TVアニメ「SAKAMOTO DAYS」が、1月11日にテレビ東京系列ほかで放送開始される。同作は元伝説の殺し屋・坂本太郎が、愛する家族との平和な日常を守るため、迫りくる刺客たちと戦うアクションコメディだ。鈴木祐斗による原作マンガは週刊少年ジャンプ(集英社)で連載中。単行本は20巻まで刊行されている。
コミックナタリーではアニメ化を記念し、坂本太郎役の杉田智和と、坂本ファミリーの一員となる朝倉シン役の島﨑信長、陸少糖役の佐倉綾音にインタビューを行った。3人は作品をどう捉え、それぞれが演じる役柄にどう挑んだのか。お互いの演技の印象など、アニメの見どころとともに、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 丸本大輔撮影 / 前田立
最初、坂本役を受けるのは意図的に避けていた
──皆さん、オーディションを経てアニメへの出演が決まったそうですね。まずは、オーディションの時点での作品やキャラクターの第一印象などから伺えればと思います。杉田さんは、オーディションのお話が来る以前から「SAKAMOTO DAYS」という作品のことは、ご存じでしたか?
杉田智和 週刊少年ジャンプを毎週は追わなくなって久しいですが、ジャンプ作品の中で次に期待されている作品は何か、と仲間内で話題になるとき、真っ先に上がってくる作品でした。だからタイトルは知っていたし、オーディションのお話があったときは「ついに『SAKAMOTO DAYS』がアニメ化するのか」と。
──坂本役のオーディションに参加してほしいという話だったのですか?
杉田 「この役で受けてください」というオファーではなかったので、僕は(事務所の)社員に「『SAKAMOTO DAYS』のアニメのオーディションの話が来たけど、(狙い目は)ここだと思う」と鹿島というキャラクターの資料を見せたら、「杉田さん、坂本も受けてください」と言われて。「え、うん。わかった。じゃあ、こっちの別のキャラを……」「いや、杉田さん、坂本も受けてください」「うん、わかった」というシュールなやり取りがありました(笑)。
佐倉綾音 なぜ、坂本は避けていたんですか?
杉田 以前、似たようなポジションの主人公をジャンプアニメで演じているから、それがなんとなくよぎるんだよ。
島﨑信長 しかも、隣にいる子のせいで余計に(笑)。
佐倉 あはは(笑)。
──確かに、杉田さんが演じる店主的な主人公の隣に、語尾が特徴的な少女がいると、つい頭に浮かぶ大人気ジャンプアニメがあります。
杉田 佐倉にはちょっと申し上げにくいのだが、どうしても頭をよぎってしまって(笑)。
佐倉 よぎりますよね(笑)。
杉田 だから、最初は意図的に避けようと思っていたんです。でもそれも違うなと思い直して(笑)、まずは、坂本たちがどんなキャラクターなのか、ちゃんと知ってからにしよう。その段階で初めて原作を読み、坂本太郎役を受けることにしました。
──やっぱり坂本役を受けようと思い直した理由を教えてください。
杉田 「SAKAMOTO DAYS」に出演することになったら、(役者として)「こういうことをしよう」「こう主張しよう」みたいなことより、出演を通して得た幸せや喜びを周りのみんなと分け合いたいと思ったからです。坂本は、妻と娘、店員のシンやルーも含めたファミリーに対して普段からそうしているんですけど、僕がもし坂本太郎役を演じることになったら彼と同じように振る舞うだろうな、と何となく思えたんです。自分ではなく誰かの幸せを讃えたうえで、それを高め合いたい、と思って収録したテープを提出したら、坂本太郎役に決まっていました。
──そういった役柄を演じているご自身の姿が想像できたということですか?
杉田 (「SAKAMOTO DAYS」には)ギラギラしているキャラも多いし、そういう役に合いそうな役者は大勢いるんです。でも僕はこんな感じだから、坂本太郎役に決まったのかもしれない。自己顕示欲みたいなものを捨てるというか、違う燃料に変えられる人でないと、彼は務まらないかもしれない。
佐倉 坂本役を受けるのを1回避けたというのも坂本っぽいですよね。
島﨑 そうだね。
杉田 いや、それは、別のキャラが頭をよぎったからだけどね(笑)。
──オーディションは、キャラクターごとに指定されたセリフを収録して、その音声データを音響制作会社さんへ送る形で行われたと伺っています。音声データを収録した際には今お話しいただいたこと以外に、特にどのようなことを意識したのですか?
杉田 今まで積み重ねてきたものから、自然とできた感じですね。具体的に「こうやった」みたいなものは、なかなか言語化できないんです。実際のオーディションの音源を聴いてもらうことができたら、伝わりやすいんですけどね(笑)。案外、オーディションのときと本番で演じたときとでは、アプローチが変わっていたりもするんですよ。
シンはよくも悪くも、ちゃんと地に足がついている人
──島﨑さんは、オーディション以前から「SAKAMOTO DAYS」のことは、ご存知でしたか?
島﨑 僕も作品の名前は聞いていましたが、実際に触れたのは、オーディションが決まってからです。
──「シン役のオーディションを受けてください」というオファーがあったのですか?
島﨑 どういう内容で事務所にオファーがあったのかはわからないんですけど、周りの(キャストの)話を聞いていても、今回、オーディション対象のキャラクターがかなり多かったみたいで。作品によっては、メインの数人だけということもあるのですが、のちのち出てくるキャラクターも含めて、たくさんオーディションがあったみたいです。それで実は、皆さん割とたくさんの役を受けていて(笑)。僕も細かくは覚えていないのですが、けっこうな数の役を受けさせてもらいました。どの役を受けるか決めたのは、先方(制作サイド)なのか、うちのマネージャーなのかわからないですが、原作を読んで、一役一役、自分の中で想像して一生懸命やりました。ただ正直、僕が受けた役の中で(ほかのキャストとの)バランスみたいなものを想像したとき、シンは、受からなそうだなと思っていたので、結果を聞いたときは、すごくうれしいのと同時に意外でしたね。
──なぜ、シンではなさそうだと思っていたのでしょうか。
島﨑 シンって、実は20歳を超えているんですけど、後輩ポジションで(殺し屋としても)すごい天才ではなく、割と弱いほう。だから、そこに僕が入るとシンよりも強くて年も上のキャラクターがいっぱい出てきたとき、バランス的にキャストがすごく濃いことになると思ったんですよね(笑)。
──島﨑さんより年齢やキャリアが上の声優さんが、ずらりとキャスティングされることになると。
島﨑 僕自身、濃い現場は大好きなんですけど、そういうことを想像したとき、シンではない違う役のほうがハマりやすいのかなって。(音源を)収録しているときではなく、全部提出した後にそんなことを思っていました。そうしたらシン役だったので、これは僕が弱いほうの立場で思い切りギャンギャン吠えても大丈夫なバランスでいくってことかなって。実際に蓋を開けてみたら、シンが憧れる坂本さん役には、押し付けない存在感でバーンっと杉田さんがいらっしゃって、シンがどんなにやっても上にいてくださると安心できる。ルーはけっこう年下ですけど、シンとのやりとりでは、対等にキャンキャンやり合うんですよね。佐倉さんなら、僕がどんなに一生懸命やってもルーが負けちゃうことはない(笑)。ほかのキャラクターも全員がそういう感じでした。
──予想通りの濃い現場になったのですね。
島﨑 それがすごくうれしかったし、ある程度、キャリアを積んだ僕がやるシンだからこその何かをやっていけたらいいなとは思いました。
──シンに関して、オーディションの段階で意識していたことを教えてください。
島﨑 先ほどもお話ししましたが、彼はパッと見、高校生くらいでも20歳を超えていて、それなりの経験も積み重ねているんですよね。個人的にはそこが刺さるというか、気になっていて。ちゃんとした殺し屋……っていうと不思議な話になるんですけど(笑)。「SAKAMOTO DAYS」の世界観特有の殺し屋をしてお金を稼ぎ、生活していた社会人経験があるやつなんですよ。それなりの経験をしていて、トップ層には届かない才能の壁みたいなものも感じたりと苦渋も味わっている。よくも悪くも、ちゃんと地に足がついている人なんです。そこに重心を置きたいなと思いました。
一番ワクワクして演じられたのがルーだった
──佐倉さんもオーディションを受ける前の「SAKAMOTO DAYS」の印象から教えていただけますか?
佐倉 少年マンガには全然明るくない私でも、タイトルは存じ上げていて。とても話題になっている作品だし、いつかメディアミックスされるんだろうなと想像している中、オーディションのお話が来たのですが、島﨑さんもおっしゃっていた通り、オーディションの対象となるキャラクターが多くて。17人もいて、そのすべてに原稿が用意されていたんです。その気合の入れ方から、本当に合う人を探し求めているんだなと想像しました。私は指定されていたキャラが3人いて、自分の中では一番演じやすくてピンときていたのがルーでした。ほかには大佛も受けていたんですけど、私、大佛の声は早見沙織さんの声でしか再生されなくて。だから大佛は早見沙織さんっぽく演じて提出しました(笑)。
──実際に、大佛役には、早見沙織さんがキャスティングされています。
佐倉 完全に解釈一致でうれしい気持ちになりました(笑)。
──ルーは「○○ネ」や「○○ヨ」というクセのある話し方をする、愛嬌たっぷりなキャラクターです。マンガ・アニメファンにはなじみ深い口調でもありますが、オーディションで表現する際にはどのようなことを意識されましたか?
佐倉 ルーに関して、どうやって(役を)作ろうかなと考えたとき、先人が作り上げてきた王道のお芝居が求められているのか、それとも「SAKAMOTO DAYS」ならではの新しい演じ方を打ち出してくることを期待されているのか、そこがわからなかったんです。
──スタジオオーディションではないから、スタッフに確認することもできないわけですね。
佐倉 はい。何もヒントがない状態だったのですが、自分が原作を読んだとき、「自分がファンだったら、やっぱり王道のルーの声が聴きたいかも」と思って。その気持ちを頼りになんの奇をてらうこともなくまっすぐに、自分が今までに聴いてきた先輩たちのしゃべり方で提出したら、合格の連絡をいただきました。そのうえで、ほかのキャストさんはこういうふうになっていますという顔ぶれを聞いたとき、この作品は道の中央を突っ切って行くのだなと。
──作品全体としても王道を行くということですか?
佐倉 今、こういったエンタメアニメやジャンプアニメって、意外とレッドオーシャン(競争が激しい市場)だと思うんです。でもこの作品は、(映画の)「アルマゲドン」みたいな感じでみんなで横並びになって、その道の真ん中を突っ切って行くつもりなんだなと(笑)。その気概を感じて、すごく楽しみに思っていたんです。でも、ほかの現場で信長さんに会ったとき、私が言う前に信長さんが「佐倉さん、(『SAKAMOTO DAYS』のキャストを)聞きましたか! 楽しみだなー! 俺、本当に楽しみなんですよねー!」と大きい声でずっと言っていて。自分が「楽しみ」と言うタイミングを逃しました(笑)。
島﨑 ははは(笑)。
──オーディションを受けた中で、ルーが一番ピンときていたというのは、なぜなのでしょうか?
佐倉 うーん、なんでだろう。手応えがどうこうというよりは、いつか使えたらいいなと思って引き出しの中に入れていたしゃべり方を発揮できたのがうれしいなと。そういうキャラクターをメインで演じることが今まであまりなかったので、一番ワクワクして演じられたのがルーだったという感じでした。
坂本は本当に杉田さんと似ているところがある
──ここからは、皆さんが演じられている坂本、シン、ルーの3人について、さらに深掘りしていければと思います。まず、杉田さんにお伺いしたいのですが、実際に本編のアフレコが始まってから、特に意識したことや印象的なディレクションがあれば教えてください。
杉田 何かあったかな……? 思い出せないから、特に何も言われなかった気がします(笑)。個人的には(スタジオで)現場が円滑に回るような立ち回りができれば、それこそ坂本太郎らしいなと思って演じています。あと、新規で「SAKAMOTO DAYS」の現場に来る役者さんが「入りづらい」と思ってしまう現場にだけはならないよう心がけています。
──坂本が店長を務める坂本商店は、子供からチンピラまで、どんなお客も気軽に立ち寄るようなお店ですよね。
杉田 そうそう。「坂本商店、なんか敷居が高くて簡単に足を踏み入れられないんだけど」って空気が一番よくない。自分が座長だ、と主張する気はさらさらないんですけど、そういう(いい)空気が現場にないと「SAKAMOTO DAYS」にならないし、坂本太郎ではないと考えています。そういった捉え方が坂本太郎の芝居に乗っかっているので、ぜひオンエアを観て確かめてみてほしいです。
──島﨑さんと佐倉さんは、坂本というキャラクター自身の魅力や、杉田さんが演じる坂本の魅力について、どのように感じていますか?
島﨑 坂本さんって、すごい人じゃないですか。自分を持っているし、(殺し屋としての)いろいろな技術や積み重ねてきたものもある。でも坂本さんは、それを押し付けないし、ひけらかさないのがすごいですよね。例えば、自分が先輩になって苦戦している後輩を見たら、過剰に世話を焼きたくなっちゃう。それが普通の人間心理だと思うんですけど、坂本さんは何事も押しつけない。そこがすごく素敵だなと思います。それでいて、ちゃんと僕らのことも見ていてもくれるんですけど、変に腕組んで「俺が見守ってるぞ」みたいなこともしない。でも、本当に大事なときや本当に困ったときに、さりげなく助けてくれる。近くにいてくれたらありがたいし、うれしいなと感じる人だと思います。だから、本当に杉田さんと似ているところがあるなって。変に意気込んでないというか。「俺は『SAKAMOTO DAYS』の坂本太郎だぞ。タイトルにも名前が入っている主人公だぞ」みたいなことは言わないし、態度からも全然出てこない(笑)。
杉田 ははは(笑)。
島﨑 作品によっては、「座長として、俺が引っ張る」みたいなことが必要な場合もあるとは思うんですよ。でも「SAKAMOTO DAYS」はそうではない。だから、自分では、まだ(坂本太郎役は)できないなって思います。シンでちょうどよいというか(笑)。「俺、がんばります!」みたいなポジションのほうが、まだまだ自分には合っている気がします。
佐倉 坂本って、あまりフォローはしないけど、ちゃんとケアをしているところにすごく好感が持てて。もちろん、よっぽどな事態が起きているときは、しっかりみんなのフォローに回ったりもするけど、かなりギリギリまで相手にがんばらせたり、本当に自分が必要だと判断したときにしか出ていかなかったりする。そういうところが垣間見えるキャラクターなのですが、なんとなく現場での杉田さんの立ち回りにも通ずる部分があるように思いました。
──そうなんですね。
佐倉 杉田さんが押し付けがましく誰かに指示を出しているところって、どの現場でも見たことがありません。でも、お腹が空いてそうにしていたら、食べ物を差し出してくれますし、あまりにも所在なさげにしている人には、声をかけたりもする。その声がけも別に仕事の話とかではなく、たわいもない日常会話なんです。そういうところが坂本さんに重なるなと思っていたら、杉田さんが「坂本商店みたいに入りやすい現場にできたら」とお話しされていたので、とても納得感がありました。
信長さんのシンは、お人よし感がさらに出ている
──次はシンについて伺いたいと思います。島﨑さんはアフレコ現場で、特に印象的なディレクションなどはありましたか?
島﨑 この現場って、シーンごとにちゃんとピンポイントでディレクションして、コントロールしてくださっているんですけど、キャラクターについて大きく変わるようなディレクションは、あまりないかもしれません。割とストレートな言動のキャラが多いし、流れを汲み取れない人や大きくずれた解釈をしてくる人はいないので、ほとんどが「ここの感情だけ、もうちょっと抑えて」みたいな微調整的なディレクションでした。
──では、島﨑さんの演じるシンについて、杉田さんと佐倉さんからの印象を教えてください。
佐倉 たぶん、シンって、いろいろな役者さんに適性のある役どころだとは思うんです。
島﨑 確かに、確かに。
佐倉 その中で、信長さんがシンを演じることによって、お人よし感が誰よりも出ているのかなと客観的に見て感じています。あとシンには、人の心を読めるという超能力を持っているからこその苦労ややさしさがあって、実はコメディの舞台装置としても非常に便利(笑)。ちゃんと「いい人である」ことをベースに、そういうところも展開できるのが、信長さんのシンなのかなと思います。
杉田 厳しくもやさしい島﨑信長さんの人柄が、そのまま朝倉シンに乗ることによって、アニメ「SAKAMOTO DAYS」のシンのキャラクター像が確立しているんだなと思っていますね。こんなとき、島﨑信長さんが演じるシンなら、絶対に見捨てたりはしないだろうとか。言葉はかけるけど、ただ甘やかすだけじゃないなとか。自分の過去の経験とも重ねながら、そう感じています。
──そういう島﨑さんの姿を見たことがあるのですね。
杉田 誰にも愚痴れないようなこともノッブにだけは言えるわってことがあります。
島﨑 ありましたね。
佐倉 気になるなあ(笑)。
杉田 「なあ、ノッブ、つれえよ」とか言って、通話アプリで2時間とか話すんですよ。しかも、一度や二度じゃない。そんなやさしさを持った島﨑信長さんだからこそのシンになっている。「SAKAMOTO DAYS」って、ないと思っていた感情が芽生えたり、気づいたりするところも描かれているんですけど、アニメでは、シンのキャラクター性の新しいところも伝わるのかなと思っています。
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