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週刊少年チャンピオン50周年 対談連載第3回武川新吾(週刊少年チャンピオン編集長)×中野博之(週刊少年ジャンプ編集長)|「少年に読ませたい」という思いが作り手にあれば、それは少年マンガ

今のジャンプって、「努力」は抑え気味じゃないですか?(武川)

──「ジャンプらしさ」「チャンピオンらしさ」とは何かというお話も伺いたいんですけど、ジャンプのスローガンのように言われる「友情・努力・勝利」っていうのは、実はジャンプ側からは言ってないらしいですよね。

中野 「雑誌のスローガンはこれだ」とまでは言っていないですね。それに「『友情・努力・勝利』こそジャンプだ」って言っている編集長もいれば、「『友情・努力・勝利』はバカが考えたんだ」と主張する編集長もいました(笑)。

武川 それはちょっとびっくりしました。個人的には日本一有名な標語だと思っていたので。

──中野さんが考える今のジャンプらしさはなんですか?

中野 僕はどっちかっていうと「友情・努力・勝利」が近いですかね……と自分では思っているんですけど、先輩からは「変なマンガばっか作ってるね」ってよく言われます。

武川 自己評価とは全然違うんですね。

「魔人探偵脳噛ネウロ」1巻。謎を糧とし、謎が解かれたときに放出されるエネルギーを喰らう魔界の住人・ネウロと、女子高生探偵・桂木弥子を中心に描いた異色のミステリーマンガ。探偵ものではあるが、ネウロは「魔界777ツ能力(どうぐ)」という特殊能力で捜査を行うため、推理に重きは置かれておらず、犯罪者の異常心理や荒唐無稽なトリック描写が特徴的な作品だ。©松井優征/集英社

©松井優征/集英社

中野 担当していたのが「魔人探偵脳噛ネウロ」とかなので。

──全然ジャンプ的じゃないというか、クセが強いマンガですね(笑)。

中野 「お前が一番『友情・努力・勝利』から外れてるよ」って言われるんですけど、「え、僕『キン肉マン』とか好きなんですけど?」みたいな(笑)。さっき言った「少年に見せたい」っていう部分を考えると、何かしら「友情・努力・勝利」という要素は入ってくるのかなと思いますけどね。

武川 どの少年誌でも、全作品とは言わないですけど、ある程度はその3つを押さえていないと、うまくいかないとは思います。ただ、「友情・努力・勝利」のうち、今のジャンプさんは意外と「努力」って抑え気味じゃないですか?

中野 意識して変えるっていうことはないんですけど、たぶん今のマンガ作りの理論から言うと、「努力」の部分って人気が獲れないです。

武川 やはりそういうものですか。天才型の主人公が多いですよね。

中野 実はすごい血筋だったみたいな。「だって努力って気持ちよくないじゃん」っていうことですよね。子供たちっていきなり「あなたは隠された力がある」って言われたほうが気持ちいいし、それを夢見ているわけだから。

──今、転生ものが流行っているのはまさにそういうことですよね。

中野 でも説得力という意味では「努力」の要素も必要だと思いますよ。だからいかに修行シーンをギュッと短く、面白く描くのかは1つの腕の見せどころかと。

武川 「DRAGON BALL」なんかは修行の描写でさえ工夫されていて、「精神と時の部屋」なんて最高に面白いです。

中野 重力が地球の何倍もある重力室とか。あと努力なのかどうかわからないですけど、サイヤ人が死にかけて仙豆を食べて復活すると強くなるとか、なぜか説得力がありました。あれは発明ですよね。

──ちなみに武川さんが今のチャンピオンに「友情・努力・勝利」的なスローガンをつけるなら?

武川 なかなか標語的に言うのは難しいんですが、意識していることはあって、「人の可能性をちゃんと考える」「人の可能性を踏みにじっちゃいけない」というのはやっているつもりでして。一般的なチャンピオンのイメージって、なんかおっかない感じだと思うんですよ。だけどチャンピオンのキャラは腕っぷしが強いだけじゃなくて、実は優しさの部分が特徴なんじゃないかと思っていて。

中野 チャンピオン作品は人間の業とか情念といった部分が強く描かれていると思うんですけど、そこがしっかり描かれているからこそ、キャラクターに人間味がありますよね。

武川 本当の意味で強い奴って、弱者の生き方とか可能性を否定しないと思うんですよ。マガジンの栗田さんとの対談では、「今ヤンキーマンガを描くなら、ヤンキーであることがカッコいいんじゃなくて、男としての生き方がカッコよくないと」という話もしましたけど。そういうカッコいい生き方をしている男って、クラスの端っこにいるような奴にも、ちゃんと声をかけてくれる優しさがあると思うんです。そういう弱者の可能性を潰すマンガは掲載したくない。チャンピオンは「強いけど優しい」みたいな感じのイメージかなと思っています。

若い子に「マンガはコスパが悪い」と言われたんです(中野)

武川 チャンピオンは7月15日に「創刊50周年大感謝祭」というイベントをやるんですけど、こんな大規模なイベントをやるのは初めてなんですよ。ジャンプさんは毎年「ジャンプフェスタ」をやられていて、すごいなと思ってまして。

中野 イベントは面白いですけど、やる側は疲弊しますよね(笑)。けど2ついい点があって。1つは、読者の顔を見ることができるところ。作家さんに「人気ありますよ、単行本売れてますよ」って言っても、作家さんが街に出たときに「キャー!」って言われるわけではないじゃないですか。それが「ジャンプフェスタ」では作家さんもステージに立つ人もいるので、そういう人はイベントに出たあと、「中野さんに『人気あります』って言われていたけど、俺を気持ちよくさせるための嘘だと思ってました」って(笑)。それがモチベーションに繋がりますよね。

──イベントは作家さんのためにもなっているんですね。

中野博之

中野 もう1つは、マンガって1人で読むものじゃないですか。だから読者が、同じ作品のファンが集まるところに行くのは重要だと思っています。以前マンガを読まない若い子に話を聞いて、「マンガってコスパが悪い」って言われて衝撃を受けたことがあるんですよ。

──どういうことですか?

中野 映画だと大ヒットしているものがあるから、みんなで「『アベンジャーズ』観た?」「観た観た」って盛り上がりやすいけど、マンガって人それぞれで「僕はこれが好き」「私はこれが好き」という感じで、友達と話を合わせるには全部読まないといけないからコスパが悪いって。

武川 へえー!

中野 だから「ジャンプフェスタ」みたいなファンが集まるところに読者が行って、「この作品が好きな子はこんなにいるんだ」「私がこのマンガを好きっていうのは間違ってないんだ」って感覚を味わうのは大事だなって。

──SNSでもファンの多さはわかるかもしれないけど、実際に人が集まってところに行くと実感が違いそうです。

中野 「あのマンガ読んだ?」って盛り上がるのを、かつては学校の教室で自然にできていたんですよね。それがなくなってきているので、僕らが積極的にそういう場を作って、ファンにファンのままでいてもらいたいなと。

武川新吾

武川 チャンピオンの「創刊50周年大感謝祭」でも、皆さんと作品の良さを共有して、読者さんにも作家さんにも感謝して、「チャンピオンを好きでよかった」と思ってもらえるイベントにしたいと思ってます。

中野 「大感謝祭」、面白そうですよ。動物を連れてくるんですよね(笑)。

武川 そうです(笑)。いろんな作家さんにイベントで実現したいマニフェストを出していただいて、読者投票1位が実現するっていう企画なんですけど、「BEASTARS」の板垣巴留先生のものは「いま一番会ってみたい動物を大感謝祭に招待します」っていう企画が1位になってしまって(参照:週チャン50周年イベント開催!読者の投票次第では板垣巴留が好きな動物を招待)。ちょっと無茶したなと。秋葉原に動物を連れてこないといけないので、今スタッフが非常に焦っております(笑)。なんの動物が来るのかは当日までのお楽しみです。

週刊少年マンガの編集者は変わった生き物(中野)

中野 マンガ編集者、特に週刊マンガの編集者って本当にサラリーマンの中でも特殊な生き物じゃないですか。それをずーっとやってきた人たちってすごいと思うんですよ。

左から武川新吾、中野博之。

武川 週刊少年マンガの編集者って数もそんなにいないじゃないですか。4誌で100人いるかいかないか。もしどこぞやの図鑑で「世界の職業」みたいなものがあったとしたら、端っこのほうに載ってるすごい希少な連中ですよ。

中野 僕ら週刊少年マンガの編集者は、優秀とは言わないですけど、変わっているというか変な生き物であるのは間違いないです(笑)。サラリーマンなのに、自分の担当する作家やマンガのことを24時間考えてますからね。今まで週刊少年誌でやってなかったマンガ家さんもぜひ、この特殊な生き物と触れてみて、一緒に作品を作ってほしいです。絶対に自分のマンガにとってプラスになる部分があると思いますよ。

──週刊ではないマンガの編集者とは違うことができるという自負があるわけですね。

武川 ジャンプさんなり、チャンピオンなりに持ち込みに来てほしいです。それにしてもチャンピオンが50年で、ジャンプさんが51年ですよね。そしてマガジンさんサンデーさんが60年じゃないですか。各誌が培ってきた歴史を足すとだいたい220年で、けっこうなことだなと。

──1日24時間マンガのことを考えてる人たちが220年分、マンガのことを考えていたわけですからね。

武川 220年のバリューがすでにあるものなので、共にマンガ作りをもっともっと長く続けていきたいです。刺激し合いながらがんばっていきましょう。

中野 このあいだ「ジャンマガ学園」を発表したあと、いろんなネット上の意見を見ていたら、「サンデーとチャンピオンは?」っていうのが一番多かったんですよ(笑)。週刊少年マンガ誌が4つあるっていうのは、これだけ認知されているんだなっていうのはそこで改めて強く感じました。それだけ特殊な4誌だと思いますし、それはもう読者にとっても特別なんだなっていうのはすごくありがたいことです。先ほど言った通り、週刊少年マンガというのは世界に誇れる、エンタメを若い子に届けられる一番最強のツールだというふうに思っているんですよ。それがどんどん出版業界が厳しくなっていく中で、がんばって保護しなきゃいけない文化財みたいなものになってしまうのは絶対に違うと思うので、ずーっと攻めて「またバカなことやってるな」ぐらいに思われる4誌であるといいなと思っています。これからも攻めて、51年目、52年目もやっていきましょう。

左から武川新吾、中野博之。