温かい母親の愛情を求めてるのかも
──主人公たちを優しく見守ったり、手助けしたりしてくれる人々も出てきます。印象的だったキャラクターはいますか?
一面的なキャラクター付けをしていないのがいいなと思います。全員が何かに特化したスペシャルな人ではない。自分もそうですが、脆くてでも強くて、愛にあふれてると思えると同時に孤独で寂しかったり。
──普通の人間ってそうですよね。毎日気持ちも変わりますし。
たまに、この人がいたら周りのみんなが明るくなる太陽みたいな……加山雄三さんみたいな人っていますよね(笑)。でも、そういうスペシャリティを持っている人の話ではない。ティッシュも「絶対大丈夫」と強い信念を見せると思いきや、別の場面ではめげて姉に励まされていたり。でも家族で見ると、それぞれのキャラクターが見えてくるなと思いました。 あと少し逸れるんですが、ファニーが自分を職人だと語る場面がすごく印象的でした。腑に落ちたというか、恋愛だけではうまくいかなかったりすると思うし、自分が一生かけてやる仕事、生きがいみたいなものを自覚できていると、人との関係もうまくいくんだなと観ていて思いました。
──アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされているレジーナ・キングは、娘ティッシュのために奔走する母シャロンを演じました。彼女はいかがでしたか。
最高でした……! シャロンが、かつらを被って整えて鏡を見てやっぱり外すところがすごく好き。かつらを外したときは、ありのままの自分で行くという彼女の決意を感じました。出産を打ち明けようとする娘を待つシーンも素晴らしかったですね。
──キング自身は、自分の母や叔母、祖母を思い出させるキャラクターだと語っていました。
そうなんですね。私は、母親がすでに亡くなっていることが自分の人生に影響している気がします。母が亡くなったときは踏ん張っていた気がするけど、そういう部分が取れて、今は温かい母親の愛情を求めているのかもしれません。だから、レジーナ・キングの演技もすごく染みてくるんですよね。
──愛にあふれたキャラクターでしたね。
この映画は、家族の愛情に一番心を打たれたかもしれない。なかなか、こういう絆でつながった家族を築くのは難しいと思うんですよね。介入しすぎたり、人の未来を決め付けたりしない関係でいるのは難しい。ジェンキンス監督は自分の家族を思って描いたのか、理想的な家族を求めて想像したのか、家族の描写に熱意を感じました。
恋愛しているときに一瞬見える光
──美術を担当したのはジム・ジャームッシュやウェス・アンダーソンの作品を手がけてきたマーク・フリードバーグです。当時を再現するため、インテリアにはかなりこだわったようですが、いかがでしたか。
ジャームッシュとウェス・アンダーソンの作品も手がけているって衝撃ですね! 冷蔵庫とかポットとか全部好きです。古いバスタブに板を乗せたダイニングテーブルも素敵だった。ファニーとティッシュが見つけた引っ越し先もスタジオアパートメントみたいで、ティッシュは戸惑っていたけど、広くて風通しがよさそうで「え! いいじゃん!」って思いました。
──コムアイさんなら即決ですね!
コミュニティスペースみたいに使えそうだし、最高。あと、衣装もみんなかわいかった! ティッシュの姉の70年代のパンツスタイルがすごく印象的。ファニーの家族の服装もよかったな。
──本作では当時の人種差別の実情が描かれています。そういった社会的な視点がありつつも、全体としてはラブストーリーに仕立てられている点はどう思いましたか?
ジェンキンス監督は、黒人の人々が受けた差別や苦しみをただわかってほしいというだけの映画にしたくないのだと思いました。それよりも生きていく人の美しさを撮りたい人なんだなと感じます。苦しみもしっかりと描いているけれど、それを超える根本的な強さや美しさを描きたい。その綱引きのようなバランスが監督とこの物語の性質なのかもしれませんね。
──この映画で描かれている愛は普遍的なものだと思いますか?
普遍的なのかな? 私は、この映画の2人はすごく珍しいと思います。脆いけど貫いてる。幻想を2人で共有できた気がするのが、恋愛だと思うんです。この映画で描かれるのは、恋愛しているときに一瞬見える光に近い気がします。“永遠”とか実際は見えないものが一瞬、見えた気がする。この映画の2人はそれがちゃんと成り立っている時点で稀有。共感するけど実現したことない(笑)。神話レベルですね!
バリー・ジェンキンスとコムアイが対面
2月13日に東京・TOHOシネマズ シャンテにて行われた舞台挨拶で、監督のバリー・ジェンキンスとコムアイが初対面を果たした。(参照:「ビール・ストリート」初来日の監督がコムアイと対面、小津映画からの影響語る)。
- 「ビール・ストリートの恋人たち」
- 2019年2月22日(金)全国公開
- ストーリー
-
1970年代、アメリカ・ニューヨークのハーレム。デパートの香水売り場で働く19歳のティッシュは、幼なじみの恋人ファニーの子を身ごもる。しかし、ファニーは白人警官の恨みを買い、いわれのない強姦罪で服役中の身だった。強く愛し合うティッシュとファニーの愛を守るため、家族や友人たちはファニーの無実を証明するべく、奔走する。
- スタッフ / キャスト
-
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
原作:ジェームズ・ボールドウィン
製作総指揮:ブラッド・ピット
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームス、レジーナ・キング、コールマン・ドミンゴ、マイケル・ビーチ、ディエゴ・ルナほか
©2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
- コムアイ
- 1992年7月22日、神奈川県生まれ。水曜日のカンパネラの主演・歌唱担当。2012年、ケンモチヒデフミとDir.Fに出会い、水曜日のカンパネラへ加入。同年に初のデモ音源「オズ」「空海」をYouTubeに配信し、本格的に活動開始する。2013年よりライブ活動をスタートさせ、「クロールと逆上がり」「羅生門」と立て続けにアルバムを発表。2016年、EP「UMA」でワーナーミュージック・ジャパン/Atlantic Japanよりメジャーデビュー。2017年2月にフルアルバム「SUPERMAN」をリリースした。Dolce & Gabbanaがミラノで発表した2017-2018年秋冬コレクションのショーでランウェイモデルとして歩き、VOGUE JAPAN WOMEN OF THE YEAR 2017を授賞するなどさまざまな活動を行なっている。2018年6月には音楽を水曜日のカンパネラが担当した映画「猫は抱くもの」に出演した。