「BLACKFOX: Age of the Ninja」坂本浩一×山本千尋インタビュー|特撮界のキーマンが手がける初の時代劇、新世代アクション女優が見せた圧倒的熱量

「仮面ライダー」「ウルトラマン」「スーパー戦隊」シリーズなどを手がけ、“特撮界のキーマン”と呼ばれる映画監督・坂本浩一。彼が初めて手がけた時代劇「BLACKFOX: Age of the Ninja」が、本日10月5日より各動画配信サービスで配信されている。

本作はアニメ「BLACKFOX」との連動プロジェクトから生まれた特撮アクション時代劇。アニメ版が近未来に生きる忍者一族の末裔を描くのに対し、実写版では時代をさかのぼり“狐”と呼ばれた祖先の活躍が描かれる。主人公の忍者・石動律花(いするぎりっか)を演じるのは、「ウルトラマンジード」の鳥羽ライハ役で知られる山本千尋だ。

本作の配信を記念して、映画ナタリーでは坂本と山本の対談をセッティング。3作目のタッグとなる2人の出会いや得意な中国武術を封印したという山本の苦労、「忍者」をモチーフにした特撮の魅力などを聞いた。坂本が参考にしたアクション映画とは? 坂本の師匠であるアクション映画界の重鎮・倉田保昭の名前も飛び出した。

取材 / 浅見みなほ 文 / 奥富敏晴 撮影 / 向後真孝
ヘアメイク / 中島愛貴(山本千尋) スタイリング / 小林美月(山本千尋)

特撮時代劇の進化形

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より、山本千尋演じる石動律花。

瑛太主演の「闇の歯車」、三宅唱が監督した「密使と番人」など、近年オリジナルの時代劇を続々と発表してきた時代劇専門チャンネル。今回世に送り出すのは、これまでの正統派時代劇とは異なる“特撮アクション時代劇”だ。「変身忍者 嵐」や「仮面の忍者 赤影」など、特撮とヒーロー、時代劇を融合させ人気を博した特撮時代劇。定番の“忍者”をモチーフにした「BLACKFOX: Age of the Ninja」では、特撮とVFXを掛け合わせた時代劇の進化形を目撃できる。制作は日本特撮界を牽引する東映。撮影は数多くの時代劇を生み出してきた東映京都撮影所で行われた。

新世代の本格アクション女優

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より、(左から)矢島舞美演じる宮、山本千尋演じる石動律花、大久保桜子演じる明里咲。

主演を務めるのは、3歳から武術太極拳を学び、数多くの世界大会で優勝経験を持つ山本千尋。驚異的な身体能力を駆使し、アニメ版主人公の“祖先”という難しい役どころを見事なアクションで演じきった。坂本浩一とは、特撮ドラマ「ウルトラマンジード」とその劇場版に続いてのタッグとなる。またライブパフォーマンスに定評のあったアイドルグループ・℃-uteの元リーダーである矢島舞美、「宇宙戦隊キュウレンジャー」でカメレオングリーン役を務めた大久保桜子、台湾を拠点に活躍する藤岡麻美、「仮面ライダーアマゾンズ」の宮原華音らが脇を固めた。

坂本浩一×山本千尋インタビュー

「アクションは楽しい」と教えてくれた(山本)

──お二人は過去に2016年公開の「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴースト with レジェンドライダー」、2017年スタートの「ウルトラマンジード」シリーズでご一緒されていますね。

坂本浩一

坂本浩一 初めて会ったのは千尋ちゃんが10代後半で上京してすぐの頃なんです。会う前から彼女の存在は知っていて、「中国武術の女の子がすごい!」と特集が組まれた雑誌やテレビ番組を偶然見ていました。その女の子がうちのジムに来るとメンバーに聞いて飛んでいきました(笑)。一緒にアクションのトレーニングをして「この娘すごいな」と思ったのがきっかけですね。その後「仮面ライダー平成ジェネレーションズ」で敵役のゲストキャラ、「ウルトラマンジード」でヒロインとして出演していただきました。だから今回、ようやく主演作で一緒にお仕事できたんです。アクションを少し習ったという女優さんならほかにもいますが、子供の頃から世界チャンピオンになっている経験と実績がある女優さんは千尋ちゃんしかいませんし、本当に稀有な存在。さらにお芝居もルックスも素晴らしく、僕の中での理想のヒロインに必要な要素をすべて兼ね備えているので、絶対に幸せにしてあげたい!と思ってます(笑)。

山本千尋 ひええー(笑)。本当にありがとうございます。恐縮です。坂本監督は明るくて“天真爛漫”で、楽しい現場を作ってくださる方。たくさんの特撮を支えられている監督にそう言っていただけるのは、すごくうれしいですし、もっと期待に応えたい、恩返ししたいという気持ちがあります。

山本千尋

──逆に山本さんから見た監督の第一印象は?

山本 「アクションは楽しい」ということを教えてくださったのが坂本監督です。初めてお会いしたのは中国武術の選手を辞めて間もない頃でした。アクションをよく知らずに芸能の世界に入ったので、武術を演技に生かせるのかな?と悩んでいたんですけど、坂本監督が楽しくアクションの面白さを教えてくださいました。今でも楽しくできているのは、坂本監督との出会いのおかげです。

──山本さんがアメリカへアクション留学をされたときにも関わりがあったと伺いました。

山本 アメリカへ行く前に「いい練習場所ないですか」とか相談してましたね。

坂本 実は僕の息子も千尋ちゃんと同じ型の中国武術をやっているんです。僕は日本にいたので、うちの奥さんにお願いして「アメリカで一緒に練習したら?」と勧めました。

山本 息子さんから「お、けっこううまいじゃん!」って言われたり(笑)。お母さんは笑っていましたけど。

坂本 お恥ずかしい(笑)。

中国武術の封印(坂本)

──まず「BLACKFOX: Age of the Ninja」のアクション面でのこだわりを伺いたいのですが。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より。山本は得意の中国武術を封印して撮影に臨んだ。

坂本 千尋ちゃんは中国武術の達人なんです。これまでの作品はその特技をさらに引き伸ばす形で映像表現していたんですが、今回は時代劇ということもあり、彼女が得意とする中国武術をすべて封印するという条件を一番最初に出しました。今までにやったことのない関節技や投げ技、中国武術とは異なる刀の使い方に挑んでもらってます。彼女にとってものすごくチャレンジングだったはずですが、そこを見事にぶち破ってくれてます。

山本 課題を与えてくださったことが本当にありがたかったです。この作品の撮影が終わったあとに「もっとアクションをがんばらないと!」とスイッチが入ってしまいました。闘志を燃やしてもらえる現場だったので、すごく感謝してます。

坂本 僕は彼女を「本物のアクションができる女優」という目で見ています。特に今回の作品は彼女が主演として作品を引っ張っていく立場だし、律花のキャラクターが成立しないと作品自体が成り立たない。千尋ちゃんは子供の頃から過酷なトレーニングを積んできているので、言えば響くし、絶対に打ち返してくれる。自分も同じような環境でトレーニングを積んできたので、体育会系のノリじゃないですけど、お互いに追い込みながら勝負を懸けました。

──具体的に、どのように俳優の方々を追い込んだのでしょうか。

坂本浩一

坂本 僕の場合、カット数を多くして編集のリズムとテンポで見せていく作品が多いんですが、今回はあまりカットを割らずに、よりキャストのパフォーマンスを見せる方向性にしています。その分、現場でもNGテイクが多かった。だから気迫や迫力は今までの作品とは比べものにならないほど出てると思います。

山本 厳しいお言葉を掛けていただくことが多くて。現場でもアクションシーンになると、(坂本の声色をマネて)「集中!」とか「もう1回!」とか。

坂本 「殺せー!」とかね(笑)。

山本 監督が期待してくださっているからこそ言っていただける愛だと思いました。「できない」と思っていたら何も言わない方なんです。だから自分でも1回1回すごく集中しました。特に最終日は、異様な雰囲気でしたよね。ずっとアクションしていたあの空気感が忘れられない。誰も笑顔がなかった(笑)。

──山本さんが本作で挑戦したものの中で、やっていてやりがいを感じたり、楽しかったりしたものはありますか?

坂本 今回の撮影は楽しくなかったんじゃないの?(笑)

山本 正直言ってしまうと……楽しい!と思った瞬間は少なかったです(笑)。「仮面ライダー」や「ジード」の現場でも、アクションに慣れてないからこそ、アクションをできること自体が楽しかったんです。でも今回の現場では「アクションができて楽しい」ではなく、「このアクションをどうかっこよく見せるか」をずっと考えていました。監督が持っているイメージはわかっているけど、まだ自分が表現できていない部分も感じていたので。楽しかった!というよりは、いろいろと考えさせられる、とても充実した時間になりました。

坂本 千尋ちゃんが得意な中国武術の動きと、本作で律花が見せる動きはけっこう両極端なんです。しかも千尋ちゃんがやっていた北派流派は、しなやかな動きが多い。一方で僕は南派の拳法をやっていたので手技が多く、中国拳法の中でもまったく違うもの。本作では、さらに日本古来の武術も表現してもらった。動きも、力の入れ方も、腰の入れ方1つとっても全然違う。それを「これやって!」と気軽に言われるから、千尋ちゃんは大変だったと思います(笑)。

──監督が特に「これはいい画が撮れた」と思ったカットはありますか?

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より、律花と重次の立ち回り。

坂本 アクションシーンを重ねるたびに、千尋ちゃんの技の精度が上がってくるんです。(久保田悠来演じる)重次とのラスタチ(最後の立ち回り)は、撮影の最後に撮ったところで、もっとも労力と時間を掛けました。本当に厳しくして、テイク数も重ねた。カットを割らずに2人が戦っているところは、観てるこっちが筋肉痛になるほどの迫力が出てると思います(笑)。求めていた以上のものが撮れた。作品の流れとしても、アクションの完成度としても最高だったと思います。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」
各動画配信サービスで配信中
ストーリー

侍、そして忍者がいた時代、人里離れて暮らす忍者の一族に生まれ育った石動律花は、不思議な能力を持つ少女・宮と出会う。彼女の身を案じる律花に反し、宮は石動家当主・石動兵衛に父の仇討ちを申し出る。“狐”と呼ばれる石動家は金次第で暗殺を請け負う暗殺者集団だった。その矢先、宮の父を殺した根来衆が襲来。次期当主である律花は、宮を守るため戦いに身を投じていく。

スタッフ / キャスト

監督・アクション監督:坂本浩一

脚本:ハヤシナオキ

音楽:中村康隆

出演:山本千尋、矢島舞美、大久保桜子、藤岡麻美、久保田悠来、石黒英雄、宮原華音、出合正幸、中村浩二、島津健太郎、七瀬彩夏、福本清三、升毅、倉田保昭ほか

坂本浩一(サカモトコウイチ)
1970年9月29日生まれ、東京都出身。倉田アクションクラブを経て、1989年に渡米。「サイボーグ2」「リーサル・ウェポン4」などにスタントマンやアクション俳優として参加する。アメリカの特撮ドラマ「パワーレンジャー」のアクション監督に抜擢され、その後監督やプロデューサー、製作総指揮を歴任。特撮ドラマの監督作には「仮面ライダーフォーゼ」「獣電戦隊キョウリュウジャー」「ウルトラマンジード」、監督した劇場公開作には「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE」「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴースト with レジェンドライダー」「破裏拳ポリマー」、OVA「スペース・スクワッド」シリーズなどがある。2019年に「BLACKFOX: Age of the Ninja」で自身初となる時代劇を手がけた。
山本千尋(ヤマモトチヒロ)
1996年8月29日生まれ、兵庫県出身。3歳から武術太極拳を始め、世界ジュニア武術選手権大会の槍術部門で2度、JOCジュニアオリンピックカップの長拳、剣術、槍術部門で3年連続の優勝を果たす。2014年に「太秦ライムライト」で俳優デビューし、翌年には「新選組オブ・ザ・デッド」に出演。2017年には特撮ドラマ「ウルトラマンジード」のヒロイン・鳥羽ライハに起用された。そのほか出演作に「BRAVE STORM ブレイブストーム」「多十郎殉愛記」「チア男子!!」などがある。