シェイクスピア劇に「高尚なもの」というイメージはない
──柄本さんは、これまでに柄本明さん演出の「夏の夜の夢」(2001年)や「ハムレット」(2012年)、江本純子さん演出の「じゃじゃ馬ならし」(2014年)、最近では「ロミオとジュリエット」をベースにした鄭義信さん作・演出の「泣くロミオと怒るジュリエット」(2020年、2025年)など、シェイクスピア関連作に何度も出ていらっしゃいます。
最初に出演したシェイクスピア作品は確か小学5、6年生のときの「夏の夜の夢」です。そこで初めてシェイクスピアを知りました。「ハムレット」ではハムレットの友達のギルデンスターン役をやりました。「夏の夜の夢」「ハムレット」は親父(柄本明)が主宰している東京乾電池の劇団公演で、終始笑いが絶えなかったんです。毒を飲む場面でも笑いが起きるような(笑)。衣装も、被り物をしたり、うちの母ちゃん(角替和枝)が“ツノガエ”って書いた法被を着ていたり、「高尚に観るものではない」という舞台がスタートだったから、シェイクスピア劇がドレスを着て上演する真面目なものと知ったのは外の公演で、僕が22歳のときでした。
だからというのもありますけど、シェイクスピア劇が「高尚なもの」というイメージはないし、それは今も変わらないです。だって「ロミオとジュリエット」なんて、出会って5日間ぐらいの話でしょう? いきなり会って恋に落ちて、すぐに心中しようとするなんて、頭がおかしいじゃないですか(笑)。俗っぽいなと思います。
──人間味があるから、シェイクスピア劇は繰り返し上演されて、現代に残っているのかもしれないですね。
そうですね。世の中にあるすべての物語の根源はシェイクスピアにつながってしまいますからね。「なぜ争いは絶えないんだ」と、400年以上前にすでに言ってしまっている。今の時代にも通じるテーマですから、敵わないです。
──「ハムネット」で描かれるシェイクスピア像についてはどう思われました?
僕は、創作以外の面ではもうちょっとやわらかい人間というか、女たらしのイメージを勝手に持っていました。こんなにも家族思いで、不安定な人とは思わなかった。繊細でしたね。頭がよすぎて、多くの人よりも社会の行く末が見えてしまっているから、孤独にならざるを得ないんだろうなと思います。
舞台のシーンに涙が止まらなかった
──劇中には、ウィリアムが手がけた「ハムレット」の舞台も登場します。この上演シーンはいかがでしたか?
当時の舞台が再現されていて、グローブ座という劇場自体にワクワクしちゃいました。改めて、シェイクスピア劇は大衆のものだったんだなと思いました。「ハムネット」を観る前は、シェイクスピアはもっと未来に向けて、政治的な意味を込めて創作していると思っていたんです。でも、登場人物を貴族に置き換えているだけで、当時の人も現代の観客も含めて、一般大衆の悲しみや抱えきれないものを救うために書いていると感じて、それは発見でしたね。
──ウィリアムは、自分自身も癒やしていましたよね。
そこが面白いですよね。戯曲を書くことで悲しみが昇華される。芝居を観る人も昇華される。そういうものがつながる物語でした。
僕は、映画を観ながら、ウィリアムとアグネスのどちらを救うのだろう?と考えていたんですよ。どちらか一方は救われるけど、もう一方は振り落とされるんじゃないかと想像していたら、両方を救うものができあがっていて、驚きました。舞台のシーン、僕は涙が止まらなかったですね。
──娯楽のない時代に、大衆が演劇を心から求めていたことや、舞台の魔法みたいなものも感じさせる圧巻の場面でしたね。
余談ですけど、劇中の舞台役者を見ながら、あれほど「観客全員が俺を見てる!」と思うような強烈な体験をしたら、この人、一生役者を辞められなくなるだろうな、なんて思っちゃいました。残酷だなあって(笑)。
──俳優さんならではのコメントですね(笑)。柄本さんご自身は、舞台で「この仕事、辞められないな」と心つかまれてしまった、高揚感を抱いた経験はあるのですか?
「辞められない」と思うほどの高揚感は、正直あまりないですが、「泣くロミオと怒るジュリエット」の初日に拍手をもらったとき、同じような感覚を覚えました。
お客さんは、僕がジュリエットを演じるというので、もう少しコメディ色の強いものを想像していたんだと思います。それが思いの外、ちゃんとした純愛物語で、世間が抱いているジュリエット像から逸脱させず、僕という人間も落とし込んだ面白い脚本だったので、期待以上に泣かされたんでしょうね。あのときに起きた、あの拍手を超える感動はいまだにないです。
息子・ハムネットのセリフは圧倒的な救いを与えると思う
──ウィリアムは物語を書くことで自分自身を癒やしましたが、柄本さんは、ドラマ「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」(2024年)など、プロデュース業もなさっています。作品をプロデュースすることで救われたり、癒やされるということはありますか?
プロデューサーの仕事って土台作りだと思うんです。脚本を書きたい人、撮りたい人がいて、それを叶える場を作る。だから、作家のように創作で救われるという感覚はないですけど、仕上がった作品に対して、ここはこうしないと観客が救われないかもしれない、というような意見は言います。
シェイクスピアは、自分ごととして戯曲を書いていた気がするんです。「ハムレット」に出てくる「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」という有名なセリフ、あれは孤独の問題ですよね。生きていても地獄、死んだら楽なのか、考え込みすぎている自分の問題を投影していたんじゃないか。シェイクスピアは書き続けることで、悩みもまた生まれて、きっとずっと満たされない人間だったんじゃないかなと思います。
──では、観客としてはどうですか? 柄本さんは映画に救われたことはありますか?
それでいうと、基本的にどんな作品にも救われます。僕は映画をあまり自分ごととして共感ベースで観ないで、ただの映画ファンとして楽しんでしまう。その代わり、アニメもスプラッターのようなものもどんなジャンルの映画も観ます。そしていつも、どこかしら面白がっています。
「ハムネット」でいうと、ウィリアムとアグネスの関係を見たときに救われましたし、涙するしかなかったです。息子のハムネット役のジャコビ・ジュープくんもすごくよかったですよね。彼のセリフも圧倒的な救いを与えると思います。いい映画を観た!と思いました。いや、本当に面白かったです。
プロフィール
柄本時生(エモトトキオ)
1989年10月17日生まれ、東京都出身。2003年にショート・フィルム集「Jam Films S」の中の1作「すべり台」のオーディションで主演に抜擢され、デビューを果たす。2008年の出演作品により第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞した。映画「俺たちに明日はないッス」「アウトレイジ」「アフロにした、暁には」「聖の青春」「PERFECT DAYS」、ドラマ「Q10」「初恋芸人」「三笠のキングと、あと数人」、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)」、連続テレビ小説「ばけばけ」など多数の作品に参加。2024年には今井隆文とともにドラマ「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」をプロデュースした。2026年6月から7月に舞台・KERA CROSS 第7弾「シャープさんフラットさん」の出演を控える。
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メガネ / YUICHI TOYAMA.




