1922年7月2日、イタリアのヴェニス近郊生まれ。2歳のときにフランスへ一家で移住し、17歳になると仕立て屋で働き出す。1945年、拠点を憧れのパリへ。オートクチュール(高級仕立服)の世界に入る意志を固くしていた彼は、さまざまなブティックで働き人脈を広げ、翌年クリスチャン・ディオールの立ち上げに参加する。そして型破りなアイデア力を発揮し、激動の時代を駆け抜けていく。
フランスのファッションデザイナー、ピエール・カルダン初のドキュメンタリー「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」が10月2日に全国公開される。
未来的なコスモコール・ルックで若者を熱狂させ、世界中におしゃれの楽しさを広めてきたカルダン。オートクチュール(高級仕立服)から気軽に買えるプレタポルテ(既製服)に業界初参入し、また社会主義国の中国やソビエト連邦で初のファッションショーを行うなど、その功績は数知れない。
この特集では、98歳を迎えた今も現役として活躍する彼が成し遂げた偉業の数々を紹介。またファッションやアートの分野でも個性を光らせる女優・伊藤万理華に映画の感想を聞いたほか、制作の裏側を明かす監督インタビューも掲載している。
文 / 金須晶子
最先端を行く人だったんだ
──ピエール・カルダンのことは知っていましたか?
名前は知っていました。Aラインのシルエットや、宇宙っぽいデザインというイメージがあるぐらいで。最近インテリアが好きで、ヴィンテージの家具店を巡っていたときに変わった形の棚を見かけたんですけど、たぶんそれもピエール・カルダンの製品だったのかなと思います。洋服だけじゃないんですよね。
──そうですね。ファッションデザイン以外にも、ライセンスによるブランドビジネスも手がけました。
すごいです。初めて男性モデルのショーを行ったとか、初めてオートクチュールを既製服に落とし込んだとか、そういった歴史は知らなかったので映画を観て驚きました! 最先端を行く人だったんだなって。あとはビートルズの丸襟ファッションもカルダンの影響だったとか、もともとクリスチャン・ディオールにいたとかも初めて知って、自分の中で点と点がつながっていくのが面白かったです。
──カルダンにディオール、ほかにもココ・シャネルやジャン・コクトーといった人物もみんなパリにいて、すごい時代ですよね。
私はジャン=ポール・ゴルチエが好きなので、(カルダンと)師弟関係にあったというのもうれしかったです。好きと言ってもお店で買うとかではなく、古着を探したりしてるんですけど。それにイヴ・サンローランとのライバルのような関係も……。赤裸々に語られる部分もあって、ドキュメンタリーならではだなと思いました。
“名刺”にとらわれない生き方
──カルダンはデザイナー以外にも、経営者、俳優、モデルなど、さまざまな顔を持ちます。伊藤さんも個展を開いたり、演技をしたりと活躍していますが、カルダンの姿を見てどう感じましたか?
デザイナーという“名刺”にとらわれず、いろいろ挑戦している姿から、私も好きなことをどんどんやっていいんだ!と思わせてもらえました。オンリーワンなことって一歩踏み出すのが難しいけど、めげずに好きなものを発信し続ければ、いずれ認めてもらえるのかなって。お芝居もファッションも好きですし、自分で何か作ってみたい気持ちもあるので、何か1つにとらわれなくていいという生き方に勇気をもらえました。私も長生きして好きなことをやっていきたいです。
──98歳になったカルダンですが、今も業界の中心で活躍していますね。
もうすぐ100歳! 本当に好奇心の強い方なんだなと思います。作ることが生きがいなんでしょうね。私もそれぐらいの歳になっても個展をやったりしているのかな……。わからないですけど、おばあちゃんになっても服は絶対好きですし、ずっとファッションを楽しんでいたいです。
勇気が欲しい人に響く作品
──伊藤さんはご両親がデザイナーということもあって、“ファッションを楽しむ”という意識は早いうちから芽生えていたのですか?
そうですね。服を楽しむのは日常的だったので、小学校に入る頃には自分で選んだ服を着ていました。あとは母のお下がりをよく着ていたので、そこからブランドを知ることが多かったです。カーキや紫が好きで、ちょっと渋くて(笑)。親の影響だったんですけど、大人が着るような服をかわいいと思っていました。
──自分が好きなものを早い時期に見つけ、自覚できていたのはうらやましいです。“自分らしいファッション”がわからず悩んだことはありませんでしたか?
迷走をしていた時期もあります(笑)。母親のお下がりばかり着ていたので、クラスの子たちが読むようなティーン系のファッション誌を初めて見たとき衝撃を受けて。こういうのを着たほうがいいのかな?と思って、親に内緒で自分のお小遣いでコンサバなバッグを買ったんです。親が「いい」と思わないことはわかっていたのでクローゼットの奥に押し込んで、友達と出かけるときに流行の服やバッグをこっそり引っ張りだしていました(笑)。
──そういう道もたどったうえで、ファッションが好きなんですね。
この仕事を始めてからは、単に服が好きなだけではなく、もっと知識も取り入れなくちゃと思い始めて。なので「このブランドが好き」だけではなく、それを作った人に対しても興味を持つようになったらさらに面白くなりました。こういう生き方、こういう考えがあったから作られた服なんだ、という背景を知ることも含めてファッションが好きです。
──カルダンのドキュメンタリーも、作り手の背景を知るうえで勉強になる映画ですね。
はい! 一度は耳にしたことのある名前がたくさん出てくるので、こういう関係だったんだと驚くと思います。それにカルダンが手がけた服や作品もたくさん見られるので、色鮮やかな世界観に刺激をもらえます。今やってみたいことがあっても自信がなかったり、無理かもと思っている人にぜひ観てほしいです。カルダンの「周りにどう思われてもいい」という言葉に、自分も行動してみようと思えるはず。そんな勇気が欲しい人に響く作品です。
- 伊藤万理華(イトウマリカ)
- 1996年2月20日生まれ。2011年、乃木坂46に1期生メンバーとして加入。2017年12月にグループ卒業後、同年に初の個展「伊藤万理華の脳内博覧会」を開催。以後、女優としてドラマ、映画、舞台に出演する一方、雑誌・装苑での連載や、2020年にPARCO展「HOMESICK」を開催するなどアート方面でも個性を発揮し、多岐に渡って活動している。2020年10月8日からPARCO初の配信作品「仮面夫婦の鑑」朗読編に妻役として出演。また11月4日より上演の舞台「月刊『根本宗子』第18号『もっとも大いなる愛へ』」では主演を務める。