アニメでしか観たことがなかった描写が実写で観られた
──先ほど大童先生もおっしゃっていましたが、今作では本物の戦闘機にIMAXカメラを載せて撮影する、CGは極力使用しない、など“本物”であることにこだわって撮影されました。大童先生もこの映像美にご注目いただいたようでしたが、詳しくご感想を伺いたいです。
まず、空戦機動の1つにコブラと呼ばれるものがあって、高度を変えずに機首を上げることによって、空気抵抗を受けて一瞬で減速するんです。自分が追いかけられてるときにそれをすると、後ろの飛行機を前に行かせることができるんですよ。今作でも序盤から観られるんですが、「しょっぱなからエグいのかましてくるなあ」と思いました(笑)。空中戦って敵の上や後ろを取ることでしたり、旋回能力の差とかが勝敗を決めるんですよね。そういう場面を描いてくれることがすごくうれしいです。
──序盤から大迫力でしたよね!
あと冒頭は、超高高度を飛ぶブラックバードのような偵察機でマーヴェリックがテストをしていましたよね。ブラックバード自体は現役を引退しているので、映画ではその次世代機という設定になると思うのですが、剣みたいなフォルムがすごくカッコいいので印象的でした。偵察機が離陸して飛んで、上官が立っている上空をドォーン!って通過するシーンが好きです。
──予告編でも、そのシーンが少し使用されていました。
監視小屋の屋根が吹っ飛びそうになっていましたけど、そういうギャグテイストも挟みつつ一番カッコよく見せてくれるのがすごくいいんです。偵察機でテストするシーンに関して言うと、外からの視点として機体が少し赤くなっているのが見えましたよね。あれ、空気との摩擦熱で熱くなってると思われがちなんですけど、断熱圧縮と言って、空気が塊で存在しているところを無理矢理分け入っていくために、スピードが出れば出ることでものすごい圧力が発生して熱が上がっていくんです。……と、僕みたいな人が「あ、これは断熱圧縮が起きているぞ!」みたいなことをオタク的に語ってくれなくても、映像的に伝わるのがいいなと思っています(笑)。
──(笑)。戦闘機の中に超高性能カメラを仕込んで、パイロットの表情を映す場面も多かったですよね。
画角が広いから、俳優を映す画面の両端でエルロンやラダーが動いていて、「飛行機が本当に飛んでいて、空気を受けているぞ」というのがありありと感じました。ほかの映画だとけっこう省略されるところでしょうし、実際の軌道に合わせてCGを作ると機体が横に傾いたとしてもエルロンとかが稼働してないこともあると思うんです。実機で撮影していることで整合性が保たれていることがすごいですよね。あとは、ちゃんと乗って撮影していることで、Gを感じて呼吸が変わる点も映し出されていました。フッフッと出産するときのような特殊な呼吸法をしたり、表情が変わったりして。役者である彼らが体験した本物の訓練が効いているんじゃないかと思います。実機も本物だし、受けているGも本物、そしてそれが撮影されているということが何より特徴的ですよね。実際のコンバットマニューバが行われている映像としては「トップガン マーヴェリック」は一番クオリティが高いものだと思います。
──非常に勉強になります……! マーヴェリックと新世代トップガンたちの訓練や、敵との空中戦などアクションシーンはいかがでしたか?
飛行機の側方からカメラを向けて、回転させながら去っていくシーンが観られましたが、そこってアニメでやっても映画でやってもカッコいいですよね……。
──イメージしやすいところで言うと「風の谷のナウシカ」や「紅の豚」で見られるシーンでもありますよね。
そうですそうです! ああいう定番のショットが映っているのが最高です。今までアニメでしか観たことがなかったっていう描写が実写で観られました。あと、多くの戦闘機や戦争を描いた作品では弾数に嘘を付くんですよね。弾数が無限のようで、ずーっと撃ち続けているように見せるとか。今作はそうじゃないですよね。機関砲を打っていくとどんどん弾薬のメーターが減っていって、弾数を誤魔化していないんです。敵からミサイルを発射されたときには、熱源を追っているミサイルに対して変わり身のようになってくれるフレアが効果的なんですが、フレアってそもそも燃えているだけの弾で地味な装備でして。あれで攻撃することはまずないし、そもそも武装じゃないのに、フレアがめちゃくちゃカッコいい。SEも良くて、こんなにカッコいいフレアの描き方があるんだ!と驚きました。
──リアルにこだわったおかげで観客である私たちも実際に搭乗しているような没入感がありましたよね。
そうですね。でもさらに言うなら、これも「風の谷のナウシカ」などで描かれた角度ですけど、足元にカメラを置いて股の間からパイロットを映すようなシーンも観てみたいです。もっとIMAXカメラが小さくならないといけないですけど……もしもこの後に続編があるなら期待しています。でも少なくとも、「トップガン マーヴェリック」の時点でこれまであった制約を1段、2段、3段と突破しているのは確かです。戦闘機のコックピットってめちゃくちゃ狭いので、カメラを載せるなんて普通は冗談じゃないと言われるはず。それが実現できているというところも、今作の見どころだと思います。
「空を飛んでみたけりゃ観てみな」、没入感に圧巻
──今回は映画を語るインタビューですが、分野は違えど同じクリエイターとしての目線で「ここはいいな!」と注目したところはありましたか?
うーん……予算(笑)。
──(笑)。
でも真面目な話、実際にアメリカ海軍が協力してくれることが大きいと思っていて。僕もできることなら取材したいと思っています。F/A18スーパーホーネットをかなり乱暴に扱うシーンが当然ありますし、前作では訓練中の事故も描いています。そもそも軍側がマーヴェリックのような人物に「こんな無茶な奴いねーよ!」と思うかもしれないですし。軍として不名誉な面があるかもしれないんですが、「トップガン」チームが軍の信用を勝ち取ったからこそできた映画だと思います。僕もクリエイションするうえで、ほかの人の信用は欲しいですからね……(笑)。
──前作は、大童先生自身が生まれる前に公開された作品で、当時の社会現象的な熱狂はご存じなかったのではと思います。大童先生と同じ若い世代の方々は今作で「トップガン」シリーズに触れるケースも多いと思いますが、同世代の方々はこの物語にどういう印象を抱くと思いますか?
実はそこが少し気になっていて。例えばさっきお話に出たブラックバードのような偵察機が登場したときに、これは懐古趣味ではないというか、「前作を観た人たちが過去を懐かしむことを善とする作品ではないのかな」と思ったんですよ。飛行機ってカッコいいし、ロマンがあるよねって話でもあると思うんですが、人間ドラマでもあるんですよね。そこは若い世代にも満足してもらえるんじゃないでしょうか。
──世代を越えてさまざまな機体が登場しますし、お話いただいたように人間ドラマや胸が熱くなるアクションシーンもありますからね。
今後は無人機に置き換えるかもしれないって話が冒頭でありましたけど、有人機でマッハ10を越えるなんていうのはもともとが少しバカげた話ですよね。そもそもそんなに速い飛行機に人を乗せる理由もなくなってくるんですけど、じゃあ人間が飛行機を飛ばす喜びがなくなったかと言えば、そうではないと思うんですよ。実際、手のひらぐらいのドローンを飛ばすレースでは、ラジコン的に飛んでるドローンを見て操作するんじゃなくて、ゴーグルを付けて飛んでるドローンの目線でレースをするんだそうです。
──それは非常に爽快感がありそうですね!
そういうところからしても乗り物に乗って飛ぶとか、そこでしか見えない景色を見るっていうのは何にも代えがたいものだと思うので。さらに、その映像がこの作品では本当に見られるので、世代に関係なく満足できると思います。
──なるほど。たくさんお話を伺ってきましたが、最後に大童先生が周囲の方に「トップガン マーヴェリック」をお薦めするとしたら、どのようにアピールされますでしょうか?
「空を飛びたきゃ観てみな」、という感じでしょうか。実際に自分が飛んでいるような没入感を体感できたので。あと、「前作を観ていなくてもとにかく今作を観てほしい」というのは続編を作る人が誰しもぶつかる課題だと思うんですが、「トップガン マーヴェリック」は前作を観ていなくても十分楽しめると思いました。逆に、今作をきっかけに前作を観てみてもきっと面白いのではと思います。
プロフィール
大童澄瞳(オオワラスミト)
1993年3月19日生まれ、神奈川県出身。オリジナル同人誌即売会・COMITIAに作品を出品したところ、ビッグコミックスピリッツ編集部員に声を掛けられ、2016年にデビュー作「映像研には手を出すな!」が月刊!スピリッツ(小学館)で連載開始。同作は2020年に湯浅政明によりテレビアニメ化、同年に乃木坂46のメンバー主演で実写映画化・ドラマ化と数々のメディアミックスを展開し、シリーズ累計発行部数は100万部を突破した。単行本は6巻まで発売中。