Netflix「ゲットダウン」|巨匠バズ・ラーマンがヒップホップ創生期を描く青春音楽ドラマ

「ロミオ&ジュリエット」「華麗なるギャツビー」の監督バズ・ラーマンが手がけたNetflixオリジナルドラマ「ゲットダウン」。1970年代後半のニューヨークを舞台とする本作は、苦境の中から若者たちが生み出したヒップホップカルチャーや彼らのさまざまな葛藤、成長を描いたエモーショナルなドラマだ。

映画ナタリーでは、シリーズ後編となるパート2の配信が4月にスタートしたことを記念し、「ゲットダウン」の魅力に迫る特集を展開。“BAZ LUHRMANN” “REAL” “MOVEMENT”という3つの要素を柱に本作を紹介する。また、音楽ナタリーでは人気ラッパーのKEN THE 390が「ゲットダウン」を熱く語るインタビューを掲載。こちらもあわせてチェックしてほしい。

文 / 森直人(P1)、平野彰(P2、解説)

“BAZ LUHRMANN” 巨匠バズ・ラーマンがヒップホップ誕生に迫る!
バズ・ラーマン(写真提供:Anthony Behar / Sipa USA / Newscom / ゼータ イメージ)

今や世界中の若者にとってもっとも身近なカルチャーの1つとなったヒップホップ。単なる音楽やダンスというジャンルを超え、自己表現のあり方やライフスタイルにまで変化を及ぼした革命的ムーブメント──その誕生間もない1970年代後半の創生期を、実話とフィクションを交えて描くNetflixの傑作ドラマシリーズがこの「ゲットダウン」だ。

作品全体を統括するのは「ロミオ&ジュリエット」や「ムーラン・ルージュ」など数多くのヒット作を手がけてきた映画監督、バズ・ラーマン。斬新かつゴージャスな“映像×音楽”の作品世界で知られる彼が、エグゼクティブプロデューサーとクリエイティブ監修、第1話の監督を担当。ドラマの中に当時のドキュメントフィルムやニュース映像を挿入するなど、さまざまな映像素材をコラージュする“ヒップホップ的手法”を自在に駆使して、新しい文化の誕生を巡る時代環境と苦しい環境の中で夢をつかもうとする若者たちのドラマを鮮烈に演出する。

またラーマン作品には欠かせないアカデミー賞受賞の衣装デザイナー、キャサリン・マーティンがファッショナブルな1970年代の世界観を克明に創り出す。アディダスやプーマなど各メーカーの協力のもと復刻された当時のスニーカーやジーンズにも注目だ。

“REAL” ヒップホップレジェンドが集結!“本物”の魅力

このドラマにはヒップホップを確立した実在の偉人たち──伝説のパイオニアが作中人物として登場する。まずは主人公たちの師匠となる凄腕DJ、グランドマスター・フラッシュ。そしてヒップホップ生誕の聖地、セジウィック大通り1520番地を拠点とするDJクール・ハークなど。

そんなレジェンド的存在である当の本人たちがアドバイザーとしてドラマに協力しているのも大きなポイントだ。また各エピソードの前口上として、1996年にプロのラッパーとしてツアー中という設定の主人公ジークが、ティーンだった頃の自分たちを回想する──このラップパートなどをカリスマラッパーのナズが担当する。ほかにもヒップホップの歴史家ネルソン・ジョージが企画の初期段階から参加するなど、各分野の第一人者たちがクリエイティブチームに名を連ねた。その時代を生きた彼らのような“本物”の強固なサポートを得ることで、実際の歴史に沿ったハイクオリティなミュージックドラマが完成したのだ。

ヒップホップのサンプリングソースとして頻繁に使用されてきたドイツのバンド、カンの「ビタミンC」が繰り返し流れるなど、音楽ファンのかゆいところに手が届く選曲も秀逸!

  • ナズ(写真提供:Pacific Press / Sipa USA / Newscom / ゼータ イメージ)
  • グランドマスター・フラッシュ(写真提供:Anthony Behar / Sipa USA / Newscom / ゼータ イメージ)
“MOVEMENT” 貧しき若者たちが一大ムーブメントを巻き起こす
「ゲットダウン」より。

物語の舞台は1977年の荒廃したニューヨーク、サウスブロンクス。当時のヒットチャートはディスコミュージックが全盛。そこから弾き出された貧しい若者たちは、ブロックパーティと呼ばれる自分たちのパーティを催し、そのアンダーグラウンドシーンからヒップホップの各種スタイルが生まれていった。

ドラマはこうした背景を、彼らの成長ドラマに乗せながらスムーズに紹介しつつ展開していく。主人公は詩の才能を持った“ジーク”こと高校生エゼキエル。優秀な彼はインターンとして政治の世界に身を投じつつ、仲間と結成したヒップホップグループ“ゲットダウンブラザーズ”の活動とのはざまで葛藤を重ねる。一方、ジークの恋の相手、牧師の娘であるマイリーンは抜群の歌唱力を生かしてディスコクイーンの夢を目指す──。

犯罪や貧困が蔓延する中での市長選や、ディスコ絡みのゲイカルチャーなど、当時のニューヨークを巡るさまざまな局面を交錯させた構成が見事。これは青春物語であり、ラブストーリーであり、リアルな社会派ドラマでもあるのだ。

音楽ナタリー Netflixオリジナルドラマ「ゲットダウン」特集 KEN THE 390 インタビュー
Netflixオリジナルドラマ「ゲットダウン」
全11話独占配信中
Netflixオリジナルドラマ「ゲットダウン」
ストーリー

犯罪と貧困がはびこる1977年のニューヨーク。詩の才能を持つ少年ジークは、自身の可能性を信じることができず日々を無為に過ごしていた。ある日彼は、幼なじみのマイリーンの気を引くためにレアなレコードを探しに行った先で、“シャオリン・ファンタスティック”と名乗るエキセントリックな男と遭遇。当初は対立する2人だったが、ジークの友人であるキプリング3兄弟とともにヒップホップグループ“ゲットダウンブラザーズ”を結成し、アンダーグラウンドシーンで頭角を現していく。

スタッフ
  • 監督:バズ・ラーマン、エド・ビアンキ、アンドリュー・バーンスタイン、マイケル・ディナー
  • 製作総指揮:バズ・ラーマン、キャサリン・マーティン、ナズ
キャスト
  • エゼキエル・“ジーク”・フィゲロ:ジャスティス・スミス
  • シャオリン・ファンタスティック:シャメイク・ムーア
  • マイリーン・クルス:ヘライゼン・グアルディオラ
  • マーカス・“ディジー”・キプリング:ジェイデン・スミス
  • ロナウド・“ララ”・キプリング:スカイラン・ブルックス
  • マイルス・“ブーブー”・キプリング:トレメイン・ブラウン・Jr.