日韓タテ読みマンガ賞で快挙!「四度目の夫」明生チナミインタビュー|物語の核となるミステリー要素は後から加わった? ヨコ読みからタテ読みへの変化で得たものは (2/2)

恋するキャラクターは思いどおりに動いてくれない

──先のお話はどの程度決めて描いているんですか?

シーズン2の最後で大きな種明かしを1つ描いたんですけど、あれはもう第1話の時点で決まっていました。大きなストーリーの流れとしては「どうなったらこのお話は結末を迎えるのか」というのを小林さんとお話ししていて、だいぶ終わりのほうまで構想はできています。

──どんな肉づけをしても矛盾が起きないように、最初から準備ができているんですね。

そこを今がんばっているところです(笑)。恋愛がメインではあるんですけど、人と人とのぶつかり合いをしっかり描くことを大事にしている作品でもあるので、「この人がこうなったらいいよね」という着地点を考えている感じですね。ストーリーというよりは。

「四度目の夫」より、基と美青。

「四度目の夫」より、基と美青。

──ストーリーを追うだけの作業にならないように?

たしかにそれはあるんですが、ミステリーだと難しいですよね。トリックに凝りすぎちゃうと、それを発表するだけの退屈なものになりがちなので。その一方で、キャラクターが思い通りに動いてくれないという問題もありまして(笑)。一番うまく動いてくれないのが基なんですけど。

──たしかに基は難しそうです。

「ここは絶対に美青と別行動を取ってほしい」というような場面で、絶対について行っちゃう(笑)。彼の性格上、そこはついて行かないとおかしいですから。本来はもっと衝撃展開を入れるつもりだったんですけど、そうやって1人ひとりのキャラクターの心情を描いていくとそこまで行き着かない、ということはありますね。“いかにウェブトゥーン的な山場を設けるか”と“キャラクターがどう動くのが自然か”とのせめぎ合いは、常に小林さんと落としどころを探りながら描いています。

──そこは苦しくもあり、楽しくもある部分なんでしょうか。

だいぶ苦しいですけど(笑)、そうですね。全般的に、恋心を持っているキャラクターはストーリーに沿った動きをしてくれない傾向があります。例えば千代は仕事中であってもどうにか時間を作って蔵田のお見舞いに行くだろうから、それを考慮するとストーリーがうまく回らなくなっちゃったり。

──ただ、物語の都合で“動かされる”キャラがいたりすると読者はそれを敏感に感じ取りますから、絶対に気を抜けないですよね。

気づいちゃいますよね、きっと。やはり私もマンガを読んで育った身として、好きだった先生たちは皆さんそこをちゃんとやられていたなと感じることは多いです。

──この作品を描いていて、一番楽しいポイントはどういうところですか?

最初のお話にも通ずるんですけど、抑圧されていた時代に生きる人を描けるところですね。今の価値観だと別に結婚しなくても幸せに生きていけますけど、それ以外のところで抑圧を感じている方も多いと思うんです。「こうじゃなきゃダメ」を押しつけられる中で自分の生き方を選び取っていく美青の姿が、なんらかの形で今を生きる人たちの共感を呼べたらいいなと思って、楽しみながら描いています。

──それはたぶん、「ラブミーテンダーにさようなら」などの他作品にも共通するテーマですよね。

そうですね。そう描けていたらいいなと思います。

──言ってしまえば、それこそがチナミ先生の“マンガを描く意味”ですらあるのかなと。

そう……ですね。カッコよく「そうですね」と言っちゃいます(笑)。ちっちゃい頃に小学校でマンガを描いてクラスの子たちに「あー、これわかるー!」と楽しんでもらったときの感覚で今もずっと描いているので、私の一番根っこにあるものなのかなと思いますね。

──それによって、ちょっとだけ読んだ人の生き方にいい影響があったらいいな、という気持ちもおそらくありますよね。

それはすごく思います。

苦手だったカラー表現が“楽しい”に、ウェブトゥーンとヨコ読みの違いに触れて

──ウェブトゥーンならではの楽しいポイントでいうと?

本当に単純な話なんですけど、ドレスや着物などを季節によってカラーでリッチに表現できるところですね。もともとカラーには苦手意識があったんですけど、やるからにはと思って季節の和柄の色見本を買ったりして、楽しみながら勉強しています。

──服装のみならず、心象表現などの色使いも見ていて楽しいです。

そこはもう、小林さんの助言あってのものです。今までの私はけっこう、横モノクロだったらズーンと暗くなるシーンは「スミベタ塗っときゃいい」みたいな感じでやってたんですけど(笑)、ウェブトゥーンだと真っ黒な画面ってあまり使われないんですよね。せっかくフルカラーなんだし、紫や青なども悲しみを表現するのに使えるんだよと教えてもらって。

──そうした描き込みは、楽しさと大変さだとどちらが上ですか?

大変なんですけど、楽しいです。作業量は倍以上かかっていますが(笑)、みんなが協力してくれて華やかな画面ができあがるのは、やっぱりうれしいですね。

──そもそも今作をウェブトゥーン形式にしたのは編集さんの提案がきっかけだったと聞いていますが、それまでウェブトゥーンにどんなイメージを持っていましたか?

とにかく画面が華やかで、「これはいったい何人の人が関わっているんだろう?」と。やっぱり描き手の目線で見ちゃうので、「これは大変だろうな」という敷居の高さをまず感じました。

──ただ、必ずしもそうでなければいけないものではないですよね。先ほどの話とも被りますけど、「四度目の夫」は“ウェブトゥーンはこうでなければいけない”というものに囚われていない感じがします。

わあ、うれしい。アシスタントさんたちも、ずっと横モノクロを一緒にやってきた子たちをそのまま連れてきてやっているんです。だから最初は本当に手探りで、「セリフをタテに読んでいくと視線移動がこうなるから……」みたいなこととかをみんなで一から研究していきました。物が落下するシーンなんかはもう「この形を生かすチャンスだ」と思って(笑)、勉強したことをどんどん盛り込んでいったような感じですね。

「四度目の夫」より、雨宿りをする基と美青。タテ読み形式を活かして雨の流れが描かれている。

「四度目の夫」より、雨宿りをする基と美青。タテ読み形式を活かして雨の流れが描かれている。

──ずっとヨコのマンガを描いてきた人がウェブトゥーンに挑戦するときって、普通はもっと構えてしまうものだと思うんです。でも「四度目の夫」は「タテ方向にマンガを描くってこういうことでしょ?」と、その手探り感がまったくなくて。

それくらいフランクにやれたらよかったんですけど(笑)、実際は「初めてのことなので何もわからない」という感覚が強かったですね。ヨコとタテで一番違うなと思うのは……例えば学校にいるシーンを描くときに、ヨコの場合は右側のページに1回学校の風景を描いたら、その見開きではもう背景を描かなくてもずっと学校にいることが伝わるんですけど。

──間接視野にずっとその風景が見えますしね。

それに対してタテだと、少しスクロールしたらすぐに風景のコマが見えなくなってしまうので、「今どこにいるのか」を見失うまでが早いんですよ。ずっと横モノクロをやってきた感覚のまま描くと、ウェブトゥーンとしては違和感のあるものになってしまう。そういうのを描きながらじわじわと潰していったような感じでした。

──「ウェブトゥーンはこうやって作るものですよ」というマニュアルをなぞるのではなく、そうやって一から積みあげていったわけですよね。だからこその自然さなんだろうな、と今のお話を聞いて感じました。

うれしいです……! 巨大なウェブトゥーンマーケットの中でなんとか隙間に生き残れるように(笑)、1つひとつ工夫を重ねながらやっています。

どんな媒体でも「キャラクターを通して皆さんに共感してもらいたい」

──改めて、この「四度目の夫」という作品はチナミ先生にとってどんな意味を持つ作品になっていますか?

やはり初めてのタテ読み作品ということで、全然違うフィールドに仕事しに来たみたいな感じで、最初は本当に右も左もわからなかったんです。その分いろいろと学ぶことができていて、この作品に成長させてもらっているので、すごく大事な作品になっていますね。

──武器が1個増えたような感覚もありますか?

武器……というより、少なくとも楽しんでやれてはいます。タテとヨコで楽しさがまた全然違うので、今後もできれば両方やっていきたいですね。もちろん大変なことだとは思うんですけど。

──タテをやったことで得た、ヨコに生かせる新たなアイデアなどもあったりしますか?

例えば沈黙を表現する場合に、これまではけっこう「……」に逃げてたんですけど(笑)、人物配置や視線誘導で間を作るウェブトゥーンの文法は横モノクロにも使えそうだなと思います。

「四度目の夫」より。基から「幸せになりましょうね」と言われた美青は、言われ慣れていない甘い言葉にどう返すべきかわからず、固まってしまう。

「四度目の夫」より。基から「幸せになりましょうね」と言われた美青は、言われ慣れていない甘い言葉にどう返すべきかわからず、固まってしまう。

──“タテの作家”か“ヨコの作家”かでいうと……別にそこを分ける必要もないとは思うんですが、「どちらかというと軸足はこっち」と考える作家さんは多いと思います。チナミ先生はどちらかに決めたいですか?

わあ、「どっちですか?」という質問じゃなくてよかった(笑)。そうですね、自分のやりたいこととしては「キャラクターを通して皆さんに共感してもらいたい」が根底にあるので、それができればどっちでもいいなと思っています。

──極端な話、また新しいフォーマットが出てきたらそれで描いてもいい?

そうですね。たしかに可能性としては、電子媒体でまた違うものが出てくるかもしれないですもんね。

──その姿勢が根底にあるからこそ、チナミ先生のウェブトゥーンは自然に読めるんだろうなと思います。根本的な“自分のやりたいこと”にとても自覚的だから、表面上の形には左右されないってことですよね。

はい、今度からそう言っていこうと思います(笑)。

──そのあたりも含めて、「こういう作家でありたい」という理想像は何かありますか?

「四度目の夫」ではそんなに前面に出てはいないんですが、描いていて一番楽しいのはライトに笑えるラブコメなんですね。この作品はシリアスに考えさせるような内容になっていますけど、暗い物語の中でも要所要所でポジティブな感情を呼び起こせるようなものを描けたらいいな、という思いは常にあります。

──そのサービス精神は読んでいて強く感じます。「このシリアスな話に、よくこれだけ笑いを入れられるな」というのはいつも感心させられている部分なので。

ありがとうございます(笑)。ただ、真剣に読みたい方にとってはノイズにもなり得る要素だと思うので、小林さんとも相談しながらコメディ成分のバランスには気をつけていますね。

──シリアス一辺倒にしてしまうのは違う、みたいな感覚があるわけですか?

やっぱり緩急がないと……ホラーとお笑いって似てるなと思っていて。油断させたところに意外なものを突っ込むことで驚きも笑いも生まれるものだと思うので、私がやりたいのはそういうことなのかなと思います。

──では最後に、夏から再開予定の「四度目の夫」第3シーズンへ向けて、今考えていることを言える範囲で教えてください。

ネタバレを隠して言うのは難しいですね……(笑)。人間の業みたいな、あまり見たくない部分なども恋愛模様に絡めながら、ちょっと刺激のあるシーズンにしたいなと思っています。キャラクターたちの人間関係がどうねじれてどう着地するのか、楽しみにしていていただけるとうれしいです。

プロフィール

明生チナミ(アキオチナミ)

マンガ家。2012年に別冊マーガレットsister(集英社)で「とべないとりお」でデビュー。2020年から2023年までLINEマンガで連載した「ラブミーテンダーにさようなら」は、「第2回 LINEマンガ大賞」の最優秀賞(恋愛部門)を受賞した。2024年よりLINEマンガで初のwebtoon作品となる「四度目の夫」、2025年よりフィール・ヤング編集部のWebマンガサイト・OUR FEELで「スパダリやめていいですか」を連載中。「四度目の夫」は2025年にwebtoon産業の発展に寄与した作品を称える韓国のアワード「2025 WORLD WEBTOON AWARDS」で日本人初となる本賞、2026年にコミックナタリーが主催する「タテ読みマンガアワード 2025」で国内作品部門2位、演出賞をW受賞した。ほか著作に「りぼんの縁結び」、「目の付けどころがディープでしょ」「かげひなたの恋」など。