TVアニメ「SAKAMOTO DAYS」杉田智和(坂本太郎役)×島﨑信長(朝倉シン役)×佐倉綾音(陸少糖役)|非日常も坂本の日常

「右」「左」「佐倉」という選択肢が存在する

──佐倉さん演じるルーについても伺いたいのですが、おふたりと同じく、キャラクター造りに関するディレクションは、あまりなかった形ですか?

佐倉 はい、まったく。放し飼いにされており、やりたい放題です(笑)。

──では、杉田さんと島﨑さんが感じた、佐倉さんの演じるルーについて伺えますか?

杉田 ルーという子はつらい話を自分からしないので、最初は正体不明な印象があったんです。でも今は「いいよ。自分から話す気になったときには聞くよ」って、前向きな意味で放っておける子なんだと思っています。そういう距離感が自然にできているし、坂本商店におけるルー少糖シャオタンは、すごくよい位置にいるなと感じます。持っている能力も優秀だし、娘の花をあやすのがうまいのもシンではなく、ルーだったりするんです。妻の葵に好かれているのは、シンですけど(笑)。

島﨑 杉田さん、それ、こだわりますね(笑)。

──坂本葵がシンに好意を持っているようなシーンがあるのですか?

杉田 ないんですけど、(アフレコの)テストのとき、シンに対するセリフで、(葵役の)東山(奈央)さんの声色に僕がそれまで聞いたことない音色が含まれていたんです。だから本人に「東山さん、シン、お気に入りなの?」って聞いたら、「え、彼、やさしいじゃない」って言われて、(悔しそうな声色で)「そうだねえ……」ってなっちゃった(笑)。想像の中でシンを3回くらい殺しておきました。

島﨑佐倉 あはは(笑)。

坂本葵

坂本葵

──人の心が読めるシンは、作中でもよく坂本に想像で殺されていますね。

杉田 シンは、デカい子供がもう1人加わったようなものだからと思うことにしました。

島﨑 葵さんからすれば、そういうことなんですよね。

杉田 だったら、それも自然なことだなって。ルーに関しても同じなんですよね。もう1人、娘が増えた感覚。(娘の)花にとっては姉のような位置にいてくれるし、最初にできた友達みたいな感じもするので。

──そういうルーと佐倉さんに重なる部分を感じますか?

杉田 佐倉綾音さんという人は、誰にでも分け隔てなく接するというか、度胸が座っている人。もちろん礼節がわかってないとか、そういうことではなくて、強力な個性として存在しているんですよ。すごく独創的な感じがする。例えば、どこかに向かって行くとき、「右」「左」「佐倉」って選択肢が存在するみたいな。

島﨑佐倉 あはは(笑)。

──1つの概念として成立している?

杉田 そう、概念レベルですよ(笑)。そういうものを生むことができる役者さんなんです。だから、アニメの陸少糖も「佐倉」という選択肢があるからこそ演じられるんじゃないかな。シンと同じで、アニメで気づく新しい魅力もあるはず。アフレコを通して、陸少糖役が佐倉綾音さんでよかったなと思います。

佐倉 そう言っていただけてうれしいんですけど、自分では右に行ってるつもりなんですよね(笑)。

杉田 ははは(笑)。

佐倉 でも、確かに、たまに上に跳んだりはしてるかも。屋根から行ったほうが早いな、とか。

佐倉綾音

佐倉綾音

杉田 取材のこういうコメント1つとっても、適確なんですよ(笑)。場がうまく回るようにしてくれて。

島﨑 センスが光るんですよね。

杉田 そう、感謝しかないです。

──島﨑さんは、いかがですか?

島﨑 シン視点も入れると、ルーはやっぱり持っている側だなと思うんです。年の差も積み重ねの差もあるはずなのに、(ルーは)明らかにスペシャルな存在。順当に成長したら、それこそ坂本さんとかの域に届きそうな才能を感じるし、しっかりと自分も持っている。シンがよくも悪くも、地に足が着き、周りに適応して社会に溶け込める人だとしたら、ルーは溶け込むのではなく、社会の中にちゃんと自分の居場所を作ったうえで、燦然と輝くこともできるタイプ。作中では、バカっぽくも描写されているんですけど、勉強ができるかどうかは別として、賢い子なんですよね。

──地頭はよさそうな雰囲気があります。

島﨑 そうそう。それでいうと、佐倉さんも賢いんですけど、どこか天然っぽいところがあると僕は思っているんですよ。賢いから、ちゃんとそれをわかってコントロールしている部分もあるとは思うんですけど、たぶん、自覚してる以上に天然な部分もあるんじゃないかなって(笑)。そういうところでもルーとのシンクロを感じます。あと、お芝居の話でいうと、佐倉さんは媚びない。ルーってヒロインだし、表情や言動からかわいく仕立てたくなるようなシーンも多いんですけど、佐倉さんはそうしないんです(笑)。

佐倉 あはは(笑)。

──かわいさを押し出そうとしない?

島﨑 ルーは、傍から見たらかわいいんですけど、「私はかわいい」ということを前提に動いている雰囲気がすごく薄い子で、全然媚びないんです。そこで、計算高いとか、あざとい方向に少しでも振っちゃうと、スペックが高い分、嫌な子に見える可能性もあるんですけど、佐倉さんが演じることで、そういうことを全然感じさせない。表現として、すごくルーに合っているし、さらに魅力的に見えると思います。

ルー

ルー

作品の面白さが日常に溶け込んで存在していれば幸い

──「SAKAMOTO DAYS」には、個性豊かなキャラクターが次々と登場していきます。坂本、シン、ルーの3人以外で、特にお気に入りのキャラクターを教えてください。

杉田 坂本太郎が守るべきはファミリーなので、まずは、妻と娘のことをよろしくお願いします。

佐倉 この世界観の中で生きていられる女性キャラって、みんな強くて面白い女性ばかり。その中でも、葵さんと大佛がとても好きですね。葵さんは殺し屋まみれの環境の中、平然と生きているところに、実は一番狂ってるんじゃないかなと感じました。そもそも、殺し屋だと知ったうえで、坂本と一緒にいることを選んでいる人。それでいて、殺し屋に人を殺すなという約束を取り付けるような人ですから。私は葵さんと坂本さんのシーンがすごくお気に入りで、少女マンガを読んでいるみたいな気持ちになるんですけど、話しているのは、殺すだ、殺さないだという内容なんですよね(笑)。

──葵が決めた「人を殺したら離婚」って、すごい家訓ですよね。

佐倉 でもそれって、下手な口約束よりもすごい愛だと思うんです。ある意味、葵さんも人生を賭して、坂本と一緒にいることを選んでいる。とても強いなと感じます。大佛は、また別ベクトルで狂っていて。たぶん、いろいろな感覚が遮断され、表に出てくるものはとても少ないのですが、その沙織さんの引き算のお芝居が素敵なんです。大佛は、一番友達にはなれないけど、すごくかわいいと思います。

島﨑 キャラクターとしてはみんな魅力的ですけど、現場でびっくりしたのは、神々廻シシバ役の八代(拓)くんです。彼は、僕と同じ東北の出身なんですけど、神々廻の西の方言のニュアンスがすごくよくて。方言として正確なのかは、僕にはわからないのですが、芝居として、そこのニュアンスや言い方だけではなくて、その言葉を使う人の距離感とか、いろいろなものがすごくハマってて驚きました。自分がキャスティングする立場だったら、西の方言の役でキャスティングしたくなります。

神々廻

神々廻

──では、最後にアニメ「SAKAMOTO DAYS」の放送開始を楽しみにしている読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

佐倉 小さいとき日常的に観ていたアニメのような感じで、1週間に30分、ちょっと元気をもらえるような時間に、アニメの「SAKAMOTO DAYS」がなれたらよいなと思っています。ページをめくったときの仕かけや、セリフの運び方、原作のマンガ表現がとても強くて完成度が高い分、アニメーションでそれをどう表現するのか、私もイチ読者として楽しみ。表現手段によって魅力が変わっていくのも、こういったメディアミックスの挑戦だと思うので、原作を楽しんでくださっている方が、このアニメをどう受け止めてくださるのかも興味深いです。逆に、アニメをきっかけに「マンガでは、どんなふうに表現されているんだろう?」と気になった方が原作を読んでくれたら、それもとてもうれしいことだと思いますし、放送が始まった後の皆さんの反応を楽しみに待ちたいと思います。

島﨑 僕は、この作品の懐の広さというか、度量の広さがすごく好きなんです。「SAKAMOTO DAYS」というタイトルにある坂本さんの「日常」の受け皿が本当に大きくて。どう考えても非日常的な事件が起こっているんですけど、それを全部引っくるめて、“坂本さんの日常”って自信を持って言える。それは、坂本さん自身もそうですが、作品全体の懐の深さでもあるのかなって。それに「SAKAMOTO DAYS」って、自分が子供の頃に楽しんできた作品のような雰囲気と、今の時代の作品らしさが両立していると感じていて。だからこそ、原作はどんな層の人でも幅広く楽しんでもらえていると思うので、アニメもいろいろな人に楽しんでもらえたらよいなと思っています。あと、いわゆるモブと言われる存在の街の人とか、その辺にいる子供たちが動いたりしゃべったりしているのが、想像以上に面白い。けっこうぶっ飛んだリアクションを取ったりするんですよ(笑)。そういったところからも、この世界の日常の楽しさを感じてください。

杉田 タイトルに「DAYS」とある通り、作品の面白さが視聴者の皆さんの日常に溶け込むくらい楽しんでいただければ最高です。でも正直なところ、(放送前に)視聴することへのハードルは、あまり上げたくないんですよね(笑)。だから、たまに見るエンタメ程度の感覚で、余計な力を抜いて(向き合って)ほしいなと思います。おすすめのシーンやキャラクターについては、逆に皆さんから教えてほしいので、送り先として、公式サイトか何かのURLでも貼っておいてください・・・というのは冗談ですが(笑)、アニメをご覧になった皆さんから教えていただく機会を楽しみにしています。

手前から島﨑信長、佐倉綾音、杉田智和。

手前から島﨑信長、佐倉綾音、杉田智和。

プロフィール

杉田智和(スギタトモカズ)

10月11日生まれ、埼玉県出身。AGRS所属。主な出演作に「銀魂」(坂田銀時役)、「ジョジョの奇妙な冒険」(ジョセフ・ジョースター役)、「暗殺教室」(烏間惟臣役)、「七つの大罪」(エスカノール役)、「東京リベンジャーズ」(柴大寿役)、「鬼滅の刃」(悲鳴嶼行冥役)など。そのほか外画吹き替え、ナレーションなどでも活動中。

島﨑信長(シマザキノブナガ)

12月6日生まれ、宮城県出身。青二プロダクション所属。主な出演作に「Free!」シリーズ(七瀬遙役)、「バキ」(範馬刃牙役)、「ブラッククローバー」(ユノ役)、「ましろのおと」(澤村雪役)、「Fate/Grand Order」(藤丸立香役)、「呪術廻戦」(真人役)、「ブルーロック」(凪誠士郎役)など。

佐倉綾音(サクラアヤネ)

1月29日生まれ、東京都出身。青二プロダクション所属。主な出演作に「五等分の花嫁」(中野四葉役)、「僕のヒーローアカデミア」(麗日お茶子役)、「進撃の巨人」(ガビ・ブラウン役)、「ご注文はうさぎですか?」(保登心愛ココア役)、「神様になった日」(佐藤ひな役)、「新幹線変形ロボ シンカリオン」(速杉ハヤト役)など。