堂本光一が語る映画「フェラーリ」 | 「情熱と、狂気。」という言葉がふさわしい。“特別な人”エンツォ・フェラーリの物語から感じた期待以上の人間味に驚く

7月5日公開の映画「フェラーリ」を全面的に応援する宣伝アンバサダー改め“宣伝コメンダトーレ”に就任した堂本光一。筋金入りのフェラーリ好きとして知られる彼は、世界屈指の自動車メーカーの創始者にして、F1界の“帝王”と呼ばれた男エンツォ・フェラーリを描いた本作をどう観たのか。物語の中心となるのは、1年前の愛息の死と冷え切った夫婦関係、ひそかに愛し合うパートナーとの二重生活、そして死と隣り合わせのレースに懸ける情熱と狂気。映画を観終えた直後「予想とは違った」と驚く堂本に、興奮冷めやらぬままの感想を聞いた。

取材・文 / 前田かおり撮影 / 梁瀬玉実

映画「フェラーリ」予告編公開中

「情熱と、狂気。」という言葉がふさわしい

──今、ご覧になったばかりですが、率直な感想は?

実は予想していたものとはちょっと違いました。フェラーリというと情熱の赤や栄光の歴史とか華やかなイメージがあって、映画を観るまではそんなことを想像していたんです。でも、この映画ではその歴史と時代を踏まえながら、今のフェラーリにつながるような事件が忠実に描かれている。そこにはもちろんエンツォ自身の生き様や車への情熱もある。フェラーリが大好きですが、知らないこともたくさんあって。改めて、いろんなことを感じさせてくれる映画でした。

──では、観ていて驚く部分もあった?

ええ。でも、自分が大好きな車というところで見ると、レースシーンはものすごい迫力があってワクワクさせてくれる。その一方で創始者であるエンツォ・フェラーリをめぐる人間模様も色濃く描かれている。だから、車好きの人も映画好きの人も、本当に幅広く楽しむことができる映画じゃないかなと思いましたね。

「フェラーリ」場面写真

「フェラーリ」場面写真

「フェラーリ」場面写真

「フェラーリ」場面写真

──レースシーンの映像や音、それこそエンジン音はどう感じられましたか。実際に当時のオリジナルの車も多数登場しています。

いやー、もうかなりこだわっているんだなと感じました。あの時代の車の音っていうのは、もう現代においては出せない、まったく別の音ですから。エンジンもそうだし、車体やレースをリアルに再現している。イタリア全土1000マイルを縦断する公道レース“ミッレミリア”への参戦が描かれますが、フェラーリの車が連なって走っている。そのシーンだけで圧巻でしたね。

──F1をよくご覧になると伺ってますが、レース好きから見た昔のミッレミリアはどうでした?

もうむちゃくちゃな時代ですよね、現代とは違いすぎて。それこそ、マシンが公道を走って、あんな沿道ぎりぎりに見物人がいるレースなんて、今もあるんですかね? ラリーだったらあるのかな? とはいえ、道端に人が群がっているのには驚きました。そういう部分も含めて、カラーの映像で再現しているのがすごい。

堂本光一

堂本光一

──悲劇的な事故も再現されていましたけど、本当にもう危険だらけでしたよね。

現代において考えると信じられないようなことがたくさんあったんだなとしみじみ思いました。例えば、あの時代だからなんでしょうけど、レーサーが普通の私服みたいなのを着て走ってる。耐火性でもないし、もっと言えばヘルメットも被ってないときもある。走りながらたばこを吸ったり、マシンにわざわざ灰皿を付けようとしたり……。現代では考えられませんよ。逆に言うと、ある意味のんきじゃないと、命なんか懸けられなかったんじゃないかな。それぐらいかなりの確率で死んでしまう。まあ、そういう意味でもキャッチコピーになっている「情熱と、狂気。」という言葉がふさわしい映画なのかもしれない。

──劇中に出てくるレーサーの多くがミッレミリアのレースのあと数年以内には亡くなっているとか。

当時は本当に死と背中合わせだった。言葉にするのは難しいですけど、死ぬ可能性が高いからこそ、映画からは人間の愚かな部分もより鮮明に見えてくる気がして。そうじゃないと生きられない人たちを描いているというか。言葉は悪いですが、かつてマシンが“走る棺桶”と言われていた時代もあったんです。でも、その時代を生きた人たちの多くの犠牲もあったから、今の安全性や華やかさもあるんだなと、改めて痛感しました。

エンツォ・フェラーリは“特別な人”

──この映画自体で描かれるのは、エンツォ自身の人生のほんの一部、1957年、彼が59歳のときのたった4カ月間のことですが、そこはどう思いましたか?

本音を言えば、その続きがもっと見たい! この先を描いてくれないかなって思ったんです。例えば、亡くなられた息子の名前を冠した、僕が大好きなディーノという車が生まれる開発過程とか、F1の世界でフェラーリが輝く瞬間も見てみたい。でも、そういうファンが喜ぶところを描かないのが、この映画のすごさなのかもと思いました。フェラーリ好きに想像の余地を残したのが、うまいあんばいなのかな。

「フェラーリ」より、アダム・ドライバー演じるエンツォ・フェラーリ。

「フェラーリ」より、アダム・ドライバー演じるエンツォ・フェラーリ。

──本当に、凝縮して描いてますよね。

序盤のほうでエンツォが、「(車を)売るために走るんじゃない、(レースを)走るために売るんだ」と語るシーンがあるんですが、まさにこれがフェラーリのすべて。この哲学があるから、僕はフェラーリが好きなんです。

──この映画を観て、よりフェラーリが好きになりましたか?

フェラーリ好きにもいろいろいて、ただただ車のかっこよさに惚れる人もいれば、その歴史や伝統、文化を重んじる人もいる。自分のような伝統も含めて好きなタイプは、より好きを深めることができると感じました。エンツォをはじめ、フェラーリを愛してきた人たちの情熱が今もなお残っていて、遺伝子や哲学は受け継がれていると改めて思います。今もレース資金を得るために市販車を売りますし、作るのも手作業が多いからそんなに増産できない。だからこそ、フェラーリという車は世界に類を見ない特別な車なんです。

「フェラーリ」場面写真

「フェラーリ」場面写真

──エンツォ・フェラーリという人物については、堂本さんが抱いていたイメージと一緒でしたか?

この映画で初めて知った部分もたくさんありました。創始者として崇められている存在なので、経営やレースにおけるリーダーシップ的なところも描かれていましたが、彼の私生活……。それこそ、今の時代だったら倫理的にどうなの?ということも描かれていますよね。だけど、いい部分も悪い部分もあってこその人間味を感じました。

──彼の私生活は、フェラーリ好きなら当たり前に知っている話なんですか?

どうですかね、僕は知ってましたし、知っている人は知っていると思います。妻のラウラとは違う女性との間に息子がいて、そのピエロ・フェラーリが今の副会長だということも。でも、そこにどんなドラマがあったのか、感情的な部分は知らないじゃないですか。ピエロが継いだ「フェラーリ」という名前の重みも感じましたし、この映画を通してエンツォのまた違う面を見ることができた気がします。

堂本光一

堂本光一

──なるほど。

誤解を恐れずに言うと、関係が破綻した妻とは違う別の家庭を描くことで、エンツォの温かみのある一面も見えてくる。彼の時代は、テスト走行をするにしても、レースに参戦するにしても、人の命に関わる時代だった。経営者としては毅然とした態度を取らなきゃいけない場面もあったと思うんですが、だからといって人命を軽んじているわけでもない。彼のダークな部分も描かれていたからこそ、あの時代の生と死のはざまに生きるような男の決断が浮き彫りになったんじゃないかと思います。カリスマ性と言えばいいのか、エンツォはやっぱり僕の中では特別な人なんです。

「お前、乗っても大丈夫か?」と車が訴えかけてくる

──実際に乗られている堂本さんだからわかる、フェラーリの車としての魅力ってなんでしょうか。

こんなことを言っては失礼かもしれないですが、なぜそこが壊れる?ということがあるんです。でもね、そこがまたよかったりする。壊れるのが、なんかかわいいいところなんですよ。情熱が注がれた、車というものを超えた、命やいろんなものが詰まった結晶がフェラーリだと思うんです。もっとも、僕が今、こう話していることをワケわかんないと思う人もいるかもしれないですけど。でも、そういうものなんです、フェラーリ好きな人間からすれば(笑)。

──フェラーリやF1に惹かれる理由の中には、情熱や狂気という部分もありますか?

そうですね、人生において、そこまで情熱を燃やせるものってなかなか見つけられるものじゃない。ただ、僕は幸せなことに、自分の仕事に情熱を傾けられる。しかもこの仕事をしていて、いろんな体験もできるから幸せだと思っています。とはいえ、そんな僕でも仕事は別にして、レースの世界に惹かれるのはやはり普通では体験できない世界があるからですね。特にF1の世界なんてそうだと思います。

堂本光一

堂本光一

──ではこの映画をフェラーリをあまり知らない人にはどう薦めますか?

今の時代から見たらすごくこっけいに映る部分もあるかもしれないですよね。でも創始者エンツォ・フェラーリの人間らしさ、彼の持つ情熱は美しい。今の時代、情熱を持つのが気恥ずかしいことになっている部分もあるけど、そうじゃない。僕も自分の仕事において情熱を持っていたいと思っています。もしも、車に関心がない、フェラーリは好きじゃないという人だって、情熱という部分に注目すれば、観ていて、きっと何か感じるものがあるんじゃないかな。

──確かに、エンツォはエンジン1つ、ボディ1つを作るのにも命懸けな感じですよね。

そうなんです。エンツォ自身も、もともとレーサーだった。自分が経営する側に回って、設計する側に回っても、彼自身の人生がフェラーリそのもの。だからそんな情熱のこもった車なんて、ほかにあるものなのかなって思うぐらいなんです。

「フェラーリ」メイキング写真

「フェラーリ」メイキング写真

──最後にちょっとお伺いしたいんですが、この映画を観たら、フェラーリに乗りたくなりましたか?

いや、だからね、フェラーリは乗るのにも気合いがいるんですよ(笑)。それだけ情熱が込められた車だから。今持ってるのは1台だけですが、なんとなく転がしたいなと思うときもあるんですけど、なんとなく転がすだけじゃ済まない。車が訴えかけてくるんです。「お前、乗っても大丈夫か?」って。それに応えるぐらいの気合いを入れなきゃ、乗れない。ケツから伝わる振動もそうだし、ステアリングに伝わるノイズも、全体に響く振動も、フェラーリにしかない。それぐらい唯一無二のものなんです。

堂本光一

堂本光一

プロフィール

堂本光一(ドウモトコウイチ)

1979年1月1日生まれ、兵庫県出身。KinKi Kidsのメンバー。1997年にシングル「硝子の少年」、アルバム「A album」の同時リリースでCDデビューする。2000年には主演を務めるオリジナルのミュージカル「SHOCK」シリーズがスタート。2021年には作・構成・演出・主演を務めたミュージカルの劇場版「Endless SHOCK」が公開された。同シリーズでは2024年5月に国内演劇における代役なしの単独主演記録で歴代最多2018回を達成。今年がラストイヤーで、今後7月から11月にかけて大阪、福岡、東京での公演を控えている。

ヘアメイク / 大平真輝スタイリング / 渡邊奈央(Creative GUILD)
衣装 / EGO TRIPPING、ALLSAINTS、six voma