週刊少年チャンピオン50周年 対談連載第3回武川新吾(週刊少年チャンピオン編集長)×中野博之(週刊少年ジャンプ編集長)|「少年に読ませたい」という思いが作り手にあれば、それは少年マンガ

週刊少年チャンピオン(秋田書店)が創刊50周年を迎えた。コミックナタリーではこれを記念し、武川新吾編集長による対談連載をお届けしている。第3回の対談相手は週刊少年ジャンプ(集英社)の中野博之編集長。低年齢層向け雑誌・最強ジャンプの副編集長も経験した中野とは、本来のメインターゲットとなるべき少年読者層との向き合い方を語り合う。また業界のトップランナーであるジャンプを生み出す、アンケートシステムや連載会議、「友情・努力・勝利」というスローガンについても、ジャンプとチャンピオンの作り方を比較しながら話を聞いている。

取材・文 / 松本真一 撮影 / 石川真魚

「ドカベン」にはキャラクターマンガの基礎的な部分が詰まっている

左から武川新吾、中野博之。

中野博之 「チャンピオンの編集長がほかの少年誌の編集長と対談」という企画だと聞いて、一瞬「編集長とタイマン!?」と思ってしまいました(笑)。

武川新吾 チャンピオンだけに(笑)。

──「Let'sダチ公」(週刊少年チャンピオンで連載されていたヤンキーマンガ)に「タイマンはったらダチ!!」というセリフがありますからね。

中野 「ダチ公」は昔、親戚の家にあったのを読んで面白くてハマりましたね。あとはチャンピオンと言えば「ドカベン」だと思うんですけど、「ドカベン」以外の水島新司先生の作品も僕は好きで、よく読みました。「虹を呼ぶ男」と「おはようKジロー」は家に全巻あります。

武川 今、創刊50周年事業をやらせていただいてる関係で、水島先生の作品も改めて読む機会が多いんですけど、「ドカベン」はちょっと開いたらいつの間にか読み込んでいることがありますね。

中野 ジャンプにも「ドカベン」が一番好きだというスタッフも多いですし、作家さんの話でもよく出てきますね。「SLAM DUNK」の井上雄彦先生も影響を受けていると言ってました。

──井上雄彦先生は水島新司先生と週刊少年チャンピオン誌面で対談されてましたね(その後「ドカベン ドリームトーナメント編」3巻に収録)。

中野 そうそう、具体的に「明訓四天王の過去エピソードが全部入っている31巻が一番盛り上がる」とまで。

──「計算したわけじゃないのに『SLAM DUNK』は31巻で終わってる」「体内時計でそうなったのかも」と言ってましたね。

武川 「ドカベン」には今のキャラクターマンガの基礎的な部分があると思ってます。山田、岩鬼はもちろん、女の子が「キャー!」って言うような里中や殿馬みたいな天才キャラもいますし、ほかにもヒットマンガのロジックで通用する要素が全部入っているんじゃないかと。

中野 「ドカベン」が突出しすぎてますが、今の若手にはそんなに知られてないマンガなんですけど「おはようKジロー」のキャラの配置とかもすごいですよ。

──中野さんは今のチャンピオンも読まれていますか?

中野 もちろん毎週読ませていただいてます。一番最初に(巻末の)「木曜日のフルット」を読んじゃいますけど(笑)。ほかにはやっぱり「BEASTARS」は面白いですよね。コミックスも買っていますよ。

武川 「BEASTARS」はチャンピオンという土壌だからこそ生まれてきた作品なのかなと思います。

中野 確かに、ジャンプだったらここまで推せたかなって。最初読んだときに「絵が粗いかな」と感じたので、ジャンプだともう少し、増刊号とかで連載してもらって鍛えるという判断をしたかもしれない。だけどすごいスピードで成長されて、絵もいい意味での粗さは損なわないままに洗練されてきているというか。もちろん設定も面白いですし、編集者としてはちょっと悔しい思いをしながら読んでいます。

──マガジンの栗田編集長との対談で、武川さんは「チャンピオンはほかの雑誌だったら手を出さないところを掘り下げる」という話をしていましたね。中野さんから見て、ほかのチャンピオン作品で「ジャンプでは載せづらいかも」というものはありますか?

中野 少し昔の作品なんですけど、「ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~」ですかね。あれは本当にクオリティの高い作品ですけど、ジャンプで連載するのは難しいと思います。

──というのは?

中野 ああいった実録物というのは、何かの記念で1話だけ掲載することはあると思うんですよ。だけど連載ということになると、作家も編集者も人気を獲るマンガを描きたがるんですよね。「ブラック・ジャック創作秘話」は「これじゃ人気獲れないかも」という部分が先に立ってしまうというか。

──「ブラック・ジャック創作秘話」は2012年に「このマンガがすごい!」でオトコ編1位を受賞して、評価されている作品ではありますけど、ジャンプでバトル系マンガに混ざったときに人気が獲れるかは全然読めないですね。

中野 ただ、みんなが人気を獲りに行くというのはもちろんいい部分もあるんですけど、ジャンプは雑誌なので、マンガの読み物としての幅はもう少し広くないといけないんですよね。そこは1つ、今のジャンプの反省点だと思っています。

「ブラック・ジャック~青き未来~」。20XX年を舞台に、約60歳になった未来のブラック・ジャックが、孤立する独裁国家・ハロイに降り立つところから物語は始まる。

──理想を言えば、人気が獲れないかもしれない実録ものもあっていいと。

中野 あとこれは今日お伝えしたかったんですけど、「ブラック・ジャック」関係で言うとスピンオフの「ブラック・ジャック~青き未来~」は本当に好きで、いまだに1年に1回ぐらい読み返してますよ。チャンピオンでの連載で読んでいたんですけど、最終回は衝撃でした。

武川 物語のクライマックスが圧巻で、あまりネタバレできないですが、素敵な作品でした。

中野 マンガを読んで泣いたのはあれが最後かもしれないです。売れている作品のスピンオフって今は避けて通れなくて、ジャンプでもいろいろ試しているんですけど、一番いい例として僕の中にあるのが「青き未来」です。

チャンピオンはギャグが充実しているのがうらやましい(中野)

──この連載ではサンデーの市原編集長、マガジンの栗田編集長のお話を聞いてきまして、おふたりとも「他誌のことはライバルという認識ではない」「一緒に盛り上がっていきたい仲間だ」という感じのことを言っていたんですけど、中野さんはそのあたりどうですか?

中野 両編集長とも、「嫉妬しない」みたいなことをおっしゃられてましたけど、僕はやっぱり意識はしてますし、面白いマンガには嫉妬します(笑)。

武川 おお、そうですか……!

──週刊少年誌4誌のうち、唯一「ほかの雑誌に嫉妬します」と言ったのが、一番売れているジャンプの編集長というのが驚きというか納得というか。

中野 これは編集長だからというよりは、いち編集者としての感情が大きいのかもしれないですけど。面白い作品があると「どうやって作っているんだろう」って考えますし、「こんな才能いいな」ってうらやましくなります。どうしてもそこを外してマンガを読めなくなってしまっているので。例えばチャンピオンさんは、ショートのコメディとかギャグが多くて、それが長く続いていて、そこも羨ましいなと思っています。

武川 ギャグは「がきデカ」とか「らんぽう」の頃から強い傾向がありますね。

「ロロッロ!」1巻。友達のいない中等部1年生の少女・森繁ちとせのために、科学者の父は高性能ロボット・炉端イチカを完成させる。ぼっち少女のちとせと、周りからロボットだと信じてもらえないイチカによるハートフルSFコメディ。

中野 今も「浦安鉄筋家族」と「木曜日のフルット」という二大巨頭がどっしり構えているから、ほかのギャグ作品はまた違う球を投げればいいみたいなところもあるのかな。そういえば「ロロッロ!」の桜井のりお先生って、赤塚賞(集英社が主催するギャグマンガの新人賞)出身なんですよね。

武川 ああ、ご存知でしたか。

中野 当時は高校生で、授賞式も制服でいらっしゃってたと思います。僕もまだまだ現場にいた頃でしたから、担当のことを羨ましく思うぐらい力がある子でしたけど、そこからスイスイとチャンピオンの連載が始まって。たぶん桜井先生が受賞後に自分の可能性を探っているうちに、チャンピオンさんとスピード感などの条件が合ったんだと思いますけど。

武川 そうですね、「子供学級」で連載デビューされて。水が合うというか不思議な磁場が働くというか、各作家さん、それぞれ適性のある雑誌を見つけられるんですよね。

中野 「4大少年誌」とは言いますけど、それぞれ雑誌ごとに色は違いますからね。

作家に「終わりたい」と言われて「どうぞ」と言うのは難しい(中野)

──チャンピオンでは昨年「ドカベン」シリーズが完結しました。一方、ジャンプでもこの数年で「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や「BLEACH」が終了し、「銀魂」もジャンプGIGAへの移籍を経て、銀魂公式アプリで終了しました。長期連載が減って、連載作品が若返っている印象なんですが、これは意識されたものですか?

中野 どうでしょう、「こち亀」を中心に、タイミングが重なっただけかなとも思うんですけど。ただ、ひょっとしたら昔よりも、作家の描きたいものを描きたいところで終わらせるというか。作品のためには連載終了するほうがいいというのを編集部が受け入れるようになっているとは思います。昔からジャンプは「人気がある作品は終わらせない」と批判をされていました。実際はそこまでではないと思うんですけど、否定できない部分もあったと思います。作家に「終わりたい」と言われて「どうぞどうぞ」と言うわけには、なかなかいかないので。

武川 大きな作品が連載を終えることって、雑誌としても大きなダメージですからね。ただ、もちろん内容次第ですが、作品の寿命というのはあると思いますから。

中野 「(続きで)こういうのも描けるんじゃないですか」という話はしますけどね。松井優征先生の「暗殺教室」なんかは最初からしっかり構想が決まっていて、話が盛り上がるところも見据えて、メディアの展開はこういうタイミングにしようというところまで決めていたので、そこは揺るがない感じでした。その構想どおりにちゃんと終わると、先生もまた次の作品を描く余力が残ってますよね。編集者としても読者としても、「この作品は永遠に読みたい」「この先生の新しい作品も読んでみたい」という両方の気持ちがあるので、どっちを取るか難しいところですけど。

武川 作家さんも「新しいものを描きたい」っていう欲求はあるでしょうし。