コミックナタリー PowerPush - 「SHORT PEACE」
プロジェクト最終形態 大友克洋1万字インタビュー
大友克洋の初期短編「武器よさらば」が、2014年3月20日に資料などを含めて復刊される。同作を所収する短編集「彼女の想いで…」は、入手困難な状況が続いていた1冊だ。
コミックナタリーではこの復刊を記念し、大友にインタビューを敢行。「武器よさらば」のことから、同作のアニメや大友が監督を手がけた「火要鎮」を含むオムニバス映画「SHORT PEACE(ショート・ピース)」、さらには「AKIRA」前史を振り返る貴重なエピソードまで、たっぷり1万字でお届けする。
取材・文/斎藤宣彦 撮影/坂本恵
だんだん自分の作品が大作化していってたんで
──この秋の叙勲での紫綬褒章、おめでとうございます。
ありがとうございます。
──今日は、オムニバス映画「SHORT PEACE」と、その一編でありマンガ版が単体で書籍となる「武器よさらば」についてお聞きします。「SHORT PEACE」では、4作品をオムニバス的にまとめるのは、早い段階から決まっていたのでしょうか。
企画としては4本じゃなくて、もっとあったんですけどね。最初はオムニバスの話もなくて、僕はほんとに短編を1本作るっていうだけだったんです。それをアヌシーとか、世界中のアニメーション短編のフェスティバルに出すっていう目的で。
──原作を手がけられたアニメ「ヒピラくん」を携えて、フランスのアヌシー国際アニメーションフェスティバルに行かれたのが2009年でしたね。
アヌシーでは短編アニメーションをたくさん観たんですが、一緒にいたプロデューサーが「あの長さならできるんじゃないですかね」なんて言う。その頃、だんだん自分の作品が大作化していってて、すごい金もかかるし、シナリオまでいってできなかったやつも何本かあるんで。
──「STEAMBOY(スチームボーイ)」(※註1)の後には「スチームガール」も企画されていたそうですね。
ええ、そういった企画はいっぱい出してたんですけど、なかなか劇場(アニメ)の制作まで至らなかったんで、「まあ短いのでもやってみましょう」というつもりだったのかな。以前にも短編はかなりやっていて、最初にやった「工事中止命令」(※註2)が15分くらい。だから新しい短編を10分とすれば、「あれより5分少ねえのか」みたいな感じで考えていました。
歳を取ると日本文学が面白いと思える
──そして「火要鎮」を監督することになりましたが、自作から「火之要鎮」(※註3)を原作として選んだのはなぜでしょうか。
マンガが短かったんでね。とはいえ江戸時代のことをすごく調べてて、江戸弁をどんなふうに使おうかとか、作品にあまりにも凝りすぎて、なかなか進まなかったんだけど(笑)。「あれ(江戸もの)を少しできねえかな」と思った。まあ尺の問題は大きいですよ。「火要鎮」を長編で2時間やろうとしたらすごい大変だと思う(笑)。
──今年、ガンダムエース9月号(角川書店)での安彦良和さんとの対談で、安彦さんは「空想から現実へ、洋モノから和モノへっていう気持ちはすごく解る」とおっしゃっていましたね。
はは(笑)。そうでしたっけ。
──大友さんは「江戸ものをずっとやってみたかった」「だんだん歳をとってくると、日本の古典に感動するわけです」と語っていました。「和」の感覚に目覚めたのでしょうか。
うん、そうですね。歳をとってくるとやっぱり、昔の日本文学とかね、ああいうのがなんか面白いって思えるんです。不思議ですけどね。昔は「なんで『源氏物語』をみんなが翻訳しなくちゃいけねえんだ」と思ってたけど(笑)。谷崎(潤一郎)さんや(瀬戸内)寂聴さん、みんな現代語訳していますよね。日本の古い文学って、やっぱりこう、どこか琴線に触れるんですよ。言葉や漢字は難しいですけど、ゆっくり過ごしてるときに読むとね、なかなかいい。
──オン・オフでいうと、オフの時間に見たものが、オンの仕事のほうにも生かされてくることがある、と。
そうそう。少しずつね。そういうのばっかり読んでいる時期もありました。昔の能の本とか「日本永代蔵」(※註4)とか、そういうのを岩波文庫で買ってきてね。「火之要鎮」を描いているときは「江戸弁って、どんなふうにしゃべってたのかなあ」という興味が大きくて、歌舞伎のセリフ、黄表紙、「浮世床」(※註5)だったかな、あとは落語とか、好きなものから取り込んでいった。自分の中でも、いつかそういう「和もの」をやりたかったんでしょうね。
「火要鎮」に込めた意味
──「火之要鎮・火要鎮」は、現在書くような“火の用心”ではなくて、鎮魂や鎮守の“鎮”の字を使用していますね。
鎮めるほうのね。
──この用字は江戸期によく見られたのでしょうか。
ほかにも別な漢字で何種類かありました。「要鎮」にしたのは、どことなく江戸情緒を出したかったんでしょうね。
──「火要鎮」で音楽を担当した久保田麻琴さんが、映画のパンフレットで記しているところによると、絵コンテ(※註6)を受け取ったのが東日本大震災の直後だったそうですね。
その頃でしたか。大震災のあとにオムニバスのテーマが「日本」になったように覚えています。
──「火要鎮」は落語の「火事息子」や「八百屋お七」の話をもとにしていると思いますが、最初はこう、女性の思いから火事が起こって、荒ぶる心と火事の様子がシンクロしてゆく……。
そうは言っても災害ですからね、あれ(笑)。大火事ですから。
──ええ、それで「鎮」の字の話に戻るのですが、久保田さんは東日本大震災・原発事故とこの映画をダブらせて見て、「この映画の最初と最後に聞こえる“木遣り”は江戸の火事のあと、火消し達によって唄われた鎮魂歌。/『火要鎮』は2013年の木遣りなのだろう」と記されていました。火消しという動きは大火を鎮めるわけで、映画が前後半で「静か/鎮め」の対比にもなっている。大友さんはよくぞこの字を選ばれた、作品を現在に差し出すとき、「鎮」の一字に作品が内包していたものがよく現れている、と感じていました。
あー、素晴らしいですね、それ。今度どこかで使います(笑)。
- 大友克洋「武器よさらば」 / [コミック] 2014年3月20日発売 / 3150円 / バンダイビジュアル
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B4サイズ/160P
収録内容
- マンガ「武器よさらば」
- マンガ「武器よさらば」ギャラリー(設定資料などを掲載)
- 映画「武器よさらば」設定資料
- 映画「武器よさらば」脚本・絵コンテ
- 大友克洋×カトキハジメ対談
- A2ポスター
- ゴンク撮り下ろしグラビア
コミックス「武器よさらば」は仕様内容の変更により発売日が延期となっております。
変更前)2013年12月25日(水)
変更後)2014年3月20日(木)
大友克洋(おおともかつひろ)
宮城県登米市出身。1973年、漫画アクション(双葉社)にて「銃声」でデビュー。1979年に自選作品集「ショート・ピース」を刊行する。1983年、「童夢」「AKIRA」などを発表。1988年には、劇場版「AKIRA」のアニメーション監督を自ら務め、1995年に「MEMORIES」、2004年に「スチームボーイ」なども制作している。2005年、フランス政府から芸術文化勲章シュバリエを受章。2012年、東日本大震災の復興支援を兼ねた、世界最大規模となる初の原画展「大友克洋GENGA展」を開催し、米国のアイズナー賞においてはコミックの殿堂入りを果たした。監督を務めた短編「火要鎮」は第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第67回毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞。2013年夏に、その「火要鎮」と原作を提供した「武器よさらば」を含む4編のオムニバス「SHORT PEACE」を発表する。