中国ドラマ「恋心が芽吹く頃~Blooming Days~」のDVD-SET1が本日8月2日に発売された。レンタルDVD Vol. 1~6もリリースとなり、U-NEXTでは独占先行配信されている。
本作は、「月に咲く花の如く」のピーター・ホー(何潤東)と「恋心は玉の如き」のハー・ホンシャン(何泓姍)が共演し、「如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃~」などで知られるNew Classics Mediaが制作したロマンス時代劇。劇中では、策略家の“オレ様王子”と心優しき聡明な令嬢が、政略結婚を機に王家の権力争いに巻き込まれながらも、夫婦として愛を育む姿が描かれる。
映画ナタリーでは、中国ドラマに造詣の深いライターの小酒真由子と沢井メグの対談をセッティング。“説得力のある物語性”や、作品によってさまざまな顔を見せる俳優陣の魅力について語ってもらった。
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取材・文 / 脇菜々香
駱家の令嬢・青蓮は恋人・呂北逸との婚礼を前に、王様・賀雲朔の亡き妻に瓜二つという理由からお妃選びに強制的に参加させられる。ところが、ある騒動が持ち上がり、駱青蓮は第三子・賀連信に妾として引き取られ、権力争いの渦中へ。そんな中、彼女は賎民に落とされた呂北逸を救うため賀連信に協力することになるが、ともに過ごすうちに民を思う彼の真実の姿を知り、次第に惹かれていく。
「恋心が芽吹く頃~Blooming Days~」予告編公開中
「ここからどうやって好きになるの?」という引きが強い(小酒)
──全36話の「恋心が芽吹く頃~Blooming Days~」では、戦略家のオレ様王子・賀連信と心優しき聡明な令嬢・駱青蓮が政略結婚をし、王家の権力争いに巻き込まれながらも愛を育んでいく様子が描かれます。さっそく本編をご覧になった感想をお聞きしてもいいですか?
小酒真由子 原作が「熹妃伝」という、中国ドラマ「宮廷の諍い女」と同じ雍正帝の時代を舞台にした宮廷ものなんですけど、お屋敷ドラマに翻案されたことで、より濃密な家族関係を描いた人間ドラマになったなと思いました。一方で、だまし合いなどの陰謀やサスペンス要素は、宮廷ドラマ並みにドラマチックでスリリングでした。
沢井メグ 私も、これは“ミニ宮廷ドラマ”だと感じましたね。正室、側室、妾などの皆さんのドロドロな駆け引きや、家族という言葉ではくくれない兄弟同士の抗争もあって、こういうのを観たかった!という気持ちになりました。展開がポンポン進むのは今どきだなという印象でしたね。
──確かに物語のテンポがよくあっという間で、飽きずに楽しめました。
沢井 あとは、関係性がほかのラブロマンスものとは違うのが面白いなと思っています。中国ドラマって一般的に男主人公、女主人公、2番手男子、2番手女子というポジションがあって、主人公たちは揺るぎないカップルというのが定石なんです。ところが、序盤のヒロイン・駱青蓮は2番手男子・呂北逸と相思相愛で、男主人公の賀連信は最初ヒロインを道具ぐらいにしか思っていない。
小酒 初恋の人ががっつり三角関係に参加してくるのは久々に観ましたよね。こういうリアルな三角関係になってくると、大人なラブストーリーの雰囲気があるなと思います。
沢井 なんとなくくっついちゃうとか、なぜかヒロインが愛されてるとかじゃなくて、駱青蓮の心が初恋の呂北逸からどう変わっていったのか、呂北逸はどう思いを断ち切ったのかがちゃんと描かれている。登場人物たちの心の動きに説得力があっていいなと思いました。
──お屋敷ものであり、政略結婚ものとも捉えられると思いますが、このジャンルの醍醐味や人気を得る理由はどんなところにあると感じますか?
小酒 時代劇に限らず、現代劇も政略結婚や契約結婚、偽装結婚などのパターンってラブストーリーでは鉄板ですよね。
沢井 ぐるっとまとめて中国では「先婚後愛」と言い、“結婚してから愛を育む”というジャンルとして認知されているんです。
小酒 よく考えたら、古代って身分が高ければ高いほど自由に恋愛できなくて、政略結婚が当たり前じゃないですか。ほぼ“はじめまして”の状態から始まり、少しずつお互いを知って、だんだん惹かれていき、相手の気持ちを探り合うプロセスがある。さらに後半は夫婦がバディとなって一緒に困難に立ち向かったりするのが醍醐味かなと思います。
沢井 「先婚後愛」ものが受ける1つの理由として、中国では現在もお見合い婚が多いというのがあります。大恋愛したわけじゃないけど悪くない相手だと思ったから結婚して、「これから愛を育んでいきます」というところから始まる結婚生活が今も実際にあるので、ドラマを観て自己投影したり、自分の憧れを見出したりできることから人気なんです。
小酒 「恋心が芽吹く頃」でいうと、まずお互いに信頼関係を築いて、お互いの大事なものや志を確認し合って、そこから愛が始まるのかどうか……みたいなところは定番としての魅力ですよね。
沢井 そのうえで、この作品では“真心”というワードが強調されていました。最初は、自分の婚約者を賤民に落とした張本人との政略結婚という、底の底からのスタートだったけど、人として心を求め合っていく過程がきちんと描かれていたと思います。
小酒 沢井さんが言う通りかなりマイナスから始まるので、「ここからどうやって好きになるの?」という引きはほかのドラマより強かったです。
沢井 なんなら、呂北逸と駱青蓮が困難を乗り越えて結ばれる物語なのかと思うぐらい(笑)。
ハー・ホンシャン演じる駱青蓮は“忍耐の人”(沢井)
──最初はうまくいくか予想がつかなかったお二人、ピーター・ホーとハー・ホンシャンのカップリングはいかがでしたか?
小酒 お似合いでした! キャスティングを聞いたときはあんまりピンと来てなかったんですけど。
沢井 確かに、ちょっと意外でしたね。ハー・ホンシャンは悪役とか小悪魔な女の役で見ることが多かったので、正ヒロインなんだっていう新鮮さと、ピーター・ホーの主人公が観られるんだ!という喜びもありました。
小酒 ピーター・ホーって最近、監督業も多いじゃないですか。ハー・ホンシャンは写真が趣味でフォトグラファーとしても活動しているので、意外とリアルに波長が合いそうだなとも思いました。このドラマはキャストの年齢層がちょっと高めだから、若々しく見える2人を主人公に置いたことで、重厚すぎる感じにならないようにしたのがよかったかも。この2人が演じたから、ロマンスにおいてはスイートな雰囲気が出たのかなと。
沢井 劇中で16、7年経ってますけど、若いときも、年老いてからのちょっと落ち着いた感じもよかったですよね。序盤のハー・ホンシャン、本当に“少女”って感じでかわいかった。
小酒 童顔ですよね。あと、彼女は「25時間恋愛」という現代ラブコメではコメディ演技が上手だなと思ったんです。「恋心が芽吹く頃」のラブコメタッチなシーンもうまく演じていたと思いました。
──ハー・ホンシャンが演じた駱青蓮というキャラクターはどう映りましたか?
沢井 一言で言うと“忍耐の人”という印象ですね。中国ドラマのヒロインってみんなそれぞれの強さがあると思うんです。例えば現代劇だったらパワー系のバリキャリとか、宮廷ドラマだったら与えられた環境の中で表では笑顔、裏ではいろんなことを考えて画策するしなやかな強さを持つヒロインなど。それらとはまた違う忍耐の強さが新鮮に感じました。
小酒 「瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」とかだと、何かが起こったときにその場ではっきり言い返したり、詰めたりするシーンがあったと思うんですけど、「恋心が芽吹く頃」の駱青蓮は面と向かって相手を言い負かしたり反撃しないですよね。相手に悟られないように虎視眈々と静かに反撃のときを待つ。その貫禄が印象的でした。彼女はすごくかわいい顔をしてるのに、意外と“コワモテオーラ”を出しているじゃないですか(笑)。
──確かに、途中から「青蓮だったら、何か考えがあって言っているのだろう」と思いながら観るようになりました。
小酒 その場では負けそうに見えても、「いやいや、青蓮なら絶対負けない!」と。
沢井 どういう策で対抗するのか、ワクワクしながら観ていました。いったん引いても、これをひっくり返していくんだろうと思うと楽しかったですね。スカッとする!
ピーター・ホー扮する賀連信は、口は悪いけど目は優しい(小酒)
──駱青蓮は政略結婚を機に、徐々に賀連信と夫婦愛を育んでいきます。もともと呂北逸と婚約していたので、ドラマとしてその心情の変化を見せるのは難しそうだと思っていたのですが、いかがでしたか?
小酒 賀連信は、自信満々に見えて実は愛に飢えている。しかも一度愛した阮之湄という女性が、野心のために彼を捨てて第四子の賀連修に正室として嫁いだという設定が早めにわかるじゃないですか。賀連信自身は功名より愛を選びたいロマンチストなんだと思うし、そこが駱青蓮の「呂北逸と一緒なら貧しくても幸せに暮らしていける」という考えと似ている。呂北逸はなんだかんだ言って出世したい男なのがわかってくるし、出世を望む女性に捨てられた経験がある賀連信が、すぐにそれを見抜いているのもすごい。駱青蓮も同じ目に遭うんじゃないかっていうのをちゃんと考えていたんだなと。布石はいっぱいあったので、私はかなり序盤から賀連信を応援してました。
──呂北逸と駱青蓮の物語になってもおかしくないところを、すごく緻密な設定や関係性の変化で、賀連信との物語として成立させていたということですね。
沢井 私は、遊び人っぽいけど実は策士で志が高い、というヒーロー像を備えている賀連信の、駱青蓮とのコミュニケーションの不器用さに「どうしたん?」と思いました(笑)。突然すねてしまったり、プイッとどこかに行っちゃったりする。人間味があって、ヒーロー的な要素とのギャップにすごく惹かれました。
小酒 あれは駱青蓮のことが好きだからこそ甘えてるんじゃないですかね。2人が洞窟の中で一夜を過ごすシーンで、賀連信がお母さんの夢にうなされたとき、駱青蓮には自分が隠してきた弱さを見せてしまうところにキュンときました。賀連信は、口は悪いけど目はいつも優しいんです。ときどきいたずらっぽい顔をするのも胸キュンポイントです。
沢井 ちょこちょこ見せるとぼけ顔も好きでした。
小酒 でもあれはイケオジのピーター・ホーだからこそ乙女心に刺さるんですよね。
沢井 本当にそう思います。ナイスキャスト!
──沢井さんは最近、ピーター・ホーの過去作を観返していたそうですね。
沢井 そうなんです。2000年代からの華流ファンからすると、ピーター・ホーってちょっとオラオラ系イケメンみたいな印象があって、チャラい役も上手にかっこよく演じられる役者というイメージだったのが、最近「浮図縁~乱世に咲く真実の愛」というドラマで気持ち悪い闇落ちをしていたのがすごかったんです! 彼は「浮図縁」と「恋心が芽吹く頃」の2つの時代劇を通してのインタビューで、「完璧なヒーロー役は演じきってしまったから、これからはもっと違う役をしたい」「視聴者に『あいつ嫌だな』とか『不愉快』って思われたら成功だと思う」みたいなことを言っていたんです。中華圏では知らない人はいない有名な俳優で、俳優業以外でもたくさん活躍しているのに、こんなにも貪欲なんだと心打たれました。今回の賀連信役も、ピーター・ホーだから嫌なやつにならず、応援できたんだと思います。
小酒 彼は昔よく来日していたので、取材で会ったこともあるんですが、気さくで本当にいい人なんですよ。本人は「月に咲く花の如く」で演じた理想の旦那像と言われている役が一番自分に近いと言ってるんですが、そのドラマと同様に「恋心が芽吹く頃」の賀連信にも包容力があるし、呂北逸にも正々堂々とチャンスをあげる懐の深さは、「月に咲く花の如く」の彼が好きだった人にも注目してほしいなと。
沢井 中国のドラマ評では「恋心は玉の如き」のウォレス・チョンとよく対比されていますよね。同じお屋敷ドラマ・政略結婚もの・歳の差カップルで、ちょうどウォレス・チョンとピーター・ホーが同年代ということもあり、賀連信はチャーミング、ウォレス・チョン演じる徐令宜はひたすらかっこいいと、同じ包容力のある男性でもそれぞれ魅力があると言われています。「恋心は玉の如き」にはハー・ホンシャンもヒロインのライバル役で出ていますしね。
小酒 あとは中国での放送時、賀連信のセリフも話題になりました。女性を口説くベタなオレ様ゼリフを言うので、その語録がSNSでたくさんシェアされていました。
──どんなセリフが注目されていたのでしょうか。
小酒 「お前は私の女だ」というセリフとか。
沢井 久しぶりに聞きましたよね(笑)。
小酒 「ほかの男のために涙を流すのは許さない」とか、私が好きだったのは「慎んだら賀連信らしくない」っていうセリフ(笑)。どストレートですごい球が飛んでくる。