コミックナタリー Power Push - 「有頂天家族2」
森見登美彦インタビュー
狸、天狗、人間の狂乱、再び。新キャラ続々登場の第2部を原作者が語る
黒田硫黄の「大日本天狗党絵詞」に影響を受けて
──「有頂天家族」は家族がひとつの大きなテーマとなっていますが、森見さんの家庭が下鴨家に反映されているようなところはあるんでしょうか?
僕は弟と妹、両親がいて、今は亡くなりましたが祖父母とも同居していたので仲良し家族でしたね。総一郎もそうですけど、「ペンギン・ハイウェイ」とかでも、僕は割と立派な父親を書くことがあるんですが、自分の父親をそのまま書いているわけではないです。いや、尊敬はしてますが……あんまり言うと変な誤解を与えますね(笑)。どちらかというと、祖父のイメージは赤玉先生が近いですね。ちょっと孤高の感じがあって、気難しい。孫には優しいんですが、あんまり人付き合いも好きじゃないし、家にいることも多かったです。全然、あんなスケベじゃなかったですけど(笑)。
──ええ(笑)。
赤玉先生って天狗ではあるけれど、下鴨家のおじいちゃんみたいな扱いじゃないですか。矢三郎がいつも世話をしているし、家族の行事に連れてきたり。だから赤玉先生は自分と祖父との距離感みたいなものをある程度反映してますね。
──「有頂天家族」は最初は狸だけのお話だったけれど、黒田硫黄さんの「大日本天狗党絵詞」からインスピレーションを受けて天狗を登場させたと「有頂天家族公式読本」のインタビューで拝見しました。
最初は京都にいる狸が化けて暮らしているというお話を考えたんだけど、何か足りないと感じていたんです。そのときに「大日本天狗党絵詞」を読んで。このマンガでは、現代の日本の風景の中に天狗が出てくるんです。しかもその天狗が背広を着たりしているので、すごくいいなと思ったんですよね。
──「大日本天狗党絵詞」では、主人公の女の子・シノブが背広を着た天狗に攫われるところから2人の関係が始まります。これは弁天と赤玉先生にそっくりだなと。
ええ。このマンガでは天狗も途中で弱くなったりするじゃないですか。そこらへんもすごく影響を受けたというか。やっぱり「大日本天狗党絵詞」は、ちょっと悲しかったわけですよ。また派手さはなく、じっくり読む感じのマンガだったので、「有頂天」ではそういう味わいとはまたちょっと違うふうに書けるとも思ったのかな。狸の世界と天狗の世界を重ねることで、違う天狗の書き方ができるんじゃないかと思ったんです。
京都の強度を試し続けている
──よく質問されることだと思うので恐縮なのですが、そもそも森見さんが京都を舞台にする理由を改めて教えていただけませんか。
よくわかんないんですよね。最初に「太陽の塔」を書いたときは単純に自分が住んでいるから、身の回りの日常を小説にしてしまえと。特に初期の頃はこんな学生今どきいないよなってくらい時代錯誤な言葉をいっぱい使っていたんですが、それが京都が舞台だとアリだと思えてくる。今では逆に、どこまでいけるんだろう、と(笑)。だから「太陽の塔」から「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」と、だんだんでたらめ具合を大きくしていって、どこまで京都が耐えられるのか、言わば京都の強度を試していたんです。
──京都の強度(笑)。
ほんなら、いくらでも耐えるわけですよ、京都が。京都っていう土台があると、上に相当無茶なものを乗っけても持つんです。そのおかげでずっと使うことになってしまって。ほかの街を舞台にしても成立しないことが京都でできてしまう。だから、京都にこだわってるっていうよりも、京都の強度を試しているうちに病みつきになって、出られなくなっちゃったっていう。でも今連載している「シャーロック・ホームズの凱旋」(小説BOC / 中央公論社)では、ヴィクトリア朝京都という、京都の街なんだけどヴィクトリア朝が舞台。もはや京都を壊してるっていうか。
──でもまだ壊れていない?
これが、まだ持つんですよ。
地獄絵のシーンは、第2部の世界を変な方向に押し広げてる場面
──「有頂天家族2」の放送はいよいよ4月から始まりますが、期待するシーンはありますか。
地獄絵ですかね。先日、富山のP.A.WORKSに遊びに行かせていただいたときに地獄絵も見せていただいたんですけど、やっぱりすごい迫力で。地獄絵から地獄に入っていくあたりは、楽しみですね。あそこは第2部の世界を変な方向に押し広げてる場面だと思うので。
──小説「有頂天家族」は3部作ということで、第3部の刊行も待たれています。
まさかの、京都市長にまで「早いところ書いてくださいね」と言われましたからね(参照:「有頂天家族2」下鴨神社で“毛玉の皆様”と成功祈願!親善大使の任命式も)。斜め後ろから刺された気分ですよ(笑)。でも僕も、「有頂天」のお仕事だけをしているわけではなく、いろいろと約束がありまして……。
──ええ、気長に待っています(笑)。そもそも、どうして3部作に?
当初は第1部に話が収まりきらず、この調子だったら3部くらいまではいけるんじゃないっていう、大雑把な感じで始まったんです。でもそれぞれ書くときにコンセプトはちゃんと考えていて。第1部は父親の死を狸たちが受け入れていく話だった。第2部は狸たちが代替わりして、そのバトンが天狗に渡される。そして第3部は、おそらく天狗の世代交代が描かれて、それに狸たち兄弟が関わっていく話。狸側で世代が代わり、その影響で天狗側も世代が代わるというのを、3部作でやろうという話なんです。
──第2部の巻末に掲載された予告では「天狗大戦」というサブタイトルが付けられています。
本当に大戦になるのかな。いざとなったら「天狗大戦がこれから始まる」って終わるかもしれない(笑)。
──気の早い話ですが、2部までアニメ化されたらやっぱり3部もアニメ化されてほしいです。
プロデューサーもすごく言ってくださるんですよ。ありがたいです。僕も別にもったいぶっているわけではないんですけど、小説のペースに関しては割とわがままなので。例えばアニメの時期に合わせて第3部を乱暴にとりあえず仕上げてしまえっていうお仕事は僕はしないですから、早くというのも難しいんですよね。でも引っ張れば引っ張るほどハードルも上がっていくので、そろそろハードル跳んでおかないと危ないですね(笑)。
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アニメ「有頂天家族2」
放送情報
- TOKYO MX
- 2017年4月9日(日)より毎週日曜22:00~
- KBS京都
- 2017年4月10日(月)より毎週月曜20:00~
- サガテレビ
- 2017年4月12日(水)より毎週水曜25:55~
- KNB北日本放送
- 2017年4月13日(木)より毎週木曜26:29~
- AT-X
- 2017年4月10日(月)より毎週月曜24:30~
配信情報
- dアニメストア
- 2017年4月11日(火)より毎週火曜日12:00~
スタッフ
- 原作:森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」(幻冬舎)
- キャラクター原案:久米田康治
- 監督:吉原正行
- シリーズ構成:檜垣亮
- キャラクターデザイン/総作画監督:川面恒介
- 美術監督:竹田悠介、岡本春美
- 音楽:藤澤慶昌
- 音楽制作:ランティス
- アニメーション制作:P.A.WORKS
- 製作:「有頂天家族2」製作委員会
キャスト
- 矢三郎:櫻井孝宏
- 矢一郎:諏訪部順一
- 矢二郎:吉野裕行
- 矢四郎:中原麻衣
- 弁天:能登麻美子
- 母(桃仙):井上喜久子
- 赤玉先生:梅津秀行
- 金閣:西地修哉
- 銀閣:畠山航輔
- 海星:佐倉綾音
- 淀川教授:樋口武彦
- 二代目:間島淳司
- 玉瀾:日笠陽子
- 呉一郎:中村悠一
- 天満屋:島田敏
- 「有頂天家族Blu-ray Box」
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- 発売中 / 19440円 / BCXA-1220 / バンダイビジュアル
- 小説 / 森見登美彦「有頂天家族」 / 発売中 / 幻冬舎
- 「有頂天家族」
- 単行本 / 1620円
- Kindle版 / 648円
- 小説 / 森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」 / 発売中 / 幻冬舎
- 「有頂天家族 二代目の帰朝」
- 単行本 / 1836円
- Kindle版 / 770円
森見登美彦(モリミトミヒコ)
1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了。在学中の2003年に「太陽の塔」で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2007年には「夜は短し歩けよ乙女」で第20回山本周五郎賞を受賞、2010年には「ペンギン・ハイウェイ」で第31回日本SF大賞を受賞。「四畳半神話大系」「有頂天家族」はテレビアニメ化され、「夜は短し歩けよ乙女」は2017年4月に劇場アニメ化される。そのほかの著書に「四畳半王国見聞録」「聖なる怠け者の冒険」など。
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会