最新話の内容はアフレコ当日朝に台本で知る
──「幽☆遊☆白書」に携わることが決まった時点で、おふたりとも原作は読まれていましたか?
阿部 それが読んだことはなかったんです。話をいただいて最初の2巻くらいを読んでみて、聞いていたよりかわいらしい話なのかなと思ったりもしました。そこからどんどんとハードになっていきましたが。
佐々木 幽助が復活するまでの話はハートフルでしたね。
阿部 当時アニメを作るときって、当たるかわからないから一番いいところを早くやろうっていう話が出たりしていたんですよ。だから「幽☆遊☆白書」でも序盤のエピソードは割と短くして、蔵馬と飛影を最初のほうから登場させたんです。でも序盤の話もとってもいい話だったから、ホントはやりたいなとは思っていました。
佐々木 マンガでは3巻まで登場しない蔵馬と飛影が、アニメでは6話から出てきましたもんね。原作については僕も読んでいなかったのですが、幽助役に決まってからも読まないようにしていたんです。これは演技者それぞれの考え方次第で、人によるとは思うんですけど、自分は幽助という人間をこれから演じるわけで、その自分、つまり幽助が、先の出来事をあらかじめ知っているというのはどうなんだろうと当時は考えていました。幽助自身はこの先自分がどうなるかということを知らないで生きているわけですから。
──毎週のアフレコで幽助と同時に一番新しいエピソードを体験していたんですね。
佐々木 収録現場には誰かが必ず最新号のジャンプを持ってきていたので、それを空き時間にパラパラと見たりはしていたんですけどね。でも「幽☆遊☆白書」を読んでしまうと、早く先を知りたいと思っちゃったりもするので、興味はあったんですがなるべく読まないようにはしていました。あと当時のアニメって、台本が当日までもらえなかったんですよね。
阿部 そうでしたね(笑)。
佐々木 今だと大体の作品で台本は前渡しされていて、リハーサル用の映像までもらえたりするのでわれわれはだいぶ甘やかされているんですけど(笑)、当時はそれがなくて。現場に行って机に積まれている台本を読んで、「あっ、今日は幽助がこんなにしゃべってる」「今日はあまりしゃべらないな」って初めて知るんです。だから毎週のアフレコが「今日はこれで終わるのか。ここで終わっちゃったら来週どうなるんだ?」とすごく楽しみでした。そういう意味で言うと幽助役ではあったんですけど、アフレコ台本を通して自分も「幽☆遊☆白書」の読者だったんでしょうね。
「何かをやってやろう」と攻めていた
──その後「幽☆遊☆白書」は全112話に加えて映画版も2作品制作されましたが、劇中の思い出深いエピソードを挙げるとしたらどれになりますか?
阿部 作っているときはずっと無我夢中だったので、特にこれというものを挙げるのは難しいんですけど、そうは言いつつも戸愚呂弟と戦う「暗黒武術会編」のアクション描写は印象に残っていますね。スタッフがみんな若かったので「何かをやってやろう」という気持ちがあったというか。よくスタッフの間では「TVアニメのシリーズでできる限りのことをやりたい」「『どうせTVアニメでしょ』って言われないようなものを作りたい」って言っていたんです。やっぱり劇場アニメに比べれば人員も時間も限られていますし、デジタルで作れる今よりも作業工程が多くて大変だったんですけど「暴れてやろう」って挑戦していた感覚はスタッフ一同にありました。
佐々木 攻めてやろうみたいな。
阿部 1話の中でセル画を何枚使えるかっていうのは会社によってまちまちなんですけど、ぴえろはそこが緩いというか甘い会社だったんです。一応規定はあるんですが使ったもん勝ちみたいなところがあって。それで何回も怒られたりしたんですけど。
佐々木 怒られたって、使いすぎたってことですか?
阿部 そうです(笑)。「幽☆遊☆白書」で言えば僕と同い年の新房(昭之)さんや、ちょっと下の西尾(鉄也)くんもそうですが、みんなが「暴れてやろう」と思っているから、「彼がこういう作画してきたから自分はそこをこうやってやる」みたいなスパイラルができていて。でもそれって狙ってやろうと思ってもなかなかできないんですよね。同世代の人間が集まっていたということもありますが、いつも会社に来たらみんなで喫茶店に行ってお茶を飲む。そこで「幽☆遊☆白書」も含めたいろいろな話をして、それから仕事するみたいなことをやっていました。この作品以降、そういうことができる環境がなかなかないんですけど。
佐々木 僕は「印象深いエピソードは?」と聞かれると自分にとっては全部が大切なエピソードとしか言えないんですが、それぞれのエピソードを演じたときの自分の感情のほうが記憶にはっきり残っています。そういう意味で言うと監督と同じく、「暗黒武術会編」での戸愚呂弟とのバトルのときの感情は強く印象に残っています。戸愚呂戦はただただ怖かったです。
阿部 怖い?
佐々木 30%くらいの力でボコボコにされているのに、これが100%になったらどうなるんだって。勝つのは絶対に無理じゃんって思ってしまったんです。仙水は仙水で不気味な怖さがあって、「こいつをどうしよう」って本当に思っていましたし。
──佐々木さんは監督が先ほど挙げたような相乗効果を、キャスト陣の中でも感じたりしましたか?
佐々木 誰かにライバル心を燃やしたりっていうことではないですけど、幽助というキャラクターを演じていると先輩の芝居に挑んでいくことがほとんどなので、負けないぞと思っていました。戸愚呂弟役の玄田(哲章)さんや、仙水役の納谷六朗さんに対して僕が現実の世界で歯向かっていくことなんてできないじゃないですか。でも役のうえだとけんかができる。それは役者として燃える一方で、緊張はしなかったですけどいい意味での緊張感がすごくありました。そんな生意気なことを思うならみっともないことはできないし、絶対にとちれない。自分で自分を鼓舞していたんだと思います。監督のお話を聞いていると、スタッフの方々が攻めの姿勢でいろいろなことを冒険しながら「幽☆遊☆白書」を作っていくうえで、僕たちキャストをアフレコの中で遊ばせてくれたのかなと感じました。
──改めて考える幽助の魅力はどんなところでしょう?
佐々木 漠然とした言い方なんですが幽助ってきれいなんですよね。ワイルドで泥まみれだったり血だらけにもなるんですけど、どこかきれいというか。熱血のカテゴリーに入る主人公でこれほどきれいなキャラクターもめずらしいんじゃないかと思っています。
阿部 言われると確かに透明感がありますよね。やっていることは泥臭いですが、考え方にも自分の信念がありますし。
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BOX、インナージャケットは描き下ろし仕様。
- 収録話数
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TVシリーズ第95話~第112話
- 映像特典
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完全新作アニメーション(「TWO SHOTS」「のるか そるか」)
ノンテロップOP「微笑みの爆弾」
ノンテロップED「太陽がまた輝くとき」
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- 佐々木望(ササキノゾム)
- 1月25日生まれ、広島県出身の声優。主な出演作に「幽☆遊☆白書」(浦飯幽助役)、「AKIRA」(鉄雄役)、「MONSTER」(ヨハン・リーベルト役)、「銀河英雄伝説」(ユリアン・ミンツ役)など。現在「からくりサーカス」にギイ・クリストフ・レッシュ役で出演している。
- 阿部記之(アベノリユキ)
- 7月19日生まれのアニメ監督。代表作に「幽☆遊☆白書」「NINKŪ -忍空-」「BLEACH」「黒執事 Book of Circus」「アルスラーン戦記」「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」など。