「再会もの」「両手に花」「年下男子」……生まれ持った性癖なんです

──北川さんから一井さんへのラブコールが実現した読み切りシリーズだったんですね。それでは話を戻しまして、「原宿ポップビート」とほぼ同時期の1987年に発表されたのが「気まぐれグローイングアップ」。サッカー部のマネージャー・梓と、1つ年下の幼なじみ・郁弥のラブコメです。この2人の物語は「気まぐれ」シリーズ、そして「あのこにWAWAWA」「あのこに1000%」とどんどん展開されました。

最初は読み切りだったので、幼なじみ同士のかわいい話にしようと思って作りました。続けさせてもらえることになって、2人だけだと物足りなくなったので先輩の杉本という大人っぽい男の子のキャラクターを出して、かわいい幼なじみの年下男子と、年上のカッコいい系の男子でヒロインを“両手に花”状態にして。

──この時点で、北川作品の魅力である「再会もの」「両手に花」「年下男子」というキーワードが出ていますね。

生まれ持った性癖なんです(笑)。「あのこに1000%」は両手に花でしたが、杉本は途中から出てきたキャラだから、次の「ぷりんせすARMY」では最初から陰と陽の男子で“両手に花マンガ”にしようと思って。

──どこか影のあるハンサム・志信と、熱血少年の悠也が生まれたと。

「ぷりんせすARMY」カラーイラスト。左から悠也、野々香、志信。

ええ。主人公の野々香は、小さくてすごくかわいい女の子が、イメージと真逆のことをしたら面白いかな、と考えて柔道少女になりました。でも2作続けて両手に花マンガだったので、「北川はそればっかりじゃないか!」という声もあって。じゃあふらふらしない、一途な女の子を描こうと「亜未!ノンストップ」を始めたんです。

──大人気アイドルグループ・ダーウィンの望を好きになった女子高生・亜未が、望を追いかけて芸能界に飛び込んでいくシンデレラストーリーですね。芸能界が舞台なので、数多くの華やかなイケメンが登場しましたが、亜未はずっと望一筋でした。

私が80年代のアイドルや芸能界がとっても好きで、毎日いろんな番組を観ていたこともあって描くのが楽しかったです。でも「亜未ノン」の柱は、好きな男の子との思いを成就させること。要するに武器が恋愛しかなかったので、何か違う目的を持った、能動的なキャラクターを描きたいと思って「東京ジュリエット」のみのりが生まれました。

──お話を伺っていると、北川さんはキャラクターから物語を作っていくタイプでしょうか?

そうです。キャラと、描きたいシーンから。その描きたい場面に、どうやったらドラマを盛り上げつつたどり着けるのかを考えてお話を作っていく感じです。

──例えば「東ジュリ」だと、描きたかったシーンは?

最後の、みのりがデザイナーとして雛形を超えるところですね。

みのりの目標は、当時5歳だった自分がデザインした「デイジー」を盗作したデザイナー・雛形を超えること。さまざまな嫌がらせや妨害を受けても、へこたれずに邁進し、目的を果たした。

──みのりの敵である雛形が、パリのアレクサンドル3世橋でファッションショーを開催しているときに、みのりがバトー・ムーシュ(遊覧船)でファッションショーを開いて客の興味を引きつけるシーンですか?

そうです、雛形が「何故 神は私にあの才能をくれはしなかったのだ」と言う……。ただこの船のシーンそのものが描きたかったというか、逆境に立たされた主人公が、大逆転して目的を果たすところを描きたかったんです。それがこの一連のシーンで、物語のゴールでした。

“いろんな女の子を描きたい”という思いが原動力の1つ

──少コミ連載作を振り返っていただきましたが、北川さんがSho-Comiに与えた影響はかなり大きいと思っていまして。これまでこのSho-Comi連載企画に登場していただいた夜神里奈さん、水瀬藍さん、池山田剛さんも好きなSho-Comi作品として北川さんのマンガを挙げていますし、ポップなラブコメを得意とするSho-Comiの作風を決定づけた看板作家の1人と言っても過言ではないのかと。北川さんご自身、連載中にプレッシャーはありましたか?

少女コミック1996年3号

そうですね、看板を背負ってるからプレッシャーがあるというよりは、少コミの座席の1つをいただいているからには、ちゃんと仕事をしなきゃいけないという思いがあって。これは私の入り口が、「マンガ家になりたい!」「描きたいものがある!」というのではなく、マンガ家を就職口として捉えて仕事として入ったからかもしれないんですが。いいか悪いかはわからないのですが、読者を楽しませるものを描かなきゃいけないなって考えは持っています。

──“読者を楽しませる”という仕事を全うするにあたってのプレッシャー?

はい、おこがましいんですけど。だって私が座ってるのは、もしかしたらもっとうまくて面白いものを描ける人の座席だったかもしれないので。この思いは少コミ連載当時から今までずっと変わらずあります。

──そのプレッシャーには、どうやって打ち克ってきたんでしょうか?

打ち克つなんてカッコいいものじゃないし、最近わかった方法なんですが、まずは自分を楽しませよう!と思って、描きたいものではなくて自分が読みたいものを描いたんです。そうしたら読者さんの反応も割とよくて、そこか?そこか?って思っているところです(笑)。

──ご自身の気持ちが乗っていると作品も生き生きとしてくるのかもしれませんね。

「罪に濡れたふたり」のカラーカット。

私、プロットからネームに起こすときに、右手が動かないときがけっこうあって。つまり気持ちが乗ってないということだと思うんですが、そのまま無理やり右手を動かして完成させたものってやっぱり面白くなくて、読者の反応もよくないんです。「やっぱり右手に嘘をついたらいかん!」って。何かきっかけ、「ここだ!」というポイントが見つかると、わーって自動書記のようにネームが描けたりするんですが。

──北川さんは別のインタビューで、キャラ目線になってお描きになるともおっしゃっていました。「ここだ!」という部分は、北川さんの中で盛り上がるポイントなのでしょうか。それともキャラクターの気持ちが盛り上がるポイント?

そこは一緒な気がします。自分の気持ちと、キャラの気持ちの着地点が見つかれば大丈夫。

──北川さんがキャラクターの気持ちをつかめたら大丈夫、ということでしょうか?

カッコよく言うと、そうですね。そんなの最初からつかんでおけよって話なんですけど(笑)。自分の中で「楽しー!」ってならないと、作品の魅力をうまく伝えられないタイプなのかなと思います。

──少コミ時代から、そういった描き方を?

はい、でも少コミのときは今ほど苦労してなかったと思います。少コミって、作家さんの勢いとか、作品や読者の熱量とか、かなりカロリーが高い雑誌だと思っていて。私も作家として乗ってる時期でしたし、読者の視点との差異があまりなかったから「おりゃー!」って描けました。

──勢いが伝わってきました(笑)。そうやって生み出してきた、ヒロインを描くときのこだわりを教えてください。

そもそも女子を描くのが好きなんです。ちょうど先日、新シリーズ(「どうしようもない僕とキスしよう」)を発表しているプチコミックとSho-Comiの締め切りが重なったんですけど、そのときに描いていたヒロインたちが10歳くらいの年齢差で。プチのほうのヒロインは大人だから丸みやくびれを魅力的に、Sho-Comiのヒロインは高校生だからちょっと太ももを細めにって描いていたときに、「どの年代の女子も描くの好きだ、私!」と実感しました。内面も、体型も、年齢も、いろんな女の子を描きたいから、マンガを描き続けているのかもしれません。私の原動力の1つです。

「東京ジュリエット」より。みのりの唇に注目。

──北川さんの描く女性といえば、ぽってりとしたとした唇が印象的だなと。

唇のトーンはあさぎり夕先生にとても影響を受けています。「あこがれ冒険者」や「なな色マジック」がとても好きで。トーンを貼ってくれるのはアシさんなので、「これはマットな唇だから、もう少しグロスっぽくお願い」みたいな指定をすることもあります。

──そういう細やかなこだわりにも表れているのかもしれませんが、北川さんの描くヒロインは女度が高いですよね。どの子もセクシーで。

ありがとうございます! 私が女度の高い女性に憧れているからだと思うんですが、そこは目指したいと思っていて。胸も太ももも好きなんですが、くるぶしとか鎖骨とか、柔らかい中に硬いものがあるってことを色っぽく描けたらいいなと。女性の体を描くのが好きなのは、小学生のときに読んでいた永井豪先生の影響ですね。

「亜未!ノンストップ」より。望との恋を守るため、亜未は「現代のシンデレラは強くなきゃ!!」「おとなしく待ってるだけじゃダメ」と自分を鼓舞する。

──永井作品のヒロインは強くて色っぽくて、北川さんのヒロインと共通する要素もありますね。また北川さんの描く少コミの主人公カップルは、2人とも同じ舞台で切磋琢磨しているのも特徴だと思いました。「ぷりアミ」では柔道部、「亜未ノン」ではアイドル、「東ジュリ」ではデザイナーと、お互いに同じ道を歩みます。

両者、高め合ってなんぼじゃないかという思いがあるんです。好きな男の子ができたら、ありのままの自分じゃなくて、お互い高みに行く展開が好みで。ちょっと今の時代に反しているかもしれないんですけど(笑)。だから、がんばる女子を描いてきましたね。

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北川みゆき(キタガワミユキ)
北川みゆき
1月1日、東京生まれ。山羊座のB型。1984年、「12時の鐘は聞こえない」でデビューを飾る。少女コミック(小学館)を中心に活躍し、「あのこに1000%」「亜未!ノンストップ」「東京ジュリエット」などポップな作風で多くの作品を発表。少女コミックからの移籍後も、1998年から2004年までCheese!で連載されていた、姉弟による禁断の恋愛「罪に濡れたふたり」、2006年から2008年までプチコミック(ともに小学館)で連載され、2016年には武井咲主演でTVドラマ化された「せいせいするほど、愛してる」などヒット作多数。現在はプチコミックにてシリーズ連載「どうしようもない僕とキスしよう」を発表している。

2018年12月20日更新