「ソードアート・オンライン アリシゼーション」島﨑信長(ユージオ役)×川原礫(原作者)対談|ユージオへ贈る2人の思い

ユージオとアリス・ツーベルクを甦らせることも不可能ではない

──ユージオにとって大切な存在であるアリスについても、お聞かせください。

アリス・シンセシス・サーティ

川原 先ほど、ユージオは《アンダーワールド》の矛盾や歪んだ部分を背負って立つキャラクターだと話しましたが、アリスは《アンダーワールド》の希望というか、「正」の部分を背負って立っているキャラクター。ある意味、ユージオと同じくらいの被害者ですが、それでも過酷な運命と戦い続けるキャラクターとして設定しました。

──ユージオのアリスに対する思いは、キャラクターが生まれたときから、イメージしていたのですか?

川原 はい。ただ、ユージオが求めているのは、子供時代に連れ去られてしまったアリス・ツーベルクであって。(人格を変えられた)シンセシス・サーティではないんですよね。

島﨑 そこが切ないですよね。

アニメ第21話より。アドミニストレータとの戦いを前についに3人が並び立つ。

川原 第21話で、ユージオとキリトとアリスが並んで立つ場面があって、すごく感慨深かったんです。でも、そのアリスは、ユージオがずっと思い続けてきたアリス(・ツーベルク)ではなくて。しかも、キリトに対してユージオのことを「お前の友人」とか言って、ちょっと顔を見たことがある人くらいの扱いをする。それが本当にやるせなかったです。

島﨑 この“シンセシスorツーベルク問題”は、僕の中でもすごく大きなことで。今、川原先生がおっしゃった、3人が並んだシーンについても、まったく同じことを思いました。これは言っていいことかわからないのですが……。実は、誰も死なないままアドミニストレータを倒せていれば、ツーベルクとシンセシスを分離させるというスーパーハッピーエンドも可能だったんですよね?

川原 はい。カーディナルが生きていたら、2人のアリスの《フラクトライト》(魂)を分離することもできたんです。もう1人のアリスの肉体をどうするのか、というハードルはありますが、設定的には可能でした。

島﨑 あと、(第24話の)最後に、ツーベルクの《フラクトライト》がユージオと一緒に旅立ったのは、理屈を越えた心の力だとも思っていて。原作からすごく好きなシーンなんです。あの展開は、最初から決められていたのですか?

川原 ユージオが1人で去っていくのは悲しすぎますからね。ユージオが剣になったとき、ユージオの《フラクトライト》と、ツーベルクの《フラクトライト》の一部は融合したんです。そうやって1つになった2人が去っていった後、原作では「ふたつの魂を構成していたフォトンの集合が、いずこへ消えたのかを知る者は、いまは誰もいない」と書いてあって。ちょっと含みを残してあるんです。

──「いまは」という表現に期待をしてしまいます。

島﨑信長

川原 原作は、新章(《ユナイタル・リング》編)が始まったところですが。また、ここで僕の3度目の葛藤ポイントが来ていまして。設定上は、ユージオとアリス・ツーベルクを甦らせることも不可能ではないので、その問題をずっと突きつけられている感覚です(笑)。ただ、そんな安易に生き返らせていいのかということも、作者としては考えるわけで……。この葛藤は、しばらく続くかなと思います。

島﨑 それは悩みますよね……。ぜひ「SAO」という作品にとって一番いい形にしてください。

川原 そうですね。

──ここで「ユージオ復活」をゴリ押ししないところが、さすがだなと思いました(笑)。

島﨑 いやいや(笑)。もちろん復活してほしい気持ちはありますが、作品にとって一番いい形になることのほうが大事ですし。それがユージオにとっても一番いいことになりますから。それに、今後メディアミックスなどで、成長したアリス・ツーベルクと、キリト、ユージオが並ぶ“if”もどこかで見られるかもしれないじゃないですか。川原先生が書かれる機会もあるかもしれないですよね?

川原 確かに、それは、あるかもしれません。

キリトを信じて、《アリシゼーション》編のラストを見届けて

──ここまでのお話で挙げていただいた以外にも、お気に入りのシーンがあれば教えてください。

アニメ第10話より。傍付きである少女を守るため剣を振るったことを悔いるユージオを、キリトが慰める。

島﨑 すごくいっぱいあるのですが……。例えば、(第10話で)ライオス(・アンティノス)とウンベール(・ジーゼック)との一件があって、ユージオが「僕はあのゴブリンたちと同じだ」と言ったとき、キリトが「お前は人間だユージオ。俺と同じ……」と言ってくれるところがすごく好きなんです。キリトは、これまでにもいろいろな経験を重ねてきて、それこそ人を殺した経験もあるのですが、今も人を殺したりすることについて割り切ってはいない。迷ったり、葛藤したりしながら、歯を食いしばって進んで行く。そういう青いところもずっとあるのが、すごく素敵だなと思うんです。

川原 キリトは、異世界に転生しているわけではなくて、原理的な話をすると、コントローラーでゲームをやっているのと一緒なんですよね。だから、これまでも勇者的な役割を背負わされてはきたけれど、本当に勇者様になったわけではなくて。本質的には、日本の川越市で暮らしている高校生なんですよね。そこはすごく大事にしたいと思っています。

──川原さんの特にお気に入りのシーンやセリフなども教えてください。

川原 この取材の時点では、まだ放送されていないのですが、アフレコを見たばかりの第24話のユージオとキリトのラストシーンがすごく印象深いですね。(キリトに対する)最後のセリフでは、(アフレコの)テストでも、本番でもグッときました。何回見てもつらいですね。ああいうシーンで役者さんは、どのくらい感情をコントロールしようとするのですか?

島﨑信長

島﨑 キリトとユージオのシーンに関しては、コントロールとかは意識せず、もう気持ちでやっています。ただ不思議なもので、僕はあのシーンでは落ち着いていたんですよ。(第23話で)「僕の果たすべき使命を悟りました」と言って剣になろうとするとき、キリトである松岡の演技がすごく感情的で、必死に止めてきたんです。でも、ユージオはあのときには、すでに強い覚悟ができていたと思うし、僕も(落ち着いて)「いいんだ、キリト」みたいになっていました。あの辺りから、もう助走が始まっていた感じでしたね。

川原 では、第24話のキリトとお別れするところも、ある意味、心穏やかに?

島﨑 はい。気持ちはすごく動いているのですが、どこかすごく穏やかというか……。

川原 ユージオ自身が穏やかでしたからね。

島﨑 たしかに、ユージオは、《アンダーワールド》という世界のせいで酷い目にあった人ではあるのですが。最後にアリス・ツーベルクと一緒だったという救いもあったので、納得する気持ちはあったんじゃないかなと思います。僕も、そこに至る前の第20話が近づいてきたくらいのときは、「後半2クールもみんなと一緒にいたいな」とか思っていたんです。でも、いざそのときが近づいてくると、心穏やかで。自分のやるべきこと、今やれることは自分なりに全力でやったという感覚がすごくありました。

川原 松岡さんのほうはどうだったんですかね?

島﨑 それはもちろん、キリトと同じですごいショックを受けて、ボロボロでしたよ(笑)。

川原 ああ……(笑)。

島﨑 途中の話数からずっと「信長ロス」とか言ってへこみはじめて、すごく惜しんでくれたんです。最後にマイク前で掛け合うときも、松岡のキリトからは「嫌だ!」という感情がすごく伝わってきました。だからこそ、逆に僕は落ち着けたのだとも思いますし、そんなふうにやれたことは自分としてもよかったです。「もっとやりたい」という欲張りな気持ちとかがあったら、それが(芝居に)乗っちゃって、ユージオが悔いを残しているような感じになったかもしれないので。もちろん、ユージオもそういう気持ちがゼロではなかったと思うのですが、あの瞬間は限りなくゼロに近かったと思いますから。

──では、最後の質問になりますが、前半2クールを観てくれたファンの皆さんへのメッセージと、10月から放送される第3クール以降の見どころなどを教えてください。

左から島﨑信長、川原礫。

島﨑 まずは、第24話まで観てくださって、本当にありがとうございます。僕自身、役者としても、1人の人間としてもすごく楽しい現場でした。それに、原作の川原先生をはじめ、すべての「SAO」に関わる方々のお力で、前半2クールはすごくいいものになったと思っています。皆さんにも、そう思っていただけていたら、すごくうれしいですね。もしかしたら、第24話までを観て、すごくへこんでいらっしゃる方もいるかもしれません。すごく不穏なところで終わりましたし、きっと後半2クールも艱難辛苦が待ち受けていることだとも思います。でも、大丈夫、キリトがいます。「ぼくの英雄」がいます。キリトならきっと、最後にはみんなにとっていい未来をつかんでくれると信じているので。みんなもキリトを信じて、《アリシゼーション》編のラストを見届けてもらえたらうれしいです。僕もユージオとして一緒に見届けたいと思います。

川原 24話+1話(総集編の第18.5話)の間、お付き合いいただいて、本当にありがとうございます。でも、なんと、まだ《アリシゼーション》編は終わってないんです(笑)。とはいえ、後半も始まってしまえば、一瞬で終わってしまうのは間違いないので、ぜひ10月からの「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」も引き続き楽しんでいただきたいと思います。ユージオは退場してしまいましたが、(第24話で消滅した)アドミニストレータやチュデルキン以外のキャラクターの多くは引き続き登場しますので。チュデルキンについては、高木(渉)さんのお芝居がすごすぎて、ユージオとは別の意味で惜しい人を亡くしたと思いましたが(笑)。後半2クールにも、チュデルキンと同じくらいインパクトのある敵側のキャラクターが続々と出てきますので。そこも楽しみにしてほしいです。

左から川原礫、島﨑信長。アニメOPのキリトとユージオを思わせるポーズを決めてくれた。