1980年代を代表するマンガとして、刊行から30年以上が経過する今も世界中で愛読されている「AKIRA」。その作者である大友克洋が自ら監督・脚本を務める形で長編アニメーション映画を製作し、1988年7月に公開してから36年が経過した。
「AKIRA」は2019年の新首都・ネオ東京を舞台にしたSF。舞台となった2019年を過ぎた今も、主人公たちが放つメッセージや物語の中で描かれる世界観は、多くの人が共感するリアリティをはらんでいる。そして劇場アニメ「AKIRA」はその緻密なアニメーションだけでなく、独創的な音楽も注目されてきた。SF映画と言えばサイバーテイストの劇伴をイメージするものだが、「AKIRA」(の映像)を彩ったのは芸能山城組による無国籍で多種多様なサウンドだった。山城祥二が主宰する芸能山城組は、民族音楽を主題にした楽曲を発表している日本のアーティストで、“行動する文明批判”を担う集団。「AKIRA」のストーリーとどこか相通じるコンセプトを掲げている。
その芸能山城組が生み出した音楽を、久保田麻琴、小西康陽、蓜島邦明の3人が2023年に開催された「AKIRAセル画展」のためにリミックス。企画展から1年を経て、彼らがリミックスした音源をまとめたアルバム「AKIRA REMIX」がリリースされた。大友自身が全面プロデュースを手がけたことでも話題の「AKIRA REMIX」の発売を記念して、音楽ナタリーでは大友にメールインタビュー。劇場アニメ「AKIRA」の音楽にまつわるエピソードや、リミックスに対する印象を聞いた。
取材・構成 / 音楽ナタリー編集部
「AKIRA」の劇伴を作る気はなかった
──「AKIRA REMIX」は「大友全集」第1期の締めくくり、2023年開催の「AKIRAセル画展」に向けて制作されたとお伺いしています。画展に向けてリミックスを制作することは、どのような経緯で決まったのでしょうか? また、なぜリミックスを作ろうと思われたのか教えてください。
劇場アニメ「AKIRA」の音楽を考えている時からリミックスについては考えていました。音楽の録音の際、山城組には音源をモジュール化して欲しいとお願いしています。その音源を使ってアレンジ、劇中内でリミックスすることも考えていたんです。ただ、映画の音楽を山城さんに依頼しに行ったのは私ですから、その私がリミックスを作ってはいけないと思ってなかなか出来ませんでした。「セル画展」のBGMの話になった時、映画公開からも時間が経った今ならいいかな、「AKIRA」の曲を再構築してもっと一般性のある感じで踊れるような新しいものになったら面白いなと思って、山城さんのところに「リミックスさせてください」とお願いに行きました。
──「AKIRA REMIX」のプロデュース・監修をされるうえで、全体的にどのようなコンセプトを設けられましたか? また監修をするうえで意識したことがあればぜひ教えてください。
3人の方にリミックスをお願いする際、共通して「アンビエントなものと、リズムのあるものの2パターンで」と依頼しました。
──劇場アニメ「AKIRA」の音楽制作は大友さんが芸能山城組に依頼されたそうですが、当時は異例のオファーだったと聞いております。なぜ大友さんは芸能山城組に劇伴を依頼したのか、どういう目的があったのか改めて教えていただけるとうれしいです。
もともと劇伴っていう考え方があんまり好きではありませんでした。なので、劇伴を作る気がなかったんです。「AKIRA」はSFだからシンセ音楽、みたいな話もあったんですけど、自分の中ではその頃もうシンセは古く感じていました。「時計仕掛けのオレンジ」の電子音楽は格好良かったですが、「2001年宇宙の旅」もクラッシックを使っています。SF=シンセという考え方自体、しっくりきていませんでした。
その頃、山城組のケチャやガムランを聞いて、こちらの方が新しく思えました。山城さんなら、新しい“祭り”音楽を作ってくれると確信を持って、「“祭り”と“レクイエム”、2つの曲を作って欲しい」とお願いに行きました。
共通点は「世界の祭り音楽が解ってる方」
──リミックスを担当された久保田麻琴さん、小西康陽さん、蓜島邦明さんは、大友さんご自身がセレクトされたとお聞きしました。どのような視点からこの御三方を候補として挙げられたのでしょうか?
個人的に好きな人に依頼しました。山城さんの曲が理解できるワールドミュージックにも精通している方、世界の祭り音楽が解ってる方をセレクトしました。「AKIRA」自体が無国籍な感じの作品ですからね。みなさん音楽的な基礎のある人なので、面白くリミックスしてくれるだろうと思いました。
──久保田麻琴さんが12トラック(ボーナストラック2トラック含む)、小西康陽さんと蓜島邦明さんがそれぞれ3トラックずつリミックスを担当されています。担当していただくうえでの楽曲の割り振りのテーマ、イメージなどは何かありましたか?
特にないです。自由に作ってほしいとお伝えしました。
──完成した「AKIRA REMIX」を初めて聴いたときの感想はどのようなものでしたか?
全て素晴らしかったです。
──「AKIRA REMIX」のリリースにまつわる記事を音楽ナタリー / コミックナタリーに掲載したところ、大きな反響がありました。なぜ、「AKIRA」の音楽は公開から36年を経た今も国内外で愛され続けているのか、作者である大友さんはどう分析されていますか?
山城さんが良い曲を作って下さった、それに尽きます。
──今、大友さんが愛聴しているアーティストがいれば教えてください。
Still Cornersです。
──音楽の質問から離れてしまいますが、「AKIRA」という作品は大友さんにとってどのような作品でしたか?
いっぱいお金を稼いでくれるいい子供でした。
プロフィール
大友克洋(オオトモカツヒロ)
宮城県登米市出身。1973年に「漫画アクション」にて「銃声」でデビュー。1979年に自選作品集「ショート・ピース」を刊行する。1983年に「童夢」「AKIRA」などを発表。1988年には、劇場版「AKIRA」のアニメーション監督を自ら務め、1995年に「MEMORIES」、2004年に「スチームボーイ」なども制作する。2005年、フランス政府から芸術文化勲章シュバリエを受章。2012年、東日本大震災の復興支援を兼ねた、世界最大規模となる初の原画展「大友克洋GENGA展」を開催し、米国のアイズナー賞においてはコミックの殿堂入りを果たした。監督を務めた短編「火要鎮」は「第16回文化庁メディア芸術祭」アニメーション部門大賞、「第67回毎日映画コンクール大藤信郎賞」を受賞。2013年には紫綬褒章、2014年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受章。2023年10月には「大友全集」第1期の締めくくりとなる企画「AKIRAセル画展」を開催した。