2013年8月、「美少女戦士セーラームーン」新作アニメの製作発表会見が行われた。その会見で、新作アニメを“ニコニコ動画で全世界同時配信する”ことが明らかに。今でこそアニメの全世界同時配信は珍しくないが、NetflixやAmazon Prime Videoの日本での配信サービス開始が2015年、全世界でのサービス開始が2016年と考えると、この段階での全世界同時配信は挑戦的だった。
全世界同時配信を決断した理由を、「海外のファンとシームレスに盛り上がりたかった」と小佐野は明かす。「海外のファンのことはずっと意識していました。全世界同時にサービスを提供するのはなかなか難しいですが、なるべく一緒に同じものを楽しんでほしいという気持ちは常に持っていて。アニメも全世界同時に楽しんでもらえたらと考えました」。
また「美少女戦士セーラームーンCrystal」は2015年4月から地上波でも放送された。PC環境が整っていない人やテレビでの視聴を希望している人のために、もともと地上波で放送することは決めていたという。視聴環境や国内外を問わず、さまざまな人と「セーラームーン」をともに楽しみたいという志の表れが、全世界同時配信とその後の地上波放送だった。
「美少女戦士セーラームーン」のオフィシャルファンクラブ「Pretty Guardians」が2016年に発足された。「セーラームーン」の長い歴史の中でも初となる公式ファンクラブ設立。マンガ作品単体の大規模な公式ファンクラブは現在でも珍しく、活動内容も会報誌の発行、ファンクラブ会員向けグッズ販売、イベントなどのチケット先行販売、限定ラジオや動画の公開など多岐にわたる。
公式ファンクラブは、「ファンとつながる媒体」を目指して設立されたと言う。小佐野は「『美少女戦士セーラームーン』が連載されていた当時のなかよしにあった『セーラームーン情報局』の大人版を目指しています。ポータルサイトは情報のお届けがメインなので、情報発信というよりはもう少しファンとつながれる場所だったり、進行中の企画のことをお伝えしたりと『セーラームーン情報局』の大人版のようなイメージで公式ファンクラブの設立に至りました」と答えた。
また2016年9月には、ファンクラブの海外会員を募集。海外のファンクラブ会員は、国内会員とほぼ変わらない現行サービスを受けられる。アニメは50カ国以上で放送され、マンガは30カ国以上の言語で翻訳されている、ワールドワイドな作品ならではの世界展開である。
当初、「Pretty Guardians」は2017年までの期間限定企画だったものの、多くの会員からの声に応える形で継続が決定。発足から6年経った現在も活動が続けられている。作品の公式ファンクラブという挑戦が実を結んだと言えるだろう。
「美少女戦士セーラームーン」というコンテンツを最も“長く”支えてきたのは、なんといってもミュージカルだ。ミュージカル版の「セーラームーン」、通称セラミューは1993年の「美少女戦士セーラームーン 外伝 ダーク・キングダム復活篇」から2005年の「美少女戦士セーラームーン 新かぐや島伝説【改訂版】」まで、12年にわたり850公演以上が上演され、観客動員数はのべ57万3389人にのぼる。
20周年プロジェクトで、そのセラミューが復活することが大々的に伝えられた。小佐野は2013年のミュージカルと新作アニメの製作発表会見で「ミュージカルは原作やアニメが終わっても長く愛されたコンテンツ。これを20周年企画のスタートとして始めるのがふさわしいと考えました」とコメント。“セラミューの復活”という挑戦への狼煙を上げた。
復活したセラミューの最大の特徴は、オール女性キャストという点だ。バンダイ主催の1993年から2005年までのセラミューでは、タキシード仮面役は当時のジャニーズJr.メンバーだった佐野瑞樹や榎本雄太、浦井健治、城田優ら男性が務めた。ネルケプランニングがプロデュースする2013年からのセラミューでは、タキシード仮面役に元宝塚男役トップスター・大和悠河を起用。宝塚退団後、初の男役ということも相まって大きな話題となり、新たなファン層の獲得にも成功した。
セラミューは快進撃を続ける。2013年から2015年にかけて、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-La Reconquista-(ダーク・キングダム編)、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Petite Étrangère-(ブラック・ムーン編)、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Un Nouveau Voyage-(デス・バスターズ編)を上演。2015年には初の海外公演として、上海での上演も果たした。
ミュージカル第3弾となる「-Un Nouveau Voyage-」をもって、セーラー5戦士を務めた大久保聡美、小山百代、七木奏音、高橋ユウ、坂田しおりが卒業。2016年には野本ほたる、竹内夢、小林かれん、楓、長谷川里桃という新生5戦士キャストを迎えた、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Amour Eternal-(デッド・ムーン編)が開幕し、セラミューを受け継いだ。そして最終章にあたる2017年上演のミュージカル「美少女戦士セーラームーン」-Le Mouvement Final-(セーラースターズ編)をもって、原作の全5章をすべてミュージカル化。見事に“復活”を成し遂げた。
その後もミュージカルの挑戦は続く。2018年には乃木坂46から選抜されたメンバーがセーラー5戦士キャストを務めた乃木坂46版ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」が開幕。そして2021年、原作の大人気番外編「かぐや姫の恋人」が初のミュージカル化を果たした。ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」かぐや姫の恋人ではキャストを一新し、田中梨瑚、前川歌音、小林れい、松村キサラ、牧野真鈴というフレッシュなセーラー5戦士がお目見え。コロナ禍による困難を乗り越え、無事に千秋楽を迎えた。なお同作のBlu-ray / DVDは1月19日にリリースされる。今後もファンを楽しませてくれるであろうセラミューによる、新たな展開が待ち遠しい。
「美少女戦士セーラームーン」の2.5次元展開は、ミュージカルにとどまらない。海外展開に重点を置いたパフォーマンスショー「“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live」を、2018年にフランス・パリにて行われた日仏友好160周年記念イベント「ジャポニスム2018」内で上演。構成、演出、振り付けをTAKAHIRO(上野隆博)、脚本を児玉明子、音楽をヒャダインが担当するという力の入れようだ。2019年には日米の友好関係を祝し、アメリカ・ワシントンD.C.で行われた全米桜祭りの開会式に招待され、「“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live」のキャストがパフォーマンスを披露。同会場で公演を行い、そしてニューヨーク公演も実施した。ワシントンD.C.、ニューヨーク両都市で全公演のチケットがソールドアウトする人気ぶりだった。90年代の時と同じく、「セーラームーン」が日本と世界の文化交流の一端を担っている。
また2.5次元分野における挑戦として、ショーレストラン「美少女戦士セーラームーン -SHINING MOON TOKYO-」には触れておきたい。作品の聖地ともいえる東京・麻布十番に常設されたこのショーレストランでは、約40分間のステージショーを観覧しながらのディナーが楽しめた。ショーのプロデュースはネルケプランニングが担当。日本のファンはもちろん、海外人気とインバウンド需要を視野に入れて世界中の人が楽しめるようセリフのないノンバーバルのショーが展開された。コロナ禍のあおりを受けて残念ながら2020年に閉店してしまったが、ショーレストランという形式にマンガ・アニメのコンテンツを取り入れた挑戦の1つだった。
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2022年2月10日更新