シーズンも製作され、今も世界中で根強い人気を誇る。
実写映画「ヒックとドラゴン」では、大規模なロケや最新のIMAXカメラでの撮影、視覚効果技術により圧倒的な没入感を実現。主人公ヒック役には「ブラック・フォン」のメイソン・テムズ、ヒックの親友であり優れた戦士アスティ役には「ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今」のニコ・パーカーがキャスティングされた。またヒックの父ストイックをアニメーションシリーズで同役に声を当てたジェラルド・バトラー、陽気な鍛冶屋ゲップを「ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!」のニック・フロストが演じている。監督・脚本はアニメ映画3部作を手がけたディーン・デュボアが担った。
トークショー付き試写会の様子をダイジェストでお届け
15年前よりも今の世界のほうが、この物語を必要としている(大島)
──イベントを終えて、いかがでしたか?
大島育宙 「ヒックとドラゴン」の明らかにファンの方が前列を中心に席を埋めていらっしゃって、長年のシリーズファンとしては感無量でした。一方で、後列のほうには完全に初めての方もいらっしゃって、そういう人に今から観てもらえることもうれしかったです。お子さん連れの方もいらっしゃいましたよね。15年前にオリジナルのアニメ版を観たうえでお子さんの初見は実写版だ、という気持ちで連れて来られているのだろうか……というドラマを勝手に想像してしまいました。
ジャガモンド斉藤 深く見てますねー。でも確かに、僕たちはヒクドラ好きと言っても皆さんと生で交流する場がなかったですから。イベント中にたくさん笑ってくださったり、熱いリアクションをいただけて、とてもやりやすくて楽しい時間でした。
──イベント内で大島さんも言及されていましたが、「ヒックとドラゴン」は国内においてはファンの熱意に支えられて人気が拡大してきたシリーズですよね。
大島 2010年のアニメ版1作目公開当時は強い競合作品がひしめいていて、盛り上げるのはなかなか難しい時期だったかもしれません。でもその後、レンタルショップのPOPや雑誌の特集などで「何年後にも残る名作」として自信満々に推薦されているのを見るようになり、ウォッチャーが増えていることは感じていました。15年経って、今の技術を駆使した実写版として届くのは幸せな環境だと思います。
一方で、今という時代はよそ者やわからない人に対する厳しさを、正しさとして短絡的に結び付ける風潮が世界中に広まっています。「ヒックとドラゴン」の前半は「若者は戦うんだ」という考え方が支配的な島の空気が描かれますが、こうした要素がより身近なものに感じられるようになってしまったとも感じます。15年前よりも今の世界のほうが、この物語を必要としているのではないでしょうか。コミカルな見た目だったCGのキャラクターではなくて、生身の人間たちが演じていることがとても意味のあることだと思います。
斉藤 僕も同意見です。今の日本でも、考えが合わない相手は基本的に排除する風潮がありますよね。こうした時代の変化には僕個人は驚いていますし、アニメ版を忠実に実写化することでここまで意義が生まれた作品は、近年あまりなかったようにも思います。
これまでの作品でもドラゴンに登場人物が乗る描写はありましたが、「ヒックとドラゴン」は「ヒックとトゥースのふたりがそろわないと飛べない」ということが非常に重要であり挑戦的なテーマだと思います。戦闘民族のバイキングと敵対しているドラゴンがバディを組む構造もしかり、どういうコミュニケーションを取って調和していくのか──エンタメとして戦闘シーンは入れるけれど、テーマはそこにないというせめぎ合いも素晴らしい作品ですよね。
大島 あとはやはりトゥースのかわいさ! アニメ版は何回も観ていくと次第にドラゴンが猫に見えてくる現象があり僕の中では猫映画だと思っていますが、今回はより立体的になったトゥースをコマ送りで観たくなるほどの完成度でした。本当にこの生き物がいるんだという気持ちにさせてくれました。
斉藤 トゥースだけじゃなくて、ドラゴンの多様性も描いているのがいいですよね。
大島 仮にストーリーがわからないくらいの年齢のお子さんが観たとしても水族館やサファリパークに行ったような楽しさを得られるだろうし、本当に全年齢対象だと思います。
監督のやりたいことがずっとブレていないのがすごい(斉藤)
──ヒックとトゥースが距離を縮めるシーンに「同じ魚を食べ合う」ものがありますよね。実写版ではその部分がより生々しく描かれたことで、歩み寄りの覚悟や重要性が引き立っていると感じました。
大島 確かに。ちゃんと咀嚼した感が出ていましたし、全編にわたってリアリティを研究したのだろうなと感じられますよね。いかんせんアニメ版のクオリティがとんでもなく高かったため、実写で乗り越えられる部分はあるのかと思っていましたが、仲間たちと一緒に戦闘訓練を行うシーンに特にその意義を感じました。オリジナル作品では人形劇のようなテイストで面白く楽しくやっていたシーンが「若者たちが戦わされている」とリアルに感じられる動きになっていて、「自分だったら戦いたくないけれど、じゃあどうやってこの島で生きていくのか」と考えさせられました。
斉藤 実写版のほうが本編尺が30分ほど長いのですが、その分ヒューマンドラマの側面が強調されたと感じます。とある人物の価値観が変わる瞬間の“間(ま)”をしっかり取っていて、心に迫ってきました。
大島 僕はその部分には気付かなかったな、さすがです。リアリティでいうと、入念な時代考証をしたという衣装も見どころです。アニメ版から続投しているジェラルド・バトラーの衣装は40kgもあったらしく、それを担えるフィジカルのキャストを集めた点にもこだわりが感じられますよね。この15年間は、バトラーの“育ち待ち”だったんじゃないかとさえ思います(笑)。
斉藤 立派に育ちましたよね(笑)。「ジオストーム」や「グリーンランド─地球最後の2日間─」といったマッチョ系の映画に立て続けに出演するようになったジェラルド・バトラーが、今生身でやるからこそバイキングの長である父親役に説得力が出たと思いますし、威厳待ち・貫禄待ちの部分もあったのではないかと(笑)。本作は父親を超えていく話でもあるので、すごく効いていました。
──ディーン・デュボア監督がアニメ版に続いて実写版も手がけているのもうれしいところですよね。
大島 彼は作家性ゴリゴリの監督だと思っていて、「ヒックとドラゴン」シリーズはもちろん「リロ&スティッチ」や「野生の島のロズ」(製作総指揮で参加)などでも一貫して他者との共生を描いています。物語の力で何ができるかというのを誰よりも真面目に考えている方だと思いますし、それこそアニメ版のときから実写的な思考の持ち主だと思って観ていたので、全幅の信頼を置いていました。
斉藤 うがった見方だけど、本人がやるからこそ遠慮がなく100%満足してやっているんだろうなと思えますしね。そして、いま大島くんが言ったように監督のやりたいことがずっとブレていないのがすごいなと。
大島 15年前の時点でこれを描いていた監督のすごさが改めて証明されたなと思います。古典的なビルドゥングスロマンの設計でありながら、強くなるのが答えではなく、自分で真剣に納得のいく優しさについて考えることを描いているのはいまだに新しいですよね。その中心にいるヒックも、これだけ真っ当に正直に、繊細さと優しさと強さに同時に向き合っている極めて珍しい主人公像。かつ、ドラゴンから降りないのと同じように戦い自体から降りていない。
斉藤 王位継承ものは人気のジャンルですが、本作もそれにのっとったように見せかけてカウンター的な作品ですよね。あの島でリーダーになるためには力でのし上がっていくのが“普通”だったのに、果たしてそうか?という提示をしていますから。
「自分だけのやり方があるんじゃないか」と勇気付けられてほしい(大島)
──お二人は「ヒックとドラゴン」に出会って、どんな影響を受けたのでしょう。
大島 僕は「戦わなければいけない」「強くなければいけない」といういわゆる男性的な世界で「でも戦いたくない」と思いながら生きてきました。我々の生活においても「稼ぐ」「出世」みたいなことだけが個人の幸せじゃないとみんな気付いているけれど、わかりやすいロールモデルを追いかけてしまうところはあると思います。そんな中でヒックのように違和感を納得いく形で研究することは間違いなく正解だし、そのテーマを物語の力でもってちゃんと描いてくれているのが「ヒックとドラゴン」です。僕らのような転職世代はもちろん、Z世代以降の子たちにも「自分の納得いく形でできることがきっとあるんだ」と勇気をくれて、人生が変わるきっかけになる作品だと思います。
斉藤 マッチョイズムが絶対的価値だったあの島で、ヒックが発明と知恵という得意分野を生かして自分なりの席をこじ開ける姿には希望をもらえますよね。僕も大島くんも芸人という世界で異質なポジションにいるため、感情移入できる部分はすごくあります。
大島 と同時に、別に僕らだけじゃないとも思います。勤めている会社で同期と比べられたり、部活内などで比較されたりすることは誰にでもあるでしょうし、向いていないことをがんばらされているときに「自分だけのやり方があるんじゃないか」と勇気付けられてほしいです。
プロフィール
大島育宙(オオシマヤスオキ)
1992年12月17日生まれ、東京都出身。東京大学在学中に結成したお笑いコンビ・XXCLUBで2017年にデビュー。「こねくと」毎週火曜(TBSラジオ)、「週刊フジテレビ批評」(フジテレビ)などに出演。YouTube「大島育宙【エンタメの話】【映画・ドラマ】」で映画・ドラマの解説・考察を行っており、多数のメディアでコラムも執筆している。
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ジャガモンド斉藤(ジャガモンドサイトウ)
1991年2月1日生まれ、東京都出身。中学校からの同級生であるきどと2014年にお笑いコンビ・ジャガモンドを結成した。「ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ」(K-MIX)に出演中。YouTubeでは「ジャガモンド斉藤のヨケイなお世話」を配信しているほか、「シネマンション/映画好きチャンネル」のメンバーでもある。
映画紹介人/お笑いコンビ ジャガモンド斉藤 (@MondMasa) | X