マイケル・B・ジョーダン×村田雄介「クリード 過去の逆襲」公開記念対談、「ワンパンマン」のマンガ家がその映像センスに脱帽 (2/2)

マイケル・B・ジョーダン×村田雄介 対談

「クリード」「ワンパンマン」に共通する“主人公の条件”(村田)

マイケル・B・ジョーダン 村田先生、初めまして! 大ファンなので、とても光栄です。

村田雄介 初めまして! 僕のほうこそ、お会いできて本当にうれしいです。「クリード 過去の逆襲」を昨夜拝見しましたが、素晴らしかったです。大げさじゃなく、一生覚えている映画の1本になりました。

ジョーダン 嘘だろ……(天を仰ぐ)。こうやって先生とお話しできること自体、僕にとって本当に特別なことですが、そう言っていただけて感激しています。

僕は「ワンパンマン」にものすごく影響を受けていますが、ヒーローの旅路を描いた物語だと感じています。さまざまなキャラクターが試練に挑戦し、成長していく過程を描いていて、愛や思いやりも感じます。主人公のサイタマは最強を極めてしまったからこそ、また違った立ち位置にいますよね。彼の外側と内面の違い(周囲に強さが伝わっていない点)も魅力的です。

「クリード 過去の逆襲」を監督するうえで日本のマンガやアニメに大きな影響を受けたというマイケル・B・ジョーダン。

「クリード 過去の逆襲」を監督するうえで日本のマンガやアニメに大きな影響を受けたというマイケル・B・ジョーダン。

村田 ありがとうございます。「クリード」と「ワンパンマン」には共通する“主人公の条件”があると思っています。それは何かというと、主人公と戦った者は敵/味方かかわらず人生が上向きになることです。サイタマの場合、ワンパンで相手が死んでなければですが……。

ジョーダン 確かに。戦いの中で自身のことを学ぶからかもしれませんね。何が自分の人生に立ちはだかり、何が自分の心に葛藤を生んでいるのかということに、試合の中で向き合っていく。それってすごくエモーショナルですよね。

先日、「ヒーローとヴィラン、どちらを演じるのが好きですか?」という質問を受けました。僕の答えは「ヴィラン」。なぜなら、ヴィランはヒーローと違ってルールがないからです。でもヒーローは常に正しい選択をしなければならないし、それが続くと飽き飽きしてしまう瞬間もあるかと思います。だからこそ、僕にとってヒーローを演じるのは挑戦でもあるんです。

村田 「クリード 過去の逆襲」では、「正しさばかりが人生ではないのだ」ということが語られますよね。アドニス・クリード自身も旧友のデイム(ジョナサン・メジャース)にしたことをずっと悔いていて、その過去に対峙せざるを得なくなる。第1作「クリード チャンプを継ぐ男」で、ロッキーがクリードに鏡の中の自分とシャドーボクシングをさせますよね。「こいつ(自分自身)はリングに上がるたびにお前と対戦する。それはボクシングでも人生でも同じだ」というようなことを言いますが、それが一番よく出ていたのが今作でした。

「クリード 過去の逆襲」より、鏡の前でシャドーボクシングするアドニス。傍らにロッキーの姿はない。

「クリード 過去の逆襲」より、鏡の前でシャドーボクシングするアドニス。傍らにロッキーの姿はない。

ジョーダン おっしゃる通りです。今回、もっとも難しかったのがクリードの過去を描くモンタージュでした。今まさに村田先生が挙げてくださった「クリード チャンプを継ぐ男」のシーンを何度も観返して作っていきました。そしてまた今回は、デイムがクリードの映し鏡でもあります。そのためスプリットスクリーン(画面分割)を使って2人を対比させました。これは「クリードとデイムにつながる部分がある」という意味も込めています。

クリードのルーツと向き合う必要(ジョーダン)

村田 主人公の素晴らしさはもちろん、敵にどれだけ人間味があるかが、作品の面白さやクオリティにつながるかと思います。今回の敵デイムは今までで一番手ごわく見えました。

ジョーダン まさにそうです! 敵は主人公と同等、時には主人公以上に魅力的に描く必要があると思います。そうしないと、主人公が乗り越えることで成長を描けないんですよね。

「クリード 過去の逆襲」より、ジョナサン・メジャース演じるデイム。

「クリード 過去の逆襲」より、ジョナサン・メジャース演じるデイム。

村田 「ブラックパンサー」のキルモンガー(※ジョーダンが演じたヴィラン)はまさにそうでしたよね。大好きなキャラクターです。

ジョーダン キルモンガーは僕にとっても特別なキャラクターでした。文化的にもコミュニティの面でも、ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンと僕の関係もそうですし……。ライアン・クーグラー監督とも話し合いを重ねて作っていった人物です。先ほどお話しした「ヒーローの条件」を利用したキャラクターでもありますよね。ティ・チャラはヒーローとして行動しなければならないけど、そのことが逆にキルモンガーに付け入る隙を与えてしまっているわけですから。

村田 ジョーダン監督は「クリード 過去の逆襲」にご自身の個人的なドラマを盛り込んだと語っていらっしゃいました。クリードもキルモンガーも、父の影を背負ったキャラクターですよね。

ジョーダン クリードは父親が不在で、父母と暮らす家族の形を経験していません。キルモンガーもそうですね。家族や周囲の人間、あるいはコミュニティから愛される経験をしていないと、村を焼き尽くしてもいいというような思想になってしまう。「クリード チャンプを継ぐ男」で描かれたような、クリードが抱える“怒り”ですよね。

ただ、クリード自身が家族を作るとなったとき、自分のアイデンティティはなんなのか、どのように育ったのか、そのうえで何をしたいのか──。そうしたルーツと向き合う必要が出てきます。父親から学んでいない分、正しくいられるのか?と葛藤もあるかと思います。「クリード チャンプを継ぐ男」は、父の行為を踏まえて自分が間違いではなかったことを証明しようとする物語でもありました。そして、クリードは「いい父親」であるために家族に過去を隠す選択をしましたが、今作ではついに自分の心情をさらけ出さなければいけなくなります。そうした人生の重要なポイントをしっかりと描くことは、今回重視したことの1つです。

幼なじみの出所をきっかけに自身のトラウマや痛みに向き合い始めるアドニス(右)。テッサ・トンプソン演じるパートナーのビアンカ(左)も3作続けての登場となった。

幼なじみの出所をきっかけに自身のトラウマや痛みに向き合い始めるアドニス(右)。テッサ・トンプソン演じるパートナーのビアンカ(左)も3作続けての登場となった。

村田 クリードが抱えている問題が自分の年齢的にも刺さりすぎて、この先自分が人生の岐路に立ったときに「クリードならどう考えるだろう?」と考えると思います。それはイコール「ジョーダン監督ならどうする?」だと思いますし、自分の行動基準になるレベルの素晴らしさでした。

ジョーダン そこまで言っていただけて、とてもうれしいです! ものづくりをしているときはどうしても1人の世界に没入してしまうものですが、自分がキャラクターや作品に注ぎ込んでいる思いがほかの人に届いてほしいと願いながら作っていますから。

僕はいま36歳ですが、人生の節々で下す選択が積み重なりレガシー(遺産)になっていくのだと感じます。残念ながら常に正しい選択はできないものですが、「正しくありたい」という気持ちが大切ですよね。

映像で見せるセンスがずば抜けている(村田)

村田 今のお話にも通じる、「いろいろな人たちとぶつかりながら最終的に何をクリードは手に入れるのか」が、本作では非常にうまく表現されていました。そうしたドラマ面もそうですし、試合シーンの臨場感もすさまじかったです。「クリード 過去の逆襲」はスポーツもので初めてIMAX撮影を行ったと伺ったのですが、パンチの衝撃や肉のえぐれ具合、そして……。

ジョーダン 汗!

村田 そう、汗!(笑) 汗の表現も素晴らしかったです。

ジョーダン IMAXの表現には本当に助けられました。「ロッキー」シリーズとしては9本目の作品で、ファイトシーンの演出はもうやり尽くされているわけです。何か新しい表現はないかと模索していたときに、IMAX撮影によってさまざまな発見が得られました。準備期間にモハメド・アリの試合を観返していたら、屋外で戦っているものがあって「これはいいな」と思っていたのですが、IMAXだとリングの背景にある風景も空も丸ごと撮れます。サウンドシステムも素晴らしいし、逆手にとって音のないシーンを作れば、そこがコントラストにもなります。

スポーツ映画として初めてIMAXカメラを採用した「クリード 過去の逆襲」。

スポーツ映画として初めてIMAXカメラを採用した「クリード 過去の逆襲」。

マイケル・B・ジョーダンは自身が愛するアニメの演出やテクニックを引用した。

マイケル・B・ジョーダンは自身が愛するアニメの演出やテクニックを引用した。

村田 また、本作を拝見してジョーダン監督の“一枚の画で魅せる”表現に感銘を受けました。例えば保護観察中のデイムが足かせを外して試合に向かうシーンで、ロッカールームから去っていくクリードとの間に壁という“隔たり”が描かれますよね。それが彼らの人生を暗喩していて秀逸でしたし、試合中にグロッキーになったクリードの脳内にオーバーラップする回想シーンの美しさ──言葉によらず映像で見せるセンスがずば抜けているから、画を見るだけでわかるんです。監督の表現は国境も関係ないし、表現形態にもよらない。「クリード」は今後アニメ化プロジェクトが始動すると伺いましたが、実写であろうとアニメであろうと成功するだろうと確信しています。

ジョーダン (喜びを噛み締めながら)参ったな、うれしすぎて言葉になりません……。ずっと俳優をやってきて、長い間それが自分を定義するものでもありました。でも今回監督に挑戦して新しい映像言語を手に入れて、カメラの前に立つのではなく後ろに立ってものを作ることができてすごくうれしかったんです。自分自身、成長を実感しているタイミングです。

自分の限界を押し広げていきたい(ジョーダン)

村田 アニメ版という広がりも、ジョーダン監督自身のキャリアアップに連動しているように感じます。実写の監督がアニメに踏み出すことはあまりないかと思うので、すごく楽しみです。

ジョーダン さっきから僕は「ありがとうございます」としか言えていませんが(笑)、本当にありがとうございます。そうなれたらと思っています。

村田 「はじめの一歩」がお好きと伺いましたが、まさにジョーダン監督にとっての“はじめの一歩”なのですね(笑)。

ジョーダン そうですね(笑)。実は「アニメの実写版を監督しないか?」というアプローチも何件か来ているのですが、「それはできない……」と答えています。というのも、今の実写の技術では、100%正しい形では翻訳できないと思うからです。今後技術が発達したら、質感にしろうまく実写に変換できるようになるかもしれませんが……。ただ、興味はあります。僕も村田先生のように毎作品違ったジャンルに挑戦したいし、自分の限界を押し広げていきたいと思っています。

今回が初来日となったマイケル・B・ジョーダン。来日中はJUMP SHOPやアニメの制作会社を訪れるなどマンガ・アニメ好きの一面を見せた。

今回が初来日となったマイケル・B・ジョーダン。来日中はJUMP SHOPやアニメの制作会社を訪れるなどマンガ・アニメ好きの一面を見せた。

村田 まさに“新時代”ですね。それがジョーダン監督から展開されるのをすごく楽しみにしています。

ジョーダン 村田先生さえよければ、ぜひ一緒に仕事をしましょう!

村田 えぇ!? そんな光栄なことがあるんですか……。生きててよかった……!

ジョーダン ぜひぜひ。僕はコラボレーションが大好きで、才能ある方々と一緒に作品を作りたいと思っています。

村田 ジョーダン監督のお力になれるのであれば喜んで!

ジョーダン 僕も同じ気持ちです。僕は8歳から日本のアニメに影響を受けているので、自分が愛しているクリエイターの方々とコラボレーションできるのは幸せでしかないですし、今の自分と同じ感覚を持った方々と仕事をしたいという思いが強くあります。今日初めて村田先生とお会いしましたが、前にお会いしたような気がするんです。不思議な親近感があるというか。

限られた短い時間の中で、クリエイターとして刺激し合ったマイケル・B・ジョーダン(左)と村田雄介(右)。

限られた短い時間の中で、クリエイターとして刺激し合ったマイケル・B・ジョーダン(左)と村田雄介(右)。

村田 うれしいです。僕もマンガにとどまらず、アニメーションのスタジオを立ち上げてアニメを作ったり、挑戦し続けたいなと思っています。クリエイターってファイターだと思うんですよね。

ジョーダン どの瞬間においてもそうですよね。常に闘いの連続ですよね(笑)。

村田 そうなんです(笑)。「クリード」はそんなファイターたちに贈るバイブルだと思っています。人生の岐路に立っているこの年代・このタイミングで出会えて、すごく幸せでした。本日はありがとうございました!

ジョーダン こちらこそ、ありがとうございました!

プロフィール

マイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)

1987年2月9日生まれ、米カリフォルニア州出身。俳優、映画監督、プロデューサー。2013年に映画初主演作「フルートベール駅で」が各国の映画祭や映画賞で評価され、ブレイクを果たす。2015年には「ロッキー」の新章「クリード チャンプを継ぐ男」で主演。2018年にはヴィランのキルモンガーを演じた「ブラックパンサー」が大ヒットし、同年にはアドニス・クリードを再演した「クリード 炎の宿敵」が公開される。シリーズ3作目となる「クリード 過去の逆襲」では監督デビューを飾った。待機作にはダニー・ボイル監督作「Methuselah(原題)」、4度目のタッグとなるライアン・クーグラー監督作「Wrong Answer(原題)」がある。

村田雄介(ムラタユウスケ)

1978年7月4日生まれ、熊本県出身。マンガ家。1995年に投稿作「パートナー」で第122回ホップステップ賞に入選し、少年ジャンプ増刊AutumnSpecialに掲載されデビュー。2002年には原作に稲垣理一郎を迎え、アメリカンフットボールを題材にした「アイシールド21」を週刊少年ジャンプで発表。日本では珍しいスポーツを扱ったにもかかわらず累計発行部数2000万以上の人気となり、2005年にはアニメ化された。2012年にはONE原作の「ワンパンマン」リメイク版がとなりのヤングジャンプで連載スタート。テレビアニメは第3期の製作が決定しているほか、ハリウッドで実写映画化に向けたプロジェクトが始動したことも報じられている。

2023年5月26日更新