「ダンケルク」市川紗椰インタビュー|まばたきできないくらいずっとハラハラ、誰もが感情移入できる濃密な物語

まばたきができないくらい釘付けに

──時間との戦いという、タイムサスペンスの要素についてはいかがでした? もっとも手に汗握った場面はどこでしょう。

市川紗椰

まばたきができないくらい、ずっとハラハラしていました。でも手に汗握るというよりは、嫌なことが起こるんじゃないかという圧迫感があって。

──そう感じられたのは、刻一刻と変わる場面に重なる音楽の印象も強いのではないかと思います。ハンス・ジマーの音楽についてはどのように感じましたか?ノーランの懐中時計の音を録音して重ねたり、音がずっと上がり続けているという錯覚を起こさせるテクニックを使って曲を作ったり……。

シェパードトーン(無限音階)ですよね? 確かに音楽はすごくよかった! ノーラン作品の音は、「ダンケルク」以外でも常に追い詰められている感覚になるようなイメージがありますね。BGMや効果音などを人の言葉と同じくらい大事に扱っている印象が強いです。

──今回は音楽と映像の相乗効果で、観客が自分も戦場にいるかのようなリアリティを感じる作品になっています。

生き延びる、逃げるという状況に、自分自身が入り込んでいるかのような生々しさがありましたね。観終わったあとで考れば考えるほど、そういう要素が大きい作品だなという思いが強くなります。

──焦点をぎゅっと絞ることで、観客が物語に入り込みやすくなると。

そうですね。あとは年齢とか、どういう家族がいてなんのために戦うのかといった、それぞれのキャラクターの背景を知らないから、ちゃんと観ていないと誰が誰だかわからなくなる。だからこそ作品の世界に入れる感じがあるのかなと思います。戦争映画って「家に残っている子供のために、親のために」とか、そういう要素をものすごく掘り下げますよね。その描写がないのがかえってよかったです。

「ダンケルク」より、マーク・ライランス演じるミスター・ドーソン。

──ノーランはまさにそれを目指していたそうで、兵士役の多くには演劇学校の生徒や、まだエージェンシーと契約していない無名の若者を起用したそうです。劇中でもっとも感情移入した人物は誰でしたか?

「ダンケルク」より、フィン・ホワイトヘッド演じるトミー。

とにかくこの人だけは助かってほしい、どうか無事でいてほしい!と願ったのは、海のパートに出てくるドーソンさんでした! こういうイギリスのおっちゃんいるなという感じで、自分の父親と重ねたんですかね(笑)。私はもともと俳優さんにはあまり詳しくないのですが、主人公の子(トミー役のフィン・ホワイトヘッド)は、絶妙なルックスですよね。いろんな時代のいろんな人になれる見た目のことを、英語では“エブリマン”と言うんです。すべての世代、国の人がうまく感情移入できるルックスで、日本だったら「友達の友達に似ている」とよく言われるような。彼にはそういう要素がすごくあるなと思います。

私だったらひたすら逃げると思う

──特集の第2回にご登場いただいたマンガ家の花沢健吾先生は、「自分はこの場にいたくない」と思うほどリアルで強烈な疑似体験をしたとおっしゃっていました。市川さんご自身がこのような戦場に放り込まれたとしたら、どのような行動を取ると思いますか。もし陸で逃げ惑う兵士の1人だったとしたら……。

市川紗椰

そういう視点では観ていませんでしたが、おそらくひたすら逃げると思います。勇敢に動くことはないかな。民間の船に乗った人だったら、たぶん引き返していますね。シェルショック(戦闘が原因で起こるストレス反応)の兵士を1人助けた時点で満足するように自分を説得します(笑)。私はぬくぬくと生きてきたので、踏み出す勇気さえ持てないと思います。

──ノーラン作品の常連であるキリアン・マーフィーが演じた、“謎の英国兵”ですね。彼は「ダンケルクには戻らない。行ったら全員死ぬぞ」と言ってました。

複雑なキャラクターでしたね。彼がどうしてああいう状況になったのかを、フラッシュバックのシーンを入れずにわからせるという手法がすごい。名前が付いていないのには、当時はいかにこういう方がいっぱいいたかという意味合いが込められているんでしょうね。

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「ダンケルク」
2017年9月9日(土)全国公開
「ダンケルク」

1940年、海の町ダンケルク。イギリス軍はフランス軍とともにドイツ軍に圧倒され、英仏連合軍40万の兵士は、ドーバー海峡を臨むこの地に追い詰められた。陸海空からいつ始まるかわからない敵襲を前に、撤退を決断する。民間船も救助に乗り出し、エアフォースが空からの援護に駆る。爆撃される陸・海・空、3つの時間。走るか、潜むか。前か、後ろか。1秒ごとに神経が研ぎ澄まされていく。果たして若き兵士トミーは、絶体絶命の地ダンケルクから生き抜くことができるのか!?

「史上最大の救出作戦」と呼ばれたダンケルク作戦に、常に本物を目指すクリストファー・ノーランが挑んだ。デジタルもCGも極力使わず、本物のスピットファイア戦闘機を飛ばしてノーランが狙ったのは「観客をダンケルクの戦場に引きずり込み、360°全方位から迫る究極の映像体験」!

スタッフ / キャスト

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
音楽:ハンス・ジマー
出演:トム・ハーディ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)、フィン・ホワイトヘッド

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市川紗椰(イチカワサヤ)
1987年2月14日生まれ、愛知県出身。Sweet、BAILA、MAQUIAなどファッション・美容誌を中心にモデルとして活動。2015年には小西康陽プロデュースのシングル「夜が明けたら」をリリースし、2016年からは報道・情報番組「ユアタイム」のメインMCを担当するなど、近年活躍の幅を広げている。映画出演作に「トイレのピエタ」がある。