「1122 いいふうふ」今泉力哉×今泉かおり対談、夫婦合作で贈る“一緒にいることをあきらめない2人”の物語 (2/2)

結婚してから最大の危機かもしれないと感じるくらい大きな喧嘩が(力哉)

──脚本を作る際は、夫婦で意見が合わなかったり、喧嘩になったりすることはなかったですか?

力哉 意見が合わないことはもちろんあったし、普段からよく言い合いはしますけど、結婚してから最大の危機かもしれないと感じるくらい、大きな喧嘩が1回ありました。どうしようかな、これ。……話す?

かおり はい(笑)。

左から今泉力哉、今泉かおり。

左から今泉力哉、今泉かおり。

力哉 二也が生花を習っていることにちなんで、作中には花言葉が出てくるんです。原作にも生花の先生が花言葉を説明するシーンがあります。そこを膨らませてドラマでも花言葉のシーンを増やしていて、妻が終盤の大切な場面にも盛り込んでいたんですね。でも調整をしていく中で、撮影時期に希望の花が用意できないとか、え、造花で撮るの嫌だなとか、いろんな事情が見えてきて。そんな中でさらに僕が「正直、花言葉とか口にする男性ってちょっとダサいかも……」ってロケハン中の車内で口にしたら、「ああ、わかるかも」っていうスタッフもいて。それで、「花言葉のくだりをまるまるカットする方向性もあるのかな」という話になり、帰ってからそれを妻にぼんやり言っちゃったんですよ。その言い方が非常にまずかった。季節的に花が準備できないってところから始まったのに、「なんかスタッフと話してて、花言葉とか口にする男ってどうなのかな、ダサくね?みたいな話になって」といった言い方をしちゃったんです。最悪ですよね(笑)。そしたら……僕が伝え方を間違ったのもあり、「相当前に書いてたのに、みんなで私のこと笑ってたんでしょ?」って妻がキレちゃって。

かおり いや、それは盛ってるでしょ! そんな言い方はしてないよ(笑)。

力哉 「オリジナルのシーンなのに! 最初から構成に入れてたよ?」「ちゃんと読み込んでなかったってこと? 今さらそれ言うの?」みたいな。で、「あ、ヤバい……そういうことじゃなくて……どう説明したらよかったんだ」って、かなり焦りました(笑)。「ごめん、今の話はなし。じゃあそのままで。変えずにいこう」というのも妥協と思われたら違うし……その話題に触れようとしたら妻が「今すぐ思い付かないし、書けないよ!」と怒り、また険悪になるという。それが3日間くらい続き……「気まずっ!」みたいな日々でした(笑)。

かおり 季節の花が用意できないとかの事情は、もちろん全然仕方ないんですよ。実際に用意できなくて変えた花もありましたし。でも終盤の大切な場面だったから。それって、すごく重要じゃないですか。そこを変えるならもっと面白いものを書かなきゃいけないとか、花言葉をちょこちょこ入れているから前後のつながりはどうするんだ、とか。「プロットにも入れてたのに、なぜ急に!」って戸惑ってしまったんです。

力哉 結局、脚本はおおむねそのままでいくことになりまして。助監督がまるで魔法!?というほど奇跡的にその時期に咲かない花を咲かせてくれたり、精巧な造花を手に入れてくれたりして、無事に解決したんですけど。

「1122 いいふうふ」より、生花教室のシーン。

「1122 いいふうふ」より、生花教室のシーン。

間近で働いてお互いに感じたのは…現場でのお芝居を優先に考える臨機応変さ(かおり)、脚本家というより1人の監督なんだなと(力哉)

──本当によかったです(笑)。力哉さんの監督ぶりを間近で見て、かおりさんはどんなところがクリエイターとして「すごいな」と感じましたか?

かおり その場に応じて臨機応変に変えるところですかね。現場でのお芝居を優先に考えるやり方は、前から聞いてはいたけど、実際に見て「こういうことなんだな」と思いました。ワンカットで撮ったりすることで、独特の間が生まれてくるんだろうなと。

力哉 でも今回は、僕にしてはわりとカットを割って撮ってたんですよね。映画ではなくドラマだからというのが頭にあって。そしたら4話のある場面を長回しのワンカットで撮ったときに、カメラマンの四宮(秀俊)さんに「やっと今泉組っぽくなってきましたね」ってチクリと言われて。「そんなに割ってた? 丁寧に撮りすぎてたかな?」って(笑)。

──では、力哉さんから見てクリエイターとしてのかおりさんはどう映りましたか?

力哉 僕が思ったのは、妻は脚本家というより、やっぱり1人の監督なんだなと。現場に何度か見学に来ていたんですが、驚いたのが、まさに先ほど話した4話の長回しのシーンを撮影していたとき。その場面は一子と二也がともに涙を流す感じで終わっていくのですが。

かおり あそこね。脚本のト書きに「一子と二也がお互いに涙を拭き合う」と書いていたんですが、私は2人の手がクロスしてお互いに拭いている画を想像していたんですよ。でも現場にお邪魔したら、それが難しかったのか、それぞれが相手に拭いてもらったティッシュを自ら手にして、各々自分で拭う感じになっていて。

力哉 長回しのワンカットで、高畑さんも岡田さんも本当にいい芝居をしていて。でも本番だけテストのときよりも感情的になってしまって、熱量が上がりすぎているふうにも見えたから、「こんなに上がりすぎて大丈夫かな」と悩んだんです。スタッフに「ちょっと時間ください」と伝えて、撮影場所の奥の部屋でモニターを見ていた妻と合流して、二人きりにしてもらって、妻に「テストの芝居とだいぶ違ったよね。どう思った?」って相談したら、「手がクロスになってなくて……」って言い出して。ちょっと待ってくれよと。手がクロスかとかどうでもいいから!と思ってしまって(笑)。

かおり (笑)。私はこういう仕事をするのが10年ぶりだし、「こう書いておいたら伝わるだろう」という思い込みが少しあったんですよね。あと、ほかのエピソードにもリンクするような描写として書いていたので、その画は欲しいなとイメージしていました。実はその場面と終盤のとある場面で2回、同じように手がクロスして相手の涙を拭くことを想定して書いていたんです。ただ実際にやろうとしたら、クロスさせるためには高畑さんが立ち上がらないと手が届かないとか、そういう事情もあって、最終的には自然なほうが絶対にいいなと納得がいきました。私が監督だったら、2人の位置を一層近付けてでもやっていたかもしれないんですけどね。

力哉 絶対に手をクロスさせたいと思ったら、お願いすればできる俳優陣ではあるんですよ。でもこんなに熱量高く演じてくれた俳優にその理由でもう1回はやらせられないし、妻には「今回はごめんなさい!」でした(笑)。そのときに「この人は監督なんだな」としみじみ思ったんですよね。

左から今泉力哉、今泉かおり。

左から今泉力哉、今泉かおり。

──お子さんも大きくなってきたことと思いますが、かおりさんも今後、こうしたお仕事に復帰したいという意欲はありますか?

かおり そうですね。今回がすごく楽しかったので、ぜひ今後もやりたいなと思っています。

力哉 「仕事早く来ないかな」ってずっと話してるよね。佐藤さんにも「仕事ください!」って言ってたし。

かおり あはは(笑)。でも監督となると家にあまり帰って来られなくなると思うので、脚本とかからやっていければなと思っています。

力哉 僕が家にいないだけで、普通の監督はちゃんと帰ってくるらしいけど(笑)。

──(笑)。どんな作品をやってみたいですか?

かおり 今回原作ものをやってみてすごく楽しかったし、子供が主人公の作品が好きなので、児童文学とかもやってみたいなと思っています。

夫婦は基本的には味方、指摘もしてくれる頼もしい相手(かおり)

──ありがとうございます。では最後に……夫婦でいることのよさとは、なんだと思いますか?

力哉 いろんな形があると思うので、あくまでうちの感覚ですが……それぞれが1人で立っている、自立しているという前提があったうえで、頼れる関係性の相手がいるのは、楽だしありがたいことだと思います。第1話の冒頭に婚姻についての憲法の条文が出てきますけど、婚姻がお互いを縛るものになってしまうと苦しいんじゃないかな。自分は家族や夫婦が絶対的にいいものだとは思っていないし、そこに甘えたり理想を抱いて絶望したりってのは違うかなと思います。当たり前の存在だと思ってはダメというか。

かおり 友達とも親とも違うけど、基本的には味方になってくれる相手。そして共感してくれるだけじゃなくて、近い立場から指摘もしてくれるのはすごく頼もしくて。それはやっぱり夫婦だからなのかなと思うんですよね。

力哉 妻は全然イエスマンじゃないんですよ。仕事の愚痴とかを僕がわあわあ話していても、冷静に指摘してくれる。プロデューサーと意見が合わなくて「ここを削れって言われたんだけど、僕は長めの尺でいきたいんだよね」って映像を見せたら、「削っていいと思う。短くしても全然伝わるよ」ってバッサリ言われたり(笑)。もちろん吐き出したいときは愚痴をちゃんと聞いてくれるんですけどね。自分の傲慢さが出てきたときに、正してくれるのはありがたいです。

かおり それはお互いにあるよね。

左から今泉力哉、今泉かおり。

左から今泉力哉、今泉かおり。

プロフィール

今泉力哉(イマイズミリキヤ)

1981年生まれ、福島県出身。2010年に「たまの映画」で商業映画監督デビューし、映画「サッドティー」「愛がなんだ」「街の上で」「窓辺にて」「ちひろさん」「アンダーカレント」などを手がけた。実写映画「からかい上手の高木さん」が現在、全国で公開中。

今泉かおり(イマイズミカオリ)

1981年生まれ、大分県出身。大阪で看護師として働いていたが、監督を志して東京のENBUゼミナールで映画製作を学ぶ。卒業制作の短編「ゆめの楽園、嘘のくに」が第11回京都国際学生映画祭準グランプリを受賞。2012年公開の映画「聴こえてる、ふりをしただけ」は、第62回ベルリン国際映画祭のジェネレーションKプラス部門で子ども審査員特別賞を獲得した。