THE ORAL CIGARETTES山中拓也が「トップガン マーヴェリック」に感じる“人生”とロマン、主題歌や劇伴の魅力も解説

スカイアクション映画の金字塔「トップガン」の続編となる「トップガン マーヴェリック」が5月27日に公開された。

ずば抜けた実力を持ちながらも常識破りな性格のために昇進を拒み現役であり続けるパイロット、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェルは、ある日軍の上層部から呼び出され、「生還可能性が限りなくゼロに近い」という特殊な訓練に挑む若きエースパイロット候補生たちの指導を任される。そのメンバーの中には、亡き親友グースの息子・ルースターの姿があった。いまだ衰えない操縦技術を誇るマーヴェリックが、新世代トップガンたちとともに過酷なミッションに身を投じる様が描かれる。

音楽ナタリーは、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也(Vo, G)に本作を鑑賞してもらい、試写会直後にインタビューを実施。大の映画好きとして知られる彼に「トップガン マーヴェリック」の感想や、本作を彩る音楽の魅力などを語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 森好弘

上がり切ったハードルを超えてきた

──山中さんはもともと1986年に公開された前作は観られていたんですか?

もちろん観たことはあったんですけど、子供の頃にテレビで放送されているのをなんの気なしに観ていたくらいで。なので今回取材のお話をいただいて、改めて観直しました。

──観直してみて、前作についてはどのような印象を抱きましたか?

1980年代ならではの独特なカッコよさが詰まっている映画だなと思いましたね。男がカッコいいと思うような要素がすべて詰め込まれているというか。子供の頃は戦闘シーンを観て単純に「わー、すごい!」と思っていたんですけど、改めて大人になってから観るとファッションや音楽のカッコよさに目が行くんですよね。ストーリー自体はわりと王道な部分をしっかり押さえているという印象ですけど、細かい部分に男のロマンが詰まっているなと。あと、若い頃のトム・クルーズがとにかくカッコいい。

──では、まさに今観終えたばかりの今作「トップガン マーヴェリック」はいかがだったでしょうか。

これは取材だからとかそういうのはまったく関係なく、本当に面白かったです! マジで感動しましたね。あと2、3回観たいと思うくらい面白かった。

山中拓也

──特に山中さんが惹かれたポイントは?

「トップガン」ファンが高揚するような仕掛けが映画全体に施されているんですよね。ケニー・ロギンスの「Danger Zone」が流れるシーンの演出からして、しっかり前作を踏襲していて。正直、「監督が代わってどうなるのかな?」と心配していた人もたくさんいると思うし、大人気作の続編ということでハードルはかなり上がっていたと思うんですよ。でもそのハードルをしっかり越えてきたうえで、ファンがニヤニヤしながら楽しめるようなポイントもちゃんと用意されていて。

──今作だけを観てももちろん面白いですけど、前作を知っているとより楽しめるような内容になっていますよね。

そうですね。前作を観てからだと、楽しみが何倍にも増すのは間違いないと思います。逆に今作を観たうえで、前作を観返すのも面白いかもしれないですね。「これがつながってくるんやな」という発見がいくつもある。あとストーリーが前回よりも格段に面白くなっていると思っていて。そういう部分も前作と比較すると楽しいんじゃないかなと。

──ストーリーで言うと、今回はマーヴェリックと、かつて相棒だったグースの息子・ルースターとの対立というのが1つの軸になっています。

前作でのマーヴェリックとグースの関係性を、息子であるルースターと再現するような場面もあって、そこにはかなりグッときましたね。ハングマン(グレン・パウエル演じる若手パイロット)とルースターの関係性にも、前作のマーヴェリックとグースを彷彿とさせるようなものがあったりして。そういう、前作から時間が経っているからこそ描けるものが全体を通して貫かれているというか。前作は“マーヴェリックの話”というイメージが強かったけど、今回は“マーヴェリックとその周りの人たちの話”という印象を受けたんですよ。前作にも出てきたアイスマン(ヴァル・キルマー演じる海軍大将の前作でのコードネーム)を含め、登場人物たちがみんな、自分と周囲の人たちの関係で悩んでいる。そういう部分は、登場人物が歳をとったからこそ、ストーリーに広がりや深みをより持たせることができるようになったのかなと思いました。

「トップガン マーヴェリック」より、トム・クルーズ演じるマーヴェリック。

「トップガン マーヴェリック」より、トム・クルーズ演じるマーヴェリック。

「トップガン マーヴェリック」より、マイルズ・テラー演じるルースター。

「トップガン マーヴェリック」より、マイルズ・テラー演じるルースター。

──前作の公開から36年も経っているので、キャラクターの人物像などもアップデートされていますよね。

そうか、36年も経ってるのか……。それにしてはトム・クルーズ、カッコよすぎるでしょ(笑)。

──36年前と同じように主演を張って、しかもここまでカッコよく演じられるって、なかなかできないことですよね。

本当にすごいと思います。今作はトム・クルーズが長い年月ずっと俳優として第一線で活躍し続けてきた証でもあると思いますし、ひとつのフィナーレのような印象すらありました。トム・クルーズが歳を重ねたからこそ作ることができた作品というか。外見のカッコよさだけではなくて、彼自身の人となりのようなものも感じられて。あと、公開から36年経ってもいまだにこれだけ愛されている「トップガン」自体もすごいなと思いました。僕が参加させてもらった今日の試写会も、周りのお客さんを見ていたらマーヴェリックと同じジャケットを着ている人たちがいて。この作品に愛を注いでいるファンがたくさんいるんだなというのを体感することができて、うれしかったですね。

山中拓也

トム・クルーズの映画への愛、観客へのリスペクト

──今作に限らず、トム・クルーズという俳優についてはどのような印象を持っていますか?

めちゃくちゃストイックで、映画に対して一切の妥協を許さない方というイメージですね。中でも「トップガン」はトム・クルーズが広く知られるようになった代表作でもあると思うんですけど、この頃からスター性がすごくて。普通の人が言ったらクサくなってしまうようなセリフでも、トム・クルーズが言えば自然に感じられるんですよね。常に求められてる以上の役をしっかり形にしている人やなと思います。

──今作もトム・クルーズ自身がトレーニングメニューを監修して、キャストと一緒に過酷な訓練を乗り越えたうえで、実際の戦闘機にIMAXカメラを6台搭載して撮影したとのことです。

ホンマにすごいですよね。命の危険があるのは本人もわかってるだろうに、それでもスタントなしで自分自身でやると決めているのは映画への愛やなと思いますし、観ている人へのリスペクトすら感じるというか。これだけキャリアを確立している人がずっと同じ姿勢で、若手に負けないような熱量で役に向き合っているのは、純粋にすごいなと思います。

「トップガン マーヴェリック」より。

「トップガン マーヴェリック」より。

──いちクリエイターとして、そういった部分に共感したり刺激を受けたりすることはありますか?

共感はできないですよ(笑)。レベルの高すぎる話だと思うので、「共感できます」なんて恐れ多くて言えないですね。それぐらい作品から伝わってくる熱量が尋常じゃない。僕らも音楽で人に何かを伝えるという仕事をしているので、刺激はかなりもらいますけどね。「自分たちにも、もっとできることがあるんちゃうかな」と思ったりします。ジャンルこそ違えど、歳を重ねてもトップで戦い続けている人の姿を見るとかなり刺激を受けますね。