人間は街に暮らし、狸は地を這い、天狗は天空を飛行する。

京都・下鴨神社、糺ノ森に暮らす下鴨家。
狸界の頭領であった今は亡き父・総一郎の血を継ぐ四兄弟たちは、タカラヅカ命の母を囲んでそれなりに楽しく暮らしていた。

総一郎の「阿呆の血」を色濃く継いだ三男・矢三郎を中心に起こった狂乱の一夜。
次期「偽右衛門」選出も、叔父・夷川早雲の策略も、そして「金曜倶楽部」との一幕も、すべてが一陣の風と共に京の夜空に飛び去ったあの日から季節は流れ、洛中に心地よい香が溢れる若葉の候。毛玉たちは尻の冷えを気にもせず、うごうごと動き出す。

天狗に拐かされ神通力を得た人間の美女・弁天は京を離れ、愛弟子である弁天に恋焦がれる隠居中の大天狗・赤玉先生こと如意ヶ嶽薬師坊は、寂しさと不機嫌を撒き散らしながら相変わらずボロアパートの万年床で、赤玉ポートワインを啜る日々を送っていた。

そんな折、赤玉先生の息子であり、壮絶なる親子喧嘩の末、敗北し姿を消した“二代目”が英国紳士となって百年ぶりに帰朝を果たす。
大驚失色。驚天動地。吃驚仰天。
天狗界、そして狸界を揺るがす大ニュースは瞬く間に洛中洛外へと広がった。

京の町を舞台に、人と狸と天狗の思惑が渦巻く毛玉絵巻第二集、ついに開幕！

「面白きことは良きことなり」

• 赤玉ポートワイン

  

  赤玉先生の呼び名の由来となった、先生愛飲のお酒。偽電気ブランと並んで森見作品には欠かせない飲み物。実際は赤玉スイートワインの名前で販売中。森見の祖父も愛飲していたという。

• 阿呆の血

  

  下鴨家に代々受け継がれている、面白がりで浮かれた性質のこと。父・総一郎はよく兄弟が騒ぎを起こすのを見ては「これも阿呆の血のしからしむるところだ」と笑った。

• 金曜倶楽部

  

  大正時代から続いている秘密の会合。大学教授や作家、ささやかな金持ちが集まっており、7つの席にはそれぞれ七福神にちなんだ名前がついている。毎年の忘年会では狸鍋を喰うのが決まりゆえ、狸から恐れられている。

• 偽右衛門

  

  京都の狸たちを取りまとめる頭領の称号。先代は亡き父・総一郎が務めており、第1部では矢一郎と早雲が次期偽右衛門に立候補していた。果たして第2部で偽右衛門に選ばれるのは……？

• 偽電気ブラン

  

  電気ブランを真似て作られた、狸の間で親しまれているお酒。夷川家が夷川発電所の裏にある工場でこっそりと製造している。ほかの森見作品にもたびたび登場する。

• 納涼船

  

  五山の送り火で狸が空中に浮かべる船。下鴨家は毎年「万福丸」を飾り立て、山々に点る火を眺めながらどんちゃん騒ぎをしていたが、その船は夷川家の攻撃により炎上してしまった。第1部では赤玉先生の空飛ぶ奥座敷を借りてことを凌いだが、第2部では？

• 風神雷神の扇

  

  風神が描かれた面で仰ぐと大風を、雷神が描かれた面で仰ぐと雷雨を起こす天下無敵の扇。赤玉先生の持ち物であったが、「愛の記念」として弁天にあげてしまった。天狗の神通力を失ってしまった赤玉先生にとって、二代目との決闘のキーアイテムとなる……？

• 南座

  

  四条大橋東詰に位置する、日本最古の劇場。この屋根の上で、赤玉先生と二代目の決闘が行われる。四条通を挟んで向かいにはビアガーデンも有名なレストラン菊水が、鴨川を挟んで向かいには北京料理店・東華菜館がある。