当時は大人が読んで面白いと感じてもらえなくていいと思っていました

──「東ジュリ」と同時にCheese!でも「月にキスの花束を」を連載されて、「東ジュリ」の完結を持って少コミを卒業されましたね。1998年にはCheese!で代表作の1つである「罪に濡れたふたり」がスタートします。

自分が歳を重ねていって、中学生や高校生のマンガを面白く描ける自信がなくなってきて……でも同時に、ずっと描きたかった姉弟ものを実現させたかったんです。「連れ子同士だったらいい」「いや、ガチでやりたいんです」「ダメです」というやり取りを編集さんとしていたんですが、Cheese!が立ち上がったときに「連載だったらいいよー!」と言ってもらえて「じゃあ移ります」って(笑)。まあ、GOを出してくれた編集さんも、そうは言っても結局本物の姉弟ものにはさせないって思っていたみたいなんですけど、私は「絶対に描く!」と強い意志で通しました。

──北川さんが「中高生向けのマンガを面白く描ける自信がなくなってきた」とおっしゃった部分とつながるかもしれませんが、私は中高生のときに「東ジュリ」や「亜未ノン」を読んで、主人公たちに共感できたし物語にとても夢中になったんです。でも今、大人になった視点で読んでみたら、「仕事をすっぽかすのどうかな?」とか「高校生が親に黙って同棲は……」とか、無邪気に2人を応援できない自分に気付いて。

わかります、わかります! 「けしからん!」みたいな(笑)。

──それは北川さんが、本当に少女の側に立って描いてくれていたことの証左なのかな、と思うんです。少女向けに描いていたという意識はありますか?

「罪に濡れたふたり」のカラーイラスト。

全然あります。むしろ、大人が読んで面白いと感じてもらえなくていいと思っていました。自分が中学生の頃って、「大人はわかってくれない!」とか「いいじゃん! 子供には子供の楽しい世界があるんだもん!」とか考えていたんじゃないかな。大人はいろんなものを知っちゃったから、「それはまだ早いよ」と思うことも、少女にとっては「楽しいこと」で。

──少女が良しとすることと、大人が良しとすることはちょっと違いますからね。北川さんも、大人の視点になって少女にリンクできなくなってきたから少コミを卒業されたということでしょうか?

ええ、自分でも「恋愛だけでお腹いっぱいにならないな」って思ってきたんです。でも、全力で楽しませることができないのは読者に失礼じゃないかと。そういう経緯で少コミからCheese!に移って、その後プチコミックに移らせていただいたのは、働く女性を描きたかったから。小学館に、年代に合わせて描ける雑誌があるのは本当にありがたいです。

好きな要素てんこ盛りの新シリーズ

──2018年でデビューから34年が経ちましたが、マンガ家生活で一番印象的だったことは?

ボヤ……ですかね?

──……確かに、北川さんの画業30周年を記念したプチコミックの別冊の年表に「2007年 仕事場でボヤを起こし、初めて原稿を落とす…。」と書いてあります。

ここで初めて原稿を落としたというのがとてもショックで申し訳なくて。仕事場だけで済んだのが不幸中の幸いですが、原稿は燃えて、道具は溶けて。バイバイ……。

──それは大変でしたね……。ただこの年表がとても面白くて。作品紹介の合間に「1992年 あかほりさとると結婚。アニメ業界では1年で離婚すると言われていました(笑)」とか、「2011年 “白ワインのジンジャーエール割り”にハマる。美味しいよ!」とか、北川さんのざっくばらんなコメントが書いてあります(笑)。

あかほりが当時アニメ業界で有名だったので、「あいつらすぐ別れるぜ」って言われていたらしいです(笑)。

──あはは(笑)。脱線してしまいましたが、これまで発表してきた作品の中で印象的なものは? 先ほど少コミ作品では「亜未ノン」が特別だとおっしゃっていましたが。

そうですね、「罪に濡れたふたり」を描かせていただけたのは大きかったかなと。ただ、本当に血の繋がった姉弟もの、という飛び道具は1回きりと思っていたんです。でもそんなこだわらなくてもいいんじゃない?って担当さんにもおっしゃっていただいて、「そう?」と。最近母を見送ったり、同業者の方の訃報を聞いたりすると、「これ描いておけばよかったな」と後悔してしまうのではないかと考えるようになったんです。そうして「そんなに自分を縛る必要はなくて、性癖に素直になろう。温存するんじゃなくて、描けるうちに描こう」と、新シリーズを立ち上げました。

「どうしようもない僕とキスしよう」のカラーイラスト。

──プチコミックで連載中の「どうしようもない僕とキスしよう」ですね。両手に花どころか、最初からヒロインの周りに同僚のセフレ、幼なじみ、ケンカ友達、そして弟と4人の男性が登場します。

好きな要素てんこ盛り(笑)。

──続きを楽しみにしています。最後に、北川さんの“理想のSho-Comi像”をお聞かせください。

読者さんが読んで「恋したいな」と思ってもらえる雑誌だといいなって。学校でいろいろしんどいことがあっても、Sho-Comiを開いたらカロリーに満ち満ちた楽しい世界が広がっていてほしいと思います。

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北川みゆき(キタガワミユキ)
北川みゆき
1月1日、東京生まれ。山羊座のB型。1984年、「12時の鐘は聞こえない」でデビューを飾る。少女コミック(小学館)を中心に活躍し、「あのこに1000%」「亜未!ノンストップ」「東京ジュリエット」などポップな作風で多くの作品を発表。少女コミックからの移籍後も、1998年から2004年までCheese!で連載されていた、姉弟による禁断の恋愛「罪に濡れたふたり」、2006年から2008年までプチコミック(ともに小学館)で連載され、2016年には武井咲主演でTVドラマ化された「せいせいするほど、愛してる」などヒット作多数。現在はプチコミックにてシリーズ連載「どうしようもない僕とキスしよう」を発表している。

2018年12月20日更新