「死もまた死するものなれば」|──こいつはミステリじゃないんだ 海法紀光と桜井光、2人は何を始めようとしているのか?

「がっこうぐらし!」の海法紀光、「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」の桜井光がタッグで原作を手がける新連載「迷宮探偵 久々湊錠(仮)」が月刊ドラゴンエイジ(KADOKAWA)にて2018年11月にスタートした。探偵が殺人事件の謎を解き明かす本格ミステリー……のような格好で幕を開けた本作だったが、第2話ラストで世界観を覆すような謎の怪物が突然登場。しかも第3話からは作品名も「死もまた死するものなれば」に変更と、先が一歩も読めない驚きの展開を見せている。

コミックナタリーでは真のタイトル「死もまた死するものなれば」が明かされた第3話の掲載に合わせて、本作の制作スタッフを取材。海法・桜井の2人に加えて、プロデューサーという形で作品に関わっているモンスターラウンジ・戸堀賢治に話を聞いた。

取材・文 / 山川睦夫

「迷宮探偵 久々湊錠(仮)」ダイジェスト

殺人現場の状況を冷静に分析する久々湊錠。

1ホテルのオーナーから仕事の依頼を受け、行方不明者の捜索を始めた探偵・久々湊錠。その途中で殺人事件が発生し、ホテル内に緊迫したムードが漂う。

犯行を疑われても余裕の態度を見せるヤクザ。

2久々湊は、ホテルに宿泊するヤクザの男が犯人だと推理する。しかしヤクザは犯行を否定。密室の謎を解かなければ、犯人を追い詰めることはできない。

探偵が何かひらめくシーン。名推理が披露されるのかと思いきや……?

3「そんなことがあり得るのか…!?」と何かに気が付いた久々湊。彼が向かった先に待ち受けていたものは……。

怪物「深きもの(ディープワン)」が登場した第2話のラストシーン。

4怪物「深きもの(ディープワン)」登場。こうして「迷宮探偵 久々湊錠(仮)」の看板は降ろされた。

これから始まる「死もまた死するものなれば」とは一体……?

海法紀光、桜井光、戸堀賢治インタビュー

出会いは、ノベルゲーム業界の仲間が
毎週のように集まっていた時代

──海法さんと桜井さんのタッグということでも話題になっている「迷宮探偵 久々湊錠(仮)」ですが、このたび「死もまた死するものなれば」という名称に改題され、物語的にも衝撃の展開を見せました。

「死もまた死するものなれば」第3話は、前回まで犯人と思われたヤクザも、それを追っていた探偵・久々湊も怪物の登場により死亡してしまったところから始まる。

海法紀光 驚いてもらえてるとうれしいですね(笑)。

桜井光 第2話まで見てドキドキしてもらえなかったら「すみません……」という感じです。私たちとしても、ここでワクワクしてほしいと思って制作していましたので。

──ここで改めて本作がどういう意図のもとに制作されたのか、プロデューサーの戸堀さんも交えてお伺いできればと思うのですが……そもそもおふたりがタッグを組まれるのは本作が初めてとなるのでしょうか。

桜井 「がっこうぐらし!」のアニメで脚本を一緒にやっていたりするのですが、連名でクレジットが出るようなものは初めてだと思います。とはいえ、付き合いで言えばもう10年ぐらい。PCゲームの仕事を主にやっていた頃から交流がありました。

海法 厳密に言えば、共通の知人である作家の森瀬(繚)さん経由なのかな。とにかくノベルゲーム界隈の人間で面白い奴を集めようという交流会が頻繁にあって。森瀬さん、鋼屋(ジン)さん、東出(祐一郎)さん、桜井、海法あたりとは毎週のように飲んだり食べたりしていました。

桜井 ちょっとした大学生のサークルみたいなノリですね。「エヴァ(ヱヴァンゲリヲン新劇場版)」の新しい映画を観て、ファミレスで朝まで話したり。そういった気心の知れた関係ですから、2人で組んだのが初という感覚は特段ないです。

──お互いの作風については、どのようなイメージを持たれていますか?

海法 桜井さんはキャラクターに命を吹き込むのが凄くうまいんですよ。この作品では自分がプロットを考えているのですが、僕はその辺が適当なので、キャラのこと「主人公A」とか平気で書いちゃう(笑)。

桜井 キャラを作るのは得意……というか、たくさんやってますね。

──というと?

桜井 昔もそうだったんですが、今の仕事でもそれなりの数のキャラクターを作ることが多いですね。ひとつの企画につき数十体とか。

海法 キャラクターを数十体生み出して、あれだけ個性的で区別がつくものにできるんだからすごいよ。

──桜井さんから見た海法さんのイメージはいかがですか。

桜井 とにかくいろんなアイデアが出てくる人なんです。言葉も出ないほど素晴らしいアイデアもあれば「……んん?」みたいなものもあるのですが(笑)。何か困ったことがあっても海法さんに相談すれば、30分も話をしているうちに解決する。お話をすると必ず返してくださるんです。

──その流れでいくと、本作における2人の役割としては、キャラクターを桜井さんが担当している……?

海法の「かわいい女子高生」という漠然としたキャラクターイメージが、桜井のアイデア「クラブハウスサンドイッチと言わせる」により具体化されたシーン。おじさんである探偵に女子高生のこだわりを伝えることで、キャラクターとしてのリアリティが生まれている。

海法 制作の仕方からお話すると、まず美味しい店に行くんです。これが重要(笑)。そこで話をしながらネタ出しをして。

桜井 海法さんがそのネタをまとめてくれて、キャラを私が付けるという流れです。キャラも打ち合わせのときに話して、大体の方向は決めているので私はディテールを組んでいく感じですね。

海法 自分が漠然と「かわいい女子高生」と言ったら「女子高生にクラブハウスサンドイッチと言わせる」という手法でキャラに具体性を持たせてくれる……これが桜井さんのすごさですよ(笑)。

「死もまた死するものなれば」
原作:海法紀光・桜井光(協力:モンスターラウンジ)
作画:狛句

さびれた観光地のホテルで、謎めいた殺人事件が発生。ホテルの支配人から依頼されてこの地を訪れた探偵・久々湊錠(くぐみじょう)が真相にたどり着いたとき、何かが終わり、何かが始まる……。月刊ドラゴンエイジ(KADOKAWA)で連載中。WebサイトのComicWalker、ニコニコ静画(マンガ)では1・2話常時解放&最新話を雑誌掲載と同時に公開!

海法紀光(カイホウノリミツ)
海法紀光
小説家・脚本家であり、マンガ原作、さらには翻訳も手がける。代表作は「がっこうぐらし!」(ニトロプラスとマンガ共同原作・アニメシリーズ構成)、「ガンスリンガー ストラトス」(ゲーム設定・アニメシリーズ構成)、「翠星のガルガンティア」(アニメ脚本)、「式神の城 O.V.E.R.S. ver0.81」(小説)、「ROBOTICS;NOTES 瀬乃宮みさ希の未発表手記」(小説)など。
桜井光(サクライヒカル)
桜井光
小説家、脚本家、シナリオライター。ディレクションもこなす。代表作に「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」(小説)、「スチームパンクシリーズ」(企画・脚本)、「Fate/GrandOrder」(シナリオ参加)、「乱歩奇譚」(脚本)、「がっこうぐらし!」(脚本)、「PSYCHO-PASS サイコパス 追跡者 縢秀星」(小説)など。TRPGリプレイへの参加も多数。
戸堀賢治(トボリケンジ)
戸堀賢治
モンスターラウンジ代表。アニメ、ゲーム、マンガ、小説などジャンルを問わずIPプロモーター、ストーリーディレクターとして携わる。主な仕事に「夢王国と眠れる100人の王子様 ショート」「revisions リヴィジョンズ」(アニメ脚本協力)、「METAL GEAR SURVIVE」(ゲームストーリー協力)、「WIT STUDIO画集シリーズ」「小説 甲鉄城のカバネリ」「小説 魔法使いの嫁 金/銀糸篇」(編集担当)など。