三池崇史×やべきょうすけ対談|「クローズZERO」から「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」へ、不良バトル映画はなぜいつの時代も求められるのか (2/2)

GACKTさんは完璧なアクションを見せてくれた(やべ)

──不良グループのリーダー・吉祥丸盾を演じた久遠親さんも強烈な存在感でよかったです。

三池 彼はそれなりに芝居の経験があるし、一見クールに見えて、役者として何かをつかみ取りたいという熱を誰よりも持っている男なので、「彼がイクトをやったらどうなんだろう?」という話もしました。でも、そうならなかったのはあの役があったから(笑)。吉祥丸盾役にピッタリだったんです。

「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、久遠親演じる吉祥丸盾

「BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、久遠親演じる吉祥丸盾

やべ 久遠はオーディションのときからすごかったですよ。“東京で一皮むけるまでがんばるんだ!”という気持ちで参加していて。オーディションが1日終わるたびに「まだ足りない、まだ足りてない!」「なぜ自分の力をもっと出せないんだ!」ってストイックになって、大好きなビールもやめていた。最終オーディションで三池さんたちが主演を決めきれなくて、追加オーディションをやることになったときはけっこう切羽詰まっていたんです。だから、「久遠さあ、ここまで残ったんだから、自分をそんなに追い込まずに、今日ぐらいビールを飲んでもいいんじゃない?」って言ったんです。そしたら、緊張の糸が切れたように体を震わせながらブワ~って泣き出したんですよ。今の時代に、こんなに自分を追い込む23歳がいる?って、正直驚きました。

──それで、つかみ取ったのが吉祥丸役だったんですね。

やべ 台本をすべて読んでいる僕は吉祥丸は大事な役、人としての奥深さがないと演じられない魅力的な人物という認識でしたけど、オーディションを受けるやつらは台本の1部しか見ていないから悪いキャラという捉え方だったんです。結果発表で、吉祥丸役に選ばれた久遠も複雑な表情をしていて。「悔しいです」ってこぼすから、「台本をしっかり読んでみて」って言ったんです。そしたら、撮影現場で会った久遠は「めちゃくちゃ難しいですね、この役。すごくやりがいがあります」って楽しそうにしていたので、僕は“ああ、この子は本物の役者だな”って思いました。

三池 主役がものすごく売れている人だったら、その人を中心に世の中の人からこの映画はこんなふうに見られるんじゃないかとイメージができ上がるかもしれないけれど、今回は自主制作映画みたいなものなので、想像もできない。そういう意味では、これからあまり味わえない現場を彼らは経験したと思います。役者として大きい夢を持ちすぎていると、それはだいたい叶わないもの。その中でどうやって自分の味を出していくのか?といったことを、彼らは今後、嫌でも身に付けていくことになる。それこそ今回共演した寺島進さんを見て、不思議に思ったんじゃないですか?(笑) 小器用にお芝居をしているわけでもないのに、あの人じゃないと出せない匂いがあって、魅力的ですからね。

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」場面写真

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」場面写真

──映画「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」は、オーディションで選ばれた役者の卵とブレイキングダウンの格闘家が入り乱れる大乱闘シーンがクライマックスに待っています。

三池 みんな楽しんでいましたよ(笑)。大けがをしたやつもいなかったですし。

──朝倉さんは格闘家ならではのリアルなバトルにこだわられていて、一方のやべさんは見せるお芝居のアクションを目指されていたと思います。

やべ ブレイキングダウンチームは現場を本当に楽しんでくれてました。僕らも最初は不安だったんです。彼らはパンチやキックを相手に当てることで自分を表現してきた人たちですから、当てないアクションなんてできるのかな?って思っていましたけど、めちゃくちゃ対応してくれて。Gocooのアクションチームが前に出てくれたのも大きかったですね。

──Gocooの人たちがスタントもやられたんですね。

やべ 彼らは相手のパンチやキックをまったく受けないのではなく、当たったときの力を逃がす術に長けているんです。だから、攻撃したほうもやった感があるし、迫力も出る。格闘家の人たちも「本当の殴り合いとは全然違う」っていう不満を漏らすことなく、やりきった達成感をちゃんと味わっていましたよ。

──大乱闘シーンの終盤にはGACKTさん演じる凶悪暴走グループのラスボス・御堂静が登場し、イクトと肉弾戦を繰り広げますが、現場のGACKTさんはいかがでした?

やべ いや、すごい方ですよ。

──実際に格闘技もやられているんですよね。

やべ しかも、梅野源治というムエタイの元世界チャンピオンに蹴りを教えるぐらいの方ですから、それはもう、本当にすごかった。

三池 自分のジムも道場も持っていて、プロの格闘家の指導も受けていますから。

やべ 今回も体作りから御堂のキャラをストイックに作り上げて、技術的にも完璧なアクションを見せてくれたので驚きました。

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、GACKT演じる御堂静

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、GACKT演じる御堂静

「クローズ」がなければ今回のような企画も生まれなかった(三池)

──本作には「クローズZERO」の俳優陣も思いがけない役で出演されていますが、「クローズZERO」で芹沢軍団の頭・芹沢多摩雄を演じた山田孝之さんの今回のあの役どころは誰のアイデアですか?

やべ 最終的には監督ですよ(笑)。急遽出ることになった山田孝之をどう使う?ってなったときに、スタッフのみんなで監督にアイデアを求めましたから。

──「クローズZERO」シリーズで主人公の最凶転校生・滝谷源治(小栗旬)と肩を並べる牧瀬隆史に扮した、高橋努さんの“あの扱い”も衝撃でした(笑)。

やべ あれに関しては原作者の髙橋ヒロシさんに「こういう描き方をしようと思っているんです」という確認を取ったんですけど、「もう、やっちゃってください!」みたいな感じで。めちゃくちゃ喜んでいました(笑)。

──出演された「クローズZERO」のメンバーは本作についてどんな印象を持たれてました?

やべ みんな感じていたのは、三池さんに声を掛けていただいた喜びですね。金子ノブアキにしても、「クローズZERO II」に鳳仙学園の鳴海大我役でキャスティングしてもらって、三池さんと出会ったことで自分が大きく変わったと思っている。「クローズZERO」では鈴蘭高校で暴れ、続編で鳳仙学園に転入した鷲尾郷太役の波岡一喜もそうですね。2人とも暖日や吉澤たちに役者として出始めた当時の自分を重ねながらやっている感じで。一ノ瀬ワタルも鳳仙学園の生徒を演じて、蹴り散らかしたのが役者のスタートだから、「本当にうれしい」って大喜びでしたよ。

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、金子ノブアキ演じる大迫裕次郎

「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」より、金子ノブアキ演じる大迫裕次郎

三池 あのときの一ノ瀬は、別に役者になろうなんて思ってなかったんですよ。どうしても鳳仙の制服を着たいと。髙橋ヒロシ先生が描いた鳳仙の一員になるのが彼の本当の目的だったんです(笑)。

──すべてが「クローズ」から始まっているわけですよね。

三池 「始まっている」と言うか、原作の「クローズ」がなければ僕らが映画で関わることもなかったわけですし、今回のような企画も生まれなかったわけです。

──映画の1作目「クローズZERO」から17年も経っているのに、いまだに人気があるのはすごいことです。

やべ 男の子はやっぱりヤンチャな世界に一度は憧れるんですよね。僕らの世代は「ビー・バップ・ハイスクール」や「湘南爆走族」にハマったし、最近の「東京卍リベンジャーズ」なんかもそうだと思うけど、10年とか15年のサイクルで必ずそういう作品が必要になってくる。そういった意味でも、今回の「BLUE FIGHT~蒼き若者たちのブレイキングダウン~」はドンピシャな企画だと思います。

三池 日の当たらないものにスポットを当てるとすごく光るんですよ。不良だとか誰が強いのか?なんてことは関係ない。世の中がクローズアップしない人間たちが、主役になると1人ひとり輝き出すんです。そういう作品がいつの時代でも求められているような気がしますね。

左から三池崇史、やべきょうすけ

左から三池崇史、やべきょうすけ

プロフィール

三池崇史(ミイケタカシ)

1960年8月24日生まれ、大阪府八尾市出身。今村昌平、恩地日出夫に師事し、1991年にオリジナルビデオ「突風!ミニパト隊」で監督デビュー。1995年の「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」で劇場公開映画の初監督を務め、以来ジャンルを問わず多種多様な作品を次々に手がける。主な監督作品は、映画「DEAD OR ALIVE」「ゼブラーマン」「クローズZERO」「土竜の唄」シリーズ、「オーディション」「十三人の刺客」「悪の教典」「藁の楯 わらのたて」「無限の住人」「初恋」「怪物の木こり」など。

やべきょうすけ

1973年11月12日生まれ、大阪府出身。2007年公開の「クローズZERO」でチンピラの片桐拳を演じ、第17回日本映画批評家大賞の助演男優賞に輝く。主な出演映画は「工業哀歌バレーボーイズ THE MOVIE」「TAJOMARU」「闇金ウシジマくん」シリーズ、「夢売るふたり」「天空の蜂」「HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス」「任侠野郎」「きみの瞳が問いかけている」「カラオケ行こ!」など。