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週刊少年チャンピオン50周年 対談連載第3回武川新吾(週刊少年チャンピオン編集長)×中野博之(週刊少年ジャンプ編集長)|「少年に読ませたい」という思いが作り手にあれば、それは少年マンガ

「『BEASTARS』みたいなマンガ、多くね?」(中野)

──ジャンプは作品が若返っているだけではなくて、Webの少年ジャンプ+でも新しい作品がどんどん始まってますし、さまざまなマンガ賞を創設したり、新規読者を増やすために「ジャンマガ学園」や「マワシヨミジャンプ」といった試みがあったり、常に新しいことをやっている印象です。何か社内で「改革しよう」というような動きがあったんでしょうか。

少年ジャンプ+のスクリーンショット。

中野 たぶん昔から「どんどん変わっていけばいいじゃん」「なんでもやっちゃおうぜ」っていうのがジャンプだと思うので、根本的な編集のスタンスを急に変革をしたつもりはないですね。最近変化が早まっているイメージがあるのだとすれば、ジャンプ+っていうデジタルのチームがあるのは大きいかなと思います。ジャンプは本誌のスタッフとデジタルのジャンプ+のチーム、合わせて「少年ジャンプ編集部」なんですよ。ジャンプ+は本誌以上に読者の年齢層も上下に広いですし、マンガの最前線で戦う部隊としてなんでもやるという形なので、攻めているというか、新しいことをやっているイメージに繋がっている気はします。

──ジャンプ+は「地獄楽」「終末のハーレム」のような過激な描写の作品もあるし、「ドリキャン!!」のような縦読みマンガもありますからね。

武川 ジャンプの枠から少しはみ出すようなことでも、エンタテインメントとしての質が高ければどこかしらで表現する場所が必要なわけで。Webだと思い切りよくいけるというのはありますよね。

中野 そうですね。編集部の誰かがちょっと推しているなら、紙よりは速いスピード感で「じゃあ連載を始めてしまおう」というのはできます。チャンピオンの「足芸少女こむらさん」とか「謀略のパンツァー」とかは、けっこうWebマンガ的な感じがありますよね。

──2作品ともまだ1巻が出たばかりのちょっとエッチなラブコメなんですが、そういった作品までチェックされているんですね。

中野 「こむらさん」のフェチっぽい感じとか、「パンツァー」の一点突破な設定とかは、ジャンプ+のチームも気にしていると思いますよ。

「足芸少女こむらさん」1巻。代々足芸を生業として暮らす家で育ち、日常のあらゆることで足を使うように育てられたこむらと、ハプニングで彼女の足にキスをしてしまった月長くんの関係を描く、フェティッシュなラブコメディ。
「謀略のパンツァー」1巻。ハーレムマンガに憧れ、「ラッキースケベにまみれた学園生活を送る!!!」という夢を持つ生徒会長・真澄レイを主人公とするコメディ。彼が知略を巡らせ、自然現象なども利用し、女の子のパンツが見えてしまっても不自然ではない状況を作り出すために奮闘するのが見どころだ。

──ジャンプって今一番売れているマンガ雑誌ですよね。やはり持ち込みやマンガ賞でもかなりの作品が集まるのでしょうか。

中野 持ち込みは1日に30人ぐらいですね。もちろん全員が初めてではなくて、スタッフが抱えている作家も含めてですが。月例賞は、月によってかなり差はありますけど100本は来ていると思います。

──最近の新人のマンガの傾向って何かありますか? 例えば異世界転生ものが増えているとか。

中野 ちょうど先週も編集部でそんな話をしたんですけど……「『BEASTARS』みたいな獣人マンガ、多くね?」っていう(笑)。

一同 (笑)

武川 ジャンプさんにそんな影響が出てましたか(笑)。

中野 今の若手が面白いと思っているマンガがそういう部分に出てくるんだなと。ただ、マンガを読んでマンガを描く人の作品って、洗練されてていい部分もあるんですけど、「こんなの見たことない」という部分がなくなっちゃう。「『ONE PIECE』みたいなマンガを描きたい」と思っていたら絶対に「ONE PIECE」は超えられないので。

武川 スキルアップするためにマネするのはいいことなんですけど、創作の根本の部分まで借り物になってしまうとちょっと残念ですよね。

中野 オリジナルな部分を持つ作家さんが増えてほしいです。そういう意味では、今後は自分からは出版社に持ってこない作家さんや、海外の作家さんとコンタクトを取るにはどうすればいいかなということをすごく考えてます。昔は海外の作家さんって、絵はうまいけどコマ割りはできてないなっていう方ばっかりだったんですけど、今は世界中の描き手のレベルって上がってきているので、そういった才能も獲っていきたいなと。

武川 作家が海外から出てくるようになると、読者層はもっと広がりますよ。

作家も編集者も、きれいなものを作る商売ではない(武川)

「バクマン。」1巻。真城最高と高木秋人の2人がコンビを組み、マンガ家の道を歩んでいく様を描いた青春ストーリー。作中で2人が持ち込む雑誌は週刊少年ジャンプで、編集者も実名で登場している。©大場つぐみ・小畑健/集英社

©大場つぐみ・小畑健/集英社

武川 「バクマン。」に描かれているジャンプ編集部ってどのぐらいリアルなんですか? もちろん誇張されている部分もあると思うんですけど。

中野 小畑(健)先生はかなり取材してくれましたし、場所は写真に撮ったそのままなのでリアルな部分はありますが、編集長(佐々木尚。「バクマン。」連載時のジャンプ編集長で、作中にも登場)はあんなにカッコよくないですし、あんなに責任感があって全部を即断即決する感じではないです(笑)。ただ連載会議とかは割とそのままですね。今だと班のキャップ5人と、副編集長3人と、編集長の僕と、ジャンプ+の編集長と副編集長、11人で「これとこれを始める」「これは終了」という会議はします。

武川 マンガでは朝からずーっと会議という表現でしたけど、あれもそのままですか。

中野 そうですね。長いと1日中潰してということもあります。

武川 一番大事なことですもんね。

中野 終わったあとはみんなでご飯を食べながら「あれは納得できません」「いや、あれでいいんだ」みたいに批判しあうんですよ(笑)。

武川 反省会が行われるわけですね。

──連載について、チャンピオンは4人で決めているというお話でしたね。

武川 実質的に編集長の僕1人が決めるんですけど、3人に意見をもらう形です。

中野 うちは最終的に決めるのは僕ですけど、僕がいいと思ったものを10人に反対されて、「ダメだったか」となるときもあります。そこは流れが大事なので、出席している人たちは「こいつを味方にして……」とか「こいつは敵なんでこう潰して……」みたいな感じで、流れをどう作るかをいつも考えていると思います(笑)。

武川 割と民主的っていうか、合議的なほうですね。

中野 ただ、「誰かが強く推したものは、欠点があっても、長所があれば始めてみよう」という土壌はあります。

武川新吾

武川 それはすごくわかります。作家さんも僕ら編集者も、きれいなものを作る商売ではないので。たまにいつの間にか「寸分の狂いがないものを作らなきゃ」みたいになっているときがあって、途中で「あ、これじゃダメだ!」って気付くんですよ。何も間違いがないマンガだから面白いとは限らないし、欠点があるのは当然ですよね。チャンピオンって新連載を始めるときにまだ絵が粗いということも多いんですけど、絵柄の粗さを上回るいい部分があるなら、絶対にそこを優先したい気持ちがあります。

──この対談連載でも、「BEASTARS」「六道の悪女たち」とも「最初は絵が粗かった、だけど……」というお話がありました。

中野 多少の欠点がある作品でも、現場の編集者は「始めてしまえばこっちのものだ」って思っているはずなんですよ(笑)。会議で「ここを直せ」っていろいろ言われて、「わかりました!」って言われていた作品がそのまま始まって「全然直してねーじゃん!」っていうときがあるんですよ。でもそれが人気を獲っちゃったら、こっちは「すいませんでした」という感じです。ジャンプはよく「アンケート至上主義」って言われるじゃないですか。もちろん大事なのはアンケートだけではないんですけど、「あなたがダメって言っているものでもちゃんと人気獲ってますよ」という感じで、反対意見を封鎖するのにはアンケートが一番いいです。

──編集部内のそうした争いにもアンケートは有効なんですね。

中野 アンケートはいろんな取り方をしているので、連載を続けるか終わらせるかっていうことになると、単純に票の多さだけではなくて、どういう層に受けているのかとか、コミックスの売り上げとか、そういうところも見ています。

人気に火がつくのが遅い作品は昔より増えている(中野)

──「アンケートの票数がないと連載が終わる」という話はよく聞きますけど、逆に「今は票数がないけど、このあと絶対面白くなるからそれまで続けよう」みたいなことってあるんですか?

中野 そこも考慮しなくはないけど、なかなか難しいですね。

武川 一番悩むところだと思いますよ。あとで面白くなることっていうのは実際あるんですよ。それを信じたい気持ちもあるんですけど、でも現実的には今面白くなきゃダメだと思います。

中野博之

中野 ただ、ほんの少し実感しているのは、人気に火がつくのが遅い作品は昔より増えているかなと。昔は新連載1話目でアンケート1位、2話目も1位、初版50万部、っていう作品が看板になっていたんですけど、今は最初ちょっと苦戦して、10話目ぐらいから人気に火がつくこともあります。単行本も1巻の初版は多くはないけど、重版に重版を重ねて、3・4巻ぐらいからどんどん部数が上がってくるっていう火のつき方が増えてますね。それはたぶんネットがあるからこそで、雑誌を読んでない人が少し遅れて見つけてくれるということだと思います。見つけてくれる人が雑誌とは違うところにいて、でもネットのおかげでそこにも届けられるようになっているというのは感じていますね。

武川 「鬼滅の刃」はもしかしたらそうなんじゃないかと思って読んでました。鬼殺隊が出たあたりから人気に火がついたという印象です。

中野 もちろん最初から人気は獲っていましたけど、いきなり爆発的ということはなくて、少し経ってからジャンプを読まない人も見つけてくれましたね。

武川 マンガって作品によっては化けるっていうか、加速する瞬間っていうのがあるんですよね。強烈なキャラが出たとか、きっかけはいろいろあるんだと思うんですけど。逆に1話目で最初から「これは!」って思ったのは、近年だと「暗殺教室」です。

中野 「暗殺教室」は確かにそうでした。

武川 月の7割を消し飛ばした生物がいて、「来年までに自分を殺せなければ地球を破壊する」と宣言した、という1話目だけでもう「典型的な1位を獲るタイプのマンガなんだろうな」と感じましたよ。

──チャンピオンでは、連載が続くかどうかにアンケートはどれぐらい影響しますか?

武川 やはりまずアンケートが第一で、普段チャンピオンを読んでるお客さんを獲れるかどうかっていう指標をしっかり見ます。次にコミックスが出るときに、じゃあチャンピオン読者以外のお客さんをどれぐらい獲れるのか。現実問題として、チャンピオンを読んでるお客さんだけでコミックスがものすごく売れるっていうことはなかなかないと思うので。やっぱり書店やネットでその作品に出会った人に購入いただいているのかどうかが非常に重要なファクターになってきますから、そのマンガの1巻が出たあとに評価が見えてくるっていうのが基本的な考え方ですね。ただなかなか、こればっかりはね、アンケートを重視したほうが正しいのかどうか、結果が出るまでわからないですよ。

中野 そうですよね。我々がすべて正しい判断をできるのであれば、面白いと思って載せている作品はすべてヒットするってことになっちゃうので。