コミックナタリー Power Push - 「有頂天家族2」
森見登美彦インタビュー
狸、天狗、人間の狂乱、再び。新キャラ続々登場の第2部を原作者が語る
二代目のスーツが白なのは意外だった
──では2期から登場するキャラクターのことを聞かせてください。二代目は「二代目の帰朝」でもシルクハットを被っているなどの描写はありましたね。
二代目と天満屋さんはそこそこ書いているほうかな。でも二代目のスーツが白なのは意外でした。
──と、言いますと。
僕は割とベタな黒尽くめの、ヴィクトリア朝の19世紀のロンドンとか紳士のイメージがあったので。おそらく久米田さんは、ほかのキャラクターとの組み合わせも見てこのビジュアルがいいと考えはったんだろうな、と。
──天満屋についてはいかがでしょうか。アニメのビジュアルではテキ屋のような風貌ですが、久米田さんのデザイン画はかなり奇抜な格好で……。
これね、初めて見たとき、ちょっと不思議だったんですよね。これは確かに2期最大の謎ですね(笑)。原作に“天満屋がガッチリしている”という描写があったんですが、監督がその理由を考えたときに“肉襦袢”というイメージが出てきたらしくて。
──モコモコした不思議なスーツを着ていますが、これは肉襦袢なんですね。
天満屋さんは狸や天狗と張り合うくらいの人間なので、こういうのを一生懸命着たりして虚勢を張っているのかな? 人を化かしたりする人という意味も込めてはるのかなあ。この肉襦袢がどういうふうに活用されるのか楽しみです。
──今後このキャラクターデザイン画がどういった形で公開されるのかも期待したいです。では玉瀾はいかがでしょうか。南禅寺家の、将棋が好きな狸です。
かわいいですね。まず矢一郎にふさわしい人であり、なおかつ矢三郎がお姉さんと認めるに足る人なので、そう考えるといかにもこういう見た目がふさわしいと思いました。ちょっとしっかりしてる感じですよね。矢一郎はすぐパニクるから、そこらへんを嫌味なくフォローしてくれそうです。
──一方で星瀾は南国風少女として描かれていますね。
これは思い切ってますよね。四国の子やからか。
──こちらも詳しくは言えないのが歯がゆいですが、しかもカツオを……(笑)。
四国だからって、高知の子とは言ってないんですけどね(笑)。星瀾はちょっとしか出てこないですけど、割と気に入ってるんですよ。矢二郎をきっと救ってくれるだろうと。玉瀾みたいな落ち着いた京都狸とは全然違うキャラクターで、不思議な世界が見えてきそうな狸ですね。ちょっと海を渡った向こう側の異質な狸ってことでこういう形にしてもらってるのかなと思います。
「四畳半」とは真逆の作り方がされている「有頂天」
──「有頂天家族」のアニメは背景もすごく写実的で、京都の風景がリアルに表現されています。その辺りは、同じく森見さんの作品でアニメ化されている「四畳半神話大系」とはまったく違いますね。
そうですね。アニメの作り方や監督の性格というか方法が全然違いますし。どちらかと言えば、僕の小説の書き方に近いのは「四畳半」だと思うんです。「有頂天」のアニメは僕の書き方とは違うやり方で、僕の世界をもういっぺん作ろうとしてはるので、非常にやりにくいはずで。
──そのあたり、もう少し詳しくお聞きしたいです。
「四畳半」のほうは、主人公の心の中の出来事と実際に起こっている出来事が全部一緒くたに区別なく、アニメーションという表現で描かれているという感じがしていて。それは僕の小説で、主人公の思いも起こっている出来事も、文章によって全部ひと続きで一緒くたに語られてしまうこととよく似ていると思うんです。一方で「有頂天」を吉原監督が作る場合、そこをすごく切り分けている。主人公の内面を直接表現するんじゃなくて、主人公の外側にあるリアルな世界を通して表現しようとしているんです。なのでアニメの「有頂天」は客観的に描かれているし、「四畳半」は内側から描こうとしている。
──なるほど、対照的ですね。
僕の小説はほぼ全部、内側から書こうとするパターンなので、「四畳半」の方法論はすごく納得がいくというか、自分と近しいものを感じるんですよ。ああいった作り方は、僕が文章で作り出している勢いみたいなものをアニメとして映しやすいと思う。でも「有頂天」の描き方は全然違う。僕はアニメ「有頂天」のような客観的な描き方で小説を書けと言われると、非常に困ると思います。僕は矢三郎にとっての世界というものを、内側から描いていくという形でないと書けないので。
──矢三郎が見る天狗であり、狸でありを描いていく。
それが「有頂天」の世界なので、僕は矢三郎の語りという形でしか書けない。小説の場合はそれが全部なんですよね。アニメでも櫻井(孝宏)さんがやられている矢三郎の語りはすごく大事ですけど、あくまでモノローグは要素の一部というか。そこがとても面白いし、吉原監督はよくぞやってくれたなという気持ちです。
矢三郎は森見小説の中でも「最もできる男」
──櫻井さん演じる矢三郎のモノローグも、「四畳半」のそれとはまた違いますね。
「四畳半」の主人公は、もうちょっと尖っててプライド高くて、包容力はあまり求められてないわけですよね。でも矢三郎は包容力がある。「有頂天家族」の世界って父親が鍋にされて食われたり、おじさんから殺されかかったりとえげつないことがいろいろ起きてるんだけど、なんでギリギリ救われるかというと、矢三郎がその世界を肯定しているから。本来、我々人間の理屈としてこれらの出来事を見たときに「これはないだろ」って思うんだけど、「まあ狸だから」って矢三郎がスルーしちゃうので我々もスルーしてしまうと。そういう矢三郎のスタンスがないと、この「有頂天」の世界は成立しないわけですよ。ちょうど櫻井さんの声はそういう肯定感というのかな、諦めとも違って、流されるんじゃないけど、とりあえず受け入れてスルーしていく感じがとても出ていて。もし櫻井さんの声がもっとトゲトゲしていたり何か打算的だったりすると、世界全体の雰囲気が変わってしまって、起きる出来事の意味合いも見てる人にとっては変わって感じられると思うんです。そこはやっぱり、櫻井さん頼みなところがあるはずですね。
──矢三郎は安心して見ていられるというか、どんな困難が起きても彼に任せれば大丈夫という気持ちが湧いてきます。
矢三郎はそこまで悩まないですからね。ちょっとヘコんだりはするけど、うじうじ悩んでないので、我々としては非常に憧れるというか。ひょうひょうとしている割には、やることもちゃんとやる。おそらく僕の小説の中で、最もできる男ですよ(笑)。
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アニメ「有頂天家族2」
放送情報
- TOKYO MX
- 2017年4月9日(日)より毎週日曜22:00~
- KBS京都
- 2017年4月10日(月)より毎週月曜20:00~
- サガテレビ
- 2017年4月12日(水)より毎週水曜25:55~
- KNB北日本放送
- 2017年4月13日(木)より毎週木曜26:29~
- AT-X
- 2017年4月10日(月)より毎週月曜24:30~
配信情報
- dアニメストア
- 2017年4月11日(火)より毎週火曜日12:00~
スタッフ
- 原作:森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」(幻冬舎)
- キャラクター原案:久米田康治
- 監督:吉原正行
- シリーズ構成:檜垣亮
- キャラクターデザイン/総作画監督:川面恒介
- 美術監督:竹田悠介、岡本春美
- 音楽:藤澤慶昌
- 音楽制作:ランティス
- アニメーション制作:P.A.WORKS
- 製作:「有頂天家族2」製作委員会
キャスト
- 矢三郎:櫻井孝宏
- 矢一郎:諏訪部順一
- 矢二郎:吉野裕行
- 矢四郎:中原麻衣
- 弁天:能登麻美子
- 母(桃仙):井上喜久子
- 赤玉先生:梅津秀行
- 金閣:西地修哉
- 銀閣:畠山航輔
- 海星:佐倉綾音
- 淀川教授:樋口武彦
- 二代目:間島淳司
- 玉瀾:日笠陽子
- 呉一郎:中村悠一
- 天満屋:島田敏
- 「有頂天家族Blu-ray Box」
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- 発売中 / 19440円 / BCXA-1220 / バンダイビジュアル
- 小説 / 森見登美彦「有頂天家族」 / 発売中 / 幻冬舎
- 「有頂天家族」
- 単行本 / 1620円
- Kindle版 / 648円
- 小説 / 森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」 / 発売中 / 幻冬舎
- 「有頂天家族 二代目の帰朝」
- 単行本 / 1836円
- Kindle版 / 770円
森見登美彦(モリミトミヒコ)
1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了。在学中の2003年に「太陽の塔」で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2007年には「夜は短し歩けよ乙女」で第20回山本周五郎賞を受賞、2010年には「ペンギン・ハイウェイ」で第31回日本SF大賞を受賞。「四畳半神話大系」「有頂天家族」はテレビアニメ化され、「夜は短し歩けよ乙女」は2017年4月に劇場アニメ化される。そのほかの著書に「四畳半王国見聞録」「聖なる怠け者の冒険」など。
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会