「ダンケルク」市川紗椰インタビュー|まばたきできないくらいずっとハラハラ、誰もが感情移入できる濃密な物語

セリフが少ないからこそ、たった一言が際立つ

──陸海空の3視点から「生き抜きたい」「助けたい」「守りたい」とそれぞれの目的をもとに、エモーショナルなドラマが展開していきます。各エピソードでもっとも心に響いた描写とその理由は?

私の印象では、全員が“生き抜きたい”と思っていた気がして、住み分けはそんなに感じませんでした。小さな船がたくさん集まったときに、陸にいた人が「home」とつぶやいた場面が一番胸に響きました。この作品はセリフがものすごく少ないじゃないですか。だからあのたった一言が際立ったなと思います。それとドーソンさんの息子(トム・グリン=カーニー演じるピーター)が嘘をついた場面で彼の成長を感じて……。どうして私ドーソンさん目線なんだろう?(笑)

──空のパートはいかがでした?

「ダンケルク」

空パートはキャラクターの顔がほとんど隠れているし、何が行われているのかが実は一番理解しにくかったんです。がんばれー!という気持ちで観ていて、全体の流れの中での空パートの重要性がわかったときの感動はすごかったですね。観ているときはどうしても海のおっちゃんと息子たちが心配でしたが(笑)、振り返ってみれば空が一番ぐっとくるというか、印象に残っています。1人だけであんなに大勢の人を救ったヒーローだからこそ、ラストシーンの何気ない描写には胸が押しつぶされそうな気持ちになりました。

英国のイケメンたちの共演に注目

──第2次世界大戦時の実話をもとにしていることもあって、こういった作品を普段あまり鑑賞しない女性など、興味はあっても観るのをためらっている人もいるかもしれません。もしそういった人たちの背中を押すとしたら、どんな言葉をかけますか?

みんなボロボロの姿だけどイケメンがいっぱい出てきますよ、でしょうか?(笑)

──トム・ハーディや本作で映画デビューしたハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)など、バラエティ豊かなキャストがそろっていますが、誰が一番気になりました?

「ダンケルク」より、トム・グリン=カーニー演じるピーター(左)。

やっぱりドーソンさんの息子(ピーター)ですね。きれいな顔で、熱さもあるけど優しさもあって立派な青年。彼みたいな息子がいたらすごく誇らしいなと。あと、観るのを迷っている人には戦争映画というよりサスペンスや脱出ものとしての側面が強いですよというのも伝えたいです。映画館で観て「失敗した!」と感じる人はいないと思います!

──2D / 4DX / MX4D / IMAXとさまざまなシステムで上映されますが、できるだけいい環境での鑑賞をオススメしたいですよね。

この映像や音に吸い込まれない人はいないと思うので、ためらっている人こそ映画館で観たほうが絶対いいと思います! 映画を観るというより、体験するという類の作品だし、家のテレビやパソコンで観るのとはまったく違うはずです。どうしようって思っている人ほど早く観たほうがいい。

──もう一度ご覧になるとしたらどのあたりに注目したいですか?

市川紗椰

時間の経過に集中して観たいです。戦闘機が好きなので、スピットファイアももう少ししっかりと観たいな。ほかにも気になる要素はいっぱいありますね。

──では、本作から市川さんが受け取ったメッセージがありましたら教えてください。

この作品を観たのは、日本の終戦の日にあたる8月15日だったんです。アメリカと日本が戦争に入る前の物語なので感慨深い気持ちで観ていたし、こういうこと(戦争)を二度と起こしてはいけないんだと、素直に思ってしまった自分がいました。

チャレンジングなテーマをこの規模で描けるのはノーランだけ

──すでに封切られている国では、軒並み大ヒットを記録しています。イギリスがテロ事件やEU離脱などで揺れているこのタイミングで、なぜノーランがダンケルクを描いたのか。市川さんの視点から何か感じたことはありますか?

市川紗椰

陸の兵士たちが「あいつはフランス人だから」と言ったり、人々が徐々に内向きになっていくシーンがありましたよね。そういう姿は情けないという感覚を改めて持つのは大切だと気付いたのですが、そんな感覚がちょっと薄れてきつつある世の中になっているのではと思いました。あと渋くてチャレンジングなテーマをこの規模で描けるのはノーランだけだなとも。

──確かにそうですね。今まで結果を残してきたノーランだからこそ、ゴーサインが出たのではないかと感じます。

同じ企画でも10年前に出していたらOKが出なかったかもしれません。きっと人々がこういう作品を求めているということなんでしょうね。今は自分たちでさまざまな解釈ができるものが求められていると思うので、そのあたりは時代と一致しているかな。たった99分の中にいろんな物語がぎゅっと凝縮されているけど、メッセージを押し付けるのではなくて、「じゃあ私はこれを心に留めよう」と選べるくらい濃密なのが今の感覚に合っているのかなと思います。

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「ダンケルク」
2017年9月9日(土)全国公開
「ダンケルク」

1940年、海の町ダンケルク。イギリス軍はフランス軍とともにドイツ軍に圧倒され、英仏連合軍40万の兵士は、ドーバー海峡を臨むこの地に追い詰められた。陸海空からいつ始まるかわからない敵襲を前に、撤退を決断する。民間船も救助に乗り出し、エアフォースが空からの援護に駆る。爆撃される陸・海・空、3つの時間。走るか、潜むか。前か、後ろか。1秒ごとに神経が研ぎ澄まされていく。果たして若き兵士トミーは、絶体絶命の地ダンケルクから生き抜くことができるのか!?

「史上最大の救出作戦」と呼ばれたダンケルク作戦に、常に本物を目指すクリストファー・ノーランが挑んだ。デジタルもCGも極力使わず、本物のスピットファイア戦闘機を飛ばしてノーランが狙ったのは「観客をダンケルクの戦場に引きずり込み、360°全方位から迫る究極の映像体験」!

スタッフ / キャスト

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
音楽:ハンス・ジマー
出演:トム・ハーディ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)、フィン・ホワイトヘッド

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市川紗椰(イチカワサヤ)
1987年2月14日生まれ、愛知県出身。Sweet、BAILA、MAQUIAなどファッション・美容誌を中心にモデルとして活動。2015年には小西康陽プロデュースのシングル「夜が明けたら」をリリースし、2016年からは報道・情報番組「ユアタイム」のメインMCを担当するなど、近年活躍の幅を広げている。映画出演作に「トイレのピエタ」がある。