ワーナー・ブラザース ジャパン プロデュース アニメ特集 松澤千晶×吉田尚記|原作ファンの愛が込められた「ジョジョ」、アニメの見方が学べる「映像研」…アニメ好きのアナウンサー2人が全力トーク

もっと評価されてほしい「ひそまそ」、生きづらい人に観てほしい「モブサイコ100」

──続いてそれぞれが挙げられた残り1作品を語っていただきます。吉田さんは「ひそねとまそたん」を挙げていました。

吉田 「ひそまそ」はもっと知られてもいい超名作だと心から思います。岡田麿里さんの脚本の質が非常に高いのもそうですが、そこに乗せた絵がすごい。無駄を徹底的に削ぎ落としたキャラクターデザインで、特にカメラが引いたときのキャラクターなんて手塚治虫時代くらいのシンプルさ。でもそれがとても魅力的なんです。しかも戦闘機なんかの機械も出てきますが、すべて機械的な真っ直ぐな線ではなくフリーハンドで描かれている。そういったものを今のクオリティで動かすとこんな質感になるんだなと感心しました。今からでも多くの人に観てほしいです。

──特に覚えているカットはありますか?

TVアニメ「ひそねとまそたん」第11話より。©︎BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

吉田 11話で主人公のひそねが失踪して戻ってくるところですね。雨で濡れた路面をスライディング土下座するところが、「アニメ!」って感じですごく好きです。

松澤 そのくだり、また観たくなりますね。私も最後の1つとして「ひそまそ」を挙げるか迷いました。「ひそまそ」はイベントの司会をさせていただきましたが、演じられた方々の思い入れが尋常でなかったのを思い出します。ひそねを演じた久野美咲さんが「ひそねを通して自分も一皮剥けた」みたいなお話をされていて、私もひそねに共感して観ていたので印象深かったです。樋口真嗣総監督は「ひそねみたいな女の子が一番かわいい」とおっしゃっていましたが、そんなふうに、嘘をつけない彼女をかわいいと思える人が増えるといいですね。

──確かに「ひそねとまそたん」はもっと多くの人に観てほしい作品ですね。松澤さんが最後の1作として挙げられたのは「モブサイコ100」でした。

TVアニメ「モブサイコ100」キービジュアル ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100」製作委員会

松澤 今って自粛だなんだで閉塞感があって「自分は何もできないなあ」とか「特殊な知識も能力もないし」とか考えてしまう人もいると思うのですが、そういう方々に必要なのは間違いなく「モブサイコ100」みたいな作品ですよ。

吉田 と言うと?

松澤 「モブサイコ100」は言ってしまえば超能力バトルの話ですが、人間の一番の超能力は人それぞれが持つ魅力なのではないかと感じられるんです。第2期「モブサイコ100 II」の第6話と第7話にあたる「ホワイティー編」が特に印象的で、主人公のモブくんが師匠と呼ぶ自称霊能力者・霊幻新隆のパーソナリティが浮き彫りになる話なのですが、そこで彼は自分の弱さ、情けない部分を知ったからこそ強くなれるんです。今「生きづらいな」なんて思っている人も救われる部分があるはずなので、ぜひ観てほしいですね。「ジョジョ」とはまた少し違った人間賛歌を謳っている作品です。

古のゲームと最新アイドルをブレンドした「ハイスコアガール」

──ここまでおふたりが選んだ4作品を語っていただきましたが、ほかに近作で印象深いものはありますか?

TVアニメ「ハイスコアガール」第1話より。雨宿りに寄った駄菓子屋で、ゲーム好きの少年・ハルオと格ゲーマーのお嬢様・大野は「ファイナルファイト」を協力プレイすることになる。 ©︎押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 ©BNEI ©CAPCOM CO., LTD. ©CAPCOM U.S.A., INC. ©KONAMI ©SEGA ©SNK

松澤 「ハイスコアガール」は「ファイナルファイト」をTVアニメの中で観られたことがうれしかったです。「そこで肉を拾うのかよ」みたいなちょっとしたやり取りがあったり、タイミングよく障害物を破壊して、アイテムを錬金するテクニックを知ることができたり、作中の人物と一緒に楽しんでいた感覚です。

──松澤さんは作中の矢口や大野たちより少し下の世代ですが、そういったゲーム部分を楽しまれていたんですね。

松澤 確かに私は彼らより少し年下で、プレイステーションやセガサターンが盛り上がった1990年代中盤からゲームに入りました。だからアーケードゲームを遊ぶという文化はなかったのですが、上の世代の方から「筺体を家に置くのが夢だった」みたいなお話を聞いてはいたので、「ハイスコアガール」を観て「あ、こんな時代だったのか」と思いました。吉田さんはまさに彼らの世代ですよね? もしかしてご自宅に筐体があったんじゃないですか?

吉田 ちょっと待ってください、その世代のオタクですけどいくらなんでも家に筐体はありませんでしたよ(笑)。でも「ハイスコアガール」で描かれるように「ファイナルファイト」は1回50円で遊べるゲーセンで死ぬほど遊んだし、「ストリートファイターII」が出たときのザワつきも覚えています。ただこの作品に関して1つ言いたいのは……絶対に大野みたいな子はいない!(笑)

松澤 あれは夢ですね、現実ではないです。

吉田 あと「ハイスコアガール」だとsora tob sakanaが主題歌をやっていたじゃないですか。僕はアイドルオタクでもあるんですけど、アイドルソングの文脈で考えてもアニメソングの文脈で考えても、彼女たちをアニメに起用した判断はすごいですよ。

──音楽的にはポストロックというマニアックなジャンルが基盤だし、第1期が始まった2018年以前はインディーアイドルシーンで活躍していて、まだ知る人ぞ知る存在でしたからね。

吉田 「ハイスコアガール」の主題歌「New Stranger」はあのエレクトロな感じと青春感が同居しているところがめちゃくちゃ作品に合っていましたよね。もっと言うと「映像研」もアニメシーンでは名前を聞かないchelmicoを起用して、これ以上ないくらい作品のための歌になっている。

ワーナー担当者 弊社は作品制作のプロデューサーが音楽のプロデューサーを兼任することも多いので、作品に合う楽曲を展開できているというのはあります。「ジョジョ」は典型的なパターンです。

TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」オープニング映像より。 ©︎荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

吉田 やっぱりそうなんですね。神風動画のあのオープニングなんて、未見の人は死ぬ前に1分30秒くれ、頼むから観てくれと言いたい。

松澤 「ジョジョ」のオープニングは死ぬ前に観たいですね。最後にディオ様が現れて死ぬとか、いいですね。

吉田 めちゃくちゃ笑顔になってますけど、松澤さん大丈夫ですか?(笑)